表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/50

 第四十五章 『犯人へ』

 あの後レガシーはARC機構薄幸島サイトに着陸し、私達はそのまま解散となった。

 姉ちゃんの疲れ方は相当なもので、完成した依頼の品の整理は100%私の仕事になった。

 そうして完成した絵の数々を持って、翌日、私は待ち合わせの場所に向かった。

 長崎市の中心部にあるモールのそのまた中央部にあるカフェレストラン。

 どうやら女子高生の間で話題沸騰中らしいふわふわパンケーキを食べさせてくれるお店が今日の待ち合わせ場所だった。


 「こんにちわ~」


 そう愛想よく挨拶しながら私は先生の向かいの椅子に腰かけた。


 「夏の甲子園、残念でしたね」


 「別にうちの部員も全然気にしてないから、モーマンタイよ」


 先生がそういっているのを半分聞き流しながら私は彼女にイラスト入りの封筒を渡した。


 「ご依頼のものです」


 「うむ」


 先生はそう言って封筒を開けた。

 先生はうんうん頷きながら満足した様子で封筒をしまった。


 「これで本題も終わったし、パンケーキでも食べて帰りましょうか」


 「そうですね。 ……と言いたいところですが」


 「え?」


 そういう風な先生の反応をいったん無視して、注文を取りに来た店員にオーダーを伝える。

 私がメープル&バナナ、先生がチーズクリーム&クランべりー。


 「なんの話?」


 「単刀直入に言いますけど、最近魔法少女を襲いまくってたのって先生ですよね?」


 「!」


 「ついでに言うなら合宿場の事件と、昨日の事件も先生の仕業ですよね」


 昨日のことを姉ちゃんから聞いて私は一段とその確信を強めたのだった。


 「……はっ!? ちょっ、ちょっと、いきなり何のこと?」


 「じゃあちゃんと説明して差し上げます」


 私は今までの事件についてある程度かいつまんだ説明をした。


 「そっ、それが私に何の関係があるっていうの!」


 「そんなに否定しなくてもいいですよ。 あなたに付き纏っていた熊は死んだんですから」


 「……本当?」


 先生の顔が急に緩んだ。

 これは“アタリ”だ。

 パンケーキが来る。


 「食べながらでいいですよ」


 私は八分の一サイズに切ったパンケーキをシロップにとっぷり浸して口に入れた。

 ほとんど職階がないとさえいえるほど柔らかでとても美味い。


 「……」


 先生もそれを見てじぶんのケーキを切って口に入れた。


 「まず容疑者に関して。 

 「マホウショウジョ・ターミネーターに関する一連の事件はすべて九州地方と山口県で起きています。  

 「この偏りを普通に考えれば犯人の居住地は佐賀、もしくは長崎であると考えられます。 

 「犯人に瞬間移動能力やそれに準ずる高速移動能力がある可能性は考えなければならないでしょう

 「しかし、それは偏りの存在自体が否定してくれます。

 「仮に瞬間移動ができるなら日本全国で事件を起こせばいいのです。

 「そうすれば捜査側をかく乱することが出来ます

 「敢えて別の場所で集中的に事件を起こすことで同様の効果を狙うこともできそうですが、そう考えるには今回の事件は範囲が広すぎるんです。

 「魔法少女はそううようよいる物でもありませんが、それでもここまでの広さで行動する必要はないはずです。

 「これらの事実を総合すると、犯人は瞬間移動能力は備えておらず、また高度な情報網なども持っていない為に、自分の到達可能範囲で見つけられた魔法少女を片っ端から殺していたのではないでしょうか」


 先生は黙って頷いた。


 「もう少し絞り込んでみましょう。

 「次はあの合宿所で事件が起こったこと自体がヒントになります。 

 「すなわち、仮に犯人が初めから会津さんに狙いを定めていた場合、あんな山の中で事件を起こす必要はありません。 

 「できるだけ容疑者が多くなるようなタイミング、例えば今までの事件のように市街地のど真ん中で通り魔的に襲えばよいでしょう。 

 「仮に犯人に遠隔攻撃能力が備わっていたなら、逆に容疑者が不必要に狭まるのはむしろ歓迎さるるべきことですが、これでは犯人が今までのコロシでそれをやって来なかったのが余りに不自然です」


 「じゃあ、どう考えればいいの?」


 「私たちははじめ、マホウショウジョ・ターミネーターの()()()()()()がARC-1048だと考えていました。 

 「現実にARC-1048の作る縫いぐるみの材料にされたと思しき変死事件は確認されていないこともいったん棚上げして、ね。 

 「所が、ここで奇妙なことが分かりました。 

 「今朝連絡があったのですが、回収されたARC—1048の表面に残された血痕のDNA鑑定の結果、そのDNAは機構のデータベースに残されていたあるDNAと完全に一致しました。 

 「先生の使っていた変身アイテムはARC-890-jp、『培養肉のジャータカ』だったんですね?」


 ARC-890-jpとは、液体に触れているとその部分から異常な生存力、増殖力を持った人間の骨格筋細胞や脂肪細胞などを出現させる磁器の皿である。


 「つまり、かの『神山スレ』のダマグモを含めたARC—1048の作品はすべてその細胞を素材にしていた。 という訳なんです。 

 「そしてARC-1048は司令官とガンスミスの役、すなわちあなたに殺害の指示を出し、そのための縫いぐるみを提供していた。 

 「事実はこうだった」


 先生は今やリラックスしてパンケーキをお行儀よく切って食べていた。


 「脅されていたのよ。 一回殺されて、従わなければお前の学校で同じことをするってね」


 「悪質っすね……。 

 「とにかく、奴は一刻も早くポイントを集めて何らかの願いを叶えてもらおうとしたわけでしょう。

 「ということで先ほどの問題に答えを出すことができます。 

 「その心は、『合宿場で出会ったから』、です。 

 「あの時に合宿場にいた私は確かに異常存在の存在に気づいていましたが、てっきりそれが会津さん単体の気配だと勘違いしていました。 

 「実際は、貴方も熊もあの合宿場にはいたのですね」


 「……そうよ」 

         

