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 第八章 『一般的魔法少女?』

 最初にそいつの一部が吹っ飛んだとき、我慢比べに負け、満身創痍も良い所だった私は、その見た事もない挙動を新手の攻撃だと認識し、大いに狼狽したのだった。

 残った七基のCIWSを使おうと言う発想もなく、脱力して尻餅をついたまま、片手で持ったアサルトライフルを相手に向け、私が顔を上げて初めて見た物は、右腕の付け根の部分に直径80㎝程度の大穴を開け、停止している巨人の姿だった。


 「大丈夫?  随分悪い相手に当たっちゃったみたいね。 ご愁傷さま」


 声をかけられた。

 女の声だ。

 姉からはスクラントン低現実領域にはフィールドの外側からの干渉をほぼシャットダウンする効果(この効果の所為で碌に通信すらできなくなるので機構も使いあぐねているくらいだ)があると聞いていたので、まさか第三者の声を聞くとは思っていなかったのだ。

 腰を抜かしていた事も忘れた私は右腕をついて辛うじて立ち上がり、後ろを碌に確認もせずにアサルトライフルを声の出所に突き付けた。

 

 「全く……。 正常な判断なんか碌にできるような状況じゃないのはよくわかるんだけども、どちらが貴方の敵かは、一目でわかるんじゃないかな? 」


 後ろに振り返った私に暗闇からそう言うと、相手は私に銀色の縦二連ショットガンを突き付け、発砲した。

 一瞬撃たれたかと思ったが、弾丸は私の肩から抜け、巨人に追加の一撃を与えていた。

 硝煙と同時に出た光で、少しだけ相手の顔が見えた。

 相手は私と同じくらいか少し下の女子に見える。

 片目が眼帯で隠れていて、表情はあまり読み取れなかったが、特別エキセントリックな見た目はしていなかった。

 彼女が私と同じ魔法少女であろうことはよくわかった。

 スクラントン低現実領域がその効果を失っていないと仮定して、それをぶち破れるのは、私と同じ魔法少女位だと考えるのがよいだろう。

 ……一応相手がオブジェクトであると言う可能性もあるが、取り敢えずどちらにしろ敵意は無いように見える。

 相手は私の後ろに向けてもう一発ショットガンをぶち込むと、こういった。


 「結論から言わせてもらうと、私にもこいつを倒せはしない。 貴方ののようなごっつい機関銃で蜂の巣にしても無尽蔵に復活するし、もっと強い攻撃をすると、エアバッグみたいに膨らんで弾かれる」


 そう言い終わるや否や暗闇から飛んできたロケット砲弾がショットガンのダメージから立ち直ろうとしていた巨人を襲い、言葉通りの方法で弾かれた。


 「だから私達はこいつからは逃げてARC機構にでも押し付けることにしてる」


 実に賢い考えだ。

 しかし、「こいつからどうやって逃げるの?  どんなふうに動いてもしつこく追いかけてくる」

 そういう問題がまだ残っている。

 私がそう聞くと、彼女はダメ押しのもう二発を相手にぶち込み、こちらに歩み寄ってきた。

 「確かにあいつは足が速いし、あのよく分からん触手のリーチに高い索敵能力と、逃げる側からしたら兎角嫌らしい能力が満載だわ。 逆に言えば、それらのうち一つだけでも封じれば、勝ち目はなくもない」

 彼女は右腕でショットガンの片割れをリロードすると、こう聞いた。


 「貴方、最初に襲われたとき、ペンキがついた部分がない? 」


 「あっ、右腕の、肘から先、ここ」


 全身ペンキでできた奴が相手だったわけで、私は既に全身ペンキまみれになっていた。

 であるからして私の指した箇所が本当に正しいかわかりようがないのだ。

 そうだとしても撃退不可能な敵との戦闘中には些か慎重すぎるくらいに念を押すと彼女は私の手首を掴んだ。


 「結論から言うと、奴はカラーボールの色がついている相手を狙うようになっている。 そして、其れを回避するには、こうやってついた場所ごと粉々にするに限るの。 取り返しがつかないって訳じゃないから、少し我慢して」


