第三十五章 『もっかい、どうして?』
部屋に戻る。
もとは二人部屋なので菰公が入ってきても特に狭いということはない(さすがに車胤君でも女子部屋に呼び込むわけにはいかないのでお帰りいただいた)。
私たち二人が各々のベッドに、菰公が椅子に座って、三人が輪になる形をとる。
「ほんじゃ、私の推理」
林歌がまず手を挙げた。
「図南さんはこの合宿所で事件が起きたっていう風に考えろって言ってたけど、ちょっとそれを悪意を持って解釈しちゃおうかなと」
「じゃ~ん! ノックスの十戒ルール8ぃ!」
「この合宿所には秘密のギミックがあると仮定する」
なんで?
「お前は面白いかも知らんが私と菰公はノックスの十戒は全部が全部守らなくていい物だとは思わんぞ」
「まぁいいじゃん」
こいつは涼しい顔のまま我々の文句を退けた。
「……続けな」
呆れたような菰公が私とほぼ同じ感性を持ち合わせているのだという事実を改めて実感した。
「じゃぁお言葉に甘えて
「……ご存じのようにこの合宿所はもともと観光施設として建設された物だった訳だけども、結局うちの学校に買い取られる前には施設として開業することはなかった
「バブル崩壊の余波でもともと所有していた企業は倒産してしまったのだ
「そうして宙に浮いた建物をうちの学校が買い取った
「ここからは私の妄想になるんだけど、この際伝達ミスが発生した
「この館に隠された恐るべき仕掛けは、この時失伝したの
「……え?
「その恐るべき仕掛けは何だって?
「それはね、簡潔に言うと……マスドライバー,でっかい大砲ね」
「お前は何を言っているんだ」
菰公が明らかにミルコ・クロコップを意識した口調で言った。
私も同感だ。
「それも異常性を利用するほうだね
「1970年代にアメリカが人工衛星の発射コストを削減するために進行していた『ヴェルヌ計画』
「こいつはマスドライバーと呼ばれる超大型の大砲を用いて人工衛星を宇宙空間に射出する、ヴェルヌが『月世界旅行』でやってたのと同じ方法を模索してたわけね
「アリゾナの砂漠に戦艦アイオワに匹敵するほどの大きさの巨大大砲を建設し、異常性エネルギーで用いて宇宙空間まで物を飛ばす
「このあまりに突飛すぎる計画はそれ用の技術までわざわざ体系化しておいて、またエネルギー弾を発射する試作機まで作って結局立ち消えになり、代わって実行されたのはご存じ『スペースシャトル計画』なんだけどね」
「それがうちの学校に?」
「わかってんじゃん
「なんで私がこんなことを思いついたかというとね……
「一回調べたのよ
「この建物を建てた会社の素性をね
「会社自体はまぁ全うと言っていいものなんだけど、面白いことにその社長、有名な陰謀論者なのよ
「だからどうしたって?
「あなたたちなら五島勉という名前を知ってると思うわ
「『ノストラダムスの大予言』を書いたやつね
「社長はそれと同じ思想を持っていて、つまり1999年7の月にアンゴルモアの大王が攻めてくるとおもってたのよ
「ただこいつが違うところは、莫大な資産と闘志を持っていたという点ね
「一回そいつの本を取り寄せてみたんだけど――AMAZONで星2.8だったわ――、こいつは長崎に恐怖の大王が君臨するのだとクッソ雑な7行詩の解釈の下断言してた
「そしてね、後書きに『策は講じている』って一文が……」
怪談でもするかのような口ぶりになった林歌。
実際その策とやらがうちの合宿所のことだったとしたら怖いのなんの。
「じゃぁ仮に本当にマスドライバーが仕込まれているとしようか
「まずこの大砲を稼働させるエネルギーに関してだけど、チャージ時間を5年くらいとる覚悟があればまぁ大丈夫なんじゃない?
「前やった名大の異学の問題が丁度こういう場合のチャージ時間を求める問題があったけど、それを鑑みるに、普通の場所だったら溜まってってもおかしくないね
「これ以上煩雑な計算はしたくないから、発射可能な状態になっていたと仮定してもいいわね
「そういえば南棟は基本的に人気のない場所だからね、秘儀を行使するにはぴったりね
「ズバリ今回の事件は禁断の儀式によってマスドライバーのエネルギー貯蔵部分の均衡をぶっ壊したが故の悲劇の事故だったんだね!」
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「感想は?」
林歌は沈黙を苦としない人間だった。
「『CHAOS:HEAD』の世界観に『逆転裁判』のトリックをつなげて『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 超常心理分析書』で味付けして劣化させたみたいだね」
菰公が言った。
簡略化すると『無駄に難解だし雑だし考えが足りんし何より意味が分からん』とでも言う意味になる。
私も同感である。
「え~、面白いじゃん。 ってか、意味不明つっても、やってること『ダヴィンチ・コード』と同じだからそんなもんだよ?」
……ん?
「……一応聞いとくけど今の話ってどこまでが本当なんだ?」
嫌な予感を覚えたと思われる菰公が訝しげに質問した。
「『策は講じた』の一文云々までだね」
「……この合宿所ってそんな胡散臭い人物が建てたの?」
林歌はニカっと笑って頷いた。
……怖っ。
「……じゃぁ気分転換に私の推理を披露しようか」
菰公は珍しく気圧された感じで言った。
「私は性格上論理的思考が得意じゃないから、少し穿った形で推理してみようかな
「なんで朋がこんな問題を出したのかという側面から、ね
「私の知ってる朋の趣味嗜好からは、ああいう状況にあってこんな問題を出すのはそんなに想像しやすいものではないんだよね
「さて、何故図南朋はこんな問題を出したのかな?
「考えられる可能性はそこまで多くない
「最有力は『気まぐれ』ってやつだけど、この際面白くないので除外するね
「ここで奇妙なのはこのクイズがこの合宿所を舞台としているということ
「これはこのクイズが既製品ではないことを示している
「しかしながら朋は私たち自身の質問に少し詰まる程度でスラスラ答えていた
「これは彼女の中ではストーリーが完成していることが分かる
「そういえば今日南棟、このクイズの舞台で漏電が原因らしい爆発が起こったらしいな
「事件に関して、朋が唯一断言しなかったことがある
「それは目撃者の情報、よりふんわりしたくくりにすると、『捜査する側の情報』だ
「事件に詳しく、かつその情報だけを持たざる者
「……朋、お前は何をしたんだ」
……うん、目の付け所はいい。
事件への関連云々も事実だ。
だが途中からおかしい。
「……せめてお前なんで犯人がこんな自白まがいのことをする必要があるのかぐらい言えよ」
菰公は本人も言う通り元来センスだけで考えて動く人間なので、今までの論理的思考は後付けであり、それゆえ図南朋が犯人でなかったとして事件関係者である可能性はまだ残っているといった思考修正ができる人間ではない。
「……御免、朋。 ……怒ってる?」
「逆に聞くけどお前はどう思う」
「……怒ってると思います」
古来稀に見るレベルでしおらしい菰田由借である。
「今は許しておいてやるが、次同じような空気作ったら前勢いで撮ったかなり露出度が高いバニーコス匿名で流すからな」
「そんな爛れた関係なのかお前ら」
林歌も若干引いている。
このように人を犯人呼ばわりすることは何ら良い結果をもたらさない。
菰公には重々反省してほしいところである。




