第十四話 美濃攻略
一五六ニ年(永禄五年)五月中旬 美濃国稲葉山城食事の間
〜一色龍興〜
「この酒も美味いぞ!お主らも飲め!はっはっは!!」
実に気分が良い!!
青瓢箪どもは改めて俺に屈服した様だ!この様な豪勢な宴を出来たのは生まれて初めてだ!この勢いで尾張のうつけを潰し、畿内から三好を追い出す。さすれば天下統一も夢では無いな!!
………む、少し目眩が……。飲み過ぎた様だな。
「お前たち!俺はもう寝る!だが宴はまだ続けて良いぞ!備前守!此処はお主に任せるぞ」
「はっ!お任せ下さい!」
そう言って俺は部屋を出て、寝所へと向かう。おっと、足元が覚束無い……。随分と飲んだみたいだ。気持ちが高揚していたのだろうか。こんな日は久しぶりだ。やっと……ゆっくり寝れそうだ……。
〜竹中重治〜
コンコンコン。
扉を叩く音がした。合図だ。
「皆、もう良いぞ。城内にいる者たち全員、酒を飲んだ様だ。久作、良くやってくれたな」
「ふぅ、慣れない演技は疲れますね……」
久作の服の隙間から身体にあざがあるのが分かった。……すまない。
「後は、決行するだけだ。皆、具足に着替えろ。久作は素破に付いて行き、城から脱出しろ。……本当によくやってくれたな。其方を誇りに思う」
「そんな……。兄上……。大袈裟ですよ……」
久作は涙を堪えていたが、俺が頭を下げたことで溢れていた。俺の家臣たちも皆泣いていた。舅殿と勘十郎様は親の様な顔付きで久作を見ている。勘十郎様の素破は無表情だ。
「さぁ、もう行くぞ。速度重視で皆、頼むぞ。一色龍興、斎藤備前守の首をとるぞ!!」
『おおっ!!』
俺の鼓舞に合わせて部屋を出て、城内の兵が集まっている所に向かう。俺と舅殿含めた五人は一色龍興を探しに行く。勘十郎様が斎藤備前守を討ちに行く。
誰一人として、討ち漏らすな!行け!!
〜織田信勝〜
『織田軍が攻めて来たぞ!!』
先ずは技能『織田の赤鬼』を使っておこう。
虚報に合わせて城内の兵を倒していく。なるべく非武装の者は討ち取らず、降伏する様促している。さて、斎藤備前守は何処だ?
「俺の後ろを付いて来い!!先ずは本丸を制圧する!」
更に速度を上げ、奥へ突き進む。ぱっと見は五十人だな。今本丸にいる奴は龍興の側近たちだ。討ち取ってしまおう。
先ずは目の前にいる五人を横切りで薙ぎ払う。……まぁ脇差ならこの程度か。そのまま前のスペースに入り込み、奥へ奥へと突き進む。斎藤備前守がいた。まるで武士とは思えぬ身体だ。
「ひ、ひぃ!や、やめてくれ!死にたく無い!!金なら有る!許してくれぇ!!」
俺は、はぁ、と溜息をついた。
「情け無い……。お前など武士の風上にもおけぬわ!!」
尻餅をついて逃げようとする備前守を一刀両断で斬り伏せた。
「斎藤備前守は討った!後は本丸をすみやかに制圧せよ!」
恐らくそろそろ騒ぎを聞きつけた兵たちがやって来る。
俺は本丸の門前に一人で向かった。甲冑の音や、兵士たちの声が聞こえる。近いな。
凡そ千五百人程来ただろう。だがこの門は狭い。それ故に大軍も意味を為さない。
「我が名は織田勘十郎信勝!此処は何人たりとも通さん!」
技能『超集中』を使う。これで俺の能力値は百に近いだろう。
もう誰にも負ける気がせんな。
……ん?敵兵がかかってこない。怖気付いているのか?まさか『織田の赤鬼』のせいか?
