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 第六章 『ARC‐TCG‐JPはAPPstoreにて好評発売中!』

※注 この小説におけるscp-tcg-jp—Jの描写は、全く現実に即していません。

 詳しく知りたいと思った方は、元サイトもしくはscp-tcg—jp—jwikiを参照してください。

 『『奈落の悪鬼、黒き翼の堕天使アイスヴァイン』は収容された際に、機構内のKetherクラスオブジェクトを陣営問わず無力化する。 猶、この無力化はレギュレーション違反扱いにはならない』


 裁定が表示されたテロップが消えた後映し出された戦況を見る限り、かなり追い詰められた状態での乾坤一擲の一手は、あまり効いていない様に見えた。

 対戦相手のサイトでは開始時点からの繋ぎを担っていた『にくにくしきもの』以下数個のKetherクラスオブジェクトが光の粒子となって四散したが、主力である東弊重工系オブジェクトは、一切が原形をとどめている。

 前列から順に『TH-G』(特筆すべき能力はないが保護力が異常に高く、30もある。 流石ガンダム)、『繁栄の街灯』(クロステストの効果を本来の相手とは別のオブジェクト1つにも付与できる。 緋色の鳥並みの効果だが使いどころが難しい)、『小型煮沸浄化槽』(生物系、食物系オブジェクト一つのスキルを一回だけ無効化できる。 使用済みなのでどうだっていい)、『東弊戦艦 大秋津州』(高確保力、二回行動で火力がえぐい)、『カラオケBOXES』(ヒーラー。 一刻も早く潰さなければいけない)、『和魂祭』(同上。 一刻も早く潰さなければならない)、『すべてが鉄になる』(デバフを一回無効化し、同時に『石油喰らい』を収容できる)と、かなり玄人向けのオブジェクトばかりだが、相手が素人とは言えない上に、人事カードが東弊重工系オブジェクトとの相性が抜群な凍霧陽なのでかなり警戒する必要はあるだろう。

 タブレット端末から顔を上げると、目の前の対戦相手がにやりとこちらに笑いかけて来ていた。

 相手が耳を指さしながら何か言っているのを見て、私は自分の耳から勢いよくBluetoothイヤホンを引き抜いた。

 延々とループさせていた『megalomania』の代わりに彼の言葉が音声として耳に這入ってくる。


 「図南さん。 初心者にしては中々健闘してると思うけど、流石に詰めが甘いね。 少し畳みかけさせてもらうよ」


 ここ数ヶ月では初めて聞く随分と嫌味な口調を含めて、惚れた弱みを抜きにしても中々絵になっている。 魔法のアイテムを授けられた翌日の放課後3時、中心街へ遊びに行く予定の漫研の面々が部誌関連の諸作業を終わらせるまで特に用事の無い私は、自身と同じく暇を持て余しているダチとARC-TCG-JPで遊ぶことにしたのだ。

 これは車胤雪君の発案であったが、それが私には福音に聞こえた。

 丁度雛に勧められて嵌り始めていたARC-TCG-JP、これがまさか愛しの雪君との共通の話題になるとは。

事実は小説よりも塞翁が馬なり。

 十数年前の都心機能分配政策に時を同うして進行し、一般的なタブレットが生徒全員に支給される制度として結実した中学、高校の電子化に、私は大いに感謝したい。

 2年に進級し、長崎に転校して来てから1年間積み上げてきた人間関係が9割リセットされた春、2年5組の教室に入った私が目の当たりにしたこの男は、容姿端麗文武両道眉目秀麗完璧超人と、高校生の社会におけるありとあらゆる評価基準を満たした御人である。

 こいつに私が一目惚れしてしまった事も、然程責められるべき事ではないだろう。

 第一同じような形で彼に惚れた女は、架空と判明したのを含めて数え切れないほどいるらしい。

 私が幸福に浸っている間に、車胤君のターンは終わっていた。

 私のサイトの最前列をカバーしていた『DATA食う寿司もムキムキ』(敵オブジェクト全ての好きなクリアランスを選択して半減させる事が出来る。

 初心者には強い)と『緋色の鳥(税別118円)』(緋色の鳥の下位互換だが、扱いやすい)が跡形もなく消えていて、セキュリティクリアランス(このゲームの根幹をなす数値。 これが17を超すと負けてしまう)が3上り、11になっている。

