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ある世界の話(前編)

厳しくも豊かな世界。


そんな世界の1つの国の話。

緑溢れ、人々は笑顔で働き、飢えもなく、争いもなかった国。


だがある日からそれは変わる。


日に日に気温が下がり始めたのだ。


始めは皆気にも止めなかった。


「最近涼しくなったな!」


「こんなに気温が下がるのは珍しいね〜」


暖かな気候に慣れていた住人達にとってそれは珍しい事であった。

だがそれは珍しい事ではあっても恐る事では無かった。


しかし時が経つにつれ住人達は不安に襲われ始める。


涼しいと感じていた気温は肌寒いと感じ。

育てていた作物達から徐々に活力が失われ始めたのだ。


「これはどういう事だ!寒くなる一方じゃないか!」


「寒いってこういう感覚なのね、なんだか不安になるわ」


人々は初めて感じる寒いという感覚に恐れを感じ始める。


それでもこの時はまだ良かった。

誰かが死んだ訳でも、食べ物が無くなった訳でも無かったからだ。


だがついに気温は凍える程に下がってしまった。


人々は寒さに震え、年老いた者や身体の弱い物が病に倒れ始めた。


そして育てていた作物達も次々と枯れ始める。


「もう限界だ!王は何をしている!」


「子供が熱を出して倒れたわ!食べる物もどんどん無くなって来てる!」


国の住人達の不安と恐怖は高まる一方。


そしてその不安と恐怖は王に向かった。


「王よ!早く何とかしてください!このままでは私達はいつか死んでしまいます!」


住人達は各々代表を出して王に訴えた。


王は民たちや国の気候の変化に心を痛めていた。


王は気温が下がり始めて少しして直ぐに原因を探し始めてはいたのだ。

例年にはない気温の変化、下がり続ける気温。

今では誰も経験した事のない寒さになっている。


だが原因は分からなかった。


そして遂に最悪の事態が訪れる。

住人達に死者が出始めたのだ。


気温が下がるのは止まらず、雪という物が降り始めた。

書物では呼んだ事があっても実際に見たものはいなかった。


そして初めて雪を見た住人達はより恐怖を強めた。


「あの触れると冷たい物はなんだ!ただでも寒いと言うのにこれでは作物なんて育つ筈がない!」


「もう長老達や身体の弱い子達は皆死んでしまったわ。家の子供達もこのままじゃ...」


食べる物も減り、気温の低下による体調の悪化がどんどん酷くなっていた。


飢えと寒さ、周りの人間が死んでいく不安から住人達は遂に我慢出来なくなる。


「このままじゃ飢え死にしてしまう。何処からか食べ物を取ってくるしかない」


「でも食べ物なんてどこにもないわ」


「この国の王なら持っているだろ」


住人達の飢えと不安は王に向かった。


「王よ!私達はもう食べる物もありません!どうか食べ物を恵んで頂きたい!」


住人達はこぞって王の住む城へ足を運んだ。


「すまない。城にももう食糧は残っていないのだ」


誰よりも王は食事を取っていなかった。

城にある食糧は全て民に分け与え、今城にあるのは暖かくなった際に植える為の種だけだった。


しかし住人達は止まらない。


「嘘をつくな!こんな大きな城に食べ物がない筈がない!」


「自分達だけ食べるつもりだろ!俺らは飢え死にしろというのか!」


住人達は次第に狂気を抱きはじめる。


「このままじゃ埒が明かない!城の中を調べるぞ!」


「絶対に何処かに食べ物がある筈だ!」


そして兵士を押しのけ住人達は城中を荒らし始めた。


服を盗み、金属製の物は軒並み盗んでいく。

火の燃料になるだろうと、絵画や家具までも持って行き始めた。

住人達はもう自らが生きる為なら何をしても良いと思っていた。


「食べ物が見つかったぞ!!」


「やっぱり隠していやがったんだ!!」


それは暖かくなった際に大地に植え、未来に希望を持たせる為に絶対に必要な物だった。


「それだけはいかん!!」


王は必死に住人達に説明した。


これは暖かくなった後に植え、より多くの食糧にする為や。

住人達が改めて作物を育てられるようにする為に絶対に必要な物なんだと。


だが住人達はそんな事知らぬとばかりに王を罵倒し始める。


「何が暖かくなった時の為だ!ふざけるな!寒くなる一方で食べる物もなく飢え死にしていっている俺たちを見てよくそんな事が言えるもんだ!」


「どうせ自分達が食べる為の非常食にするつもりだったんだろ!」


住人の一人が遂に武器に手を伸ばします。


「やめろ!!」


兵士の1人が武器を手にしようとした住人を押し倒しました。


「遂に手を出してきたぞ!」


「やはり食べ物を独占する気だ!」


住人達が次々と武器を手にし兵士に襲いかかります。


「やめるのだ!今争ってはならん!」


しかし王の叫びは届かず。

兵と民達と争いはどんどん広がり始める。


城には多くの住人達が詰めかけていたのもあり、兵士と民達の争いはどんどん激化していき。

遂には城に火がつけられた。


燃える城の中で王は民の愚かさよりも自らの不甲斐なさに絶望していた。


原因を特定することも出来ず、民を飢えさせ、対処する術すら持たぬ。


これでは王失格だと。


王は自らを行動を振り返る。

原因を探る為あらゆる金目の物は売り出来る限りの手を尽くし調べていた。


寒さに対処する方法を求め船で海を渡らせ。

寒さに慣れた者や食べ物を探しにいかせた。


自らの食糧は節約し出来る限り民達に向かうようにと税も取らずに最低限のみの食事をとっていた。


良き王にはなれなかったか。


王は残していく民達の行く末がただ心配だった。


あの種だけでは幾日も持つまい。


早々に国を捨てるべきだったか。


祖国を捨てさせ、少しでも寒さが少ない国へ渡らせた方が民達の為だったのか。


答えの出ない問いだ。

早々に国を出させようとしても民が応えたとは限らない。


そしていく国のあても国民全体となると難しい。


最後の望みは海を渡らせた者達が有意義な成果を持ち帰ってくれるのを願うばかりだ。


そろそろ火が回ってきた。


わしの命ももうすぐ終わるだろう。


妃と子供達は一緒に海を渡らせておいて良かった。


強く生きてくれ我が子達よ。


そして我が民達に救いを。

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