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後ろ向きな男性が前向きになっていく話にハマったので自分でも書いてみました。そうなるように、がんばります。
初めからスパダリ的な男性を求めている方は、他のスパダリイケメンをお探しください。
そのうちイケメン化する予定です。
黒い髪をしっかり頭の上でまとめ上げて、背筋の伸びた少女――シルヴィアは、目の前の家政ギルド、ギルド長オリヴィアを空の様な碧眼の双眸を胡散臭げに細めて見返す。
すると、オリヴィアはすっと視線を逸らした。
その動作で分かるのは、シルヴィアが現在手に持つ依頼書の依頼元がかなり厄介だという事だ。
「報酬はかなりいいし、シアならきっとうまくこなすかなぁって思ってね?」
可愛らしく手を合わせて、ね? と言ったところで四十近いギルド長から言われたのだと思うと感動もなにもない。
シルヴィアはにこりと微笑んだ。
「裏……ありますよね? 貴族の屋敷だと言っても報酬が桁違い。おかしすぎます」
シルヴィアの視線に耐えかねたギルド長が視線どころか、顔も背けた。
家政ギルドは、家政婦の派遣を目的としてつくられたギルドだ。
掃除洗濯炊事に至るまで、契約次第でなんでもやる。
発足当時は、主婦がやる仕事をわざわざお金を支払ってまで雇うか? と商業ギルドなどに馬鹿にされてもいた。
なにせ、使用人ギルドという似たような存在があったからだ。
この使用人ギルドは、基本的に貴族からの依頼を受けるギルドで、ギルド員は全員プライドが高い。
貴族の屋敷で働いている彼、彼女たちは、まるで自分たちが偉いとでもいうような態度だ。
オリヴィアが家政ギルドを立ち上げた時には、一番高笑いしてせいぜい頑張れば? と上から目線だったと聞いた。
しかし、現在の家政ギルドの需要はうなぎ登り。
王都は平民でもお金を持っている人が多い。
そのため、少し楽をしたいという時や、小さな子供を育てる主婦層からの依頼が舞い込み、評判が評判を呼び、口コミで広がっていった。
以前は平民を標的にしていた事業だったが、現在では一時的に人手が欲しい貴族などからも依頼が来るようになり、業務が拡大している最中だ。
普通貴族は、一時的な依頼なども使用人ギルドに依頼を持っていくのだが、一時的なことならどちらでもいいだろうと考えた貴族がいた。
なにせ、依頼料が安かったからだ。
一応、平民への依頼料より高めに設定したが、それでも使用人ギルドよりも安い。
そのため、お金に乏しい下位貴族が家政ギルドを雇うようになった。
おかげで、使用人ギルドからは相当睨まれている。
そんな家政ギルドを立ち上げ、経営しているのは赤い髪に赤い瞳を持つギルド長のオリヴィア。
彼女はシルヴィアにとっては恩人だ。
右も左も分からない子供だったシルヴィアを、名前が似ているというだけで、保護してくれた。
その後、素性を洗いざらいしゃべらされて、シルヴィアに様々な知恵と技術を与えてくれた。
その結果、今では家政ギルドの中でも有能な存在として認知されている上、指名依頼までやってくる。
指名依頼は、通常料金よりもさらに上乗せして報酬が提示されるので、ありがたい話だ。
依頼は半日、一日、数日、など細かく時間を決められ、仕事内容で金額が変わる。
家政ギルドでは掃除、洗濯、炊事の三コースに分かれており、組み合わせ次第で料金も変わる。通常一日で、三コース全部合わせると銀貨一.五枚ほど。
貴族からの依頼だと他にも技能が必要になるので、一日銀貨三枚――約二倍の値段に跳ね上がる。
貨幣の価値は銭貨、銅貨、銀貨、金貨に分けられ、それぞれ十枚で上の貨幣価値に変わり、王都で平民が何の過不足もなく暮らすとなると、一家四人で金貨四枚くらいになる。
ここで、シルヴィアが指摘した今回の依頼の報酬額に戻る。
提示されている報酬は一日銀貨五枚、働きに応じて八枚。月の日にちは三十日あるので、休みなく働けば最大で銀貨二百四十枚――金貨にすれば二十四枚。例え銀貨五枚だとしても金貨で十五枚。
そこまでいくと、自前で雇った方が安いくらいだ。
これが破格と言わずなんという?
