エピローグの一 『きらめく魔法少女♡』
私に付き添われて枕木先生がARC機構に出頭してから二日後、ARC-014-jp関連のプロトコルにまたも大幅な改編がなされたとのことで、今後の身の振り方に関しての会合が開かれることとなった。
場所は市内の高級住宅街のど真ん中にある白亜の偽洋館、白鳥邸の食堂である。
12人掛けぐらいのテーブルの真ん中部分の下座側に私たちと花鏡さんが、向かい側に残り三人が座っている。
「君たちの持っていた教本はこの世界には存在しない物だった。 あの中に書かれていた異常言語は完全に未知の物であり、それはARC-4999-jpやARC-014-jpに使用されていたものと全く同じものだった。 これにより大幅に先の二つのオブジェクトの研究が進行した。 これには感謝する。 ちなみにその本には出版元としての恋昏崎出版と製作者としての夢見テクノロジーの名前があったが、我々の調査では少なくともこの世界の彼らの関与は確認できなかった」
小野寺さんは重々しく言った。
「さて、本日の本題。 ARC機構はARC—014-jpに関して、『プロトコル・アイドル』を実行することを計画している」
小野寺さんが口調を変えずによくわからんことを言った。
「どういう事?」
「うむ。 君は今自分の正式名称が言えるか?」
「……?」
「ARC-014-jp—1—……32だっけ?」
横で画面を見ていた姉ちゃんが口を挟んできた。
「そうだ。 今から君たちはこの味気ない名前を捨てることになる」
「……?」
「『カミ』の祀り上げのプロセスはご存じか? 我々の収容するオブジェクトの一つに、ARC-835-jp、『消照闇子』という者がある。 こちらは知っているだろう」
知っている。
「最近中高生の間で人気が爆発しつつあるバーチャルアイドルの名前ですよね? それが」
「あれはもともと『ゼノフォビア』と名付けられていたオブジェクトで、我々超常組織の成員を攻撃する神出鬼没の黒い影のような存在だった。 それがプロトコル・アイドル適応によって、今のような可愛らしいキャピキャピのアイドルになったのだよ」
……消照闇子はダウナー系のアイドルだぞ。
しかし、アイドルの知識こそなさそうだが、異常性に関して彼女は間違いなく専門家であるから、おそらく事実なのだろう。
「萌えに走ったキャラ付けをして相手の異常性を変質させる事ですよね?」
「正解。 だが君たちには萌えキャラではなく、変身ヒロインになって貰うことになる」
「はい?」
私と違ってプリキュアとか見なさそうな彼女が突然真面目な顔でこんなことを言ったわけだ。
私の気持ちも比較的簡単に想像できるだろう。
「第一に、相手はおそらく異世界の人間だ。 故にこの世界由来の異常性は通用しない。 理屈は難しすぎるので割愛するが、異常性が人に影響を及ぼす時に参照する『天然の戸籍』とでもいうべき情報を、異世界の人間はもっていないから、とでも考えてもらうと分かりやすいだろう。 第二に、相手は異常性を使ってくるという事だ。 さっき言った異世界無効ルールは異世界由来のオブジェクトにも本来成立するものだが、回収されたインダクタンスにはこの世界の情報を参照するプログラムが搭載されていた。 やはり兵器のように運用することは想定されている。 然るにそのインダクタンスを逆に利用させてもらうのが賢明だろう。 手の内を隠すために、こちらである程度の編集も行った上でな」
彼女はそこまで言うと、テーブルの下から何かを取り出した。
「変身アイテムにはそれぞれ名前が付く。 以下が君たちの変身アイテムの名前だ」
『ARC-023—jp …… 偽天帝の遣わせる御矢 ~the shadow line~ CHANGE TRAINS!
ARC-3822-jp …… さよなら戦争 ~the firewell from weapons~ CHANGE CREATIVITY!
ARC-830—jp …… 日本殺人事件 ~The mysterious country~ CHANGE JAPONISM!
ARC-1012 …… ジャガーノートの最終楽章 ~the destroying hits!~ CHANGE CHORDS!』
「もっと誰でも分かるように説明してくれ」
私は彼女の取り出した大喜利みたいなフリップに書いてあった大喜利ではなさそうな文字列の意味がまるで理解できなかった。
「君たちになら教えるまでもないだろうが、ARC-014—jpは変身者に依存して変化するものではない。 それゆえ、変身アイテムごとに名前と変身音を付けることになっている。 ちなみにそれ以外の名詞にも名前が付く。 変身アイテムは『インダクタンス』、敵怪人は『デイリュージョン』、そしてそれを撃破するとドロップする変身能力を持たないアイテムは『リラクタンス』だ」
「なぜそんなややこしいうえに一貫性のないネーミングを……」
軽い気持ちで高校物理の用語を採用するな。
「仮に一貫性のあるネーミングをしてしまうと、不都合が生じてしまうのだ。 これは異学用語で『マンネリズム』というのだが、この現象が発生してしまうと、ある特定の異常性に対して非常に脆弱になってしまうのだ。 生物が多様なのと同じ理屈だ」
仮におんなじ名前だったら一発でそろってお陀仏になっちまうってか?
「我々の技術を結集した異常編集により、これから生まれ出る魔法少女は全員こんな感じの名前と変身音を持って生まれてくるだろう。 さて、我々のこれからの任務は、すなわち各地に現れるだろう『デイリュージョン』を撃破し、ARC-4999-jpの収容状態を維持することだ。 これに関しては非常に困難な任務となることもあるだろう。 機構は機動部隊を拡張し、全国に散らばらせる16名の追加人員を予定している。 これが現在機構の運用可能なインダクタンスの総数である。 現状、人員配置の形態などは未定。 よってそれに関しては追々報告する。 以上、報告終わり。 ということで、」
途端に小野寺さんは相好を崩し、指を鳴らした。
(小野寺さんってあんなキャラだっけ……)
(燈子ちゃんはたぶんオンとオフの区別がゴルゴ並みに大きい人なのよ……)
私たち姉妹はこそこそ話をした。
その後ろをものすごい本格的な服装のメイドさんがルームサービスを持ってくる感じのカートに食材を満載して通り過ぎた。
そして彼女は手際よく大型ガスコンロ、すき焼き鍋、具材ズを二セット配置した。
そして理想的なすき焼きのシーケンスを手際よく実行し始める。
「では魔法少女諸君。 打ち上げのぉぉ~、始まりだぁ~!」
断月さんが缶コーラを掲げて絶叫した。




