第三十七章 『はためいわくなしゅう撃しゃ』
3人で店を出て、お互いの私服を褒めあい始めたその瞬間のことであった。
サイドポーチに入れていたデザートイーグルが急に警告音を発し始めた。
取り出してみるとフォトンストリームを意識してつけた赤いクリアパーツ部分が救急車両の警告灯と同じリズムで光っている。
敵の接近を知らせるものだ。
二人のアイテムも同じように反応しているようで、断月さんは柄が入った毛布を、小野寺さんは妙に角ばったノートPCを取り出した。
私は再びバッグに手を突っ込んでもう一つの変身アイテムを取り出した。
滑走路と格納庫を模した変身ベルト『スクランブルドライバー』だ。
それを腰にあてがい、起動する。
『スタンバイ!』
滑走路が伸びて腰を一周し、変身ベルトが完成する。
デザートイーグルを高く上げ、こちらも起動する。
『テキシュウ・カクニン・ヒアウィーゴ―!』
変身ベルトと一緒に取り出したマガジンを拳銃に装着する。
『キタイチョイス! ストライカァー! コルセアァ!』
拳銃を手の中で回し、銃口を下に向けそのままヒーローハンガーのジョイント部に突き刺す。
引き金に指をかけながらそれを回転させ、ヒーローハンガーが回転しシャッター部分が滑走路を模したベルト部分と一直線になるようにする。
手を交差させ……、引き金を勢い良く引いた。
コルセアのワイヤーフレームがベルトのバックル部に表示される。
『Strike! Corsair! Shoot!』
『天翔ける遊撃手 ストライカ―コルセアフォーム テイクオフ!』
瞬時に開いたシャッターから黒煙が飛び出しそれが昇竜のように私の周りをまわりまわり、その航跡が私を完全に包み込んだ。
そして煙幕は吹き飛び、変身が完了する。
この間15秒。
装甲に特化したフライングパンケーキフォームと対照的に、ストライカーコルセアフォームは原典のF4Uと同じく機関銃を大量に積み、ヒットアンドアウェイ戦法を得意とする火力フォームだ。
もう一度言うが専用武器は手甲の要領で装備し、両腕をカバーする大型の双剣『ガルウィングブレーズ』。
他の二人もとっくに変身を完了していた。
「どこだ!」
「上!」
ちゃんと海賊と科学者になった二人が各々叫んだ。
つられて上を見ると、……いた。
一回目にかち合った時には薪木さんと融合していて何が何だか分からなくなっていたが、今回はそんなことはなく、本来の姿であろうコンパクトな姿で襲ってきたわけだ。
今見るとおそらくモチーフは二式大艇だろう。
本体はインヴァネスとディア・ストーカーの一般的な探偵姿であるが、皆が想像するシャーロック・ホームズとは違って全身二式大艇含めた大体の旧日本陸軍の機体と同じ抹茶色で、帽子にはクマの耳のような金属パーツが付いている。
両肩部に原典の主翼が片側ずつ飛行機風のシルエットになるように、両足部には飛行艇のフロートが浮いており、それらがむき出しの筋組織でつながれている。
もう一度言おう、この魔法少女は骨格部分は金属製だが、それに肉付けされているのは蛋白質の塊であり、人体模型のような生々しい筋組織である。
翼の先には本来の翼が変形した三本の爪が生えており、ところどころ機械装置がさらにかぶせられているのも相まって、全体の印象は人造人間をサイボーグ化したエヴァンゲリヲンタイプの生物兵器だ。
プロペラの根元部分にはゴテゴテ回転砲やら触手やらが取り付けられているが、そういう風にごついのもその部分だけで、全体としては二式大艇相応にシュッとしている。
そこまで分析したところで、あちらさんが動いた。
一般的な侮辱の仕草、手刀の形をつくって首切りの仕草をした。
その縁起の悪いポーズを認識した瞬間。
「うぐっ! かあぁ!」
お嬢さんの声がした。
苦悶の声が。
「真易!」
小野寺さんが絶叫した。
振り向くとお嬢さんが首を掻きむしりながら青い顔をして、今にも体勢を崩そうとしていた。
「私が行く! 小野寺さんは彼女を!」
小野寺さんの返答を待たず、私は飛び上がった。
両手の機関銃の照準を合わせてとにかく発砲する。
相手もそのまま大鷹が翼を広げるように両翼に力を籠め、正常に起動した回転砲や触手がこちらを狙い始めた。
しかし逃げ腰だ。
そのまま体をよじらせて旋回を始める相手に、こちらも容赦なく攻撃を浴びせる。
触手を何本か破壊し彼女に急接近して、その弾みのまま右のガルウィングブレーズを振りかざし、肉を切り裂く。
血が飛び、鉄の骨が折れる。
そのまま距離をとり、ターンする。
さらに同じ要領で突撃していく。
ちょうど相手がひるんだところでファイナルアタックのセットアップをする。
『イチゲキリダツフィニッシュ!』
ガルウィングブレーズを展開し、一般的なライダーキックのポーズをとる。
急激な加速度が掛かる。
そのままF4Uの特徴である高機動力の元、マホウショウジョ・ターミネーターの左肩部のパーツにどぎつい一撃を食らわせる。
急速離脱の後、振り返るとプロペラに切り裂かれ、衝突の衝撃に耐えかねた金属が砕けたことによって左の第二エンジンは機能を停止し、爆発が発生していた。
変性した蛋白質がはがれ、翼の根本があらわになる。
「数字?」
そこには大きくゴシック体で『9』と印字されていた。
その前後にも何か書いてありそうだが、そこは隠れている。
傷ついた部分を庇いながら、奴は撤退していく。
追撃はいったん諦め、二人のところに戻る。
お嬢さんは変身を解除されて道路の端に横たわっていた。
「大丈夫!?」
その傍らで泣きじゃくっている小野寺さんの肩を抱きながら私は言った。
「うっ、うっ、まいが、真っ青になって、急いで戻しても起きない!」
これはダメだ。
「ちょっと待って」
私はお嬢さんの上着をはだけ、胸に耳をつけた。
心音は正常だ、手首のほうも試してみるがはやり脈も正常だ。
「まい! まい!」
「げほっ!」
お嬢さんが大きく咳をした。
「まい!」
小野寺さんは私を押しのけてそのままお嬢さんに抱き着いた。
「燈子……、暑苦しい……」
小さく聞こえる文句の言葉も気にせず、小野寺さんはやっぱり泣きじゃくりながら喜んでいた。 しばらくしてやっと彼女は落ち着いた。
「この間に誰一人として通りがった奴がいなかったことを神に感謝したいよ」
「ごめん、真易。 ……何があったの?」
「分からないわ。 変身した瞬間、急に胸に痛みが走って、息ができなくなったの。 そのまま意識が薄れていって、気が付いたらこうよ」
「毒?」
小野寺さんの顔色が急速に悪くなっていく。
「縁起でもないことを言うな。 ……それより、あいつは私を狙っていたな。 燈子、誰かにこの会合のことを話したか?」
「いや、私友達いないし……」
あの陽キャムーブ本当に全部嘘だったんだ……。
「私も話していない。 ……尾けられてもなかったか?」
「ああ」
「ということは」
私は先生にこのことを話したということを話した。
「誰かが盗み聞いてたにしろ、尾行したにしろ、私を追ってきたのは確かのようね」
「しかも毒を盛った訳だ」
とりあえずスタジアムに戻ることにする。




