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疫病神と呼ばれた勇者


泣かないで。

また逢えるから。

その時はきっと、あなたに添い遂げると誓うから。

だからそれまでは、おやすみなさい。

愛しています。




==============





「ーーー…リーザ…おい、マリーザ! 早く起きろー。 置いてくぞー。」

「ん…。 おはよ、カイル…。」


もう朝かあ。

まだ寝足りない。

二度寝しようかな、ともう一度目を閉じる。

すると、頭をべし、と軽く叩かれた。


「何すんの〜。 もうちょっと寝かせて…。」

「今日、国王陛下への謁見の日なの、覚えてるか? 寝ぼけてるなら置いてくからな。」

「えっ、ちょ、ちょっと待って! 羽! 羽に寝癖ついてない!? 」


ぱたぱたとはためかせてみるが、自分の背中はよく見えない。


「大丈夫だろ。 走ってもギリギリ遅れそうだから魔法使うけど、飛んでついてこられるか?」

「疲れるから嫌だ〜! 胸ポケットに入れてよ〜!」


こういう時、掌サイズというのは楽だ。


「はいはい。」


カイルは仕方ないな、と呟いて私を胸ポケットに入れてくれた。


「飛ばすから、ポケットから落ちるなよ。」

「わかってるって!」


「んじゃ行くぞ…、《風足!》」


魔法を纏ったカイルは、建物の屋根の上に軽く上がり、屋根から屋根へと跳びながら移動を始めた。


「上から見る街は、今日もきれいだねえ。」

「…だな。」


私たちが出会った、ごみ溜めのような町とは大違い。

この街、首都ロランサでは、綺麗な服を着た人たちが、綺麗な食べ物を食べて、綺麗な街並みを歩いている。

動物や人の死骸が落ちていない、腐った食べ物すらご馳走とされるような町が、同じ世界に存在することを、ここの住人たちは知らないだろうな。


「…城が近づいてきたから、下に降りるぞ。 ここからなら、歩いても間に合うだろう。」

「はいはーい! お疲れ様でした!」

「すぐ着くから、ポケットから出て自分で飛べよ。」

「え〜、わかったよ〜。」


正直、自分で移動するより楽なんだけど、仕方ない。

これから国王に会うというのに、ポケットに入っているのはさすがに失礼か。

城の前に着くと、カイルが門番に声をかける。


「カイルと申します。 国王陛下から、召集の命を受けて参りました。」

「…お待ちしておりました。 どうぞ。」


仰々しい門が開き、中に案内される。

豪華絢爛な城の中を数分移動して、やっと謁見の間に到着した。


「失礼いたします。 国王陛下の命により参りまし…」


カイルは片膝をつき、国王に挨拶をしようとした。

しかし、国王はカイルの言葉に被せるように言う。


「挨拶などいらぬ。 そなたが勇者の生まれ変わりか。」


国王は、品定めするような鋭い目でカイルを見ている。


「はい。 この肩の痣がその証だと聞きました。」


カイルはシャツを開き、右肩にある紋章のような痣を晒す。

それを見た国王はふん、と鼻を鳴らした。


「横にいるのは……妖精か?」

「マリーザといいます。 彼女は聖なる力を持つ特別な妖精で…」

「聞かれたことにだけ答えれば良い。 口を慎め。」

「は、はい…申し訳ありません。」


なんか、嫌な感じの王様だな。

来いって言うから来たのに、歓迎されてないみたい。


「我が国カトランディアに勇者が生まれ変わる度、隣国ダハトールを治める魔王が攻めてくることを、知っているか?」

「…知っています。」


知らない訳がない。

カイルは、それを理由に親から捨てられたのだから。

カイルが勇者として覚醒したのは、8歳の誕生日。

魔法の力と右肩の痣が突然現れたのだという。

カトランディアでは勇者の肩の痣は、国を滅ぼす不吉の証として忌み嫌われている。

カイルが勇者の生まれ変わりと知った両親は、彼を貧民街に捨てて姿を消したそうだ。


国を守る存在であるはずの勇者が恐れられているのは、国王の言った通りだ。