 彼女は空いた方の手でショットガンを構えると、銃口を上にして私の右腕にそれを突きつけ、……引き金を引いた。

 私の右腕が粉微塵になるのも、彼女が巨人に向けてバズーカをぶち込んだのも、そして彼女が残った左腕を引いて、宙に舞い上がったのも、全てスローモーションに見えた。




 気がつくと、私は何処かのコンクリートの地面に横たわっていた。

 なんとなく逃げ切れたのだろうと言うことは分かったが、離陸してからここにくるまでの間の記憶がほとんど確かな形を留めておらず、何が起こったのかがさっぱりわからない。

 右腕がある。

 いつもなら特筆することすらナンセンスなこの事実が、今では決して壊れないランプのような強烈な異常性にすら思える。

 あるいはあれは夢だったのだろうか。

 125億ptにまで増えているデザートイーグルのカウンタだけが先の戦闘の痕跡である。


 「どう?  少しは落ち着いた? 」


 私の背中の方から先ほどの彼女の声がした。

 おっかなびっくり右腕を突っ張って起き上がると、私は相手の方を向いた。

 半そでのブラウスにフィッシュテールスカート。

 眼帯は着けていない。

 

 「体が、って意味なら大丈夫、ただ……」 


 「頭の方は混乱しっぱなし、って訳ね」


 「うん、……ここは何処? 」


 後ろを向くと、十万ドルとかそういう一流からは少し引いた形容をされることが多い長崎市内の夜景が見えた。

 遠くでライトアップされているARC-■■■■-jp-EXの見え方、あと体の横を吹き抜ける風の温度からして、どうやら20階はあるビルの屋上にいま私はいるようだ。


 「これ、いる? 」


 肩を叩かれたので後ろを向くと、彼女が片手に持ったカルピスウォーターの250mlペットボトルをこちらに差し出していた。

 初めて喉が渇いていることに気付いた。

 アンカーフィールド解除は肉体的疲労は取り去ってくれるが、精神的なそれはいかんともしがたいのだ。 有難くいただいておく。


 「……特に疑わず口をつけるのね」


 運動の後の水分補給の愉しさをぶち壊すかのような質問をしてきた彼女に、空になったペットボトルを返しながら私はやおら反駁した。


 「もし私を殺すつもりならそもそもあそこで助けたりしないと言う事にすら気付いていないとは流石に思われてないだろうから、貴方が対象を窮地から救ってから毒殺する事を好む異常者を想定してると言う前提で話させてもらうと、その場合あなたがカルピスを未だに飲んでない事に違和感があるのよね。 私なら相手を油断させるために自分の分を飲みながら渡すだろうし、何なら2Lペットボトルを持ってきて安全に見せかけて紙コップに仕込むわね。ちなみに私なら、にっがいのを仕込んで相手に毒の詳しい説明を聞きながら逝ってもらうけどね」


 「……」


 「引かないでよ。 今のはあくまでサブで、メインの根拠はペットボトルに一切穴が開いてなくて尚且つキャップと賞味期限が書いてるリングがしっかりつながってて何も仕込んだ気配がない事よ。 第一毒を仕込むならカルピスはないでしょ、緑茶かアイスココアにでもしなきゃ」


 「……腕がなくなってなかったからってテンション上がり過ぎじゃない? 」


 「ごめんごめん」


 私は無表情だし、会話だけ聞くとかなりサイコな感じでもあったが、テンションは体育祭前の陽キャだった事は彼女にもしっかり伝わっていたようだ。

 非日常から日常へのノーダメの着地は時として人を狂わせる。

 

