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第十二話   竜胆

一五六ニ年(永禄五年)一月中旬   尾張国中島郡信勝の屋敷



〜織田信勝〜



「勘十郎様、竹中家の人質が稲葉山城に入ったとの報告が有りました」


部屋で書類作業をしていると背後から声がした。飛鷹仁兵衛憲通だ。声は聞こえるが姿は見えない。まぁ『鑑定』すれば位置は分かるけどね。



 名前:飛鷹(ひたか)仁兵衛(じんべえ)憲通(のりみち)

 レベル:43(38550/78100)

 年齢:48

 職業:織田家信勝家臣竜胆(りんどう)

 状態:健康

 体力:100/100

 統率:22

 筋力:51

 頑強:44

 敏捷:79

 器用:72

 知能:70

 精神:69

 技能:剣術(達人)、鉄砲術(上級)、格闘術(達人)、暗殺(中級)、変装(上級)、隠密(達人)、偵察(達人)、破壊(中級)、扇動(上級)、兵法(中級)、挑発(初級)、調略(達人)、算術(中級)、弁術・説得(上級)、超集中(中級)、冷静沈着(固有)

 装備:忍刀



流石の能力だな。忍者らしい一点特化の能力だ。


「そうか、予定通りだな。これからも随時報告してくれ」


「はっ」


そう言い、仁兵衛は音を立てずに下がった。忍者ってかっこいいな。

にしてもこの三ヶ月で色々進んだな。素破に島左近清興、竹中半兵衛重治。俺が考えていたよりも早く美濃を攻略出来るかもしれん。兄への献策も上手くいったからな。



―――



一五六一年(永禄四年)十月中旬   尾張国中島郡信勝の屋敷



「夜分遅くに申し訳ありません」


部屋で寝ていると暗闇から声がした。布団の中の脇差を掴んだ。流石に部屋の中では鬼切丸は使えない。布団の中に脇差を置いておくのは武士の鉄則だ。


「何者だ?宿直の小姓はどうした?」


もし此奴が間者ならば藤七郎は無事では無いだろう。


「御安心下され。ただ眠っているだけで御座います。我らの秘薬で御座います。朝になれば目覚めるでしょう」


「お前は俺の敵か?」


鑑定をして、位置を把握しなければ。



 名前:飛鷹仁兵衛憲通

 レベル:43(347800/78100)

 年齢:48

 職業:松田流素破頭領(浪人)

 状態:健康

 体力:100/100

 統率:22

 筋力:51

 頑強:44

 敏捷:79

 器用:72

 知能:70

 精神:69

 技能:剣術(達人)、鉄砲術(上級)、格闘術(達人)、変装(上級)、隠密(達人)、兵法(中級)、挑発(初級)、調略(達人)、算術(中級)、弁術・説得(上級)、超集中(中級)

 装備:忍刀



ふむ、何処かの間者である可能性は低いか。だが、まだ警戒は解けないな。能力値が高い。一対一で勝てるかどうか……。ていうか松田流?聞いた事ないな。どこの流派だ?


「いえいえ、我らに勘十郎様に害意は有りませぬ」


確かに殺気は感じない。


「ならば何をしに来た?」


「松田流素破八十名、及び総勢百八十名、勘十郎様に御仕え致したい」


百八十!?思っていたよりも多いな……。俺が持っている兵数とほぼ同じ位か。うーん、忍びの一派になりそうだな。

まさか城下で流していたあの噂が功を奏するとはな。全然期待していなかったのだが……。余程切羽詰まっているのだろう。


「俺の屋敷への侵入は簡単だったか?」


「えぇ、まぁ。流石に人手が足りないかと思いました」


少し気まずそうに話した。だろうな。圧倒的人材不足だからな。屋敷の警備が行き届いていない。小姓、女中が一人ずつは流石に厳しいか。


「松田流とはなんだ?」


「流石に御存知有りませぬか……」


少しがっかりした様な声だった。仕方ないだろう。有名なのは伊賀か甲賀、風魔辺りだろう。流石にそれ以外は把握していない。


「我らは元は関東の流れでございまする。平将軍(平貞盛)に仕え、将門の乱を鎮圧致しました。後に清盛入道に仕え、平家滅亡後に山で隠遁したと聞いておりまする」


ふむ、平家派か。ならば織田家との相性も良いだろう。平清盛に仕えたのならば、後世に名が残っていてもおかしくない筈なのだが。聞いた事も無い。なんでだろう?