 「ということで、練習試合などで事前に出会っているはずの我々以外の四高校の関係者はすべて弾けます。 

 「うちの学校の女子、それもあの場にいた菰公と私、そして演劇部の面々に限られてしまうのです。 

 「特定の前に、犯人がどうやって密室殺人を起こしたのか。 

 「これについて説明しましょうか。 

 「まずひとつ正しておきたいのが、火のついたタイミング。 

 「私はてっきり彼女が焼殺されたのかと思っていたのですが、そもそもARC-1048は人間を窒息死させる存在です。 

 「仮に本当に窒息死させていたのだとしたら? 

 「現場にはテディベアが放置されていました。 

 「そう、私が初めに扉越しに見た光は火ではなかったのです。 

 「あれは現場に残された電球が発していたものだったのです。 

 「曇ったガラス戸越しに火を見たことのある人間など限られるでしょうから、その後の混乱含め、これに気付かないことは自然と言えましょう。

 「会津さんは敵から逃れるために電球の付きっぱなしになっている楽器室に入ってカギを閉め、そして事前に設置された熊の餌食となったのです。 

 「敵は外からきているので窓のない内側の部屋に入るでしょうし、音楽室は封鎖されていました。 

 「よって楽器室に入る可能性は非常に高い。 

 「ならば火はいつついたのか。 

 「あの扉は熱に弱い強化ガラス製です。 

 「熱属性魔法持ちの人間はかなりいますから、彼らがガラスが熱することを利用するのです。 

 「私はスケッチをし回っていた時に大量の酸素の空き缶を見ました。 

 「たとえば、予め段ボールか何かで導火線を作り、油分、おそらく脂肪でしょうが、それをばらまいておく。 

 「そして犯人は酸素をあの部屋にすべて注入する。 

 「するとどうでしょう、ドアが加熱されることによって脂肪が着火、空気より重く、下に溜まる酸素の助燃性を以て大火事が発生します。 

 「ここで電球は熱にまかれて割れてしまい、証拠は隠滅されます。 

 「密室の完成です。

 「ここで分からないのはこの密室の必要性です。

 「私がやったにしろ菰公がやったにしろこれでは殺害可能な者が一人もいなくなってしまう。 

 「そう思った時、私は気づいたんです。 

 「こういった状況、高校で事件が起こった場合に最も殺害可能に()()()者。 

 「教師です。

 「普通魔法少女は少なくとも未成年が変身するものとみられていますし、きちんと情報を集めていればARC機構が出張ってくることも分かるはずです。

 「ですから高校生が変身者なら教師に罪を着せることなど無意味に感じるはず。

 「これは逆説的に以下の事実を示します。

 「あなたはあの熊を欺くために、自身が犯人であることを隠すふりをして、むしろ自身にこそ疑いが向くような仕掛けをしたのです。

 「ならば私が見たマホウショウジョ・ターミネーターはいったい何だったのでしょうか。 

 「あれは明らかに中学生かそこらの少女でした。 

 「これは私の仲間、より専門的な知識を持っている人間が考察してくれたのですが、変身アイテムのプログラミングはことごとく非常に低質で、ノウハウが全くと言っていいほどない素人感満載のものだったそうです。 

 「また根幹部分の流用が見られた。 

 「そして本来は中学生しか変身できないようにプログラムされたはずの跡が確認できたが、しかし我々は変身出来た。 

 「そして肉体にわずかながら変化をきたした者もいました。 

 「先に述べた事実から彼女はこのことに説明を見出しています。 

 「すなわちプログラムミスで変身者を13~15歳の少女に限定するのではなく、変身者を十三歳から十五歳の少女に()()()()()異常性が発現してしまったのではないかと。  

 「実験はおいおい行われる予定ですが、仮にこの仮説が正しいとすれば、あの少女は中学生程度の肉体年齢に戻ったあなただったんではないかと考えられます。 

 「よってあなたを犯人としても論理的な瑕疵は一切生じません。 Q.E.D」


 「すごいのね……あなた」


 先生は既にパンケーキを食べ終わっていたようで、彼女はナプキンで口周りを拭きながらしみじみと言った。


 「ありがとうございます」


 「まったくもってその通りよ。 ……ごめんなさい、……彼女達には本当に本当に恐ろしい思いをさせてしまったわね。 私もそれをやられたから、分かる」


 「罪滅ぼしをしたいのなら、ARC機構に出頭し、取り調べを受けてください。 同様の被害者が新たに増えないために。 それに、私の仲間たちは私の仮説が正しいのなら、あなたの置かれた状況を斟酌し、あなたの行為を不問にするとも言っています」


 「分かったわ。 この後、一緒についてきてくれるかしら」


 「私が食べ終わったら行きましょうか」


 「うん……、それと、図南さん」


 「はい?」


 「もしこの後の処理がきちんと終わったら、お友達になってくれませんか? ……先生は一人の人間としてあなたのことが好きになりました」


 「……全然そうは見えないと思いますけど、今、私もとっても嬉しいです!」


 私は残ったパンケーキ三分の一をお行儀悪く口に押し込み、会計の準備を始めた。

 一つの事件がハッピーエンドに決着したことを、広く取られた窓ガラスから差し込む夏の陽光が祝福しているように思われた。



CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-890-jp 『培養肉のジャータカ』

by tonotto

http://scp-jp.wikidot.com/scp-890-jp

この小説の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