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 第三十三章 『過去証言画像』

 「……成程。 こんなことが」


 私は白鳥さんから渡された会津さんへのインタビューの音声記録を聞き終えた。


 「むぐっ……彼女はもう記憶処理しました。 あむっ……本人の意向もあります」


 「彼女相当消耗してたみたいだしね。 それはよかった。 このインタビューの記録を鑑みるに彼女の変身アイテムはカウンセラーの役割を果たしてくれてたみたいだけど、その記憶まで消えてたりする?」


 「あぐっ……大丈夫です。 もぐっ……昔はそういう手違いもあったりしたみたいですが、ごくっ……ARC-5635の反省からそういう事が起きないように、あむっ……我々はその手の処理の時には細心の注意を払ってます」


 「安心安心。 ……ところで何食ってんの? まだ6時だけど」


 白鳥さんはついさっき口に入れたばかりの料理を飲み込んで言った。


 「何って、おべんとのばくだん丼ですよ。 マグロと納豆とオクラと生卵を混ぜたものですよ。 よかったら一口いかがですか?」


 そういいながら彼女はでかいまげわっぱの弁当箱からでかいスプーンででかい一口を掬い取った。


 「まぁ、欲しいかな。 ただ、普通弁当で生モノ食べるかなぁ……ん、ありがと」


 あーんしてくれた。

 なかなかうまい。

 結構わさびが効いてるから多分弁当用に配慮されてるやつだ。


 「ちゃんと保温してるから大丈夫ですよ」


 ならばなおよし。

 北棟の会議室、午後6時を回り、夏の残照が差し込む部屋の中で私は捜査資料を読んでいて、白鳥さんは早めの晩御飯をもしゃもしゃ頬張っていた。


 「むぐむぐ……、なんか思ったことあります?」


 「……会津さんって結構サブカルに造詣があるんだね……」


 私でもここでズゴックは出ない。


 「あとこのフィギュアってどういうやつ?」


 「これ」


 白鳥さんはスマホの画面を私に向けた。

 女の子らしさはない妙に武骨な奴だ。

 写っていたのはデススマイルズのフォレットのフィギュアだった。

 多分高さが30㎝位ある。


 「3Ⅾプリンターとか使って自作したやつね、これ」


 「そうなんですか?」


 「私がTwitterでフォローしてるやつで野生のモデラ―がいるんだけども、そいつが丁度こういうのを3Dプリンターを使って作ってる―そうbioに書いてあった―から。 つうかマジであいつの作品かもしれないわね。 ……そういやもるどんの野郎steam版大復活買ったって前」


 後天的にケイブシューにはまる奴は『デススマイルズ』『怒首領蜂大復活ver1.5』『エスプガルーダ』のどれかがゲートドラッグの役目を果たしたゆえであると相場が決まっている。


 「そうですか……」


 特に興味もなげにそう言うと、白鳥さんは隣の椅子に置いたナップザックからA4サイズの画用紙を取り出した。


 「ちょっと図南さんからも証言が欲しいんですけれども」


 「なんの?」


 「まず一つ、魔法は使いましたか?」


 「現場の状況です」


 ??? 

 