「将門の乱を鎮圧し、清盛入道に仕えていたのなら名が知れていても不思議では無いのだが。何故だ?」


「後醍醐帝の御代、鎌倉幕府を滅ぼそうとされた時、護良(もりよし)親王に雇われ、鎌倉幕府滅亡に手助け致しました」


「しかし、朝廷と足利家が対立すると護良親王に仕えていた我らは佐々木道誉(どうよ)入道配下の甲賀衆と戦い、族滅に等しい被害を受け、甲斐の山に隠れ申した……」


「……」


成程。源氏には何があっても仕えたく無かったようだな。中々の忠義者だ。しかし、天皇方に味方した事で、足利派の佐々木道誉に仕えていた忍びの甲賀に大敗した。甲賀衆に敗れ、山に隠なければならなかったのは許し難き事だっただろう。


「その後は我らは時折里に降り、小さな仕事を請け負っており申した」


悲しそうな声だった。同情する前に少し確認する事が有る。何故俺なのだ?田舎の尾張の大名の一領主だぞ。噂を流したからと言って少し上手くいき過ぎている。何か裏があってもおかしくない。慎重に判断しなければ……。


「何故俺に仕えに来た?俺はたかが一領主だぞ。それも地方の一大名のだぞ。俺に仕えても先は明るく無い。それに何故兄上では無く俺なのだ?」


「殿は面白う御座いまする。今迄様々な人物を見ましたが、殿の様な人は見た事も聞いた事も有りませぬ」


「面白い……か」


「はい。城主の地位を捨て、足軽となり、その後の初陣にて大車輪の働き、そして田楽狭間の戦いの影の立役者。聞く所によるとあの時の戦の戦略は殿が御考えになられたとの事。武略だけでなく知略も兼ね備え、それでいて領内の統治にも精を出しておられまする。あの農具を見た時はとても驚き申した」


「そうか。中々に目敏いな」


「有難う御座いまする」


飛鷹仁兵衛憲通が言っている農具というのは『備中鍬』、『千歯扱き』、『竜骨車』の事だな。ちなみに、目に見えない所で言うと『堆肥』、『腐葉土』を作った。堆肥と腐葉土の二つは俺の領内のみの秘匿事として、口外禁止とした。ちなみに何でこの事を知ってたかと言うと、実は高校生になる迄は田舎で畑仕事を手伝っていたからだ。高校生になった時に東京に出て来たけど、意外と覚えているもんだなと思った。爺ちゃん、ありがとうね。

その結果一年と少しで生産力が大幅に向上した。飢えで死ぬ子供もいなかった様だ。ちなみに領内の税率は四公六民としている。それでもかなり多くの量が納められる。領地改革は一応成功だな。


「それと、何故上総介様では無く、殿を選んだのかと言うと、あの御方は余り信用が出来ませぬ……」


飛鷹仁兵衛憲通が少し小さな声で、申し訳無さそうに言った。……俺が仕えている人の事をそんな風に言うのか。これも計算の内か?


「ほぅ。それはどういった所だ?」


「目です。目に光が感じませぬ。自分が決めた事の為には犠牲を厭わぬ目をしておりました。それこそ自分でさえも……。どこか危うい感じが有りました」


「……成程。正直に答えろよ。お主らは他の忍びと関わりは有るか?」


「いえ、御座いませぬ」


「よし、分かった。召し抱えよう」


「……雇うのでは無く?」


「そうだ、召し抱える。中途半端な態度は許さん。死ぬ迄俺に仕えろ。それに、まさか我が兄上をそんな風に言う奴が間者の可能性は低い。褒めることはあっても貶す事はしないだろう。それに俺と感じている事は殆ど同じだ。まぁ目指す道は違うみたいだがな」


それに平清盛に仕えていたのであったら縁起が良いだろう。……滅んでるけどまぁ、大丈夫、大丈夫。


「目指す道とは?」


「仁兵衛は兄上から離れた様だが、俺は兄上の隣に立ち、共に天下を奪りに行く。兄上が道を誤らぬ様、導いていく事が俺の役目だ」


「であれば我らはそれを手助け致しまする」


力強い声だ。覚悟を決めたみたいだな。


「よし、分かった。それとお主たちに名を与える。これからは"竜胆衆"と致す。我らを勝利に導いてくれよ」


「はっ、お任せ下さい」


竜胆の花言葉は勝利、だったかな?屋敷の庭を思い浮かべながら答えた。


「近くに寄れ。顔を見せろ」


「……はっ」


暗闇から一人の男が出て来た。身体はそこまで大きくないが、がっしりとしていて引き締まっている身体だ。足音はしない。顔は普通の顔だな。そこら辺にいる様な顔だ。忍者向け?の顔なのかな?


