世界樹と聖剣
「や……やっと……見えてきたね………。」
首都ロランサを出て、早1週間が経過した。
森で野営をしながら自給自足をして、時には盗賊と出会い戦って、夜は交代で眠る… そんな生活にも疲れてきたところだった。
見渡す限りの樹海を抜け、ようやく世界樹らしき大きな樹が見えた。
辺りは一面の花畑。
ちらほらと妖精が飛んでいるのが見える。
他の妖精に会うのは、初めてだ。
少しそわそわする。
「期待しているところ可哀想だけどさ……マリーザ以外の妖精は、喋らないよ。」
「えっ……そうなの? なんで?」
「さあ……。 まあ、妖精の中でも、聖なる力を持つマリーザは特別ってことなんじゃないか。」
そうなのかあ。少し残念。
カイルが側にいるから、寂しい、悲しいと思ったことはないけれど、自分と同じ種族にはそれなりに興味があったのにな。
「もうすぐ世界樹だよ、マリーザ。」
樹に近づくほどに、神聖な力を強く感じる。
確かにこれほどの力には、ただの人間や悪の力を持つ者は耐えられないだろう。
聖剣や歴代勇者が守ってきた宝物とやらを隠すには、これ以上に良い場所はないと言える。
「世界樹、ただいま。」
《ーーー……おお、勇者よ。 待っていたぞ。 前回の勇者に会ってから、1世紀程経っておるかな。》
カイルが世界樹の幹に触って語りかけると、どこからともなく声が聞こえた。
「俺の剣と《鍵》を、貰いに来たよ。」
《そうか…。 前回の戦いでは、だいぶ無理をしたようだったな。 聖剣が還ってきたときは、適切に修復できるものかと心配であったが。》
「直らなかったのか?」
《いいや。 私の力を浴びさせて、修復しておいた。 受け取るが良い。》
「よかった。 ありがとうな。」
カイルが世界樹の根本に両手をつく。
すると、一面が眩い光に包まれて、石でできた棺のような箱が現れた。
がたん、と蓋を開けると、美しく銀色に輝く剣と鍵が収められていた。
《鍵にも、しっかりと聖なる力を込めておいた。 封印が解けることはないだろう。》
「……ありがとう。」
《しかし、気をつけなさい。 聖剣にも、鍵にも、鋼に悪魔の血が混じっている。 悪魔の力自体は打つ工程で浄化されているが…。 勇者よ。 お前の心次第で剣も鍵も、お前とパートナーに刃を向けるということを忘れるでないぞ。》
「わかってる。 きちんとお前の力を浴びて、戦いに備えるよ。」
カイルは剣を腰に差した後、鍵を手に取る。
そのときの表情が、何故だかとても寂しそうに見えた。
《…横を飛んでいるのが、今回のパートナーかな?》
「あ…マリーザと申します。 世界樹様、初めまして!」
《そうか…。 君が…。》
さあ、と冷たい風が吹いた。
草原の草花が優しく揺れる。
《君も私の力を浴びて、しっかり戦いに備えなさい。 邪悪な力に負けぬように。》
「はい! ありがとうございます!」
「……大丈夫だよ、世界樹。 彼女は俺が守るから。」
カイルが俯き気味に世界樹を触りながら、目を瞑る。
それは何かを決心をするような、真剣な顔だった。
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「ねえ…… その鍵は、なんの鍵なの?」
世界樹の草原を出て、魔王の治める国ダハトールへ方向を変えて歩き出したところだった。
カイルが鍵に細いチェーンをつけて、首にかけようとしているので、気になって聞いてみた。
「……内緒。」
「えー!! 世界樹に来たら教えてくれるって言ってたのに!」
「宝物が鍵だってことはわかっただろ。」
「詐欺だーー!!」
ずるい! ずっと楽しみにしてたのに!
それに、鍵を手に取った時の表情ーーきっと何か、特別な秘密があるんだと期待してたのに!
「あはは、ごめんごめん。 でも、本当に大切なものなんだ。 ーーー…俺の弱点になり得るもの。」
カイルは首から下げた鍵をぎゅっと握る。
「え!? なら、世界樹に置いておいたほうが安全じゃない? 魔王の城なんかに持っていったら危ないよ!」
「そうだね、でも…… これは、魔王の弱点にもなり得るものだから。」
カイルの弱点で、魔王の弱点でもある?
なんだか矛盾しているようだけれど……。
「つまり、具体的になんなのか教える気はないってことねー。 つまんなーい!」
「はは、悪いな。 できれば一生、マリーザには教えないでおきたい。」
「何それー! いじわる!」
頰を膨らませてみせると、カイルはいつものように「ははは」 と笑った。
「さて……ここからダハトールまで、魔法を使わずに旅すれば1ヶ月くらい、かな。」
「また野営の生活か〜…。 今度は長いなあ……。」
「つらければ、途中で街に寄ろうか?」
「うーん…大丈夫! お金もあまりないし! これ以上使うと、また危険な依頼を請け負ってお金稼がなきゃいけなくなるよ。 時間ももったいないしさ。」
「そう? もし休みたくなったら、早めに言えよ。」
カイルは、胸ポケットをぴら、と開く動作をする。
「ううん、大丈夫! 私はちゃんと、カイルを守らなきゃいけないもの!」
だってそれが、私が神様から受けた命だから。
そのために私は、妖精として生を受けたのだから。
私は私にできることを、精一杯頑張らなきゃ。
世界樹様から力も与えていただいたしね!
「カイル、早く〜! 置いてっちゃうよ!」
「スタミナないんだから、そんなに気合入れると後で大変だぞ〜。」
カイルは呆れたように笑って肩を竦め、ゆっくりと私の後ろを歩き出した。




