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第二回事業会議 その三



「まず白照石が余ってるってなんですか。普通は絶対余りませんよ!」


 ノエミさんのお怒りも、もっともである。

 照明機能しかないとはいえ、未だにろうそくや獣脂ランプが主流のこの世界では、魔力だけで明かりが得られるのは本当に貴重なのだ。

 俺の小さなランタンサイズでさえ金貨三枚、三十六万円相当したしな。

 

「いや、売りたいのは山々なんですが……」


 希少性を出すため、<磨減>して光度が増した白照石は小出しするという話になっていたはずだ。

 その点を指摘すると、ノエミさんはまたも呆れたように息を吐いた。


「その<磨減>というのは、たいへん素晴らしいものだとは思います。ですが別に白照石そのものだけでも、需要は引く手あまたですよ」


 言われてみれば、その通りだ。

 つい技術にこだわりすぎる錬成術士の性が、無意識に出てしまっていたのか。

 そこでさらに俺は自分の過ちに気づく。


「もしかして、商品価値を上げていこうってこと自体が……」


 ただランタンを売るのではなく、職人を育てつつブランドとして定着させていこうというのが当初の俺の狙いであった。

 だからこそヘイモに台座の製作を頼んだり、村の女性陣にコウモリの羽革で覆いを縫ってもらったりしたのだ。


 しかし、よくよく考えてみると――。


「あの地下迷宮の存在を伏せておきたいのでしたら、関わりのありそうな名前を出すのは、もとより不可能かと……」

「…………ですよね」


 こっそり売るしかない以上、製作者や生産地を表に出すわけにいかない。

 もっとも職人の技術を育てること自体は間違ってはいないので、すべてが失策だったというわけでもないが。


「じゃあ、これって普通に売れますかね」


 アイテム一覧から回収したての未加工の白照石を取り出して、ゴトンとテーブルの上に置く。

 じっと石を眺めたノエミさんだが、眉根を寄せたまま首を横に振った。


「目立ちたくないのでしたら、その大きさだと厳しいですね。せめてもう少し小さければ」

「分かりました」


 手を当てて、<切削>で半分に分割してみる。

 少しだけ目を丸くしたノエミさんだが、今度は合格だったようだ。


「これでしたら、そうですね……。金貨十枚近い買い取りにはなるかと。ただし、これでも相当ですね。もっと小分けにして持ち込んだほうが、安全かもしれません」 

「石ならいくらでもありますからね。そうしましょうか」


 そんなわけで追加商品の一つ目は、小さく切り分けた白照石となった。

 だが一度に売り払う数が多すぎると、全体の相場が下がってしまうのでほどほどにしておくことにする。


「次ですが、魔青銅も余っていらっしゃると……」

「はい。あ、他のも作れますよ」

「えっ」


 銅に青魔石塊を<付与>することで錬成できる魔青銅は、水の属性を帯びており様々な特性を持つようになる。

 同じように赤魔石塊を<付与>すれば魔赤銅、黄魔石塊なら魔黄銅の出来上がりだ。


 "燃える力"を帯びた魔赤銅は熱伝導がよく耐熱性にも優れており、"固める力"を帯びた魔黄銅は、頑丈で壊れにくい特性を持つ。

 それぞれ調理器具や農具に向いてはいるが、<付与>が習得者の少ない魔導錬成な上に、高価な魔石塊を素材に使うためそうそう気軽に――。


「……もしかして、こっちもけっこう高い品だったりします?」

「量にもよりますが、金貨単位での取引はほぼ間違いないですよ」


 中間素材の金額を無視しがちというのは、ゲーマーあるあるだな。

 ドラクロ2でも完成品、加工品のほうがより高く売れるのは当然だったので、素材だけを売り払うという発想が基本的になかったのだ。

 そして現実となったこの世界では、俺が相場そのものを知らないというオチである。

 薬品関係ならそこそこ分かるんだが、金属部門はあまり関わりなかったしな。


 魔石塊に関しては十階層すべてのボスを倒しているわけではないが、毎日七、八個は入ってくるため、すでに二百個以上溜まっている。

 <復元>で使用する白魔石塊はともかく、赤や黄はそうそう使う予定もないしな。


 そんなわけで商品二つ目は魔金属となった。

 今回は試しのため、錬成するのは銅だけにしておこう。


「あと革も大量にあるんですよね。見せていただいても?」

「ど、どうぞ」


 黒毛狼の革、突撃鳥の革、コウモリの翼革、角うさぎの革をそれぞれ一枚ずつテーブルに並べる。

 狼や恐鳥の革はまだしも、ペラペラのコウモリの翼やどこにでも居そうなうさぎの革に需要があるとは思えない。


 といった考えを述べたら、ノエミさんに再度呆れたように息を吐かれた。


「あのですね、魔物自体がそもそも珍しいんですよ。その毛皮となると言わずもがなです」


 これも言われてみればそうだが、地下迷宮自体が国や領主の管理下になるのが当然で、一般人はおいそれと入ることさえ不可能だ。

 また生息する魔物たちも、当たり前だが普通の生き物ではない。

 当然、その体にまとう毛皮や爪や牙も、異常なほどに鋭かったり丈夫だったりする。

  

 そのため苦労して倒した魔物からはぎ取れる素材は、貴族や騎士階級の独占となってしまうらしい。

 

「まあ、確実に高値で売れますよ」


 三番目の弾は、魔物の皮革となった。

 最近はゴブリンたちにも革装備が行き渡って、ちょっとあまりつつあったしな。


 と、さんざんノエミさんにダメ出しされてしまった俺だが、ここらで名誉回復したいころだな。

 そんなわけで話し合いが一段落したところを見計らい、今度需要が非常に高まりそうな売れ線商品を満を持して取り出す。


「これはなんでしょうか……?」


 テーブルに置かれた透明の液体に、皆の視線が集まったところで俺は高らかに言い放った。


「ふふ、これはですね。水質浄化薬ですよ」


 国中の水が汚染されていく今なら、どこでも引く手あまたなはずだ。

 しかし返ってきた反応は、残念そうに首を横に振る姿であった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] そもそも何の為にお金が必要なのか? それをまず明確にして、必要なもの(物、者)は、商会等と物々交換すればよいのでは。
[良い点] 知識ゆえに先回りしすぎましたか
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