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重なる脅威


「うぉおぅ!!」

「クパパ!!」


 川面に轟いた爆音に、両岸や背後から大きな叫び声が上がった。

 一瞬だけ視線を向けると、ほとんどの村人が目と口を最大限に開いている。

 おそらく筏の縁に座っている河童たちも、似たような表情を浮かべているだろう。

 あらかじめ大きな音が出ると言ってあったが、予想以上に響いたようだ。


「クパッ!」


 驚きで半腰になった皆の前で、目を光らせた兄河童がまたも卵を投げ込んだ。

 仲間の血の臭いに寄ってきたもう一匹が、流れてきた卵にすかさず巻き付いて顎をパックリと開く。


 ガブリと音がしそうな勢いで、卵を丸呑みする大水蛇。

 一拍子置いて、その後頭部が派手に爆ぜ飛ぶ。


 頭部が無惨にえぐれたモンスターは、そのまま倒れ伏し動かなくなった。


「うおおおおおおおおお!!!!」

「クパパパパパパァ!!!!」


 背後や左右からのどよめきを受けて、兄河童はわずかにくちばしの端を持ち上げた。

 そして自信に満ちたモーションで、三投目を放つ。


 湖面を赤く染める同類の血に誘われ、新たな一匹が水をかき分けて突進してきた。

 真正面から白い卵に踊りかかった大水蛇は、前の二匹同様ためらいもなく一息に飲み込む。

 再び大きな爆音が上がり、頭を綺麗に失ったモンスターは水底へと沈んでいった。


「ふう、無事に爆発してるな。よし、どんどん行くか!」

「クパァ!」


 当然だが火吹鳥の卵を割っても、爆発するようなことは通常ありえない。

 でないとオムレツが大好物のヨルとクウは、今ごろ木っ端微塵だろうしな。


 実はあの卵だが、中身はとっくに食べ切っていた。

 で、空っぽになった部分に俺が詰め込んだのは、なんと爆裂猪の瘤だ。


 殻の内側に貼り付けておいて、衝撃が加わると外へ向けて爆発するように調整し、さらに殻の内部は赤スライムの体液から作った燃焼加速剤で満たしてある。

 こうして苦心しつつ完成させたのが、大型種を一瞬で屠ることができるこの卵爆弾というわけだ。


 火吹鳥の卵は物凄く頑丈なため、結構乱雑に扱っても暴発する危険はない。

 ただしその反面、頑丈な殻を噛み砕けたり踏み潰せるような相手にしか使えないのが難点だが。

 