 『食糧危機の救世主』(Decommissionされた際に敵サイト全体に8のダメージを与える。 壁に最適)が頑張ってくれているので立て直しはできなくもなさそうだが、ダメージを受けた事には違いあるまい。 車胤君のサイトにも変化があった。

 先程のオブジェクトに加え、新顔が幅を利かせている。

 『モノづくり集団』、オブジェクトクラスはKether、確保力5、保護力2。

 これだけ見るとかなり弱く見える(Ketherクラスにもなると確保力は平均7、保護力は12くらいある)が、驚くべきはそのスキル。

 『1ターンごとに自身の複製を1体収容する。 複製にもこのスキルは継承される』。

 ARC-TCG-jpのルールを知らなくても一目でヤバいと解るこのスキル。

 5ターン位放っておくと収容者がセキュリティクリアランスの問題で自滅するこのカードは、アニメ版でも東弊重工のキャラクターの切り札として登場し、高い知名度を持つ。

 対処法は手数の多いオブジェクトで早期に叩くか、スキルをやりくりして5ターン凌ぐかのみ。

 サンドボックスには全体攻撃カードは無く、範囲攻撃持ちのフライドチキンはDecommissionされた。 窮地に陥った。

 場の状況を完全に理解して固まる私の隣で、試合を観戦していた林歌ちゃんが上半身を大きく動かし、その勢いのまま左腕を机に叩き付けて呻いた。


 「い、今のがクライマックスだよね!  暇!  消化試合なんか見てられない! 」


 四方林歌ちゃんは、車胤君の幼馴染らしい。

 先程の経緯で一目惚れした直後に、車胤君(一年の時にクラスが同じだった女子に名前は教わっていた)に馴れ馴れしく擦り寄るアマを目の当たりにした衝撃、それが彼女ではなく唯の幼馴染だと知った安堵、少し落ち着いてからそれはそれでヤバい事に気付いた衝撃は、それまでの人生では経験したことのないものだった。

 四方林歌は、見た目にしろ性格にしろ、私とは正反対になるように設計されたような人間である。

 薄い茶髪のショートカットをシャギーにしていて、肌は白く、顔のパーツは黄金比の類の一切が成立している様にすら見える逸品で、うちのかたっ苦しい制服も綺麗に着こなしている。

 車胤雪君の隣に立っていると、さも少女漫画の表紙の様である。

 しかし、現実に存在し且つミーム汚染などが介在していない関係上、彼女に何かしらの弱点が存在する事は、まぁ想像できるだろう。

 性格。

 ベタであるが、四方林歌はここに問題がある。

 傍若無人天真爛漫我儘元気享楽的。

 親しく付き合ってみると案外可愛いものだが、その子供っぽい言動は、傍から見ていると、何故車胤君が涼しい顔をして付き合えている理由を邪推してしまいかねないほど(過去には、政略的許嫁説、生き別れの兄妹説、過去の過ち説など、失礼千万な説が提唱された事も多々ある)である。

