河童集落、再建中
いろいろと同時進行中であるが、地下迷宮の探索も忘れてはいない。
今日もせっせと、十五階を開拓中である。
「ふう、だいぶ形になってきたな」
「クパー!」
隣で元気よく返事をしてくれたのは、兄河童のアニーだ。
いつまでも兄河童、兄河童と呼ぶのもアレなので勝手に命名してみたが、結構気に入ってくれたらしく、アニーと呼ぶと誇らしげに胸を張ってくれるのは可愛い。
そんなアニーと眺めていたのは、川の近くに製作中の石造りの避難所であった。
といっても、そう大したものではなく、四角い石を積み上げて四方を囲っただけの代物だ。
作り方も簡単で、毎日、七階の塔に通って集めた石を交互に隙間なく並べただけである。
「うん、厚みも高さも十分だな」
「クパパ」
石壁の高さは三メートル近くあり、厚さも二十センチを越えているので火吹鳥や大水蛇に襲われても、そう簡単に崩れることはないだろう。
普通なら数人がかりで一ヶ月はかかりそうな立派な壁たが、俺の場合は手を伸ばした位置に石を自在に出せるので、ちょっとした足場さえあればあっという間である。
「あとは仕上げに屋根と床だな」
「クパァ」
さすがに素人が石を積んで屋根を形成するのは無理があったので、丸太を使って上部と下部は覆うつもりだ。
ただその辺りは俺一人では厳しいので、人手を集める予定である。
「ちゃんとドアも付けるからな」
「クパクパ」
人間用の普通の扉に河童用の小さな扉もつけた物も、大工頭にちゃんと依頼済みだ。
その仕事の代金だが、酒場で肉料理を一週間食べ放題で引き受けてくれた。
商館の建築で忙しい中、駄目元で頼んでみたら、美味い肉がたらふく食えるなら引き受けるぞと言われたのだ。
どうやらこの村の魅力に、着々とはまってきているようでもある。
「全部完成したら、お祝いしないとな」
そう言うとアニーは嬉しそうに俺の足に抱きついて、グイグイと押し始めた。
喜んでいるようで何よりだ。
岩の上で甲羅干しをしていた河童たちも、そんなアニーのはしゃぐ姿にわらわらと集まってきたかと思うと、背中の甲羅を俺に向けて押しくらまんじゅうで遊びだした。
ちょっと痛いが、これも可愛い。
河童たちだが、すでに地上、五階、八階、十階にそれぞれ数匹ずつが移住済みであった。
雨雲をどこでも出せる特技が有能すぎる上、見た目も愛らしく性格も素直なため引っ張りだこの大人気ぶりである。
それにパウラの使役魔の枠が空いているので、日替わりで十一階のお風呂に通ったりと他の階へ行く抵抗感はすっかりなくなったようだ。
あと移住した分、新たな河童たちが発生したのだが、驚いたことにその大半は下流の中洲だけでなくこっちの丸石辺りで生まれていた。
ゴブリンたちは村でポコポコ発生してるので、場所は固定かと思っていたがそうでもないようだ。
もしかしたら大勢が集まっている場所に、生まれやすいのかもしれない。
「にゃあ、戻ったにゃ」
「きさんー!」
「くー!」
「お待たせしました、あなた様」
河童たちに足をもみくちゃされていると、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
同時に駆け寄ってきたヨルとクウが、もみ合いに参加して俺にしがみついてくる。
「あるじどのー!」
「くくー!」
「おかえり。お、大量だな。お疲れさん」
「ふう、重かったにゃぁ」
ため息をつきながらティニヤが背中の籠を下ろすと、白い大きな卵がぎっしりと詰まっていた。
避難所作りで俺が動けないため、パウラたちだけで東の森に火吹鳥の卵を採りに行ってくれたのだ。
「カッちゃんも無事……だな」
「はい、よく頑張ってくれましたよ」
実は火吹鳥は大型種なため、再発生に少しばかり時間を要するのだ。
なので倒してしまうと、その間は卵が回収できなくなってしまう。
そこでこっそり卵だけ盗ってこようという作戦である。
本来なら兄のアニーが案内するはずだったが、最近はカッちゃんがすすんでやってくれている。
さらには<雨隠れ>を利用して、卵を奪うほうでも活躍してくれているらしい。
ただ張り切りすぎるせいか、帰りはたいていパウラに抱っこされて眠ってしまう有り様のようだ。
「じゃあ、昼ごはんにするか」
「クパッ!」
「クパパー!」
「はらへりー!」
「くぅぅうう!」
俺の言葉に足元で遊んでいたちびっ子と河童たちは急に動きを止めたかと思うと、先を争って平たい大岩の前に整列しだした。
すっかり餌付け済み状態である。
まずは新鮮な火吹鳥の卵と塩を振った羊肉を<加熱>した大岩の上でどんどん焼いていく。
その横ではパウラが、スライスしたパンの上に肉と卵を切り取って次々と乗せていってくれる。
あとは仕上げに塩漬けの翠硬の実を添えて完成だ。
「……クパパァ」
「クパクパ!」
「……クパァ」
「クパッパア!」
「にゃあ、はずれにゃあぁ!」
パンを受け取りながら、喜んだり落ち込んだりと河童たちも大忙しである。
どうやら河童たちは、火吹鳥の卵の黄身の部分が大好物らしい。
が、割合的にどうしても白身だけの者が出てしまう。
その辺りは運次第なのだが、当たった河童は大はしゃぎで外れた河童は悲痛の声を漏らすというわけだ。
つい頬を緩ませながら調理してると、目覚めたカッちゃんもきちんと列に並んで卵肉乗せパンを受け取っていた。
そして白身部分だったらしく、露骨にがっかりしている。
落ち込むカッちゃんの肩を、ちょんちょんと突くアニー。
その手にしたパンには、とろりと今にもこぼれそうな黄身が乗っかっていた。
目を丸くする妹に、兄は優しい声で話しかける。
「クパ、クパア」
「クパパ!?」
並んで川辺に腰掛けた兄妹は、黄身を分け合いながらパンにかぶりつく。
なんとも仲のいい二匹の姿であった。
あけましておめでとうございます。(遅い