「お主らそれでも武士か!情け無い!」
技能『挑発』を使う。さぁかかって来いよ。俺を討ち取れたら大手柄だぞ。
『う、うおぉぉぉ!!』
情け無い喊声だなぁ。まるで屁っ放り腰じゃないか。
動きもバラバラで力任せに突進しているだけだ。動きも読み易い。先ずは前の三人の攻撃を後ろに躱わす。カウンターで三人の胴体を真っ二つにした。死体を避けて更に六人が入って来た。少し右に寄り、右の三人に向かう。
「おぉっ!!」
脇差は刀身が短い為いつもより踏み込んで斬りにいく。む、刀が抜けん。引っかかったか。刀を抜くのに手古摺っている間に残りの三人が攻撃しているのが分かった。俺は刀が刺さったままの死体を持って攻撃を防いだ。よし、刀が抜けたな。死体をそのまま持って敵兵を門の外まで押し込む。脇差では時間がかかるな。スキルポイントは……、4か。よし、『槍術』の技能を取ろう。初級だが無いよりはマシだろう。俺は周りの死体から槍を拾う。うーん。利家の槍に比べたら大分劣るな。まぁ仕方無い。幸い、換えはそこら中に有る。さぁ、後どれくらい楽しませてくれるのだ?まだまだ夜は長いぞ!
〜柴田勝家〜
「柴田様!墨俣城からの伝令で御座いまする!墨俣の軍勢は稲葉山城に向かったとの事!殿より出陣の御達しが!」
「うむ!行くぞ柴田勢!鬼柴田の戦見せてやれぇ!!出陣じゃあ!!」
『おおっー!!』
儂の号令に合わせて兵が小走りで出陣した。此度の戦は何よりも速度を重視するとの事。一つでも間違いが有れば全てが狂ってしまう。綱渡の美濃攻略だ。血湧き肉躍るわ!!
勘十郎様には、あの様な器量は元々無かった。うつけでは無かったが、名君の器でも無かった。我らの傀儡に出来ると思っていた。だがあの日、挙兵の前日。勘十郎様は人が変わった様な気がした。あの様に力強く発言する事など無かった。三郎様を裏切ると決めた日からは笑う事も無くなってしまった。しかしあの日は何時見たかも忘れてしまった笑顔が見れたのだ。勘十郎様は茨の道を進んでおられる。誰にでも出来る事では無い。一人の人間として尊敬している。
百年に一人、誕生すれば良い程の名君が二人揃って同じ時代に、しかも兄弟として誕生するとは……。織田家はなんと幸運なのだろうか……。最早疑う必要は無いな。我が命をもって天下を目指す!!あの二人の進む道を塞ぐ者は何人たりとも許さん!!
〜織田信長〜
俺たちが稲葉山城に着いた時には城攻めは終わっていた。城内の殆どの兵士が討ち取られ、残りの非武装の者どもは降伏し、牢に拘束されている。一色龍興、斎藤備前守も討ち取った様だ。首を持って来た人物が、竹中半兵衛重治と安藤伊賀守守就だった。二人に褒美はいるかと聞くと、半兵衛は、勘十郎様に仕えたい、伊賀守は、西美濃頭領と認めて頂きたい、との事だ。二つとも許可を出した。安藤伊賀守……。危ういな。野心が隠れ切っていない。信用はしても、信頼は出来ぬ人物だ。
城内は凄惨であった。本丸の門前には死体が山の様に積み重なっていた。他にも刀や槍の残骸が辺りに散らばっていた。死体を避けて本丸に入ると天守に勘十郎がいた。勘十郎から事の顛末を全て聞き、夜が明けると同時に、東美濃に攻め込む事にした。西美濃は中立だが、恐らく我先にと臣従を誓いに来るだろう。愚かだ……。
それ程時間はかからぬだろう。もはや戦国大名の一色は滅んだのだ。殆どの城が降伏するであろう。
そうなってくると憂慮せなばならぬ事は武田であるな。同盟を結ぶしかあるまいか。松平と同盟を結んだ。武田とも同盟を結べば、畿内に目を向ける事が出来る。だが、未だ足利将軍は健在……。畿内を統治する理由が無い。三好がどう動くかにかかっておるな……。
〜三好長慶〜
ふ、ふふ、病には、勝て、ぬか。
細川を畿内から追い出したが、まだまだ儂の恨みは深い……。一向宗も滅ぼせなかった……。腹立たしいわ!儂に後十年有れば……。足利の権威などに頼らずとも天下を統一出来たであろう……。
又四郎、孫次郎、其方らがまだ生きておればのぅ……。三好家は遅かれ早かれ分裂する......。三好三人衆らと松永弾正らの二つの勢力に。三好は内乱に陥るであろう......。もう手綱は引けん。もう戻れぬ所まで来てしまった……。後は、どういった着地になるか……。ふふ、ふ、三好一族は碌な死に方をせぬであろうな......。
あぁ腹立たしい。真に、腹立たしいのぅ……。