シルヴィアは追及を緩めずに聞く。
「……仲介料、いくら取ったんですか?」
半目で睨むように相手に凄むと、オリヴィアが今度は唇を尖らせてだってね、と話し出す。
「金貨二十枚だったのよ。そこまで言われたらお断りできないじゃない。切実そうだったし。その代わり、最低限の礼節を弁えていて、守秘義務を順守できる人って言われたの。ほら、それに! もし半年雇うってなったら、これくらいはいいかなぁって思って……」
通常、仲介料は一律銅貨五枚、貴族の場合は銀貨一枚。もちろん、期間や指名依頼よっても仲介料は変わっていくが、基本この通り。長期だとしてもこんな仲介料普通は取らない。
たとえ相手から言ってきたとしても、適正価格にするのだ普通は。信用第一の商売なんだから。こちらがぼったくったと言われても否定はできなかった。
貴族の家は誰でも派遣できるわけじゃない。
最低限の礼儀作法を身に付けている人限定。平民は礼儀作法などといった教育は受けていないが、この家政ギルドでは希望すれば教育を受けられる。もちろん、教育費は取られるが。
しかし、お金がかかると言っても身に付ければ武器にもなるし、貴族の家の依頼は報酬もいい上に、上手くいけば引き抜かれる事もあるので、人気だったりする。
シルヴィアは、家政ギルドに登録しているギルド員の中ではトップクラスで礼儀作法に精通していた。
そのため、初めて貴族から依頼が入った時から、しばらくはずっとシルヴィアに仕事が回されていたので、今では貴族専門の家政婦として認知されている。
毎日、貴族からの依頼が入るわけでもないし、貴族からの依頼を独占すると怖い他ギルドから目をつけられるので、普通に貴族からの依頼以外でも引き受けているが、厄介な貴族の依頼は必ずと言っていい程押し付けられていた。
「それでいいわよね? というか、行くわよね? わたしを助けると思って行ってくれるでしょう?」
「行かないと言ったら、どうなるんですか?」
「家政ギルドがなくなっちゃうかも」
大げさなと言いたいが、信用第一のこのギルド。
家の中にまで入るのだから、信用が落ちれば回復は不可能かもしれない。
一日銀貨五~八枚、仲介料に金貨二十枚払う貴族だ。
いわくつきでも、影響力がある可能性も考慮しなければならない。
ただ、シルヴィアにも今回は譲れない一線がある。
普段は、依頼に対して特別条件を付けずに働いていたが、今回ばかりは事情があった。
「でもオリヴィアさん、今度の依頼はできれば長期で住み込みがいいとお話しましたよね? ここは住み込み可能ですか? ちなみに、期間はいつまでですか?」
依頼書には依頼内容と金額と依頼主の名前、そして場所しか書かれていない。
シルヴィアが聞くと、待ってましたと言わんばかりに、オリヴィアがにんまりと口角を上げた。
「今回は無期限で住み込み可能よ。ちなみに、期限に関しては雇い主が気に入れば長くなるし、気に入らなければそうそうに解約って感じね。でも、今回は一か月で逃げ帰って来られると仲介料がなくなっちゃうのよ。一か月我慢してくれれば、仲介料が手に入るの」
どうやら、それが本音らしい。
シルヴィアの事情と依頼がたまたまマッチしたという事だ。
「シアが長期の住み込みの仕事探してて良かったわ」
オリヴィアがにこりと機嫌よく微笑んだ。
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給料の金額に関しては設定が甘いですが、有能な人はもらっている。そう言う事で。
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