 あとぶっちゃけると、爆裂猪の瘤を集めるのが一番大変だった。

 一匹から回収できるのが最大でも四個程度しかなく、数を集めるにはひたすら猪を探し回って狩っていくしかない。

 おかげで燻製にするほど猪肉が余って村のみんなには大好評であったが、作成できた爆弾は三十個が限界だった。


「クーパクパ!」


 血の臭いに集まってきた三匹に、兄河童は続けざまに卵を流していく。

 前もって調べておいたのだが、湖と比べ川の部分は水深が浅くなっており、大勢のうなぎ、ではなく大水蛇どもは集団でさかのぼってはこれない。

 そのため数匹ずつ確実に仕留めていけるという作戦だ。


 三連続で爆音が鳴り渡り、水蛇たちは白い腹を天に向けて浮かび上がった。


「うん、いいぞ! その調子で頼むぞ、アニー」

「おおお! すげぇええええ!」

「クパァァ! クパパ!」

「あっという間にやっつけていくぜ!」

「クーパパパパ!」


 周囲の称賛の声に兄河童は高笑いしながら、卵を大水蛇の喉元へ寸分の狂いもなく寄せていく。

 見事としか言いようがない制球力だ。


「うーん。この位置から、よくあんなぴったりなところへ投げられるな」

「クパパ!」


 何も考えずに卵爆弾を投入していくと、複数個を食べようとする奴や、取り合いになって割れてしまう可能性が出てくる。

 数に限りがあるので、ここは一個で一匹を確実に仕留めていきたいところだ。


 ただし湖に近づき過ぎると、大水蛇から<水の吐息>を見舞われてしまう。

 あの強烈なジェット水流は、流石に危なすぎるからな。


 絶妙な距離感を保ちながら、兄河童は集まってくる大水蛇を巧みに仕留めていく。

 それも中洲に囚われた仲間を助けるため何度も何度も危険を冒して火吹鳥の卵を盗み出し、必死な思いで流れに投じてきた努力があってこそだろう。


「クパァァァアア!」


 際どいところに投げ込んだ卵で新たに大水蛇を爆破した兄の姿に、筏の上を跳ねるカッちゃんが喜びの声を上げる。

 誇らしげに片腕を持ち上げた兄河童に、俺は最大限の賛辞を込めて頷いた。


 驚くほど順調に卵爆弾放流作戦は進行し、モンスターの数はどんどん減っていく。

 見る見る間に大水蛇の死体が湖面を覆い尽くし、何匹かは流れに抗えず下流へと運ばれていった。 


 そこが、この安全過ぎる作戦の唯一の欠点だな。

 大水蛇のお肉が全て回収できないのは、大いに残念ではある。


 しかし俺の懸念は、そこにはなかった。

 そしてやはり覚悟していた通り、その心配は当たってしまったようだ。


「クックォォォオオドゥゥゥウウ!」


 不意に響き渡った凄まじい大音声は、晴れ渡る天井と左右の山々にぶつかり俺たちの耳奥へこだまする。

 のん気な顔で観戦していた面子は、慌てふためいた顔で浮足立った。


「あちらの方角です! ニーノ殿」


 もっとも生粋の狩人であるエタンさんは、別だったようだ。

 周囲に張り巡らせておいた妖精警戒網から知らせを受けたのだろう。

 美少女そっくりな男性は、落ち着いた声で霞がかった東の山裾を指差した。


 蛇行する川と交わる森の一角に、明らかに木とは違う大きく突き出したシルエットが見える。

 固唾を呑む俺たちの前で、その巨大な何かは再び絶叫を放った。


 ビリビリと空気を震わす音に、数匹の河童が水の中へ転げ落ちる。

 散々追いかけ回された恐怖が、まだ残っているだろうな。


 河童たちに襲いかかった大水蛇の群だが、本来この場所は生息圏ではないのだろう。

 でないとこんな危険な場所に、河童が集落を築くはずもないしな。


 おそらく大水蛇に追われて河童たちが上流へ逃げたように、また大水蛇たちも何かに追われてここまで川を逆上ってきたと考えるのが自然だ。


「……追うほうも、実は何かに追われてたってオチか」


 靄を押しのけるように現れたのは、巨大な火吹鳥の姿であった。

 ただしその尾の部分から長く伸びるのは、黒い肌をぬめらせる大水蛇の頭だ。

 

 火吹鳥と大水蛇は互いの頭部を持ち上げると、俺たちへ視線を定めてみせた。

 そして鉤爪に握ってた蛇の死骸を両方の口で貪り、一瞬で平らげてしまう。

 

 一つの体に二つの頭が存在する異様なその姿と迫力満点な食事風景に皆が黙り込む中、俺は予想通りの結果に深々と息を吐いた。

 地下迷宮の十階から十五階が一階から五階の構造と酷似していたため、もしかしたらと思っていたら案の定であったようだ。


「ああ、やっぱりこの階にも居やがったな。"貪婪たんらんたる双頭"」


 ユニークモンスターの登場である。



とうとう『迷宮帝国』の一巻発売が明日に迫りましたので、

改めて宣伝させていただきます。


WEB版よりのバージョンアップ情報

・主人公に新たな戦闘用職業が追加されました。

・主人公に強力な武器が追加されました。

・システム面での変更があり、新たな要素が追加されました。

・一部のアイテムが削除され、イベント内容が変更となりました。


いろいろと追加要素がございますので、ぜひとも書籍でご確認いただれば幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 新刊紹介がゲームシステムすぎます(笑 河童に投擲の才があったとは。 ユニークモンスターも爆弾に引っかかりますかね
[一言] 扉絵をクリックして飛ぶリンク先が 役立たずスキルのURLになってますよ リンク先をこっちに変更したほうが https://mfbooks.jp/product/meikyu/3221030…
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