大切なもの
「………言わんこっちゃない。」
気合を入れて飛び出したマリーザは、今、俺のポケットの中ですやすや眠っている。
遊び疲れた幼児か。
これで本人は、親に捨てられた俺の親代わりをしていると思っているのだから、呆れてしまう。
まあ、そんなところも可愛いのだが。
マリーザは、俺が8歳のときに勇者として目覚め、親に捨てられた日に俺のもとに現れた。
曰く、『神より勇者に仕えるよう命を受けた』と。
それからの10年間、彼女はずっと俺の側にいてくれた。
俺が人間から避けられ、罵られ、食事にありつくのも困難なほどの生活をしていた間、彼女はずっと俺を支えてくれていた。
彼女は俺の家族で、親友で、愛する女性となった。
彼女がいなければ生きていけない。
彼女以外いらない。
そう思うほどに、俺の心の根幹には彼女がいる。
誰にも奪わせない。
絶対に。
俺は首から下げた鍵を引き上げる。
これを見るたびに、複雑な気持ちが込み上げてきた。
だけど、これは今代の勇者には、関係ない。
歴代勇者の柵なんて、知ったことではない。
それでも、これを捨てることができないのはーーー
俺が心のどこかで、遠い過去の罪を恐れているからなのだろう。
「むにゃ……すう………」
気の抜けた顔で眠るマリーザを見て、少し安心する。
今、彼女が俺の元にいる。
それだけでいい。
前へ進む足の速度を少し緩やかにして、彼女との旅を少しでも長く楽しもうと思った。
今日は、星空がとても綺麗だ。




