嘘
「《聖なる炎》!」
ダハトールに近づくほど、魔獣の数が多くなっていく。
カイルの魔法で焼かれた魔獣は、雄叫びをあげながら森に走り去っていった。
「カイル! 大丈夫!?」
「大丈夫。 ちょっと掠っただけ。」
「じっとしててね。 《癒しの光》!」
カイルの腕から流れる血が止まり、切り傷が塞がっていく。
「ありがとう、マリーザ。 助かる。」
「ごめんね、戦いの役に立てなくて……。」
「何言ってるんだよ。 傷を治してくれるし、側にいてくれる。 それだけで十分だ。」
先に進めば進むほど、敵は強くなる。
カイルは戦闘訓練を受けていないので、剣術も体術も魔法も、上級者というわけではない。
せいぜい中級者くらいだろうか。
「俺が弱いせいでごめんな…。 もっと強かったら、マリーザに心配かけなくて済むのに。」
「そんなの気にしないでよ! 怪我した時のために私がいるんだからさ。 頼ってもらえて嬉しいよ!」
「どうせなら、歴代勇者の記憶だけじゃなくて、強さも継承できたらよかったのにな。」
「そうだったら、すっごく強くなって、私の力なんていらなくなっちゃうじゃない!」
「ははは、その方が良かったかも。」
「ひどーい!」
けらけら笑っているカイルの肩をぽかぽか叩くが、カイルは笑うのをやめない。
「あはは、ーーー…っごめん、マリーザ!」
「ぐえ、!?」
突然、カイルが私を掴んで胸ポケットに入れ、身体を翻して飛び退いた。
いつの間にか、私たちの後ろに魔獣ゴブリンが立っていたのだ。
今まで倒した魔獣たちより、大きくて人間に近しい姿をしている。
「カエセ」
ゴブリンはそこから一歩も動かず、ただ一言。
ーーー…喋った!?
「しゃ、喋ったよ!? 魔獣って喋れるの!?」
「力の強い奴ほど、知性もあるからな。 今まで戦ってきた奴よりは、段違いに強そうだ。」
「やばいじゃん!」
カイルは剣を構えて迎撃に備える。
「カエセ! カエセ!!」
「『返せ』……って言ってる?」
ゴブリンは超然的なスピードで私たちの目の前に現れ、カイルの構えていた聖剣を払い除けた。
からん、と音がして、少し離れた場所に聖剣が落ちる。
「うわあ!?」
「カイル!」
しかし、あれだけのスピードがあるというのに、こちらに攻撃をしてこない。
ただじっと、カイルを見つめている。
「カエセ」
「……《身隠しの煙》! 《風足》!」
煙幕の魔法を使い、敵が私たちを見失ったところで、なんとか後ろをとったカイルがゴブリンの頭を殴る。
ゴブリンはふらついて倒れ、近くにあった岩に頭をぶつけて気絶してしまった。
「ありゃ……ど、どうする?」
「俺の力じゃ倒せないし……とりあえず、ロープで手足縛っとけば追っては来られないだろ。」
「じゃあそうしよう!」
そうとなれば早くしないと。
相手が目覚める前に!
「縛ってる間に他の敵に囲まれると危ないから、周りに敵がいないか見てきてくれないか?」
「わかった!」
私は羽を羽ばたかせ、上空から周りを見ようとした。
しかし、この周囲は木々が生茂り、上からではカイルがどこにいるかすらわからないほどに何も見えない。
仕方がないから木の枝の間を飛んで見て回ることにした。
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「…ふう。」
マリーザの姿が見えなくなったことを確認して、一息ついた。
先程気絶させたゴブリンがぴくり、と動く。
その頭をごり、と踏み潰すと、グギィと汚い鳴き声がした。
「返せって、面白いこと言うよなあ。 お前らのものじゃないのにさ。」
今も、これからもずっと、俺のものなのに。
苛々するなあ。
「《汝、永遠の業火に焼かれその身灰となり神に赦されること叶わずーーー聖十字火炎斬》」
ゴブリンの身体を斬りつけると、ゴオオオと大きな炎が燃え上がる。
次第に炎が弱くなってゴブリンの身体は灰となり、風が吹くと共に消えていった。
「さて…マリーザになんて言い訳するか。」
マリーザはまだすぐには戻らないだろう。
今のうちに適当に切り傷でも作っておいて、敵は俺に一撃入れて逃げたってことにしようかな。
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10分ほど経って、マリーザが戻ってきた。
「周りは何もいなかったよー………あれ? さっきのゴブリン、どこ行ったの? 縛っておくんじゃなかったの?」
「それがさ……逃げられちゃったんだよ。 ごめん。」
「えー! 逃しちゃって大丈夫かな!?」
マリーザが不安げな顔をする。
「大丈夫だろ。 結構ふらふらしてたし、もう襲ってこないと思うよ。」
「そっかあ……。 って、カイル、脚怪我してるじゃない!」
「ゴブリンが逃げるのを止めようとしたら、一撃喰らった。」
「治してあげるから、早く座って!」
「頼む。」
マリーザに促され、その場に座り込み脚を見せる。
「もう…まだ魔王城にも着いてないのに、こんな低級の魔獣たち相手に怪我してて大丈夫なの?」
マリーザが治癒の魔法を使いながら、ぶつぶつと呟いている。
「全く……カイルは私がついてないと、早死にするよ! 絶対!」
マリーザはそう言って、いつものように優しく笑ってくれた。
「ーーー…うん。 本当に俺、マリーザがいないと駄目なんだよな。」
だからずっと側にいて欲しい。
へらへら笑ってみせると、彼女は安心したように、笑い返してくれる。
彼女が側にいてくれるなら、弱いフリも、する必要のない怪我も、いくらだってしよう。
だって俺は、マリーザを愛しているから。