隣国ダハトールを治める魔王ディラズーーー世界で最強と呼ばれる王が、最強の軍隊を引き連れてカトランディアを攻め入りにくるからである。

ダハトールからの攻撃により、カトランディアは何度も衰亡の危機に陥ってきた歴史がある。


「最近、ダハトールが戦争の準備をしているようだという情報が近隣諸国から入ってきた。 どうやら、お前がまた生まれていることが魔王の知るところとなったようだ。」


国王は淡々と続ける。


「正直、国としては、貴様を処刑して存在を亡き者にしたいところなのだが……勇者の生まれ変わりとやらは、殺しても殺しても生まれてくるらしい。 まるで虫けらだな。」

「………。 申し訳ありません。」


ぎり、と唇を噛む。

口の中に血の味がした。

本当は、ふざけるな、貴方にカイルの何がわかる、と叫び出したい。

カイルが親から捨てられて、どれだけ傷付いたか。

出会う全ての人に疎まれながら、どれだけ辛い思いをして生きてきたか。

何も知らないくせに、と言ってしまいたい。

だけど、私が下手なことを言えば、カイルが何をされるかわからない。

拳にぐっと力を込めて、堪える。


「その勇者の力とやらで魔王を封じることができるのであろう? 封じるなり魔王に殺されるなり、好きにするがよい。 貴様がすぐにダハトールに向かえば、カトランディアに攻め入ってくることはなかろう。」

「…はい。 では、明朝に発つこととします。 お時間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした。」

「さっさと出て行け、疫病神めが……。」


国王がカイルを見る、ゴミを見るような目を、きっと私は忘れないことだろう。




==============



「あの王様本っっっ当にむかつくーーーーーーーー!!!!!!」


家に帰るなり叫んでやった。

どうせ私は妖精だ。

普通の人には私の声は聞こえづらいし、不敬罪で裁かれることもない。


「ははは…誰かに聞こえたら大変だぞ。」

「だって!! カイルは必死に独りで生きてきたのに!! あんな、生まれてからずっと国民の税金で贅沢して生きてきたような奴に好き勝手言われて、私悔しいよ! こんな国滅べばいい!!」

「マリーザ… この国にはたくさんの国民がいるんだ。 その人たちを不幸にするわけにはいかないよ。…… でも、ありがとう。 俺のために怒ってくれて。」


カイルは優しすぎる。

こんな時でも、怒りも涙も見せずに笑っている。

私が勇者だったら、あんな国王が治める国なんか守ってやるもんかとボイコットするところなのに。

拗ねる私を宥めるように、カイルが撫でてくれる。


「でも、ひとつだけ訂正していい?」

「何?」

「俺、独りで生きてきたわけじゃないよ。 マリーザがいてくれたから。」


カイルは頭を撫でる手をゆっくり私の頬に滑らせる。


「親に捨てられて、途方に暮れていた俺と…一緒に生きてくれた。 俺に、生きたいと思わせてくれた。」


頬に触れる指は、とても優しくて、温かい。


「マリーザがいなかったら、きっと今日、陛下に処刑すると言われても、死にたくないと思えなかった。 …いや、きっと、今日まで生きてなかったよ。」


カイルは、優しく微笑んで言葉を続けた。


「ありがとうな。」

「…カイル〜!!」


涙が出る。

彼が8歳の頃から10年ほど一緒にいるが、これほどに大人になっていたとは。

これが親の気持ちなんだろうか。 


「泣くなよ〜。」

「大丈夫だからね! これからも側にいるからね〜!!」

「はは、ありがとう。」


魔王の討伐に行っても、きっと私がカイルを守ってみせる。

魔王にも、国王にも、殺させてたまるものか。

私がカイルを長生きさせて、大往生まで見守ってみせるからね!

そう心に誓い、翌日の出発に備えるのだった。




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