「相手をためらいなく呼び捨てる程度の相手に然したる思考力は求めてなかったけど、想像以上に賢しいみたいね」


 なんとなくあいてはなかまにしていいかこちらをねぶみしているようにみえる。


 「馴れ馴れしいのは父親譲りよ。 それと、貴方、他の魔法少女が仲間にいるでしょ。 紹介しなさいよ」


 「つくづくテンションが上がった理系ほど面倒な物はないわね。 ……何処で分かったの?  確かに逃げるときに『私達』とは言ったと思うけど」


 「それにプラスさっきの呼び捨てる云々で魔法少女だと言う事を利点にしてなかった事ね。 このトチ狂った能力は、なかなかいいアドバンテージになるのが普通なのにね まぁ、流石に確証はなかったけど」  

 「気味が悪い洞察力ね」


 「どうも。 誉め言葉として受け取っておくわ。 ちなみにここは何処? 」


 喋るだけ喋り、畳みかけるだけ畳みかけて満足した私は、一応こういう時の常道もなぞっておくことにした。


 「長崎県長崎市中央区蒐集寮跡町4-3-2恋昏崎出版本社ビル屋上」


 「なるほど、なんでここに連れて来たの?  ……あっ」


 「もともと要注意団体だった会社の施設だからね。 周囲の現実性が異常に高くて、オブジェクト避けには最適。 ところで今何かに気付かなかった? 」


 「……え~と、まさかですけども、お嬢さん? 」


 「そう。 貴方の事だからカルピス持ってきた時点で気づいてたかと思ってたけど」


 「え~。 このビルの関係者だとは思い至っていたんですけれども、恥ずかしながらそれがいつの間にかすっぽり抜け落ちていまして」


 「……貴方、『Immortal』に応募してたりする?  なんとなく急に変わった態度がうちの漫研に似てる」

 

 「お恥ずかしながら」


 恋昏崎出版の代表的な事業として高等学校用異学教科書と異常組織向けの専門誌『A Normally』の発行と言うかなり色物じみた連中と共に挙げられるのが、こちらは比較的ありがちに見える、漫画雑誌『Immortal』の発行である。

 この中学、高校生向け漫画雑誌の新人賞に、神戸にいた時から私たち姉妹は『図南雛朋』のPNで何度か応募をしていて、誌上に一コマだけ載るぐらいの戦績は収めている。

 逆に言えばその程度の戦績でしかない訳で、社長令嬢が知っていて当然と言う訳では無い。

 相手が私の教えたPNに全くピンと来ていない悲劇を、私はそう心のうちで言い訳した。

 現実逃避がてら腕時計を見る。

 ……八時四十五分。

 飢餓状態の姉の映像がフラッシュバックする。

 過去同じ過ちを犯した時とは違い、父は東京に雑誌の企画で(実は私たち姉妹が漫画家を志したのも、このイラストレーターの父に感化されたからである)、教師の母は鹿児島に臨海学校の引率に行っていて、抑止力が無いのだ。

 

 「御免なさい。 ちょっと時間が」


 怒らせたらろくなことになるまい。

 「貴方ってつくづく大事なことをすぐ忘れるのね」

 

 「……お恥ずかしながら」


 私の莫迦阿呆木瓜!  

 

 「……どうやらまだ忘れてることがあるのに気づいてないみたいね」

 狼狽える私に呆れたような口調でそう言うと彼女は何かのQRコードを表示したスマートフォンを差し出した。


 「私のアカウントを登録しておいて。 後でこれ経由でグループに招待するから」


 「グループ、と言いますと」


 「結社も時代はSNSよ」


 成程。

 つまりLINE経由でほかの魔法少女を紹介してくれると言う事だろう。

 

 「じゃぁ、人を待たせているので、すいません」

 

 「人が出払ってて玄関は施錠されてるから、変身して飛び降りて帰ってね」


 魔法(MagicかEnchantかWitchcraftのどれか)が使えないと成立しない会話を最後に、私は帰路に就いた。

▷ CC BY-SA 3.0に基づく表示



SCP-1130-JP - クライム・チェイサー~太陽の色は地獄の底まで逃がさない~

by ShicolorkiNaN

http://ja.scp-wiki.net/scp-1130-jp

この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。

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