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第八話

あの後有無を言わさない勢いで服を着せられ、ベッドに放り投げられて靴を目の前に置いた後ジークは部屋から去っていった。

そのジークと入れ替わりでメイドさんがカートと一緒に入ってきて紅茶をいれ始めた。


「メイドのアンリメリーです、アンリとお呼びください。」

「あ、はい、よろしくお願いします。」


大体20代後半か30代前半程の彼女は茶色の目と明るめの茶髪で、それをお団子にまとめて仕事の邪魔にならないようにしている。

アンリさんは慣れた手つきでティーポットからお湯を注ぎ、カップを温めた後そのお湯を別の容器に捨て、紅茶をカップに注いだ。


「砂糖やミルクは御必要でしょうか。」

「あ、いえ、そのままでいいです。」

「左様でございますか。」


スっとベッドの横に配置されたテーブルにカップを置き、アンリさんは礼をして壁と一体化してしまった。

え・・・見えるのに気配感じないんだけど・・・。


「・・・。」


せっかくなので紅茶を一口いただいた。


「あ、美味しい・・・。」

「ありがとうございます。」


私がそう呟くと、アンリさんがニコリとわらった。

転生してから紅茶なんて飲んだ事なかったのでちょっと心配してたけど、こんなに美味しい紅茶は生前でも飲んだ事無いかもしれない。

すぐに飲みきってしまい、すかさずアンリさんがまた紅茶のおかわりを注いでくれた。

顔にでも書いてあったのだろうか。


「はい、おかわりが欲しいと言っておられました。」

「えっ!?」


なんでわかったの!?エスパーかなにか!?

と思わず凝視してしまうと、アンリさんはクスクスと笑いだした。


「私、弟が沢山いるんです。先程のお嬢様のお顔がおかわりをねだる弟達そっくりで。」

「そうなんですか・・・。」


そっかー分かりやすかったんだー。

と遠い目をしてみる。

アンリさんはニコニコしたままだし、特に何も起こらなかった。

そういえばとアンリさんが呟いた。


「お嬢様はどこで殿下とお知り合いに?」

「えっと、私がまだ小さい時に、以前住んでいた所に転がりこんできたのが殿下でした。」


流石に娼館とかは話さない方がいいかなと思って伏せて説明した。

高熱で意識が危うかったとか、看病をしていただとか等当たり障りない返答をした。

アンリさんはそうですかと所々相槌をうってくれてとても話しやすくて聞き上手だった。

それに会話をしているととてもポカポカしてくるように感じた。なぜだろうか。


まあもう話せる事は無いのでまた紅茶を啜るしかないんだけどね。


「あ、そうだ。あの」


と口を開きかけた時、アンリさんはぴとりと人差し指を私の唇にくっ付けた。


「先ず、私に敬語はいりませんよ。貴女は殿下の大切な方ですからね。私の事は呼び捨てで構いません。今の貴女に必要なのは十分な休息と正しい食生活です。聞いた話によると食事は殆どがパンと水だけだったと。」


いえ、野菜クズスープもありました。

あと私の隠し菜園で採れた野菜も。


「お湯で身体を清めますね、それが終わりましたらマッサージを施します。その次にお食事にしましょう。」

「は、はい。」


何故だろう、アンリさんはニコニコ笑っているのに何処か笑ってない感じがする。

何処と無く怒ってるというかなんというか。

アンリさんはそう言うと静々と壁際に控え、エプロンドレスのポケットから小さな手帳を取り出すとパラパラと捲り始めた。

それを横目で確認すると、私はふぅっと一息ついて背もたれに身体を預けた。


ゲームからだんだんと外れつつある現状整理するとこうなる。


5歳の時、私は奴隷扱いで娼館で働かされていた。

ある肌寒い日に少年ジークが私の寝床に入りこんでいた挙句高熱を出して魘されていた。(なぜ?)

見捨てると寝覚めが悪いので一生懸命できる看病を続けた結果快復。

そして唐突に帰ってそこから10年間接触無し。

そしたらいきなり娼館に来て私を身請けした。

約束云々は正直覚えてなかった。

なのに・・・。

とそこまで思い自分の左手薬指を眺める。

そこには銀色の輝きを放つリングがはめられて、しかも全然外せないときた。


「愛されてらっしゃるんですね。」


と、アンリさんがにこやかにこちらを向いていた。


「小さい頃の約束で、しかも私は忘れてて、でも本当に迎えに来た挙句にコレですから・・・。愛してくれてる・・・んですかね。」

「殿下は今まで女性を誰一人として傍に置いたことはございません。その殿下が唯一貴女様を傍に置いた。それこそが証明です。」

「だと、いいんですけどね・・・。」


そう呟くと静寂の中、ことりとソーサーに置く音が響いた。

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