「早速だが、頼みたい事が有る。美濃の竹中半兵衛に接触して欲しい。理由は―――」



―――



一五六一年(永禄四年)十一月下旬   尾張国清洲城評定の間



「―――これが某の愚策で御座いまする。御検討願いまする」


そう言って頭を下げる。


俺は今、大評定に来ている。これは、兄の呼びかけによって行われる評定で、最前線にいる者以外の家臣総出で行われる。

織田家臣の殆どが揃っている前で、美濃攻略の案を発表しろと言われた。少し困惑したが、何とか噛まずに言い切れた。この俺の策は四番目に発表した策だ。大評定が始まる前に、丹羽五郎左衛門尉長秀に、後で貴殿の策をお話しして貰いまする、と言われ、緊張で頭が真っ白になった。アガリ症はまだ治らないらしい。他三人の策なんて誰が言ったかすら覚えていない。ちなみに俺の策は一応考えられる内の自軍の最小被害、敵軍の最大損害の策だ。


参考にしたのは竹中半兵衛の城奪りだ。あの策で稲葉山城を落とす。調略によって西美濃を切り取り、西美濃の兵を使い、稲葉山城を落とす。俺たちが行ってはただの攻城戦になる。被害を抑える為にはこれが最善だ。そしてその調略のために墨俣(すのまた)に城を築く。調略は俺が、墨俣築城は長秀と藤吉郎が適任だと言った。竹中半兵衛との接触は完了し、俺の策に乗ってくれた。


この作戦の為には、竹中家が裕福でないといけない。大量の貢物を送る事で、一色龍興、斎藤備前守は油断するだろう。その隙をつかなばならん。利用価値が有ると思わせる必要があるのだ。それと兄から、美濃攻略後に竹中半兵衛郎党を俺の家臣とするという確約も貰った。


皆の反応は半々といった所だ。理解は出来たが賛同は出来ないと言う感じだろう。そこまで上手くいくとは思っていないのだろうな。兄は、よく分からない。扇子で口元を隠している。


「誰ぞ、異議は有るか?……無い様だな。ならばこの策で進めていく。勘十郎、続けよ」


扇子で俺の事を指した。顔は真顔で真剣な顔だった。


「はっ、此度は野戦は一度も起こらない様努めて貰いまする。敵兵との接触は絶対に起こさないで頂きまする。」


皆が頷くのを見た。


「我らが行う事のみお話しします。我らは墨俣築城を終えた後、兵を千五百墨俣に配置します。兵で西美濃を脅し、調略で切り取りますが、この事は稲葉山城の一色治部大輔龍興には知られてはなりませぬ。極秘で行いまする」


「稲葉山城はどうやって落とすのだ?」


森三左衛門可成だ。


「我らは稲葉山城攻めが始まる前日に、夜の間に極秘に墨俣に兵を集結させます。八千程で良いかと。そして城内からの合図によって稲葉山城へと進撃します。この場合高速で行軍して貰います。城内では敵襲があったと扇動します。稲葉山城に到着したら城を包囲して貰います。決して攻撃する事は無い様に。恐らく到着して、暫くすれば一色治部大輔と斎藤備前守の首が届くでしょう。その後は稲葉山城に二千を置いて、夜明けと共に西美濃を一日で攻略します」


「西美濃衆が寝返らなければ如何するつもりだ?」


佐久間右衛門尉信盛だ。


「それは有り得ないでしょう。竹中半兵衛の正妻は安藤伊賀守守就、それに西美濃は一色治部大輔に遠ざけられているとこの事。不満は有るでしょう。其処に竹中半兵衛からの説得も加わるので間違い有りませぬ」


信盛はまだ納得しきっていない様だな。仕方ない。


「もし、寝返らなければ仕方有りませぬ。潰しましょう。竹中半兵衛には予定通り、稲葉山城に入らせ、城内を扇動して貰います。その場合動員する兵数は一万二千程でしょう。西の抑えの為の兵が必要になりますね」


ここまで言い終わり、兄の方を向いて頭を下げ、座った。

暫くの間沈黙が流れた。

なんか俺、織田家の軍師みたいになってきてるな。


「ふむ、相分かった。皆の者、軍備に取りかかれ。猿、五郎左、勘十郎は残れ。二人は墨俣築城についてだ。勘十郎は竹中の行動を俺に話せ」


『はっ!』


兄の言葉の後に全員部屋を出て行った。

全員が出て行ってから兄が俺たちの方に近付いて来た。

三人の目の前にどすんと座り、俺たちの顔を見た。


「墨俣築城は如何する?勘十郎」


それはまるで悪戯をする時の様な小さな声だった。兄の顔はニヤリとしていた。


「先ずは―――」

今回出て来た、松田流素破の竜胆衆は創作です。経歴は作者の想像で作られています。

理解して頂けると幸いです!

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