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 第五章 『ファイル共有』


 「え~と。 朋の持ってるその銃は、やっぱりこの、ARC-3822-jp『武器よさらば』だよね。 発動した後の効果は、私としては、寧ろARC-168—jpの方の『武器よさらば』に見えるけどね」


 午後5時。

 ルボットを打倒し、機構の機動部隊から何とか逃れた後、自分の身に起こった事がさっぱり理解できないまま、私は矢盗さんと一緒に自分の家に帰った。

 目敏い事に定評がある姉、図南雛に私の顔に浮かぶ同様と困惑が気付かれない訳もなく、そのうえ私の周りでこの手の面妖な事に詳しいのが誰かと言うと、このどうしようもない数寄者以外にはいないと考えられないが故に、私たちは縺れ込むように雛に相談する運びとなった。


 「後、矢盗さんが見たって言うその女の人が使っていた機械はほぼ間違いなくARC-914『歯車仕掛け』だろうね。 成程、機構のサイトに書いてあったARC—014—jp—3の出自と言うのは、恐らく私の考えで間違いないだろうね」


 私は敢えて『姉』呼ばわりすることが多いが、実際の図南姉妹の年齢差は約30分、つまり図南朋と図南雛は一卵性の双子なのである。

 今の様に寺生まれのTさんが気弾をチャージしている絵柄のTシャツにデニムのハーフパンツの図南雛と堅苦しくて可愛げのない事に定評がある西部高校の制服の図南朋が向かい合っていても流石に見分けがつかないと言う事は無いが、全く同じ服装(中学の文化祭で髪型から何から全部同じにしたときとか)をしていたらば、まず区別がつく事は無い。 しかし、私達の周囲の皆に曰く、それを実感させられる事は非常に少ないらしい。

 確かに体つきや顔のパーツは勿論全くの合同形で、強いて言うなら姉ちゃんの右目の下にだけ泣きぼくろがある位の違いで、それを込みにしても私と雛は、全く別々の存在に見えるらしい。

 中学の頃、クラスの中にそいつ本人を含めた全員に『性格が悪い』と認識されていた女がいた。

 別に皆から嫌われていたと言う訳でも無かった彼女がそう言われていた理由は、彼女のその物言いに収束していた。

 彼女は人の性格や内面を不必要に正確に形容してしまう人間だったのだ。

 私達もその舌鋒に曝される機会があって、それによれば、図南朋は思案の人、図南雛は勉学の人、らしかった。

 姉ちゃんが勉学の人であると言うことは、間違いなく正しいと言えるだろう。

 昔から本の虫そのものの生活を送り、小6でファウストを引用して友達を失くし、中二の生徒会長選挙でホップズの『リヴァイアサン』を引用した演説をして支持者を失い、高一になって学校が別々になってもあちらで色々と暴れているらしいこの姉は、やはりそう呼んで差し支えないだろう。

 私は組んでいた足を崩すと、回転椅子を足だけで姉ちゃんの方に寄せると、体を大きく前傾させ、上目遣いで姉ちゃんの目元を覗き込んだ。

 大部屋に縦幅より少し短い壁二枚で仕切った(姉ちゃんは爬虫類の心臓などと表現しているが……、センスを疑う)図南姉妹の部屋、その中央の談話室扱いの区画に姉妹はそれぞれの自前の椅子を並べ、矢盗さんはにらみ合っている同じ顔二つを奥の三人用ソファに腰掛けながら眺めている。


 「朋」


 私は手の中の拳銃を転がしながら考える。

 昔から以心伝心で通して来て、最近になって姉ちゃんの行動が読めなくなって来た事を、私は非常に不安に思っている。

 

