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 第三章 『Shock in 研修』

 道に降りる。

 先ほど見たトレーラーは、存外に近くー通りのすぐ先ーに、車体を道に対してほぼ垂直に向けて停車していた。

 その理由は俯瞰してみればすぐわかる。

 トレーラーの停車しているその数十メートル先に、身長20メートルほどの巨人がたたずんでいるからである。

 ある物体を巨人と呼称する時、そいつは人型の生物か、人工物かのどちらかである。

 ARC-3170『困らせルボット』とやらは、完全に後者であった。

 かと言って、目の前のこいつが正式の施設で建造された兵器だったっりすると言う、ロマン溢れる可能性は、到底望めないだろう。

 何故か。

 答えは簡単。

 ぼろいからである。

 この世には、ジャンク・アートと呼ばれる概念がある。

 その名の通り、ガラクタを寄せ集め、切断したり溶接したりして再構成したものはそう呼ばれる。

 こいつはちょうどそんな感じの見た目で、もし不動のまま、美術館の前庭にでも佇んでいれば、私はこいつをその類の物だと認識しただろう。

 こいつの基礎となっている物は、恐らくモンタナ級戦艦の艦橋で、胴体の三分の二、胸の部分を占めている。

 その真下、腰の部分はコンクリート基礎になっていて、股関節代わりのガントリークレーンのパーツが二本突き出し、先の方は両方『あじあ号』と思しき足パーツに繋がっている(左足にはおそらく警報装置の残骸と思しきケーブルが絡みついている)。

 艦橋の上部にはボールジョイントがついていて、そこに腕が接続されている。

 右腕はティガーⅡ重戦車二台、左腕は恐らくMIG系列と思われる戦闘機で出来ていて、肩に列車砲の砲身が取り付けられている。

 頭は小さな部品の集合体になっていて、全体的には逆さにした電圧計に目鼻に耳などの顔パーツが取り付けられているような見た目(口は電圧計として見た時のメーター部で代用)になっている。

 今まで挙げた物を骨代わりにして、多種多様な金属製品で肉付けされている。

 手足の末端はそれだけで出来ていて、そのおかげで、じっくり見ると兵器の集合の様相を呈しているものの、輪郭だけ見れば円柱を組み合わせたような古き良きロボット、悪く言うとコレジャナイロボ的な形に仕上がっている。

 前言を撤回しよう。

 こいつは絶対に美術品ではない。

 恐らく材料費だけでジャンク・アートの概念が崩壊しかねない程度の金が要るこいつを、芸術として存在させられる奴はこの世にはいまい。

 なんだこいつは。

 と思っていると、下を向いていたルボットが顔を上げた。

 足元のトレーラーをねめつけ、『愚民どもよ。 我に楯突くとは、随分な態度だな。 この全てに宿命を課する者シュヴァルツ・ドラッヘンをなんと心得るか! 』と吐き捨てた。

 どうも軍事車両並みのエンジン音が気に食わないらしい。

 『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!』というスラングは、このような場合に使うのだろうか。

 実に尊大な態度であるが、ものすごいガラガラ声なのと発声と連動してメーター部が左右に振れる愉快なギミックの所為でデデデ大王どころかキングズドゥとかの次元で威厳が無い。

 が、そいつはそれに気付いていないのか、歴史に残るような演説を終えた政治家が壇上から降りるようなゆったりとした足取りで再び歩き出した。

 『ゆったりと』しているとは言え、身長30メートルの鉄の塊が全体重を乗せて歩く訳で、その一歩ごとに周囲一帯が大きく揺さぶられる。

 跨ぎ越されたARC機構のトレーラーはそれを追う気などさらさらないかのようにその場で動かない。

 これは即ち、予想外の大物に出くわしたと言う意味であろう。

 一年半ほど前に栃木で起こったレギュレーション違反の際、この行動を非難するバカ野郎のツイートが炎上したのをきっかけで周知された事であるが、ARC機構においては、見た目からは想像もつかない効果を持つオブジェクトが存在する関係上、知らないオブジェクト相手には専門の機動部隊の人間以外は決してかかわるなと、マニュアルから厳命されているのだ(高校生くらいの女の子の職員がTVでそう言ってたのを覚えてる)。

となると、こいつは機構のデータベースには登録されていない未知の存在のようだ。

 番号は登録されているのに? 

