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新たな肉を求めて その二

しばらく更新の間が空いてしまったのでおさらいです。

・ニーノが村に来て二ヶ月過ぎたよ。

・村にお嬢様が来て商館が建築中だよ。

・地下農場は順調だよ。

・地下十一階にお風呂もできたよ

・地下十五階で新しく河童が仲間になったよ。

。今は地下十五階を探索中だよ。




 結局、後方から押すのは危険と判断し、河童たちには筏を曳航してもらうことにした。

 この河童ダグボート方式は思いの外安定しており、あっさり向こう岸へ渡ることができた。


「ふふ、お利口ですね、みんな」


 上手に接岸できた河童たちの様子をパウラが褒めると、わらわらと集まってきて次々と足にしがみつく。

 優しく頭の皿状の部分を撫でてもらった河童たちは、クパクパと笑い声を漏らした。

 最初に出会ったころの臆病ぶりが、嘘のような懐きようだ。


「すっかり馴染んできたな」

「にゃあ、うちのちびたちとそっくりにゃ」

 

 妖精種の多くは戦闘能力が乏しいせいか、群れでの行動が当たり前となる。

 そのためコミュニケーション能力が高くなり、また自分たちにとって脅威か有益かの判断も的確だ。

 なので安全であると思える相手には、親愛ぶりを全身で示してくるのだろう。


「じゃあ、帰りもよろしく頼むぞ」

「クパパ!」

「キヒヒヒヒ」

「クパクパ」


 河童に交じって向こう岸から返事を寄越してきたのは、筏作りを手伝ってくれたゴブリンたちである。

 この階層だと卵を食べられると知って、十匹ほどが移住を希望してきたのだ。

 現在は弓が得意なゴブっちが守備隊を率いて、細工好きのゴブリンたちが筏の製作を担当してくれている。

 水中での活動が得意な河童たちと協力して、新たな筏が着々といくつも完成しており、近い内に浮き橋や水上拠点にも応用できそうである。


 パウラ同様、河童たちにぴったりくっつかれたゴブリンらに別れの手を振り、俺たちは西にそびえる山の裾野の森へと向かった。

 こちらは東の川原と違い草が少なく、比較的歩きやすい。 

 

 先頭は斥候を務めるティニヤで、続いて赤青スライム四匹。

 その後ろにヨル、カッちゃん、クウ、アニーが連結状態で続く。

 相変わらず電車ごっこがお気に入りらしい。

 で、最後尾は俺とパウラ、石肌蛙のカーだ。

 

