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1.

番外編

使用人ギルドの事を感想で何度か聞かれたので書いてみました。

使用人ギルドのギルド員は質が良くない、というお話です。

なんとなく通じてもらえればいいのですが……(-_-;)


 デビューの夜会以降、シルヴィアには様々なところからお誘いが舞い込んだ。


 それもそのはず。

 その夜会では次期クラーセン侯爵として、バンフォードが正式に紹介され、さらにはシルヴィアがその婚約者として発表されたのだから。


 次期侯爵夫人となる、シルヴィアと誼を結びたい人はそれなりにいる。


 ただし、逆にシルヴィアを貶めたいと思う人間も。

 シルヴィアは貴族社会に関してはいまだ勉強中の身。


 そのため、リリエッタの元で招待状の選別を行いながら、どうせなら昼のお茶会でも開催しようかと、話し合っていた。


 昼間の席ならアデリーンも参加でき、年の近い彼女の友人も紹介してもらえるからだ。


 なんと言っても、シルヴィアには貴族の知り合いはほぼいない。

 友人となればなおさらだ。


 この先、貴族として、次期クラーセン侯爵夫人として生きていくには、味方は少しでも多い方がいいというのは分かっている。

 そのため、まずは味方を増やすところから――ということで、リリエッタの指導のもとお茶会を開催することが決定した。


「数日前から、一時的に人手を借りた方がいいわね」

「はい、この規模ですとおそらく人手が足りないでしょうから」


 身内だけの集まりのようなお茶会だが、リリエッタの友人たちやこちら側の派閥の人間を招待するとそれなりに規模になる。

 侯爵家の使用人だけでもやれなくはないが、当日は相当バタバタしそうだ。


 こういう時のために、使用人ギルドや家政ギルドがあるのだか、シルヴィアは今とても悩ましい状況だ。


「リリエッタ様は、どちらのギルドから人を雇い入れた方がいいと思いますか?」

「わたくしはいつも使用人ギルドから借りていると聞いているわ。でも確かシルヴィアさんは、こちらに来たことが……」

「はい、その時は社交シーズンで使用人ギルドだけでは手が足りずに、余った依頼が家政ギルドの方にも来ておりました」


 シルヴィアの事はリリエッタにすべて話してある。

 家政ギルドでギルド員をしていたことも。


 すべてを知っても、リリエッタはシルヴィアを見る目を変えることはなく、いつでも優しく、時に厳しく導いてくれていた。


「家政ギルドの方も最近は評判がいいのだけど……、やはり付き合いもありますからね」

「はい、分かっています」


 クラーセン侯爵家は使用人ギルドとの付き合いが長い。

 家政ギルドは新興ギルドのためそれは仕方がないが、こういうとき少し歯がゆい。


 家政ギルドの元ギルド員としては、肩入れしたくもなるが、人のつながりは無視できないのだ。


 リリエッタは少し申し訳なさそうにするが、シルヴィアは気にしないように言う。


「もともと家政ギルドは、平民相手に特化してますから貴族の方との付き合いが少ないのは仕方がありません」


 貴族のお屋敷でも働けるように教育を行っているが、教育は一朝一夕でなんとかなるものではない。

 稼ぎを増やそうと頑張っている子は多いが、貴族からの依頼を大々的に受けられるようになるのは、もう少し先だと思う。


 ただ、最近の使用人ギルドはどんな感じなのか、少し心配になった。


 半年ほど前の時点では、あまりいい印象はない。

 オリヴィアももっと教育に力を入れるべきだというくらいには、質が低下していた記憶がある。


「どうしました?」

「あ、いえ……」


 ここでもしシルヴィアが、ギルドの内情を言えば、なんだか告げ口しているようになってしまう。

 実際、半年前の時点ではそうだっただけであって、今がそうとは限らない。


 この半年の間で立て直している可能性もあるのだ。


「シルヴィアさん、我慢しないで言っていいのよ? 余計なことだってね。それを判断するのは聞いたわたくしなのだから」


 つい、色々考えてしまうが、リリエッタに言われて、シルヴィアは使用人ギルドの事について話した。


「これはあくまでも半年以上前の事なんですけど……、使用人ギルドのギルド員の質があまり良くなかったんです。その……自分たちの中で勝手に雇ってくださっている雇い主をランク付けしているといいますか……」