 ARC—001クラスの複雑な奴ならそう言うのもいるらしいが、さすがにこのお頭の足りなそうなロボットがその様な存在だとは考えづらい。

 とにかくそういうイレギュラーはヒーローにぶっ潰されるのが定石。

 燃えるねぇ、未知との対決。

 高揚感:理性:中二病=1:1:2のバランスを更にたたき崩しながら私は奴を睨み付けた。

 奴はすでに私と数メートルの距離まで近づいてきていた。

 私はそいつに、あらん限りの大声で話をけしかけた。


 「おーい、そこのデカブツ!  そんな大層な名前名乗るくらいなら、道交法位守ったらどうなんだ?」


 道路交通法第76条に依れば、道路または交通の状況により交通の危険を生じさせ、または著しく交通を妨害する行為には、五万円以下の罰金が科せられる。

 どうやら私の遵法精神は相手には伝わらなかったようだが、足元で何事か叫んでいる矮小な存在には気付いたようで、四角い笑顔(構造上口角が下がらないのであろう)がこちらに向けられた。

 

 『小さき者よ。 万物の王サムシング・グレートに歯向かうつもりか』


 建前上は相手を殺すことを厭わない武装集団と、一介の女子高生とで態度を同じうしているのは、いささか甘いと言うかなんというか。

 もしかすると、こと処世術に関しては、私の方に利がある可能性すらある。

 どんどんという重い足音で相手が体の向きを変えたのを確認すると。

 私は会話に次弾を放つために上を向いた。


 『なんだ?  そんなちっぽけな得物で我に傷をつけようと? 』


 うるさい。

 

 「いや、立場を対等にしようと思ってね」


 私は例の拳銃を相手に突きつけると、間髪入れず発砲した。

 今思えば、相手の怒りを買って仕舞ったらそのまま叩き潰されかねない状況で、自分自身で発砲できない事を確認した銃の引き金を引くと言うのは、無謀とかそういう言葉で収まる行動では到底あるまい。