 「いや、その、『ヴァンダリズムに反逆を』さん? 彼女ならその場の状況を逐次把握してるはずだけど」


 話を聞く限りでは初変身の時には実際そういう事が起きていたように思える。


 「それが……できないんです」


白鳥さんは暗い顔をして再びスマホの画面を見せてきた。

 画面には黄土色の土塊が映し出されている。


 「え?」


 「現場に残されたARC—014-jp-3—27は異常性を喪失しています」


 白鳥さんはそういうとスマホをしまった。

 その顔は『殺された』と言っているときの顔だ。


 「……言いたいことはわかりましたよ」


 私は白鳥さんから2Bの黒鉛筆を3本受け取った。

 目を閉じる。

 凄惨な事件現場の画が浮かぶ。

 瞬間記憶が全く衰えていないのはとてもいいことだ。

 鉛筆を手に取る。

 輪郭を描き面を塗り影をつける。

 30分くらい、ちょうど白鳥さんがどこからか取り出した栗ようかんを半分くらい食べたところで、私は事件現場のスケッチを完成させた。


 「……覚悟してたよりグロくないですね」


 「私の力不足ね」


 私は白鳥さんにスケッチを渡し、代わりに彼女のおやつを横から奪い取った。


 「これも美味しい」


 レモンやら何かしらのアジアンスパイスやらが効いてる。


 「なんで盗るんですかぁ」


 「何に見えた?」


 しれっと話を変える。


 「……人が死んでますよね」


 うん。


 「体の前半分が灼けてます。 それが見えるって事は体は体側……左体側を下にして横たわっています。 ……衣装は彼女の証言通りに見えます。 床が焼け焦げています。 焼夷弾でも使ったのでしょうか。 ……楽器室ってこんなに散らかってるもんなんですね」


 「そこはぶっちゃけあんまりまともに使用されてるとは言いづらい場所だし」


 私が思い出して書き込んだ分だけでも、木魚シタールブブゼラリソフォンそして異常に大量のメトロノームあたりはまぁ楽器室にあってもおかしくないものであろうが、エジソンの電球にポリネシアンな謎の像やらマトリョーシカやらテディベアやらショットガン(銃撃機構を取り除いた飾り)やらサーチライトやらわさびおろし器やら信楽の狸やらのガラクタ(置き去りにされているというのは少なくとも元の所有者はそう思っていたという事を示している)が一杯。

  爆発の衝撃か机がいくつか倒れており、電球なんか床にたたきつけられて割れてしまっている。


 「全部焼けても特に損はしないわね」 

 

 「そうですね……。 それはそうと、この部屋は俗にいう密室空間になっていたそうですが」


 「うん。 この部屋に限らずこの館の扉はすべて足元にかぎがあるの。 私が強化ガラスをあぶってカギを開ける前は、確かに扉は固く閉ざされていたわ。 それに……」


 脳内の映像を探る。


 「換気扇、蛍光灯……異常は何もないわね」


 「……難しいですね」


 わかる気配がせん。


 「現場検証とかは、……できないか」


 南棟は爆撃で廃墟に……、ん?


 「あのブラックハートみたいな私たちの敵って、我々魔法少女と同じでぶっ壊せば影響が無かったことになる奴じゃないの?」


 「そこも謎ですね……。 現在現場に残された残骸を回収し分析中ですが、私の感覚でも特に今までのデ、失礼、ARC-4999-jp実体とは大きな違いがあるような気は感じられませんでした」


 気とか読める人なんだ……、白鳥さん。


 「因みに会津さんが出会った奴は恐らくARC—5326の亜種だと思われます」


 「分かったわ」


 私は白鳥さんを睨みつけた。


 「そういえばちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 「何ですか?」


 「花鏡さん、分かるよね?」


 「はい?」


 「彼女、倉祁イズミだよね?」


 Vtuber倉祁イズミは有名STGプレイヤーにしてRTA走者でもある。

 つまり私の好きなタイプのyoutuberであり、最近Vtuberになった我々天帝のはしたなきPのライバルでもある(登録者数があっちにクインティプルスコアつけられて負けてるのは密に密に)。


 「そうなんすか?」


 「知らないんだ」


 「そういうのにあんまり興味ないんです」


 私は無言でスマホを取り出し、ひそかに用意していた倉祁イズミの生配信を開いた。


 『天帝のはしたなきPさ~ん、えっ、本物っすか!? とにかくスパチャありがとうございま~す』


 このタイミングでスーパーチャットが読まれたのは偶然である。

 その声が花鏡さんのそれそっくりなのは偶然ではない。


 「……へぇ~。 私も見てみようかな」


 「面白いよ? ゲーム滅茶苦茶上手いし」


 それからは過去の動画で私が面白いと思ったものを何個かチョイスして一緒に見た。 

 そうやって無垢な女の子をVの世界に引き込んだところで、私は時間が結構立っていることに気づいて、

 白鳥さんにさよならとあ~んへの感謝の言葉を言って部屋を出た。

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