 「朋」


 姉ちゃんが真摯そのものの目でこちらを見ている。

 彼女も私と同じ思いなのだろうか。


 「自分の世界に入るのもいいけど、ちゃんと人の話は聞いてよね。 私は優しいから、お望みならもう一度話してあげてもいいけど、どこから聞いてなかった? 」



 「何を言うの!  姉ちゃんに私の何が判るのよ! 」


 図星を突かれた私は動転した声のまま反論する。


 「図南朋。 生年月日2002年7月23日。 長崎県立西部高等学校2年4組出席番号16番。 血液型はRh+AB。 得意教科は理科系と数学。 苦手教科は世界史と呪術基礎。 部活動は漫研。 将来の夢は漫画家。 共同でやってるtwitterのフォロワー数は104673人。 好みの男性のタイプは■■■■。 初恋の人は[削除済]。 好きなジャンルは[編集済]。 現在、クラスの[検閲済]中……」


 「……ARC—014—jpの場合分けの所から、です」


 うん、自分の事を全て知ってる奴には喧嘩売るもんじゃないわ。

 てか、中学の知り合いの前で恥をかいたのをリカバリーしようとしただけなのに、反撃するか、普通。

  

 「ARC—014—jp—1,2の所ね。 ……結構最初じゃん。 それだから臥竜さんにも、思案の人だとか、則ち殆しとか言われるのよ」


 姉ちゃんはサイドテーブルに置かれたノートパソコンをスクロールさせると、サイトの一番上に貼り付けられていた画像をダブルクリックした。

 そうして拡大された画像を示しながら、姉ちゃんは解説を始めた。


 「ARC—014—jp—2が、魔法少女本体の事だって言うのは、この早見表を見れば簡単に判ると思う。  

 「今槍玉に挙がってるのはARC—014—jp-1、つまり変身アイテムの事ね。

 「こいつらは今まで確認されている6例では、すべてが既存のARCオブジェクトに酷使した形状、性質を有しているわ。

 「例えばARC—014—jp—2—13は、一時的に機構の手に渡っていた時の解析によれば、ARC-062-jpそっくりの異常性を有していたらしいわ。

 「この解析の所為で、オブジェクトクラスはEucleidesからKetherへ格上げされたわ。

 「そう、これがこいつの危険性。

 「即ちNeutralizedクラスオブジェクトやExplainedクラスオブジェクト、プロトコル・アイドルによって無力化されたオブジェクトが、かつての危険性をその身に宿して顕現する可能性を秘めている事。

 「魔法少女に変身できることに対して、機構は特に何も思う所が無いみたいね。

 「まぁ、それが本当かは、判らないんだけどね

 「さて、朋が持ってるオブジェクトはさっき言ったみたいに―—聞いてなかったろうけど——ARC—3822—jp『武器よさらば』。

 「オブジェクトクラスはEucleides。

 「現物はしっかり収容されてるけど、こいつの影響した物品が世界中に散らばっているから、中程度の収容難度を意味するEucleidesクラスが付与されているのね。

 「こいつの異常性は、その銃声を聞いた人間の殺意や破壊衝動を、芸術的衝動に挿げ替えると言う物。

 「ただ、殺意とか破壊衝動は、作り終わったら増幅されて戻ってくるけどね。

 「さっき世界中に影響が出たって言ったと思うけど、これは表向きの性質に騙された男がバンバカ撃ちまくったからなの。

 「異常性の話はここまでにしておいて、私が注目したのはその見た目の方ね

 「ARC-3822-jpは、MP3プレーヤーを組み込んだイスラエル製拳銃、グロック19なの。

 「MP3プレーヤーとしてもちゃんと使う事が出来て、特にその中の[編集済]を再生する(なんでこれしきの情報を隠匿するんだろう? )を再生した状態で引き金を引くと、本来火砲機能が無いにも拘らず、発砲する事が出来る。

 「それに比べて貴方のは、ipod touch。

 「さっきのARC-062-jpも、電波塔からtwitterアカウントに変わってたわ。「これが何を意味するか分かる? 」


 「いや、さっぱり」


 「ARC-001-jp ARCAI.Shinsyuの提言『叙情詩』。 オブジェクトの性質、異常性を享楽主義的に作り変えてしまう異常性。 恐らくこいつの影響をもろに受けたんだと思う」