 彼女の説明が正しければ、この拳銃がこの状況を簡単に打破出来る事必定なのではあったのだが……、まぁ、状況は確かに大きく転じた。

 持つべきものは蛮勇である。

 発砲してから最も早く到来した物は、視界の変化であった。

 暗くなった、とまで言うと若干誇張気味になるが、確かに視界の明度は一瞬のうちに落ちた。

 ルボットの顔を見ると、視界の変化に気づいたのか、あたりを見回す首の軋みと、内部機関の唸りで、さながら考え事に付随する唸り声をあげているように見える。

 一瞬の膠着、そして状況の変化は指数関数がごと。

 突然、ルボットの右腕が錆びついた金属を怒りに任せてこすり合わせたような音が響かせながら崩壊した。

 そしてその分かれた部品の悉くが、いったんの静止を経由して私の方に突入して来た。

 あ、私、死んだな。

 意図的に破壊してきたバランスが火事場の馬鹿力的メカニズムで組みなおされ、理性が完全に復旧した。

 ティガーⅡ二台だけで合わせて重さ140t弱。

 空中に浮かんだその他諸々の部品がすべて戦車と同密度だとすれば200tは下るまい。

 こいつらが全部一気にぶつかって来るとなると、私の原形が残るかどうかすら怪しい。

 判断時間が大きく制限されている関係上、そこまで考えて取り敢えず顔を庇う事しか私にはできなかった。

 強い衝撃音と、浮遊感。

 死んだんだな、と思った。

 意外と走馬灯って尺ないんだな、とも。 

 意外や意外、生きてました。

 再びルボットのがガラガラ声が聞こえ始めた所でそれに思い至った私は目を開け、あたりを見回した。  片腕をなくして大ダウンしているルボット。

 遠くで鳴り響く警報音。

 足元に大剣。 大剣?  私はそれを両腕を伸ばして持ち上げた。

 漫画『ベルセルク』において『ドラゴン殺し』が登場してからはや四半世紀。

 刃渡りが大柄な男のその身長並みにある大剣と言う物は、すでにこの世に多く存在している。

 しかし、『炎剣リオレウス』然り『バスターソード(FF)』然り『巨塔』然り、その多くは片刃である。 両刃の物も存在はし、現実に存在する大剣の殆どがそれに該当するが、そちらは逆に全長が最大でも1.5m程度しかない。

 しかし、私の足元に落ちていたそれは、刃渡りだけで2m弱、全長では史実のバスターソードの1.5倍は確実にあるであろう両刃の剣だった。

 しかも、異様な事だが、そのデザインは普通の剣をそのままN倍にしたような物になっている。

 柄が20㎝強しかなく、両手では握りにくいことこの上ない。

 もし現実にこのような物が存在した場合、恐らく扱えるものは殆どいないであろう。

 現実。 こいつはそこには恐らく属さない。

 それが、こいつを持ち上げた私が最初に気付いた事だ。

 刃渡り2m弱を構成する鋼に、飾りや細工に使われている金銀も合せた約600㎏。

 こいつはその質量の、恐らく千分の一程度の重さしか有していないのだ。

 私はそこまで体格がいい方ではないが、それでも片腕でぶんぶん振れる。

 1私は持ち上げたそれを∞の字にまわしてみて、最後に刃先を地面に叩き付けてみた。

 Garth! 。

 存外に大きな音をたててアスファルトが砕ける。

 重さ以外の性質は据え置かれているようだ。

 物理的に有り得ないとかそういう話は、今はしないでおこう。

 そうしていると、頭上でガラガラ声が再び聞こえ始めた。 上を見るルボットが残った左腕を地面につけて立ち上がりながら、何やら叫んでいる。


 『……貴様。 終いにはその様な得物を持ち出したか。 それでも騎士か!  仕舞え! 』


 最初から騎士ではない。

 だが、こいつが慄くのも無理はあるまい。 比率だけで見ると、これは私の様な平均的日本人が刃渡り10㎝のナイフを突きつけられているのと同じ構図なのだ(ちなみに銃刀法では6㎝からアウトだ)。

 もし私がその様な状況に陥ったらば、相手の身長が七センチ程度である事にかけて叩き潰しにかかるだろう。

であるからして、その直後に立ち上がったルボットが空いた鉄拳を叩き込んでくることは、簡単に予想できた。

 腕が動き始めたのを一瞬見て、私は地面を蹴った。

 本来高々一回の蹴りでは、進むのも1mかそこらである。

 しかし先程からの断続的異常に重ねるように、有り得ない事に、低重力のデモンストレーションをする宇宙飛行士の様な低い軌道を描いて、私はルボットとの数mを一気に詰めた。

 私の目線から見てみると、全高30mの物体が高速で迫ってくると言う風に見える。

 ここで少し考えてほしいのだが、手に棒状の物体を持っている時に、高速で何らかの物体が飛来してきたとする。

 自身の身を守るためにまず何をすべきだろうか。

 百人に訊いてみた場合、恐らく半数以上がその棒を振るか、その棒で自分を庇うか、どちらかを選択するだろう。

 私も、その二つのどちらを選択していたのかはもはや自分にもわからないが、とにかく右手のバスターソードを私から見て右斜め下から振り抜いた。

 身長7㎝の私が刃渡り10㎝のナイフで、身長150㎝の巨人に切りかかる。

 そう思えば随分と無謀な蟷螂の斧である。

CC BY-SA 3.0に基づく表示





scp-1370 by Photosynthetic


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この小説の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。



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