エピローグの二 『ボクらと契約して絶対的歌姫になってよ!』
「……」
「……」
「……どうでしたか?」
スタジオを満たしていたあるボカロ曲のアウトロが空中に溶け消え、場は沈黙に包まれた。
「何か……、ダメなところでも……」
会津さんが不安そうに言った。
「なんでそんな褒められたことがない感じのリアクションができるんだ……」
「仮に事実そうだった場合彼女の才能が完全に見逃されていたという事実はある意味で驚嘆に値するね」
私たちが褒める意味で言葉を話しているのを聞いて、彼女は笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
「歌い手さんを招聘したいというのは常々願っていたことだが、このクオリティは恐ろしく期待を超えてきたな」
「全くね、それに、そもそも人間に歌われることを想定しないような曲でこのクオリティなんだからね」
そして私たち二人の頭の中に全く同じアイデアが舞い降りてきた。
「私達、あの舞台で3曲やるじゃん」
あの舞台に御呼ばれしている天帝のはしたなきPは、ファーストアルバム『僕らの二十則』所収の『学園堂の殺人~reach to one~』原曲(地上波初披露)と一夜限りのコラボとしてアイドルグループ『18—bit』の新曲『shootin' star』のアレンジを披露することになっている。
そしてさらにもう一曲披露することになっているのだが、こちらは局側からの指定はなく、おそらくゲーム音楽のアレンジを想定しているだろうが、何をやってもいいことになっている。
私たちはもともとそこで『Daddy Mulk』を演奏する計画を立てていたのだが、ここで計画変更だ。
「ヴォーカル版『妖怪ディスコ』を、やるぞ」
「ああ。 三味線ちゃんも無駄にならなくていい」
菰公は傍らのエレキ三味線をネックで持ち上げて言った。
先日馴染みの楽器屋でレンタルした高級品だ。
「まずあれを人が歌うように編曲しなきゃな」
ヴォーカルとはいっても、歴史上初音ミクとGUMIにしか歌われたことのない曲だ。
彼女の超絶歌唱力なら割とどうにかなってもおかしくはないが、そんなことをするのはアレンジャーの名に悖るという物だ。
「取り敢えずこの曲を聞いてくれないか」
私は彼女のスマホで『妖怪ディスコ まもる君』で検索した結果を見せた。
「歌詞を意識して。 基本的にそこはいじらない」
そして二人してどたばた動き周り始めた私達を見て困惑する会津さんに私はそう指示した。
相手が『わかった』の意を示したのを見て私は振り返り、財布から取り出した局の人の名刺の番号をコールした。
「真取さんですか? はい、天帝のはしたなきPです。 ちょっと新メンバーが入りましたんで……。 はい、三曲目だけ変わることになります。 はい、ありがとうございます。 ご迷惑をおかけします」
私は了解をとった。
「残り二週間でレコーディングまで終わらせるからな」
「分かった。 耳コピとアレンジを三日で終わらせてやる」
頼もしい限りである。




