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地下二階蹂躙



「おかくごー」


 すっかり先陣を切るのが板についてきたヨルである。

 四本足で駆け出した獣っ子は、勢いのまま骨でできた犬に頭から突っ込んだ。


 ガツンッと大きな音が響き、体重差のせいかヨルはあっさり跳ね飛ばされた。

 もんどり打って地面を転がるが、平気な顔ですぐに立ち上がる。


 逆に骸骨犬のほうは、酷い有り様であった。

 右の前足が肩の骨ごと砕けており、ひび割れが派手に生じている。

 首の骨も衝撃で歪んだのか、頭蓋骨があらぬ方向へ向いてしまっていた。


「くー!」


 そこへすかさず滑空したクウが、力いっぱい蹴りを叩き込んだ。

 白い骨片が飛び散り、首の骨をへし折られた魔物は力なく地面に倒れる。


 が、そこで油断できないのが、ダンジョンというものだ。

 横たわる骸骨犬の背後から、さらにもう一匹が飛び出してきたのだ。

 そして蹴りを放った反動で体勢を崩していたクウに、ここぞとばかりに襲いかかる。


 空気を切り裂く音が、洞窟内に鋭く響いた。

 同時に骨でできた犬はバランスを失い、地面に無様に叩きつけられる。

 その前足に絡みつくのは黒い鞭だ。


「今です、ミア!」

「まっかせて、パウさま!」


 パチンッと指が弾かれ、紅蓮の塊が宙をよぎる。

 そして鞭で拘束され逃げようのない魔物に容赦なくぶち当たった。

 火の粉が舞い踊り、一瞬で炎に包まれた骸骨犬は、ガチガチと顎骨を鳴らしながら崩れ落ちた。


「うわわっ、燃えすぎじゃない?」

「アンデッドは火に弱いのが定番だからな」


 代わりに<魅惑>などの闇系特技は、全く通用しなくなるが。

 しかし、その辺りを瞬時に見抜いて、鞭の攻撃に切り替えたパウラはさすがとしか言いようがない。

 骸骨犬の外見に怯んでいた俺とは、やはり気の持ちようが違うな。


「怪我してないか、ヨル?」

「たっしゃー」


 頭や背中を撫でてみるが、痛がる素振りはない。

 むしろ耳をピコピコ揺らして、嬉しがっているようだ。

 

 この龍玉の宮殿のモンスターのレベルは、ゲームの時と同じく階層に十前後を足したものなので、骸骨犬はだいたいレベル11から13の間となる。

 ボススライムを倒してレベル11となったヨルたちと、ほぼ変わらぬ数字である。

 ただしこちらは各種強化薬にスライムの胴装備もあり、ステータスの数値は倍近い。

 損傷もほとんどなく、すんなり戦闘が終わるのも当たり前の結果だった。


「骨、食べるか? ヨル、クウ」


 骸骨犬の死体を前に俺が尋ねると、二匹は興味なさげに首を横に振った。

 特技の<たべる>は、魔物ならなんでもいいわけじゃないようだ。 


「お肉ついてないもんねー」

「まさか好みの問題か」


 まあ、骨の体を装備できても、今ひとつだろうしな。

 骸骨犬自体も素早さそこそこ、攻撃力そこそこ、防御力微妙といった感じである。

 特技も<噛みつき>だけなので、今の戦いぶりなら余裕だろう。


 犬の骨を回収すると、闇属性の黒魔石も混じっていた。

 需要の割にあまり手に入らないので、これも嬉しい。

 骨も意外と使い途あるしな。


「よし、この調子で進むか。と言いたいところだけど、その前にこれを」

「なんでございますか? あなた様」


 プニっとした小さな塊を二つ手のひらにのせたパウラが、不思議そうに首を傾げる。

 スライムの皮を<切削>で小指の先ほどに切り分けた物だが、用途はそう難しいものでもない。

 