 「と言うと? 」


 突然001提言の話が出て来た。

 『叙情詩』は呪術から魔法から様々な技術を悪魔合体して作った闇鍋として異学基礎の教科書の巻頭に載っていたのでよく知っているが、それとこれとが何の関係があるのだと言うのだろう。


 「たぶん朋も知ってると思うけど元々この世に存在するオブジェクトと言う物は、その悉くが001提言の影響を受けている。

 「つまり既存のオブジェクトとは違う形の改変を享けた物が存在するとなると、それは001提言を別の形で受ける事となったと言う意味になるわね。

 「001提言、特に『叙情詩』なんかはかなり恣意的なもので、時が違えば、その作用も変わってくる。

 「でも、その影響を受ける物品は、この世界には基本的に一つずつ、現象系なら一族とでも言えば良いのかな、とにかく1しかない。

 「それでもここに別の形で001提言を受けた奴がいる。

 「となると、その起源は、ここでは無い、異世界に求めるべきだと思う」


 「……異世界? 」


 「そう、異世界。 ARC-251—jp然り、ARC-1972—jp然り、私たちは多くの異世界を確認している。 これを見て」


 雛はノートパソコンの画面をこちらに向けたまま、自分はノールックでARC—014—jpのページを離れ、別のタブを開いた。

 写真が表示される。

 コンクリートの地面の上に、金属製の巨人が倒れ伏している。

 お察しの通り、ARC—1370を写した写真である。

 

 「『困らせルボット』とか言ったっけ、私が戦ったあいつの写真だね」


 「厳密には違う。 これはARC-1730『サイト―13に何が起こったのか』で、”異世界から転移してきた”機構の施設で確認されたARC-1370に酷似した実体の写真よ」


 成程、そこまで言われれば、手元の銃が異世界から来たものだと言う事も、まぁ納得できない事ではない。 しかし、これですべての問題が解決した訳では無い。


 「じゃぁ、なんで、それで魔法少女に変身できるようになるの?  元ネタには一切そういう性質はない訳でしょ? 」


 「それについては、はっきり言って今の私に言える事は、知るか、の一言に尽きるね。 ただ、矢盗さんが貰ったルール、あれから何か読み取れるかもしれない」


 確かにルールは現時点で殆ど唯一の魔法関連の情報である。

 

 「1、それぞれの魔法少女は、各々遠距離、近距離の武器を持つ、変身アイテムから微調整が出来る。 2、魔法少女は変身時にスクラントン低現実領域を展開する。 これに依り、発動中の一切の物理的ダメージを解除時に無効化できる。 解除時に領域の外にいた場合、無効化はされない。 3、異常性を持つ存在(変身アイテムからアナウンスされる相手)を攻撃する事によって、ポイントを得る事が出来る。 一万ポイント溜める事で、願いを叶える権利が与えられる」


 私は戦闘前に刻み込んだルールを暗唱した。


 「自分で言っててなんだけども、私には何も読み取れない」


 姉ちゃんにも判らないのなら、私には無理だろう。

 思案の人の名前通り、考える事、理解することに関しては少しばかり自信があるが、教養に関しては、私は(世界史とサブカルの話以外では)姉ちゃんの足元にも及ばないだろう。


 「朋、矢盗さん。 ちょっと気分転換代わりに、魔法のデモンストレーションでもしてみない?  うちの中庭なら、人に見られる心配も多分ないし」


 「うぃ」


 それぞれ短文と頷首で肯定を示した私達を見た雛はノートパソコンをスリープさせて立ち上がり、少し伸びをした。

 私は手元の拳銃のタッチパネルを弄った。

 姉ちゃんには言っていなかったが、変身用の曲として設定されていたのは、GLaDOSたんの『still alive』である。 

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