 そのこの世でもトップクラスに面倒くさいタイプの稚気に上乗せして、彼女は同じくらい面倒くさいオタク属性(彼女の場合はミステリマニア)まで付加されている。

 先述したような類稀なる美貌をもってしても、男子人気が恐ろしく低いのは、それが主な理由である。 

 林歌ちゃんはかなり大袈裟にヘッドバンキングを何回かすると、机の天板に腕を上げたまま上半身を叩き付けた。


 「暇~、暇~、HIMA!  もっとこう派手なエフェクトとかないの?  カードのダメージが肉体に及んだりとかしないの、これ? 」


 「林歌、そんな事ある訳ないだろ、遊戯王じゃあるまいし」


 「……一人のデュエリストとして言わせてもらうけど、別に遊戯王でもそんな異常現象は起きないよ。」


 そう言った私に向かって苦笑してみた(やばい、嬉しい、かっこいい)後、車胤君は林歌ちゃんの突っ伏した上半身の下に両腕を差し込むと、思いっきり突き上げた。

 勢いのついた上半身が跳ね上げられ、今度は背もたれだけに体を預けた格好で彼女は静止した。

 完全に上を向いている頭を直そうともせずに暇暇言っている彼女には流石に手を焼いたのか、車胤君はタブレットを机に置くと、肩を竦めて提案をした。


 「じゃぁ『お話』でもするかな。 お前の好きな都市伝説の話とかな」


 「……私って、都市伝説、好きだったっけ」


 「なんで素で分かってない感じなんだよ。 前『流行り神』に嵌ってるて話の時に言ってたろ? 『『真・流行り神』はやめとけ』って言った記憶があるから、確かだぞ」


 「う~。 もう何でもいいや、話して」


 机の下から、パタリと音がした。

 見ると林歌ちゃんのタブレットが床に落ちている。

 手を伸ばして拾ってあげたが、タブレットの端で突いてみても、当の本人はそれにも気づかないような様子で脱力している。

 どこぞの絶滅危惧種のサキュバスでもあるまいし、唯退屈なだけにしてはダメージが大きすぎではないか。

 

 「……林歌、生きてるか? 」


 「早く話してよぉ、名前は何?  出所は?  概要は?  アピールポイントは? 」


 「順に、無し、2ch、夢を叶えてくれるアイテム、世の中は甘くない、てな感じ」


 随分と香ばしいワードが並んだものだ、……ん? 

 

 「夢を叶えるって、それ」


 「あ、図南さんって、そういうのが好きなクチ?  まぁ、うちのクラスの女子が噂してたの聞いたし、知ってるのも無理なからぬことだね。 そう、あれ、神山スレ」


 まさかすでに長崎にまで伝わっていたとは。


 「神山スレとは、またひねりの無い有名どころね」


 林歌ちゃんは起動するフランケンシュタインの怪物のようなゆっくりした動きで起き上がり、いきなり文句を言った。


 「はっきり言って話のタネにできるようなインパクトのある二次情報なんか、大抵有名どころだろ。 贅沢言うな」


 「後、名前なしって何よ。 『神山スレ』てのは何よ」


 「それはスレの名前だ。 真面目な話、5ch発祥のフォークロアで名前があるもんつったら、『ひとりかくれんぼ』に『くねくね』、あとは『きさらぎ駅』位だろ。 ……『お つ か れ』は違うな」


 「えっと、細かい話はやめにして、その、『神山スレ』の話をしない?  別に名前云々は今は関係ないでしょ? 」


 林歌ちゃんの機嫌が加速度的に悪くなっているのを見て、私は急いで車胤君を止めた。

 林歌ちゃんの幼児性は怒らせたときに最も派手に爆発する。


 「まぁ、それもそうだね。 僕らは勝手に喋っておくから 林歌、『神山スレ』についてどれくらい知ってる? 」


 「どっかのNAVERまとめで見ただけだから、あらすじ程度かしら」


 矢盗さんから、そのある魔法少女の体験談の存在を聞いた私は、魔法少女として生きていくにあたり、まず先人の体験に学ばせてもらおうと思ったのだ。

 『神山スレ』は延べ三回ほど全文を読んだ。


 「スレ主は、本人曰く山口の高校一年生。

 『ネットで出会った相手からもらった物の扱い方について質問させていただきたいのですが』。 これがスレに最初に投下された文だ」


 それから状況説明に釣りを疑う住民の発言が合わせた流れが1.5スレくらい続いた。

 

 「彼女はネットで見たあるアカウントにDMを送り、魔法少女となったらしい」


 オブジェクトは恐らくARC-062-jp、『生存権』。

 彼女はそれに気付いていなかったが、変身アイテムに関する証言の際に、オカルト坂常駐民の一人の冗談交じりの発言から、彼女はそれに気付いた。


 「彼女は、研究員のような女性から魔法を授けられたらしい。 その人によれば、魔法少女は彼女以外10人程度いるそうな」


 ここら辺から常駐民がノリに乗ってきて、彼女が受けた様々な説明を開陳するのに障害はなくなっていた。  説明に2スレほど費やされる。

 

 「このスレ群では、それこそ小説が何本か書けそうな程多くの情報が公開されている。 はっきり言って読めばわかる物をここで長々喋る意味もないから、僕が面白いと思った所だけ掻い摘んで紹介してみる。 それは彼女が襲撃を受けた話だ」


