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立ち塞がる壁とぐるぐる目玉



「にゃあ、見つけたにゃ!」


 熱い風呂で疲れをさっぱりと癒やした俺たちは、翌日またも十三階へ挑んでいた。

 隠れ潜む石肌蛙や泥屍人を、張り切った斥候士の少女が次々見つけてくれたおかげで時刻はまだ昼前である。


 壁を這い回る大ナメクジも全て掃討し終わり、通路をじっくり調べてようとしていた矢先。

 聞こえてきたのは、またもティニヤの元気な発見の知らせであった。


 駆け寄ってみると、少女は得意げに猫耳を揺らしながら、何もない壁を指差している。


「ここ、ここが怪しいにゃ!」

「うん? どこだ?」

「こっからここにゃ!」

「お、これは……」

「よく見つけたわね……」

「お手柄ですよ、ティニヤ」


 一見するとなんの変哲もない土の壁だが、手で区切ってもらえると分かりやすい。

 壁には大ナメクジが這い回った跡がそこかしこについているのだが、よく見るとティニヤの示した部分だけその痕跡がないのだ。

 不自然に壁の一箇所だけが手つかず、ではなく足つかずとなっていた。


 とは言うものの、薄暗く狭い通路の目立たない一角である。

 意識していなければ、まず間違いなく見落としてしまうだろう。


「こいつは絶対に何かあるな。うん、でかしたぞ」

「あっぱれー!」

「くー」

「にゃあ、騎士としてこれくらい当然にゃ。でも、もっともっと褒めてもいいにゃ」


 ヨルとクウに膝小僧をペチペチと叩いてもらい鼻を高く持ち上げるティニヤは置いといて、俺はさっそく土の壁を探ってみる。

 表面は土くれだが思ったより固く、ほとんど指で掘り返すことができない。

 やはり普通の壁ではなく、特別な仕掛けが施されているようだ。


「うーん、スイッチらしき物はないな」

「何か、おかしい気がいたしま……。あなた様、お下がりください!」

 

 俺の隣で壁を調べていたパウラが、不意に鋭い声を発した。

 慌てて飛び退きながらティニヤへ視線を向けるが、キョトンとした表情を浮かべている。

 どうやら、<危険察知>は反応していないようだ。


 パウラに向き直ると、その褐色の肌が紅く染まっていた。

 瞳もとろんとしており、上半身がふわりと左右に揺れている。

 思わず息を呑んでしまうほどの艶っぽさだが、この状態は前に見た覚えがあるな。


「おい、大丈夫か?」

「お気をつけくださいませ~、あなたさま~」


 手を伸ばして抱きとめながら、急いで仲間コマンドでステータスを確認する。

 案の定、パウラの魔力が残りわずかとなっていた。


「やっぱり魔力切れか。まさかその壁が原因か?」

「……はい。いきなり吸い取られました」


 取り出した魔活回復薬を飲ませると、少しマシになったのか顔色が落ち着いてくる。

 一応、俺のステータスも確かめてみたが、魔力が半分ほどまで落ち込んでいた。

 気づかぬうちに吸われていたようだ。


「これはまた面倒な罠だな……。うーむ、命の危険とかじゃないから、ティニヤにも見破れなかったのか」

「にゃあ、ごめんなさいなのにゃ」

「気にしないでください。迂闊に近づいたわたくしの落ち度ですから。ナメクジが避けていた理由を察するべきでしたね」


 すっかりいつもの落ち着いた口調に戻っていたので、支えていた手を離すと、パウラはほんのわずかだけ名残惜しそうに顔を伏せてみせた。

 今度は俺の顔に熱がこもりそうになったので、頭を左右に振りながら対策を考える。

 

「まずは検証だな。魔力が吸われる条件と量を確かめてみるか」


 アイテム一覧から取り出した犬の骨を斜めに<切削>して、壁に突き立ててみる。

 指では無理であったが、さすがに硬い骨なら通用するようだ。

 ガシガシと土をえぐりながら、魔力の増減をチェックする。


「骨越しでも魔力は減っていくな。一秒間にだいたい一、二程度か……。これじゃ三分くらいしか保たないな」


 次に骨子ちゃんを呼び出して壁を掘らせてみたが、数秒足らずで自壊してしまった。

 まあゴーレムに近い存在だから、魔素が消えると壊れるのも当然か。


「むむむ、これは手強いな」


 他に使えそうな手段だが、ヨルとクウの攻撃はまず却下だな。

 ちびっこたちの魔力は、できれば温存しておきたい。

 スライムたちの<体当たり>も、頑丈な土の壁には効果は今ひとつだろう。

 石肌蛙には遠距離の攻撃手段である<石棘>があるが、これはかえって壁が厚くなりそうだ。


「……大ミミズを連れてくるんだったな」


 土を掘り返すのは大の得意だし、こっちも離れて攻撃できる<消化液>がある。

 同じく<消化液>に加え、もっと効果的な<水針>まで使える魔物も居るが、あいにく全部倒した後だしな。

 それに大ナメクジに関しては、魔物使いのお二人から、できれば遠慮したいといった言葉が出ていた。

 ま、気持ちは分からないでもない。


「となると、ここは猫耳の騎士様に任すしかないか」

「にゃ? うちにゃ?」

「魔力が減っても大丈夫なのは、この中じゃお前だけなんだ。頼んでいいか?」

「仕方ないにゃぁ。どんと大船に乗ったつもりでお昼寝でもしてるにゃ」

「かたじけないー」

「ぐー」


 骨を受け取った少女は、力いっぱい壁に突き立てたかと思うとザクザクと掘り始めた。

 レベルが上った成果なのか、五分もかからずに反対側へ到達してみせる。


「にゃ、向こうにも通路があるにゃ!」

「やっぱりか。よし、そのまま穴を広げてくれ」

「わかったにゃー!」


 一箇所貫通してしまえば、あとは早い。

 張り切った少女の活躍によって、たちまち人がくぐれるほどの穴ができあがった。


「ふふーん、これでいいにゃ?」

「うん、上出来だ。助かったよ、ありがとう」

「どういたしましてにゃ。困ったら、うちになんでも任せるにゃ」

「ああ、頼りにしてるぞ」


 邪魔な壁を抜けた向こうは、似たような景色が広がっていた。

 またも壁を這い回るナメクジを倒しつつ、新たな通路を隅々まで回って地図を埋めていく。

 今度も全て行き止まりであったが――。


「まーた、あったにゃ」


 二つ目の罠の壁は、あっさりと見つかった。

 注意していれば、案外簡単だな。

 その後さらにもう一度壁を壊し、俺たちはようやく階段前へとたどり着くことができた。


 やや広めの部屋の地面には、それらしい魔物の姿はない。

 視線を上に向けた瞬間、俺は思わず小さな悲鳴を漏らしかける。


 これまでよりも一段と高くなった天井。

 そこに張り付いていたのは、巨大なナメクジであった。


 ただのナメクジならば、まだ我慢できる。

 今まで散々、倒してきたしな。

 しかしそいつは、これまでとは少しばかり容姿が異なっていた。


 天井をゆっくりと這いずり回る軟体動物の触角部分。

 そこだけが緑色のカラフルな縞模様に覆われて、不気味に蠕動していたのだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁ、グロで有名な寄生虫やん。
[一言] あの寄生虫に取り憑かれて居るのかな?。
[良い点] 寄生されとるがな! アフリカマイマイとか触るだけで人に移る寄生虫持ちもいますが、大丈夫かこの階層? 本来ならロイコクロリディウムは触覚を食う鳥がいて循環できる生態なので、そんなのはいなさそ…
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