第四十三章 『暴君のはなむけ・転』
【16:08】
長崎市内のスタジアムから離陸した熊は、そのまま我武者羅に遁走を続け、何時しか高度を3000mくらいまで上げて九州を横断しようとしていた。
「しぶといわね……」
「まったくだ」
私達は両手両足を脱力させ、ただ進路を固定することに意識を集中させて、全速力で追跡を続けてきた。
とはいえ、機動力は限りあるものであり、それゆえ一定の距離を保ったまま機関砲やロケットランチャーでちまちま攻撃することしか出来ておらず、何ら決定打を得られていなかった。
魔法少女の効果により普通の人間ならすぐ凍死する体感温度でも少し肌寒さを感じる程度で持久戦に持ち込んで何ら支障をきたすことはないが、だからと言って永久に追いかけ続けることができるという道理はない。
【16:10】
『こちら小野寺燈子。 熊本県近海にてARCA『レガシー』が航行中だ。
暫くの間貨物船としてしか使われていない船だが、それなりに戦えるだろう。 そちらの乗組員に連絡する。 共同戦線を張れ。 どうぞ』
【16:18】
熊本県は天草諸島の上空に差し掛かった。 再び入電が入る。
『レガシーより、攻撃を開始すとの入電あり。 衝撃に備えよ』
先ほどから変身音用のスピーカーをジャックしてこんな通信をしているわけだ。
その時、先行していたARC-1048に着弾があった。
断続的に爆発が起き、熊が大きくバランスを崩す。
そして目の前の雲から湧き上がるように巨大な船影が姿を現した。
私たちから見て見下ろす位置に現れたARCA『レガシー』は巨大な全翼機だった。
上から見ると将棋の駒をつぶしたような形になっていて、将棋の駒としたときの底面に16基のスラスターが付いている。
将棋なら『歩兵』とかが書いている辺りが戦艦によくある木製甲板となっていて、そのさらに中央にズムウォルト級のようなシンプルな斜八角錐台の艦橋があった。
連装砲が両翼に四基ずつ、中央部に三機あり、さらに詳しくはわからないがかなりのVLSが翼の上に犇めいていた。
再び発砲。
何発もの直撃弾によって敵はその安定をより弱め、ダメージが大きかった左の方へゆっくりと傾いていく。
私たちも遅くなった相手に急アクセルを以て接近、相手の上をとり、ありったけの火力をぶつけた。
これが相手への渾身の一撃になり、壊れかけていた右の翼が完全にもげる。
そして、相手は転落していく。
はじめはそのように見えたが、きりもみ回転しながらもクマは最後の力を振りしぼって左の翼を爪の付いた触手状の組織に再構成し、クローショットの要領でレガシーに突き刺した。
相手の意図するところを察した私は双剣を振りかざすと、急速に高度を下げレガシーの翼に突き刺さった爪を切り飛ばした。
しかしその頃にはすでに相手の意図した方向に慣性が付いており、それに引っ張られるようにして熊はレガシーの翼に着地した。
【16:22】
『こちら小野寺燈子。 レガシー乗員より伝達。 巡行速度に切り替え、甲板上での戦闘に支障をきたさぬよう努力する。 健闘を祈っている。 以上。 どうぞ』
【16:27】
甲板に着陸してからも戦況は依然こちら側優勢であった。
白鳥さんが剣戟を演じ、花鏡さんは分身を震わせ、私はスコーチB-52フォームに変身しての爆撃を行った。
そういう風にして3on1でこの世界の平和を乱すものをぼっこぼこにしていったわけだ。
ARC—1048はその生み出すところの人体製縫いぐるみが脅威なのであって本体はただの性格の悪い縫いぐるみに過ぎない。
白鳥さんの一振りが右手の爪を三本まとめて持っていく。
副砲の荷電粒子砲の一撃が左足を貫く。
焼夷弾が顔面に広範な火傷を作る。
こういう風な戦いの中でテディベアは段々とボロボロになっていった。
【16:45】
突如として起き上がったテディベアが黒いオーラを身に纏って起き上がり、猛烈なスピードで襲い掛かってきたのだ。
【16:43】
もはや熊には戦える力などないかのように思われた。
ARC-1048は白鳥さんの袈裟斬りをもろに受けると、全身がいったん硬直し、糸の切れたマリオネットのように全身を脱力させて倒れた。
「こちら花鏡海月。 対象を撃破」
花鏡さんが私のと同じようにジャックされたipodに話しかけた。
「まだ早いと思う。 覚えてるかしら、一緒に出てきてたARC-001は撃破すると爆発したわよね?」
口を挟む。
「ごめん、今の取り消し。 今から生死確認をするわ。 どうぞ」
そういいながら私達は倒れ伏した布と鉄の塊に歩み寄った。
と。
「避けろ!」
天空から何か箱型のものが落ちてきた。
それを視認した私はそう叫んで後ろに飛びのいた。
全員が飛びのいた後の空間にそれは叩きつけられたが、その時の轟音とは裏腹に、それは全くの無傷だった。
『802—jp』。
それは側面にそう刻印されたコピー機だった。
それはごとごとコピー機一般に共通する稼働音を響かせ始めた。
「何が?」
起きている……?などという前に答えは出た。
コピー機が稼働を止めるとそれはポンッとパーティ用具か何かのような軽い音を立てて爆発し、そして……。
【16:52】
その強さは圧倒的だった。
今までとは比べ物にならないほどの速度でこちらに迫ってきたそいつは右腕の一振りで鶴群を弾き飛ばし、返す刀で花鏡さんの分身を破壊した。
「総員厳戒態勢‼」
あまりの速度に私とのつばぜり合いは瞬時に終わりをつげ、ガルウィングブレーズの片割れが弾き飛ばされる。
そうして鋼鉄の装甲に叩きつけられた私は一時無防備になった私に向かってクマが猛烈な勢いで突進してくるが、間に入った白鳥さんが再び鶴群を振ってそれをはじく。
「避けて!」
『Thunder! Volt! Shoot!』
GAU-8『アヴェンジャー』が火を吹き、熊の胸をぶち抜く。
しかしながら相手は一瞬動きを止めただけで進撃をやめるそぶりも見せず、それが今まで仮にも生き物の動きをしていた相手が完全に豹変してしまったことを嫌が応にも理解させた。
【17:00】
レガシーは熊本県北部を飛行していた。
私たち三人は一方的に押され満身創痍になっていた。
それでも誰か一人はまともに動ける奴がいて戦闘を続行させることができていたわけだが、あるタイミングで三人全員が一気にダウンしてしまった。
「かっ……」
「来ないでぇ……」
クマは咆哮を上げ、我々の元にとびかかってきた。
その時、横合いからの砲撃がクマを大きく吹き飛ばした。
さらに間髪入れず砲撃が続き、熊を打ち倒す。
これは……。
「来てくれたんだ! ……朋!」