 常駐民さんに質問すると言うの体のスレだったのが、常駐民さんが質問するスレになって暫くしたころ、『なんか命の危機とかなかったですか?(このスレでは『モンハンの疑問を強引に解決するスレ』と同様に敬語で話すことが義務付けられていた)』との質問が成された。

 この頃になると、恐らく釣りではないだろう(或は釣りだとしても面白いので良し)と言った考えがスタンダードになり、中々気の利いた質問が増えてきていた。


 「彼女の話によれば、アイテムを受け取ってから三週間ほど後に、友人から遊びに行かんと言うお誘いがあったんだな。 でもって、いざ映画に行ったその帰り道、その友人の言動に違和を感じたらしいんだよな」


 個人情報だと言う事でその違和が何なのかは明かされていないが、どうも文脈から察するにそれはかなり重大な違和であったようで、彼女は思い切り友人を問い詰めた。

 相手が言い訳を諦めた数瞬後には、彼女は赤い爆風に巻き込まれて宙を舞っていた。


 「その友人が突然爆発したんだな。 それも体のどこかが吹っ飛んだんじゃなくて全体が、一気にボン! 」


 幸いにもその瞬間にアイテムが暴発し、変身していた為に取り返しのつかない事態は避けられた物の、彼女の苦難はまだ終わっていなかった。


 「『起き上がったら視界の真ん中に体高2mくらいのダマグモの様な生物がいた。 そいつの体表は人間そっくりの色をしていて、ところどころから血の様な赤い液体さえ垂れていた』。 淡々とした文章から、彼女の困惑が偲ばれるね」


 その蜘蛛は途端に彼女に襲い掛かったが、彼女が抵抗し、足の数本が没収される(原文ママ)に至って、そいつは百数キロの唯の肉塊になって活動を停止し、命拾いした彼女はそのまま逃げ帰った。


 「翌日登校したら、件の友人はピンピンしていて、昨日の事は全く覚えてなかったそうな」


 「……出来のよろしくない怪談みたいなオチだね」


 「暇つぶしにはちょうどいい位の軽さだよ。 大体、ぞっとしないかい?  日常に潜む非日常ってやつ」


 「ありきたり過ぎ」


 ガラリ。

 幼馴染同士の熟年夫婦じみた言い合いをパスカットするように、乱入者が教室に入って来た。

 

 「君達か。 随分と楽しそうだけど、もうそろそろ時間よ? 」


 「やぁ、枕木先生。 お言葉ですが、まだ四時にもなってませんよ」


 「待ち合わせとかの正当な理由が無かったら、十分遅い時間よ?  貴方たちのゲームも、佳境は過ぎたみたいだし、とっとと帰りなさい」


 ボブカットに黒縁眼鏡と、恐らく昭和中期からの女性教師のテンプレを忠実に治っている二十代後半の担任教師は、タブレット画面を車胤君の背後から覗き込みながらそう言った。


 「まぁ、家に帰っても暇なだけですが、それ以上のデメリットと言う物も確かに存在しないので、茶々っと終わらせて、帰らせて頂きますわ。 べしゃりに夢中になって、相当待たせちゃったね、ごめんね図南さん。 ……えっ」


 車胤君は口を際限なく動かしながらタブレットをのぞき込み、途端に停止した。


 「何、この、……えっ、ミヨコ戦法! ? 」


 ミヨコ戦法。

 これは、オブジェクト『期待のニュー・フェース』の『属性『人型実体』を持つオブジェクトを一体指定し、機構内のすべてのオブジェクトをそれに置換する』(要約)と言う、一目見ただけでヤバいとわかるスキルと共に広くその名を轟かすある戦法の事である。