 カーは濡れるのを嫌うため、スライム皮の雨合羽もどきを着用中である。

 ただ最近、判明したのだが、雨を呼べる河童たちは、実は雨雲自体を少し遠ざけておくことも可能らしい。

 そのおかげで、俺やパウラは窮屈な格好から解放されたというわけだ。

 もっとも絶対に雨が降らないとは言い切れないため、まだカーだけはスライムの皮を手放せないが。


「あ、見えてきたな」

「向こうの森とは、少し変わってますね」


 十分ほどで視界に映った木々の群れだが、パウラの言葉通りやや様相が違っていた。

 低木が多かった東側に比べ、こっちの森は太めの幹が並んでいる。

 地面の落ち葉もみっしりと分厚く、よく乾燥しているようだ。


「見通しは結構いいな」

「ええ、おかげでよく見えますね」


 下枝や茂みも少なめなため、視界はそこそこ良好。

 足元はやや歩きにくいが、東側の鬱蒼とした森とはまったく印象が違う。

 ただし似通った点も、すぐに明らかになった。


「にゃあ、これなんにゃ?」


 先頭を歩いていたティニヤが不意に指差したのは、一部分が黒く変色した木の幹であった。

 近づいて確認すると、樹皮が広範囲にえぐれており焼け焦げてしまっている。

 東の森でもちょくちょく見た様相に、俺たちは足を止めて原因を探った。


「こっちの森でも火吹鳥がいるのか?」

「でも、なんか違うにゃあ。ここ穴ぼこになってるにゃ」

「何かご存知ですか? アニー」


 パウラの問いかけに首を横に振った兄河童は、大きく手を伸ばしてぴょんを跳び上がった。

 それから四つん這いになって、ぐるぐるとその場で走り回ってみせる。


「ああ、四本足の魔物の仕業ってことか。そいつも火を使うのか」


 可愛くぶんぶんと頷く河童の姿に、俺は素早く記憶の底を漁った。

 獣タイプで火属性のモンスターとなると、かなり数が絞られて――。


「にゃあ!!!」

「なっ!」

「くぱ!」

「ぎょうてん!」

「くー!」


 次の瞬間、いきなり梢の向こうから鳴り轟いた大きな物音に、俺たちは口々に声を上げた。

 同時に柔らかな感触が覆いかぶさってくる。


 地面に身を伏せさせられた俺は、急いで息を潜め耳を澄ませた。

 だが爆音は一度きりで、それ以上の派手な物音はない。

 ほっと安堵の息を漏らす俺の耳元に、心配げな声が囁かれた。


「申し訳ありません、あなた様。お怪我はありませんか?」

「いや、ありがとう。もう大丈夫かな?」


 背中越しに伝わってくる二つの柔らかな感触に気を取られながら、俺が言葉を返すとパウラは身を起こして周囲を見回した。 

 スライムや石肌蛙の後ろに隠れたちびっ子たちも、首を伸ばしてキョロキョロする。


「ええ、近づいてくる気配はございませんね」

「そうか……」


 口ぶりについ残念さが交じってしまったのか、パウラは俺に訝しげな視線を向けた。

 そしていまだに下半身が密着している事実に気づき、少しだけ頬を赤らめながら怒った目をしてみせた。


「もう、駄目ですよ。こんな時に」


 立ち上がった俺が土埃を払い落としていると、木々の合間から音もなくティニヤが戻ってきた。

 目をまんまるにした獣耳の少女は、声を無理やり落としながら報告してくる。


「にゃ、にゃんか、おっきなのがいるにゃ! こっちにゃ!」

 

 どうやらいつの間にか音の正体を確かめに行ってくれていたらしい。

 先導するティニヤの後を、俺たちはできるだけ足音を殺しながらぞろぞろと続く。

 三分も歩かない内に聞こえてきたのは、荒い鼻息のような音だった。


 そっと木の陰から窺うと、黒々とした塊が目に飛び込んでくる。

 毛皮に覆われたどっしりとした胴体を支える太く短い四本の足。

 突き出した鼻面は無数の醜い瘤に覆われ、小さな眼球が埋もれるように光る。

 そこに居たのは、体高が俺のへそ辺りに届きそうな巨大な猪であった。


 四つ足の獣は鼻先から伸びる白い三日月状の牙で、地面に落ちた何かを一心不乱にほじくっている。

 そして急に顔を上げたかと思うと、大猪は眼前の木にめがけて走り出した。


 頑丈そうな木の幹に、一切の躊躇を見せず激突する獣。

 俺たちの耳に鳴り響いたのは、先ほどよりもさらに大きな爆発音だった。

 間を置かず大木が派手に揺れ、三十センチはありそうな実がをぼたぼたと地面に降り注ぐ。


 大猪が後ろに下がると、根本に近い部分の樹皮にぽっかりと穿たれた穴が現れた。

 ただの突進ではありえないその凄まじい威力に、俺は魔物の正体をようやく突き止める。


「そうか、あれ爆裂猪だな!」




更新できず本当にすみません。

確定申告や花粉症や、その他もろもろの作業が終われば

また再開させていただきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 肉だー! 愛称はバクでしょうか(イノシシなのに)
[良い点] 待ってました! これからもよろしくお願いします!
[一言] 更新楽しみにしております。 気長に待ちますので無理しないでください。
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