第九話 桶狭間の戦い(三)
感想、誤字訂正いつもありがとうございます!
桶狭間の戦いはこれで終了します。次は美濃攻めですね。
勘十郎がこの後辿る運命をどうか楽しみにしていて下さい!
一五六〇年(永禄三年)六月中旬 尾張国熱田神宮
〜織田信長〜
「殿!周辺の村々に旗を立たせました!」
「うむ!良くやった!下がれ!」
「はっ!」
伝令の報告を受ける。
熱田神宮に戦勝祈願に参った。兵を集め、士気を高める目的もあったが、もう一つの目的は丘の上に白い布で作った旗を立たせる事だ。これによって、今川軍に『織田信長は熱田方面に軍を展開し、最前線には来ていない』と思わせる為だ。
よし、これで下準備は整った。兵は四千も集まった。重畳。今川治部大輔義元を討つ覚悟は出来た!いざ出陣だ!
「殿!前線から伝令です!丸根、鷲津、二つの砦が攻め落とされたとの事!丸根の佐久間大学助殿、織田勘十郎殿は辛くも脱出し、善照寺砦に向かっているとの事であります!」
「うむ……、仕方あるまい。して、鷲津は如何した?」
小姓の顔が少し曇った。
「鷲津の織田兵は悉く討ち取られたとの事……。織田七郎秀敏様、飯尾茂助定宗殿は壮絶な戦死を遂げたとの事であります……」
陣幕の中に沈黙が流れる。明らかに落ち込んでいる様だ。項垂れている奴もいる。これでは先程の戦勝祈願が無意味になるではないか……。
「お前たち聞け!あの者らは先に逝ったぞ!奴らはこの戦に命を賭けたのだ!お前たちも自分の命をこの戦に、勝つ為に賭けよ!」
全員の顔が上がった。
「全軍、我が命に従え!出るぞ!善照寺砦に向かう!!」
『おぉっ!』
周りから雄叫びが上がった。陣幕の外で話を聞いていた者もいた様だ。……今日は許してやる。戦に勝つ為にな。
―善照寺砦―
〜織田信勝〜
兄が到着した。俺はその十分程前に大学助と共に辿り着いた。俺の兵も四百のうち三百が鷲津で討ち取られ、残りの百も丸根を脱出する時に半分が討ち取られた。伊右衛門も疲労で喋る気力も無い様だ。初陣がこれ程厳しい戦になるとは思ってもみなかっただろうな。俺も疲労が大分溜まっている。
名前:織田勘十郎信勝(東郷泰人)
レベル:25(21420/23200)
年齢:23
職業:織田家近侍
状態:健康(疲労)
体力:48/100
統率:29
筋力:42
頑強:37
敏捷:45
器用:39
知能:55
精神:48
技能:剣術(上級)、弓術(上級)、鉄砲術(初級)、格闘術(中級)、百舌鳥使い(中級)、兵法(初級)、挑発(初級)、算術(中級)、書法(初級)、鑑定(上級)、弁術・説得(中級)、弁術・論破(初級)、町割(初級)、治水(初級)、超集中(上級)、人たらし(固有)、急成長(固有)
スキルポイント:0
装備:鬼切丸、当世具足
『挑発』の技能を取った。スキルポイント4で取れた。これはこの後の作戦で必要になるんだ。
『体力』が半分を切ると倦怠感を感じるようになり、更にその半分になると意識が朦朧とし、足元が覚束無くなる。無くなると勿論死ぬ事になる。俺の『体力』は半分を切った。これからはこの事も考えながら戦わねばならん。『超集中』は使えてあと一回だけだな。使うタイミングを見極めねばならん。
丸根、鷲津、二つの砦を放棄した。撤退の判断は悪く無いと思っている。だが、鷲津砦からの生還者はまだ現れていない。物見によると全員討ち取られたとの事だ。……救えなかった。流石に両方の砦を助ける事が出来るとは思っていなかったが……。仕方無い事とはわかっているのだが……。やるせない……。
考え事をしていると、兄が俺の元に来た。急いで片膝をついて控えた。
複雑な顔をしている。恐らく、佐々隼人正政次と千秋四郎季忠が勝手な行動をして討死したのだ。その事で兄は烈火の如く怒っていた。抜け駆けしようとしたのだろう……。
「松平正親を討ち取ったと聞いたぞ。勘十郎、良くやったな」
兄に褒められた。それだけで疲労が吹っ飛ぶ様な気がした。……恐らく気のせいだろう。でも、そんな気がした。
「はっ、勿体なき御言葉」
兄が俺の肩を叩き、そのまま進み、床机に座った。俺たちはその周りに立って待っている。
ちなみに今は斥候の帰還待ちだ。義元の居場所を探っている。なるべく最小限の戦闘で奴を討ち取られねばならない。
驚いたのは藤吉郎が自ら、今川治部大輔義元の居場所を見つける、と言い、立候補した事だ。もしかしたら簗田四郎左衛門政綱の出番は無いかもしれないな。
そうこうしている内に斥候に行っていた者たちが戻ってきた。そして、斥候の者たちの中でも二人が連れて来られた。藤吉郎と政綱だ。
「治部大輔は何処におる?」
兄が二人に問いかけた。最初に話したのは政綱だ。
「はっ、沓掛城を出ているところを見ました」
ここは史実通りになったか。まぁ仕方無い。
「そして、桶狭間方面に向かい、桶狭間の北方、田楽狭間で休息を取っておりまする」
