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 第三十六章 『正確性を要求するニューワーマジックガール』

 全国高校野球選手権長崎県予選は長崎市にあるスタジアム(正式名称は知らん)で行われる。

 私はポスター用のメインの絵を描くためにここに来た。

 躍動感満載の夏のスタジアムの絵の下に『部員求む』の文字。

 これは映える。


 「想像以上ね! 本当にいいわ、これ」


 観客席に残って私は枕木先生に今までの絵を見せていた。


 「あざっす」


 私は別件で用があり、この場から早急に去らなければならなくなった。

 昨日の話だ。

 昨日家にいたとき、携帯に電話が掛かってきた。

 電話の向こうにいたのは小野寺さんだった。


 「活動方針の変更がある」


 開口一番にそう言って、小野寺さんはこう続けた。


 「かなりタフな仕事になりそうだが、とりあえず対面で話をしたい」


 とりあえず理解したことは示す。


 「いつ時間が取れる?」

 

 妙に硬い言い方だ。

 まぁいい。

 前個人的に会った断月のお嬢さんから忠告された通り、彼女は社会生活不適合者であり、我々一般人には彼女らの麗しき友情を尊重し、それ相応の態度をとってやる必要がある。


 「じゃあ……、甲子園の長崎予選が明日あるのは知ってる? その日に私は仕事があるのでそこに行くんだけど、……12時にその近くにある『HIDENSEEK』っていうレストランでどう?。 個室もあるし、話し合いにはぴったりだと思う」   

 「……わかった」 


 今ちょうど横から『下手に出ろ』位の長さのアドバイスを受けたみたいな間があった。


 「予約はこっちでしとく。 断月さんにもよろしくね」


 明確に言葉に詰まる声がして電話が切れた。

 今から考えるとここまで単純なのも可愛らしくていい。

 ということで20分後に約束がある。 その最後の内容だけを私は先生に伝えた。 


 「分かったわ。 私はここで読んでるから、行ってらっしゃい」


 『HIDENSEEK』とはずばり件の車胤君行きつけのお店である。

 確かにおそらく店主の住居なのだろう隣の建物含めてヨーロピアンな雰囲気を本気で出しているファサードからしてかなり期待できる店だ。

 ドアを開け、シェフに会釈し、そのまま奥の個室に入る。

 部屋の空気は思ったほど濃い真剣味を含んでおらず、隠れ家的レストランにふさわしい寛いだものであった。 

 4人部屋の奥のほうに小野寺さんが、手前にお嬢さんが座っている。

 私はそのまま手前に座った。

 とりあえずにこやかに注文をし、話の火蓋が落とされた。 

 

 「私たちは最初君をだましていただろう?」

 

 お嬢さんが言った。


 「まずなぜそんな事をしたのか説明しておこうかな。 ……マホウショウジョ・ターミネーターに関して、我々以外のどこにも流れていない情報がある。 被害者の死因は公的には公表されてないんだけど、実は、それがみんな……焼殺されてるの」


 「合宿所の事件みたいに?」


 「まぁそうだね。 ……それ以外の事件には、現場にこれが残されていたという共通点もあったわ」


 お嬢さんはラミネート加工が施された名刺大の紙片を取り出した。

 ウェイン版タロットの『塔』。

 数ある大アルカナの中で一番縁起でもないカードだ。 


 「これが?」


 「正確な数を言うわ。 犠牲者は計24名。 全員が変身状態で死亡し、変身アイテムは破壊されておらず、回収されたの。 ……もう一度言うけど、その全員が身体に大きなやけどを負っており、焼殺されたと思われるわ」


 「解剖とかはしてないの?」


 「スクラントン現実低減装置の影響で死体はみすみす動かせないの。 詳しいことは割愛するけど、現在の技術ではその手のことはできないわね」


 なるほど。


 「で、私たちがなぜあなたに事実のすべてを話さなかったのか」


 「私を疑ったから?」


 「察しがいいのは助かるわ。 というのも一連の事件はすべて九州北部、四国地方と中国地方の西部で起こっており、そこから考えて犯人の居住地は長崎県長崎市のあたりだと分析されているの」


 「まぁ怪しいわね。 まぁあれよ、ミーム汚染よ」


 「燈子と違って私は見る目があるからね、信じてあげるわ」 

 お嬢さんは小野寺さんの頭をコツコツ叩きながら言った。

 小野寺さんは明確に不服な表情をしているが、この動作には二人の間の親愛の情が垣間見えた。


 「じゃ続いて、電話で言ってた内容。 実はARC機構はARC-014-jpのオブジェクトクラスをThaumielに変更することを予定している」


 「……!? どういう意味?」 


 「ARC-4999-jp 『異セカイ系』 あの時にも話したこいつのオブジェクトクラスがTiamatに変更されたことに付随する処置だ。 Tiamat。 我々ARC機構がその全武力を集結させたうえで抵抗しなければならないオブジェクトに付与されるクラスだ」


 場の静寂が一気に強まった。


 「それを……」


 「そうだ。 我々はARC-014-jpの軍事転用を画策している」


  小野寺さんが口をはさんできた。


 「もうちょい棘のない言い方で言うと、ARC—014-jpを利用してARC—4999-jpを収容……、ぶっちゃけて言うと撃退しようとしてるわけね。 仮面ライダーが怪人を倒すのと同じことよ」


 そのあと小野寺さんからARC-4999-jpの説明があった。

 我々は鎧武当たりの要領で戦うわけか。

 実は『あたりだと分析されている』あたりで料理は来ていた。

 小野寺さんがラタトゥユ、お嬢さんがオムライス、そして私がアラビアータだった。


 「辛っ!」


 アラビアータは妙に辛かったが結構美味かった。

 

 「おいしいね、燈子」


 「うん。 眉見の家で食べたのも美味しかったけど、これもいい」


 お互い一口を交換したりして、楽しい食事時間だった。


 「……思ったより時間がかかってしまったな」

 

 お嬢さんがナプキンで吃をふきながら言った。

 スマホを確認すると確かにそろそろ帰らなければいけない時間だった。


 「計画の本筋も詳しく話そうと思っていたんだが……、いったんお開きにしようか」 

 

 この会合はいわば儀式であり、あちらさんの誠意の表れでしかなかった。

 これ以上長居する必要もあるまい。


 「じゃぁ今夜教えて」


 「分かった」


 それぞれお会計をし、三人連れだって店を出る。

 マホウショウジョ・ターミネーターの事件が進展したのはその瞬間だった。

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