 シルヴィア自身がはっきりと聞いたわけではなかったが、使用人ギルドのギルド員と仕事をしたときに、そんな話を聞いた。


 雇ってくれている人を自分たちの身勝手で、ランク付けするのはあまりいい話ではない。


 もちろん、シルヴィアだって気持ちいのいい雇い主とよくない雇い主に、感情的に左右されるのは否定で生きないが、それでも仕事はきっちりやる。


 しかし、使用人ギルドのギルド員は、自分たちがランク付けして、下のランクと位置付けた家の仕事は、手を抜いたりするらしい。


 らしい、というのはまた聞きだからだ。

 でもなんとなく、本当なのではないかと思ってしまう。


「それは、確かにいい気持ちはしないわね。それを知ってしまうと、疑ってしまうわ。どんな気持ちで仕事をしているのかをね」

「ええ……、バンフォード様も使用人ギルドのギルド員に嫌な思いをされていますから、ますますいい印象がなくて……」

「確かに、そうね……。全員がそうってわけじゃなくても、一部の人間がそうだと、全体が悪く見えてしまうものよ。これは社会全体に言えることですけど」


 ふー、とリリエッタが息を吐いた。


「聞いてしまうと、少し考えた方がいい気がしてくるわね……」

「でも、今まで何も問題が起きていないのでしたら問題ないとも思います。さすがに上客に質の悪いギルド員は派遣しないでしょうし」


 クラーセン侯爵家は間違いなく上客に入るはずだ。


「様子をみるしかないわね」

「申し訳ありません、わたしが余計な事言って心配させてしまいました……」

「わたくしが言う様に言ったんだから、それこそ無用な心配ですよ。シルヴィアさんが家政ギルドに肩入れして使用人ギルドを悪く言っているのではないことは分かっています」


 シルヴィアは、その言葉にほっとした。


 そして、二人で息をつくためにお茶を一口含んだ。

 その時、軽く扉をノックする音が聞こえてきた。


「お入りなさい」

「失礼します」


 ひょこりと顔をのぞかせたのはバンフォードだった。

 シルヴィアの姿を見ると、にっこりと嬉しそうにほほ笑む。


「何か用かしら? ヴィンセント様からのご用事は終わったの?」

「終わらせてこちらにきました。シアさんがお茶会を開催すると聞きまして、婚約者として何かした方がいいかと思って」

「お茶会は女性の主催ですから、当日時間があったらシルヴィアさんとお客様をお出迎えするくらいで大丈夫ですよ」


 バンフォードがそうですか、と少し残念そうな顔をする。

 バンフォードは最近特にシルヴィアにべったりだ。


 正式に婚約者として発表されてから、うれしいのかそれともそれを主張したいのか、シルヴィアがどこに行くにも一緒だった。


「あなたは少し自重しないと、そのうちシルヴィアさんに呆れられますよ」


 リリエッタが呆れたようにバンフォードに言う。


「そう……なんですか?」


 途端に情けない顔になるバンフォードに、シルヴィアがくすりと笑みをこぼした。


「そのような事はないです。気にかけていただいて、うれしく思います」

「よかったです……」


 ほっとしたようにシルヴィアの横にちゃっかり腰を下ろすバンフォードは、机の上のお茶会の書類を眺めて、一枚を手に取った。


 それは今話をしていた使用人の采配計画の書類だ。


 バンフォードが眉を寄せ、これ、と指をさす。


「使用人ギルドの方に頼むんですか?」

「ええ、その予定ですけど……、お嫌ですか?」

「……僕はあまり使用人ギルドにいい感情がないもので、少し忌避感があります」


 そういえば、バンフォードは結局使用人ギルドのギルド員とどんな関係だったのか、少し聞いただけですべてを聞いてはいなかった。


 リリエッタもバンフォードの話に、興味をひかれたようだ。


「今、シルヴィアさんから使用人ギルドのギルド員があまり質がよくない話を聞きました。あなたも、何かされたのかしら?」

「僕は、まあ……ハズレだと思われたようです」

「ハズレ、ですか?」


 よくわからない表現に、リリエッタと顔を見合わせた。

 バンフォードは苦笑しながら先を続けた。




お読みいただきありがとうございます。

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