「これは耳栓だよ。骸骨犬で思い出したけど、この階はもう一種類、面倒な魔物がいてな」

「へー、耳にはめるの? う、なんかヌルっとするー」

「ふふふ、思ったよりこそばゆいものですね」


 ヨルとクウにもはめてやったが、パウラと同じくくすぐったいのか顔をプルプル振ってすぐに跳ね飛ばしてしまった。

 三回やって同じ繰り返しだったので、諦めてそのままにする。


 二階は一階と違い、曲がりくねった地形となっていた。

 緩やかにカーブを描く通路を進んでいると、またも軋むような足音が聞こえてくる。


 ランタンを高く持ち上げると、骨だけの犬が二匹闇の中から姿を現した。

 それと甲高い鳴き声と、バタバタと宙を羽ばたく音も付随している。

 

 骸骨犬の上を飛び回っていたのは、手のひらよりやや大きなコウモリどもだった。

 名前は耳鳴りコウモリ。

 真っ黒な外見で素早さも高いため、闇に紛れると見つけるのが難しい魔物だ。

 ただ小柄すぎて、攻撃力と防御力はとても低い。


 そのままでは逃げ足が速いだけの雑魚でしかないが、こいつらは名前が示す通り厄介な特技の持ち主なのだ。


 骸骨犬の歩みに合わせ、三匹の耳鳴りコウモリどもがいっせいに口を開く。

 そして止める間もなく、凄まじい音の波が放たれた。

 

 耳栓をしていても、頭が揺れるような感覚が生じるほどうるさい。

 しかし我慢できないほどでもない。

 すかさずパウラの黒い鞭が空を切り裂き、一匹を打ち抜く。

 さらにミアの<火弾>も炸裂して、焼け焦げたもう一匹も地面に落下した。


 もっとも活躍した二人に比べ、耳栓を拒否したヨルとクウは散々だった。

 二匹とも可愛く耳を押さえて、その場でじっとしゃがみこんでしまっている。

 そこへ容赦せず、耳を持たない骸骨犬どもが距離を詰めた。


 が、俺たちの味方はこれだけではない。

 パウラに従う二匹のスライムが、ヨルたちをかばうように襲いくる骸骨犬の前に立ちふさがったのだ。

 

 <体当たり>対<噛みつき>。

 ギリギリ軍配が上がったのが、青スライムだった。

 レベルは大差ないが、やはり<下僕強化>の恩恵分が大きかったようだ。


 骨にヒビが入り、動きを鈍らせる犬たち。

 そこに間を置かず、<火弾>が飛来する。

 

 残ったコウモリもパウラの鞭に仕留められ、二度目の戦闘もさっくり終了した。


「大丈夫か? ヨル、クウ」

「めんぼくなしー」

「くぅくぅ」


 耳鳴りのせいで、何もできなかったことを恥じているようだ。

 かがんだ俺にくっついて、懸命に謝ってくる。


「仕方ないさ。ほら、これ付けたら大丈夫だからな」


 改めて耳栓をつけてやると、またも頭を小刻みに振って飛ばしてしまった。

 おい。


 耳鳴りコウモリからは、少量の肉と羽と風属性の緑魔石が回収できた。

 魔物っ子たちに食べるかと聞いたら、美味しそうに丸呑みしたが、ステータス欄の装備は増えてなかった。

 普通に食しただけのようだ。


「仕方ない。やられる前に倒すか」


 そんなわけで骸骨犬だけの場合は、これまで通り。

 耳鳴りコウモリがくっついてきたら、開幕でクウが<ぱたぱた>することになった。

 ちなみに前回飛ばした羽毛だが、いつのまにか生え揃って元通りになっていた。

  

