1.治験
さらっと一分もかからず終わります。
「エルリック、これ新しい保湿剤」
王宮に来る用事のあったバンフォードは、ついでと言わんばかりに新しく作った保湿薬をエルリックに渡しに騎士団の方へ寄っていた。
「おー、ありがとう。最近外にいると乾燥がひどくて。それでなくとも、朝晩もカサカサなのに。こういうの備品で配ってくれないかな」
「全員ほしいのなら経費で通るだろうけど、今のところ使ってるのはごく一部じゃないか」
「そうなんだよ。肌荒れは女性だけでなく男性も気を付ける事だと思う。今は良くてもいい年になったら、若いころからケアしなかったことを嘆くことになるだろうし」
実際社交界では毎年肌の衰えに対する嘆き話を聞く、とエルリックが肩をすくめた。
見た目が整っているだけでなく、美容意識の高い男だからこそ、女性に人気なのかもしれないとバンフォードは心の中で言った。
しかも、エルリックは休みの日でもそれなりの洒落た格好をしている。
バンフォードなんてシャツにベスト、ズボン程度なのに。しかも色味はいつも地味な黒系だ。
美容もそうだが、見た目もこの先きちんとしなければ、いつかシルヴィアに嫌われるかもしれないと考え、もう少し服をなんとかしようと心に決めた。
「そういえば、これ書いておいたぞ」
バンフォードがエルリックから渡されたのは、書類の束。
その内容は質問の回答用紙だ。
実は一か月前に、エルリックとそのお仲間に治験をお願いしていた。
それは、化粧水や保湿液といったもの。
「協力感謝する」
「別にいいけど、これ何に使うの?」
「渡した化粧水がどんな効果を発揮しているのか調べてる。一番は効能と安全性だ」
「ふーん、女性のものを私たちで試していたわけか。売り物?」
「いつかは」
その時エルリックは、バンフォードがしれっと商売道具になる予定といいながら、うれしそうに口元が緩んでいることを見逃さなかった。
そして、即座に理解した。
渡された化粧水数々は、シルヴィアのために作られていたのだと。
そして気づく。
あ、シアちゃんのための実験台にされてたのか……。
と。
短い小話。
シルヴィアに渡されている品々は、きちんと治験? を通ったものでございます。
関係ないが、狙ったわけではないのに、文字数がすごい。2ばっかりw