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新たな謎と新たな魔物



「七体じゃなかったっけ?」

「ええ、七体でしたね」

「うん、たしか七だったよー」


 昨日、階段前にいたワーラットの数は七体で間違いないようだ。

 地面に転がる魔物の死骸をゆっくり数えてみる。

 うん、何度見ても九体だな。


「…………増えてるな」


 ボスの取り巻きの数が変わったのは、初めてのケースである。

 体が大きくないので甘く見ていたが、こういった仕掛けがあったとは。


「倒すたびに数が増すとなると、うかつに手が出せないな」


 ただこれまでの階層の魔物は数がきっちり決まっており、いきなり少なくなったり過剰に増えたりといったことはなかった。

 多分ではあるが、各階ごとに存在する魔素の量が決まっており、そのせいで個体数が制限されているのだろう。

 なので広い階ほど、魔物の種類と発生数が多くなるというわけだ。


 この推測が正しければ、そう広くないこの九階は魔素もあまり潤沢ではないと思われる。


「いかがいたしますか? あなた様」

「明日も確認しないとハッキリ言えないが、このまま増えていくならどうにかしないとな」


 上限があるにせよ、放置は不味い気がする。

 もっとも元がゲームだけに、それらしい攻略法もおそらくありそうだ。

 

 倒す順番だとか戦闘の時間とかがよくあるパターンだが、ボスと取り巻きの見た目がそっくりという点がなかなかに怪しい。

 一応、ボスワーラットの体を気をつけながら探ってみたが、見分けが全くつかなかった。

 …………むむむむ。


「現状じゃ手のうちようがないか。甘い期待にすがるしかないな」


 ここに時間をかけすぎると、また日が暮れてしまいかねない。

 そうなると再び大目玉蛾の大群に襲われる可能性も出てきてしまう。 


「よし、進むか!」

「りょかー!」

「がってん!」

「くー!」


 勢い込んで階段を下りた俺たちだが、どこまでも広がる眺めにまたも足が止まってしまった。

 二度目でも圧倒されてしまうのだ。初めての人たちは余計にそうだろう。

 全員棒立ちのまま、食い入るように眼前の光景を眺めている。


「…………これは、なんとも素晴らしい景色ですな」


 一分ほどその状態であったが、村長がボソリと一言漏らすと、堰を切ったように皆がいっせいに声を上げた。


「だだっ広いな、おい! くそ、なんでこんな広いんだよ!」

「てっきり上に戻ったかと思ったべ……」

「おらもだな……。こんな場所、あったべかって……」

「あら、あそこで光っているのは、お水かしら?」


 明るい光の下だと、昨日は気づけなかった部分もよく見えてくる。

 周囲の壁といっても、ここだと背後のしか見えないが、垂直ではなくやや傾斜のついた土壁となっていた。

 あちこちで大きな岩が露出しており、頑張れば登れそうにも思える。


 あとは視界の中央付近。

 ややくぼんでいるところに、カリーナさんの指摘通りキラキラと光を跳ね返す大きめな平面が見える。

 おそらく湖か池だろう。

 そこへ光る筋がいくつも繋がっていたが、そっちは川だろうか。


 水面の周囲は緑色に染まっており、林か森に囲まれているようだ。

 ちゃんと水源があったことに、俺は静かに息を吐いた。

 ただし次の会話に、その安堵も薄れてしまったが。


「うーん、何か水の上を飛んでやがるな」

「ええ、ここからでも見えるということは、かなりの大きさですね」


 獣人種のヘイモと、樹人種のエタンさん。

 ともに汎人種の俺たちより、鋭い感覚器官の持ち主だ。

 当然、見間違えはないだろう。

 貴重な水源が魔物の棲家である可能性を示されるのは、なんとも先行きの悪い話である。

 

