表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/50

 第七章 『太陽の色は逃さない』

 夜道の女性の一人歩きは、危険な行為の代名詞とされることが多い。

 勿論その理由は危険人物に襲われる危険を考慮しての物であり、女性が夜道を一人で歩いていたからと言って、隕石が肉薄したり、上位存在に邂逅してしまったり、即ち人間以外の意思を何らかの形で引き付けてしまうと言うからなのでは無い。

 だから今の状況は、決して私たちの時間感覚の所為ではない。

 そう心の中で言い訳した瞬間、私が陰に隠れていた路駐の軽自動車が衝撃音とともにひしゃげ、その爆心地から噴水がクライマックスを迎えるような勢いでオレンジ色のペンキが噴き出したように見えた。

 それがが全て落ち、ペンキの視界に占める割合が地面に広がるそれの担う数パーセントに落ち着くと、軽自動車の残骸の向こうに”それ”の姿がくっきりと見えた。

 いかに”それ”を簡潔に表現しようとしたとて、オレンジ色の、身長2m強の、のっぺらぼうの巨人、この三点を欠かす者はいないだろう。

 漫研の皆と遊びに行った県内でも最大級のゲーセンで見つけた『怒首領蜂大復活』で想像以上に生き残れた(私はSTGはカプコンとビデオシステム系列が専門で、トレジャーやケイブは殆どノータッチなのだ。 ようつべに挙がっている動画は、基本ふぐ刺しに洗濯機に後光とかばかりなわけで、まさか一発で二周目に行けるとは)所為で、プレイ時間が無茶苦茶延びてしまったが故、気が付けば8時。

 門限とかがないとはいえ、流石に放蕩が過ぎる。

 第一家では腹をすかせた姉が私の帰宅を待ちわびているはずである。

 と言った訳での速足での帰り道、右腕に雨に濡れた様な冷たさを感じた時にまず感じた事は、ただでさえ限界に近い心肺機能を、もっと酷使しなければいけないのだろうかと言うある種の諦めだった。

 しかし、視界の上方どこにも雨雲の灰色は無かった。

 それに気付いた私は、いったん立ち止まると、右腕を視界の方に持って行った。 体のどこかに違和感を持ってまず初めにすることは、患部の確認であろう。 

 右腕が鮮やかなオレンジに染まっているのを見た途端、背中にやわらかい鞭のようなもので打たれたかのような衝撃を感じ、脊髄反射と撃たれた勢いのまま、私は裏路地に逃げ込んだ。

 ボンネットだったところに手をついて裏路地から脱出し、形勢を安定させた私は、そのまま180°ターンした。

 両手持ちで相手に突き付けたグロック19の引き金を引き、発砲と同時にシャウト。


 『へぇぇぇぇんしぃぃん!』


 未だにこいつが如何なる存在かが全くと言っていいほどわからないのだが、その事実が、こいつが私たち魔法少女の敵であるオブジェクトである事を最も雄弁に語っている。

 私の視線の先、空を割って自由落下すら超越したような猛スピードで飛ぶ金属の塊が姿を現わした。

 魔法でエアポケットを作り、高高空に保管していたルボットの右腕だったものである。

 塊は標準的な指数関数を原点に向かって辿るような軌道で、線上にいた巨人の頭部を吹き飛ばし、最終的に私に直撃した。

 その瞬間に金属塊はスライムの様に融解し、鎖帷子とビキニアーマー(と近代歩兵装備)の合いの子な鎧に転じ、それに使われなかった大部分の金属は水風船を壁に叩き付けたような形で私の後ろの空間に広がり、形成された直径2.5m程の円盤の各部から2基の特大レシプロエンジンに、機体下部の誘導爆弾用の弾倉、あと魔法少女用の艤装には特に意味のないコクピット周りが隆起し、私は丁度F-5Uフライングパンケーキを背負った状態になった。

 さらにその状態からレシプロエンジンの付け根とエンジンナセルを結ぶ曲線と、エンジンと垂直尾翼を結ぶ線二組で囲われた部分が細い金具数本を除いて切り離され、仕上げに両脇の余った部分が等間隔で切断され、いくつかの節に分かれた鳳凰の尾のような形状になる。

 これにて変身完了。

 魔法少女の性みたいなものだが、変身バンクが長い。

 もっと某電波人間を見習うべきだと思う。

 その間私の周りは重金属が舞う危険地帯になっていたので、勿論相手からは何の攻撃もなかったが、重さ2t強の金属塊にぶちのめされた衝撃からあの時間でギリギリとは言え回復できることがもうドン引きである。