 その方法は非常に判りやすい。

 先述のスキルを発動し、強オブジェクトを指定するだけで悪魔の陣形が完成するのだ。

 バッドスキル強制発動と言うデメリットこそある物の、戦闘力の高さに加え、この分かりやすさ、更に『期待のニュー・フェース』自体はEucleidesクラスであり、割と扱いやすい事、更にアニメ版に登場し、行為者の販売員ミヨコの造形の(具体的には言わないでおくが)ガチさ、更にさらにその後のギャグ回で三枚目がこのオブジェクトを使い、そもそも『認識災害系オブジェクトの報告書記述例』を併用しないと一体出しただけで即死する『縮小する時空間異常』10体を収容しセキュリティクリアランス220をたたき出すと言う伝説のシーン(『そこで死ぬか〜』の元ネタがこれである)まで重なった結果、ニコニコ大百科などに記事があるクラスの知名度を得ている。

 件の記事を読んでみればわかるだろうが、ミヨコ戦法が使えるオブジェクトは、何も『期待のニュー・フェース』だけではない。

 とは言えその殆どは魅せプレイにすら使いづらく、ほとんど使われる事は無い。

 数少ない例外が『ぬか「おいしかった」漬け』。

 『期待の(ry』の食物版である。

 しかしこいつにも明確な弱点がある。

 そもそも食物系オブジェクトの殆どがスキルに重点が置かれ、バッドスキル強制発動との相性があまりにも悪いのだ。

 であるからして、スキル度外視のオブジェクトならば、その実力を存分に発揮してくれるであろう。

 食物系にも、火力特化型オブジェクトは少ないながらある。

 その代表格は『アンチマヨネーゼ! 』であるが、こいつは私の人事カード『虎屋外郎』と尋常じゃないほど相性が悪い(やはり揚げ物にマヨは不可欠と言う事だろうか)。

 だからやり手の車胤君ですら何の対策も施していなかったのだ。


 「『アンチマヨネーゼ! 』ではデバフが……、くそ!  普通終盤にそれ使うか? 」


 ARC-389—jp『WARSHIPS』。

 本来は序盤にパートナー用として収容されることに優れたstableクラスオブジェクトである。

 確保力が一撃なら木製宇宙戦艦に匹敵するほど高く、保護力は15。

 保護力が5削れるごとに確保力が減少すると言うバッドスキルがあり継戦能力が低いのが弱点。

 私は車胤君が余裕かましてたターンでやっすいオブジェクトを大量に収容し、それを全て『WARSHIPS』に置換したのだ。

 凄まじい魚介類の嵐を受けて、車胤君のサイトは半壊した。

 車胤君は放心状態でDeus ex machinaを起動し、ゲーム(と世界)は終わった。

 やーいやーい負けてやんのと林歌ちゃんが爆笑しながら茶々を入れる。

 

 「初心者?  ねぇ、図南さん本当にこれ初心者? 」


 これに関しては確かに初心者だが、遊戯王を十年ほどやっているのでTCGは初心者ではない。

 偉そうに教えてやろうかと思ったが、狼狽する車胤君が想像以上に可愛かったので、それに免じて写真一枚で許してやる。

 

 「図南さんと言えば……、合宿の話、決まった? 」 


 「ああ、先生、それ姉にも許可取って来たんで大丈夫ですよ。 8万円、よろしくお願いしますね」


 私は先日、枕木先生から彼女が顧問の一人を務める(昔筋生理学をやっていたことが買われたらしい)野球部の来年の部勧誘ポスターの発注を受けていた。

 私と姉は二人で漫画を描いていて、コンテストでいい感じの賞を取ったりしているし、某有名サークルで割と正式な絵の仕事をしていたりもする(今はそっちがメイン)。

 本来この系統の依頼は技術の安売りになるので受けたくないのだが、枕木先生が私を絵が上手い生徒ではなく本職の絵師として見て、報酬まで約束してくれたところが気に入ったので、絵だけ(ネタツイも割とするが)で50万フォロワー稼いだその実力を存分に発揮しようと言う気になったのである。

 気が付けば約束の時間間近だ。


 「じゃぁ皆、さようなら~」


 私はタブレット端末をリュックに仕舞い、そのまま教室から出た。

 背後で枕木先生は静かに、林歌ちゃんは車胤君いじりの合間に、車胤君はいつも通りのイケボで、それぞれ別れを惜しんでいた。

 思えば私って結構青春してるよな。

 そう思いながら私は後ろ手で扉を閉めた。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-TCG-jp-J

by AliceHershey

http://scp-jp.wikidot.com/scp-tcg-jp-j

この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。

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