「と、じっとしてる場合じゃなかったな。とりあえず見て回りますか」


 この目でちゃんと確認していないのに、気落ちするのは早すぎるな。

 太陽岩の照り具合からして、時刻は午後三時過ぎといったところか。

 夜型の魔物である大目玉蛾が活発に動き出すまで、あと二時間弱の余裕がある。


「他に気になるものはありますか?」


 俺の質問に対し、熊耳を生やした髭面の男は怒ったように手を振り回した。


「全部気になるに決まってんだろうが! あーもう、楽しみでたまらねぇ!」


 溢れ出した感情に耐えきれなかったのか、ヘイモはいきなり地面に転がって手足を振り回した。

 そこら辺も小柄な熊そっくりである。

 さっそく駆け付けたヨルとクウが、そのお腹の上で飛び跳ねだす。


「おう、なんだなんだ! お前らも楽しみか!」

「ちゅうじょうー!」

「くー!」


 そんな一人と二匹のはしゃぎっぷりとは逆に、愛らしい少女のような顔をした年上の男性は、周囲に注意深く目を配りながら答えてくれた。


「……そうですね。あそこ何か居ますね」


 指差された方角は、東の壁沿いであった。

 確かに黒い点々が、急斜面のあちこちで動いている。


「なんだろう。見に行きましょうか」

「はーい、行くよー、ヨルっち、クウっち!」

「がってんー!」

「くー!」

「おい、オレを置いてくなよ!」


 五分ほど歩くと、壁の中程を歩き回る影の正体が見えてきた。

 スラリとした四本足に、垂れ下がるほど白く長い体毛。

 細長い顔付きと、頭部の側面から飛び出す立派な弧を描く太い角。 


「あれは……、曲角羊ですね」


 羊とついているが、どちらかと言えば山羊に近い性質の持ち主である。

 斜面や岩場を好み縄張り意識も強いが、基本的には非戦闘的な魔物のはずだ。

 いろいろと役に立つ面が多く、ドラクロ2では当たりと呼ばれるモンスターでもあった。


「一匹仕留めてみましょうか。ただ仲間意識が強いので、危険を感じたら群れになって襲ってきますので注意です」


 俺の言葉に壁を見上げていたエタンさんが、ぽつんと外れた場所に居た一匹を指差した。


「あれにしましょうか。合わせてください」


 その指示に弓を持つ若者二人と、ゴブっちらが息を揃えて弓弦を引き絞る。

 

「行きます」


 鋭く撃ち出されたエタンさんの矢に続いて、五本の矢が次々と放たれる。

 しかし角度的に、当てるのはやや難しかったようだ。


 三本の矢は岩壁に跳ね返り、命中したのは二本だけであった。

 それでも驚かせるのは十分であったようだ。

 足と腹を射抜かれた羊は、不安定な足場からあっさり滑り落ちる。


 斜面の途中で足を踏ん張り耐えてみせるが、そこへ容赦なく二の矢が襲いかかる。

 短い悲鳴を上げた羊は、さらにずり落ちかけるが、またも辛うじて踏み止まった。

 ただし、そこはもう魔法の射程内である。

 待ち構えていたミアの指が――。


「あ、火は禁止な。毛が燃えると回収できなくなるし」

「えー! もう、そういうのは早く言ってよー!」


 文句を言いつつも<風刃>に切り替えてくれる少女。

 さらにもう一人の女性が、<石棘>という地面から突起を生やす魔術を放ってくれた。


 二人の連携が見事に決まり、曲角羊はすぐ近くまで滑り落ちてくる。

 あとは棍棒や剣や鞭の出番だ。


 さっそく仕留めたばかりの羊から回収してみる。

 羊毛とお肉がアイテム一覧に現れたが、それだけである。

 お目当ての品はなかったが、十分に美味しいことは変わりない。

 肉不足もこれで解消できるだろうしな。


「よし、今日はここで羊狩りとしますか」

「おー!」


 四時過ぎまでの一時間で、だいたい十匹ほど狩ることができた。

 帰りの時間も考えて、そこで切り上げる。


 途中、エタンさんは八階で残りたいといったので、ゴブっちら三体も一緒に<解除>しておく。

 俺たちと青年団、ヘイモと村長夫妻はそのまま村へ帰還する。

 その夜は酒場のベッドで、ゆっくりと眠ることができた。


 翌日、村長らは地下迷宮での仕事があるため、いつものメンバーだけで十階へ向かう。

 そして張り切ってたどり着いた九階の階段前。


 そこに居たのは、うろうろと歩き回る十一体のワーラットの姿だった。

 



風がどんどん涼しくなる良い季節ですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2匹ずつ増えるワーラット。 これは気絶させるか何か無力化してスルーした方が良いのでしょうか。 洗えば世界デビューできるカリスマでもあれば、ゴブリンたちのように仲良くするのも手でしょうが
[一言] ねずみ算じゃないだけマシか
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