 視界の端のオレンジ色から超高速で同色の槍のような奔流が飛んでくる。

 第一波を右手の剣(刃渡り2mのくせにまさか片手剣とはね)でたたき切り、背中に背負ったフライングパンケーキの下部の切り離された区画を構え、盾とする。

 神山スレの≫1と後半4partに出てくる二人と私。

 この四人の魔法少女は皆得てして重装備である。

 ロケットランチャーにバルカン砲、ひどい奴になると艦砲や光学兵器まで搭載している訳だが、現実の人間に同じような装備をさせる事は、勿論到底不可能である。

 まず立ちふさがるのは重量の問題であるが、これはすでに解決されているのは周知の事だろう。

 しかし、私たちが等身大のまま変身している限り、嵩の問題は永遠に解決できない。

 本来ならミニガン一基が関の山だろう。

 しかし、私たち魔法少女は、これをピットで解決した。

 或はオプションと言ってもいいかもしれない。

 とにかく自分の周りに砲台をそのまま浮かべる事で、この問題を解決したのだ。

 そもそも背中に艦橋やら機体やらを物理的な接着なしで貼り付けているので、これは確かに非常に容易い事である(流石ARCオブジェクトと言うべきか、何でもありである)。

 つまりは兵器擬人化物でよく砲台が本体の両サイドに控えていたりするあれである。

 私も両脇に砲塔型ガトリング14機とレーダー設備を浮かべている。

 砲塔は完全に思考とシンクロすると言う親切仕様で動いている。

 強烈な手応えとともに構えた盾の表面でオレンジ色が弾け散る。

 流石はヴォ-ド社のいらん拘りによって、戦後解体に難儀したと伝えられるふつくしいボディ。

 一分の隙も無くガードできる。

 しかし盾だけでは攻撃はできない。

 盾を介して手にかかる圧力がブレーキを踏んだかのように弱まったのを、私は本命の得物を取り出す好機と捉えた。

 片手剣と盾を打ち合わせると、片手剣がまるでガラス製かのように砕け、元々の機械部品の集合に戻った。

 それをかき集めて一つの山にすると、見る間にその山が融けあい、一本の太い、長さ6mほどの棒のような形になる。

 そして、棒の前の方四分の三に六本の筋が刻まれ、それを起点として同数のまっすぐで細い銃身が束ねられた形になるまで余分な部分が剥離していく。

 そしてその余った金属が手元の四分の一に収束し、前方とは対照的にぶっとい円筒と機械が合わさった砲撃機構を形成する。

 約三秒で世界一有名なガトリング砲ことGAU-8”アヴェンジャー”の完成である。

 肩にかけたガンベルトを千切り取(際に本来のサイズに巨大化したのは無視)り、砲撃機構と銃身の繋ぎ目の部分を抱え込むようにして構え、銃身の根元のグリップを握ると、私はゆっくり近づいてきていた巨人の胸に銃口を突き付た。

 そして、盾の持ち手を持ったまま左手で拳銃の形を作り、巨人を撃つような仕草をすると、同時に引き金を引いた。

 全15基の機関砲を一身に受けた巨人は一瞬で粉微塵になるが、それも一瞬のこと。

 巨人の砕片は一瞬で融合して元に戻り、また砕かれる。

 そんな武装した均衡がしばし続いた。

 数分もすれば、スクラントン低現実領域の効果範囲内は、まるで隕石でも落ちたかのような有様で、アスファルトは砕け、電柱は折れ、スクラントン低現実領域の庇護が無ければ新聞に載りかねない位に破壊されつくしていた。

 そんな半径数mの更地の中央、未だその姿を留める二つの影。

 六本目のガンベルトを撃ち尽くした私は、七本目を乱暴に挿し込みながら、巨人に機関銃の銃口を向け、イラつき気味に死ねとだけ吐き捨て、引き金を引いた。

 吹飛ばされ、そのまま再生する巨人の動きには、少しばかりの鈍りが見える。

 しかしこちらもそうには変わりない。

 最初は大型のランスを構えた重騎士の様に盾と銃とをそれぞれ片手で持っていたわけだが、AH-10神を失速させたとの伝説もあるえげつない反動が魔法少女補正を貫通して(勿論補正はかかっている筈だから45kNなどと言う法外な値ではないが)右腕にかかり、一分ほど前から腕ががちがちに凝り固まって、盾の持ち手を左腕に通しての両手持ちで何とか持っているが、そろそろ持ち堪えられそうにない。

 銃撃とガード故周期的に切り替えるこの戦闘も、遂行がかなり難しくなってきている。

 体力の限界か、はたまた焼夷弾に粉砕されるその都度巨人が再生するその挙動を見慣れすぎたのか、私は今回の巨人の動きを図り損ねた。

 オレンジ色の槍が縦の上部を抉り、軌道を変じて右側の砲台たちもを貫く、誘爆に耐え切れなかった槍は自壊し、その構成要素が飛び散る。

 GAU-8が異音を立てて停止した。

 豪快な逸話の数々に気を取られがちだが、この怪物ガトリング砲とて、その実体は精密機器である。

 ペンキ塗れになっても尚動く銃は、恐らくAK-47を除いてほかにあるまい。

 先程の爆発でガトリング7基とレシプロを片方持っていかれたうえ、主兵装のアヴェンジャーも使用不可にされると言う窮地に開始早々陥るとは……。

 魔法少女舐めてたわ。

SCP-1130-JP - クライム・チェイサー~太陽の色は地獄の底まで逃がさない~

by ShicolorkiNaN

http://ja.scp-wiki.net/scp-1130-jp

この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