藤吉郎だ。その情報を聞いた時、簗田政綱は真顔のままだった。もしかして二人同時に見つけたのだろうか。そう言えばこの二人は同時に善照寺砦に戻って来ていたような……。ならば武功は半々かな。
「うむ!良くやった!四郎左!猿!」
兄が大きな声で褒めると二人は照れ臭そうな顔をした。
……雨か。いや雹に近いな。視界が悪くなりそうだな。
「皆の者!これは僥倖よ!天までもが俺に味方しておる!」
兄が声を張り上げて言った。雨音にかき消されない様に。
「この好機を逃すな!全軍、出陣!!」
『おおっ!』
これといった軍議はしなかった。しかし、皆の頭の中には一つの共通の目的があった。それは『今川義元を討つ』事であった。
―――
雨が益々強くなっているのを感じる。最後の物見が帰ってきた。今川本隊と我らの距離は目と鼻の先だ。それでも気付かれていないのはやはり、この雨のお陰だな。
俺は今、今川本隊と大高城を結ぶ線上に位置している。俺は四千の内、千を率いて兄の奇襲を成功させる為に此処で邪魔が入らない様にする事と、大高城に伝令を向かわせない事だ。そうする事でかなりの時間を稼げると思う。千もの兵を指揮するのは初めてだ。というよりも兵を指揮するのも初めてだ。先の戦いでは全部、伊右衛門に丸投げしていたな……。
雨が止むと同時に奇襲をかけると兄は言っていた。……雨の勢いが弱まっている。もうすぐ止む……。いつになく緊張しているな……。
馬は善照寺砦に置いてきた。つまり俺は徒歩だ。鬼切丸を使うのにはやはり足場がある方が戦い易い。
……雨が止んだ。
『すは、かかれ!!』
兄の声が聞こえ、喊声が聞こえた。爆弾の様な声だ。直ぐに今川本隊から兵が逃げてきた。
「何人たりともここを通すな!!全軍、命を賭けろ!!」
『おぉっ!!』
兄に負けないくらいの大声を出した。そして、乱戦が始まった。が、我らの方が圧倒的に有利だ。今川兵は脆弱だという噂はあったがその通りであった。それに加え、混乱もしている。討ち漏らさないのは容易い事だった。
「勘十郎様!背後から兵が!」
伊右衛門の声を聞いて振り返ると、大量の騎馬隊が現れた。
……来たな。こっからが本番だな。『超集中』を使い、『挑発』の技能も使った。
「今川の雑魚共よ!かかってこい!」
そう言うと何人かの騎馬兵が顔を真っ赤にして俺の方に向かって来た。……初級だとこんなもんか。流石に全兵を引き寄せるのは無理だったか。仕方無い。目の前の騎馬兵をすぐ片付けて、他の援護に向かわなければならん。ここは誰一人として通さんぞ。
〜織田信長〜
「敵を攻撃をしては退き、しては退き、を繰り返せ!奴らを疲れさせ、追い打ちをかけて切り崩せ!!」
周りに指示を出しながら俺も刀を振るう。今川の輿が倒れたのが見えた。好機だ!
「今川の輿が倒れたぞ!!今川の、公家被れは其処におるぞ!」
輿が倒れた所から存在感の有る一人の男が見えた。あれこそが今川治部大輔義元だと、分かった。
「周りの雑兵には目もくれるな!奴の首を獲って来い!!」
治部大輔を囲む三百程の騎馬兵に俺の兵が攻撃を仕掛ける。波状攻撃だ。何度も突撃を繰り返しているうちに、治部大輔の周囲の兵は崩れた。やはり駿河の兵は脆弱だったな。
治部大輔に突撃をする!犬と内蔵助だ!
内蔵助が槍で治部大輔の胸を突く!治部大輔は躱わしながら太刀で内蔵助の槍の柄を狙う!が、内蔵助がそれを読み、太刀を受け流し、治部大輔の腕を槍で刺す!その隙を狙い、犬が治部大輔の心臓に槍を突き刺し、首を獲った!
「今川治部大輔、この前田又左衛門利家が討ち取ったりっ!!」
殿!という声がした。分かっておる!!
「皆の者!我らの勝ちじゃ!勝ち鬨を上げよ!!」
我らの勝ち鬨が戦場に広がっていくのが分かった。追撃は程々にして首を持って撤退するべきだな。大将を討ち取ったとはいえ、兵数の差は歴然だ。弔い合戦と称して団結されて攻撃されては堪らん。
「勘十郎と合流し、撤退するぞ!」
『はっ!!』
―――
勘十郎が足止めしていた場所に向かうと其処は地獄絵図であった。
何百もの死体が至る所にあった。周囲には数十人しか生き残っている者がいない様に見えた。
勘十郎を探していると、一際死体が多い場所に一人、いた。警戒しながら近づくと、それは血塗れの勘十郎であった。
「……赤鬼」
誰かがそう呟いた。勘十郎はその言葉が聞こえたらしく此方に振り向いた。
今川の本隊に突撃して二刻ほど経っていた。その間この者たちは時間を稼いでくれていたのだ。感謝しなければならんな。
勘十郎は此方に気付くとといつもの様に片膝を立てて控えた。表情は血で分からなかった。
「勘十郎、良くやってくれたぞ。今川治部大輔の首は獲った。清洲に帰るぞ」
そう言うと勘十郎は顔を上げて俺のことを見た。表情は笑っている様にも悲しそうにも見える。
「はっ」
そう言うと勘十郎は倒れた。勘十郎!と声をかけ、抱き寄せると眠っていた。
……本当に良くやってくれたな。自慢の弟だ。勘十郎を背負い、俺の馬に乗せる。そして、清洲に帰った。