 特技の連発は魔力の消耗が激しいが、そこは魔活回復薬で補っていく。

 あと嬉しいことに、活力を回復させると減った体力もじょじょに戻ることが分かった。

 体内の細胞が活性化して、内側の損傷した部分の治りも速くなるのだろうか。


 ダーツのように羽が飛んで、串刺しになったコウモリが次々倒されていく。

 骸骨犬はヨルに突撃されたり、スライムに阻まれたり、ミアに燃やされたりでさくさく倒されていく。

 そんなこんなで三、四十分ほどで、一番奥の階段部屋へとたどり着くことができた。


「くさ! めっちゃくさい! なにこれ!」

「なんぎー」

「くぅー!」


 天井が一段と高くなっており、部屋と呼ぶより大きめの洞窟ほどの広さがある。

 上からは鍾乳石がぎっしりとぶら下がり、足元も凹凸が激しく動きにくい。

 対する相手は五匹の耳鳴りコウモリと、鉄格子付きの階段前にぶら下がる巨大な一匹だ。


 ボスコウモリの大きさは、体長一メートルほどだろうか。

 正直、あまり怖さは感じないサイズだ。 


 と、侮ってしまうのも無理はない。

 この階段部屋には、ボスよりも脅威的な問題が存在していたのだ。


 それは地面に大量に盛り上がる灰褐色の石の突起だった。

 臭いのだ。

 そう、物凄く臭い。


 石の正体は、地面から盛り上がった灰色の岩にコウモリの糞がたっぷりまぶしてある代物だ。

 実は道中でもわずかに臭っていたのだが、ここにきてその発臭源が明らかになったというわけである。 

 二階の階段部屋は、一階の綺麗な壁泉とは大違いの糞溜まりであった。


「これ使うか?」


 耳栓の応用で鼻栓も作ってみたが、女性陣から難を示された。

 見た目がちょっと不細工だからか。

 一応、魔物っ子たちの鼻に入れてやったが、プッと鼻息で飛ばされてしまった。

 気に入らなかったようだ。


「鼻が曲がりそうだし、さっさと倒すか。うーん、しかし厄介だな」

「ほー、そうなんだ?」

「はい、そうでございますね」


 パウラと意見が合うのはちょっと嬉しい。

 俺は状況が分かっていないミアに、問題点を挙げていくことにした。


「まず、地面がすごく歩きにくいだろ」

「うん、言われてみればそだね」


 ところ狭しと突き出た糞まみれの石山のせいで、こちらはまっすぐコウモリに向かうことが難しいのだ。

 だが向こうは空を飛んでいるので、そんなものは関係ない。


「で、飛び回るコウモリに、<火弾>を当てられるか?」

「むむむっ、それは難しいねー!」


 狭い通路なら、なんとかなっただろう。

 だがここには、天井からぶら下る大量の鍾乳石があるのだ。

 それらを盾にされてしまうと、命中率は著しく下がってしまう。 


「向こうは逃げ回って<金切り声>だけ出してりゃいい。あとは身動きできくなった獲物を、ボスコウモリが仕留めてくれるからな」


 三匹までなら耳栓を使えば耐えられるが、六匹いっせいだと厳しいだろうな。

 青スライムには音波攻撃は効かないが、肝心の空を飛ぶコウモリへの攻撃手段がない。

 素早さが高いため、部屋の外から<火弾>で狙っても避けられてしまう確率も高い。


 取り巻きのコウモリを<魅惑>と<従属>で足止めしつつ、従えて数を減らすという手もあるにはある。

 しかしパウラに聞いたところ、その二つの特技は射程が意外と短くて条件が難しいとのとこだ。


「となると、地形の効果を受けず、広範囲の遠隔攻撃もできる……。うん、ここはクウの出番だと思うがどうだろう?」

「はい、わたくしもそう思います。ただ……」

「問題は、あいつらの耳鳴り攻撃だな」


 そう言いながら俺は、鳥っ子に耳栓をはめてやる。

 指で掴んで、ポイッと捨てられた。

 おい。


「あっ、いいこと思いついたー!」


 ポンッと手を打ったミアが、人差し指と親指でわっかを作り息を吹き込む。

 たちまち<水泡>の魔術が発動し、大きな泡が生み出された。


「お、そんな使い方が!」

「お見事ですね、ミア」

「にしし、うまくいったねー。よーし、行ってみようっか、クウっち!」

「くー!」


 二匹目のボス挑戦の開始である。



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