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 第三十四章 『どうして?』

 野球部の、そして演劇部の合宿の最終日である。

 演劇部はこの日に合宿場裏のキャンプスペース(山岳部とかが使うとこ)でっかくバーベキューパーティをするのがしきたりとなっている。


 「妙にいい肉使ってるのね。 演劇部」


 「たくさん一気に買うと安いのよね~」


 車胤君と林歌となぜか菰公もいる。

 この四人でコンロ一つを囲んでいるわけだ。

 ほかのグループも各々コンロを共有したりしてBBQを楽しんでいる。

 私たちは四人ははおのおのそこそこの友達がいる訳なのだが、私たちは四人で一緒にいるのが好きだった。

 木炭のはぜる音が夜の森の静寂を満たしている。


 「意外だな~。 この二人のコンビ」


 「5年一緒にいてまだコンビが板についてないのはいけないねぇ」


 菰公はそう言ってでっかく切った牛カルビにたれをべっとりつけて口に入れた。


 「みゅ~! 美味い!」


 「菰田さんってちょくちょく奇声を放つよね」


 車胤君は鶏肉を口に入れながら言った。


 「そういうキャラでやってんのよ」


 そういいながら私は塩レモンだれをつけた豚肉を三枚一気に口に放り込んだ。


 「なんか面白い話ない?」


 四方林歌だけはBBQに満足していない。

 彼女は常々面白い情報のインプットさえあればエネルギーの摂取なしでも生きていけると豪語している(※死にます)。


 「わかった。 こんな話があるわ」


 私は密室状況下で起きた奇妙な殺人事件の話をした。

 それは固有名詞を伏せた会津さんの事件そのものの話だった(ただし最後の爆発はもろに今日起こった()()を彷彿とさせるので怪しまれないためにもカットした)。

 目撃者云々の事件に関係のあることは勝手に追加してほしいと伝えた。

 クビツリハイスクールでいーちゃんが看護師さんにした話とおんなじ要領だ。

 話は終わった。

 しばらく質問に答えて情報を補完した。

 そうして場には再び木炭のはぜる音と、さらにBBQが佳境に入った証として脂のはぜる音が響いていた。 夜闇はさらに濃くなり、見えるのは焚火に照らされた三人の顔で、やたらと真剣になっている彼らだけだった。

 実はこういう時の菰公の顔は結構好きだ。

 それからしばらく時間がたち、四人で計2㎏の肉を平らげたくらいでまず車胤君が仮説を組み上げた。


 「えっと、最後にもう一回聞くんだけど、このクイズの事件ってこの合宿所で起こってると考えていいんだよね?」


 肯定する。


 「外では野球部が練習してたりする?」


 もう一回肯定する。


 「そして魔法は使われていない」


 「うん、ノックスの十戒ルール5」


 車胤君は一歩コンロのほうに進み出た。

 つまりは皆の中央に近づいたわけだ。


 「うん。 そうしたらひとつ面白い仮説が挙げられる」


 車胤君は天を指した。


 「すなわち密室状況は誤認だったのではないかということだ」


 なんかノリが変わってる……。 車胤君ってこんな人なんだ……。 ギャップ萌え、……しねぇな。 うん。

 車胤雪はもともとそういう気配を醸し出していた。


 「説明しよう

 「僕の推理では犯人が被害者をあの部屋で殺した理由はすなわちアリバイの構築、より厳密にいえば殺害時間の誤認を促すことだ

 「そもそも考えてほしんだが、の現代日本で爆弾が犯罪に使われることがそうあるだろうか

 「ほとんどないということに異論はなかろう

 「しかし、この事件では爆弾が使われている

 「おそらく火薬ではなくガソリンなんかを使うやつだな

 「この方法に固有の特徴とは、その爆発時に発生する爆音だろう

 「ある時間にそのような爆発音を聞き、またその後に爆死事件があったと知った者がどう思うだろうか    

 「もちろん、その爆発の結果がその爆死事件だと考えるだろう 

 「これが犯人の狙いだ

 「まず被害者を件の部屋で殺害する

 「この際はナイフか何か普通の凶器を使ったのだろう

 「この後ガソリン爆弾を設置する

 「部屋を吹き飛ばしてしまわないほどの威力のをだ

 「この後死体を設置する

 「爆弾の爆風が届くくらいの位置にだ

 「その後犯人は時限装置を作る

 「時計の針と糸を使った物理的な奴ならなんぼでも作れるね

 「そして犯人は部屋から出て、アリバイを作る

 「彼が他人と一緒にいるときに爆発が起きればいいだろう

 「密室に関しては、爆発時に棚なんかが倒れて、鍵を押してしまっただけの話だろう

 「そして犯人は何食わぬ顔で事件の報せに驚愕する

 「ここに名探偵がいることに気づかぬまま」


 ……これでまだ車胤君への思いが健在なのだから、私は確かにちゃんと恋をしているという事なのだろう。

 場の全員がげっそりしていた。

 そのうえいい肉でおなかが一杯で、最後にみんなにふるまわれたインスタントのカップスープ(私はキノコスープをいただいた)でお腹の芯が暖かくなっている。

 突っ込む気力もありはしない。


 「……悪い癖でてるよ」


 林歌まで声が小さくなっている。

 パチパチと木炭のはぜる音が絶え間なく続いている。


 「にゃ~、雑ぅ~。 どこから突っ込んでいいかもわからにゃい~」


 菰公が言った。

 倦怠感が漂っていた。

 このことはほかのグループでも同じで、だんだんお開きの空気が強まってきた。

 片づけは演劇部がやってくれるそうだ。 


 「あとは私の部屋でね」 


 私は女子二人と約束した。 

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