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 第二十六章 『Thaumielクラスオブジェクトの報告書記述例』

 私はエージェント・大鴉が不肖エージェント・小野寺謹製のARC-014-jpの報告書第一版とカバーストーリー版に目を通し終えるのを少しばかり緊張しながら待っていた。

 彼はARC機構日本支部九州支局管理官、つまり私の上司である。

 そのうえ現在私が指揮を執っているARC-014-jp収容作戦、プロトコル・インキュベーダー(始動当初は別の名前がついていたのだが、私の提言した魔法少女逆利用案を享けて改名、改編された)の直属の最高責任者(実働班の責任者は私だが、彼は後見とでも言える立場だ)である。

 つまり何が言いたいかと言うと彼は私を潰せる。

 コワイ!


 「まぁ、特に問題はないな。 小野寺の英才教育とやらも中々功を奏していると見える」


 どうやらお眼鏡にはかなったようだ。 私は気取られないようにほっと息を吐いた。


 「少し質問がある」


 そう言った上司のこちらを射すくめるような目線に私は瞬時に身を固めた。

 そもそも私は彼の目からあまり上手い事感情を読み取る事が出来ない。

 彼はその名の通り鴉なのである。

 ARC機構においては、ニホンカナヘビ、バスケットボール、ポルシェ、AIなどが人間様と同じような立ち位置を得ている。

 非常に人権派な組織である。

 しかしそれでも、鴉がサイト内を徘徊し人語を喋り、あまつさえ収容計画の諮問、質疑までする。

 これには困惑せざるを得ない。

 ここ数ヶ月九州支局の所属職員は皆鴉が人間そのものの振る舞いをしている光景にサニティを削られていたのである。

 それに『質問がある』などと言われたのだ。

 ビビるわこんなもん。


「第一に、概要欄に『ARC-014—jp-2-ε以降はARC-014—jp-1の手ではない自然生成された物品であると考えられる』とあるが、ここに至る説明が不十分に見える。 一応類推は出来るが、きちんと説明してもらえるとありがたい」


 「お答えします」


 私は姿勢を正して云った。


 「ここで述べられている通り、ARC-014—jp-2は人造の異常兵器であると目されていますが、ARC-■■■■による解析では、現状我々が発明編纂してきた如何なる異常言語とも異なる言語が使われています。 現在、機構暗号部門で語彙抽出法による解読も進行しておりますが、解読率は未だ1%にも届きません。 言語自体が機構の常用言語はおろか、異学会の符号や蒐集院、異蝶、負号部隊の術式とも異なる物であるのも理由の一つですが、すべて未知のセーフティガードで守られているというのも理由としてあります。 一応非破壊検査による最低限の調査で、機能を置換する形でなら既成の言語による編集自体は可能だと推定されていますが、現状、セーフティガードが破られなければそれも厳しいと考えられます」


 息継ぎ。


 「さて、先述のセーフティガードですが、ARC-014-jp-n以降の物はセーフティガードの組成が異なり、一部に既存の言語が設定されており、恐らくこの世界が発生源であると考えられます。 ……流石に、『自然』は修正した方がいいですかね?」


 「好きにすればいい。 第二に思う所としては、お前の協力者の選定基準が具体的に示されていない点だな。 完璧を忌避するのはお前の組織ー蒐集院ーの風潮ではあるが、出来たらそこのところも明らかにしてほしい」


 成程。

 こちらの質問はまぁ、想定はしていた。

 そのうえで報告書にその理由を記入しなかったのは、一重に報告書作成レヴェルのお仕事に手馴れていなかったからに過ぎない。


 「お答えします」


 私は言った。

 声がデカくなりすぎていて自分でも仰天した。


 「当オブジェクトにおいて、変身者の戦闘力、拡張性を第一に左右するのは想像力を持って他にないと言う事はそのに記しております」


 「うむ。 此処を以って我々はこれを対異常兵器へ転用する案を認可したのだ。 思考反映型オブジェクトとしては比較的反映の仕方のコントロールはしやすいからな」


 「現在私が機構の人間である事を知らせている人間は、異常の世界の人間である断月真易氏と白鳥眉見研儀官、そしてわれらがリーサル・ウェポンことスージー・メアリーさんを除けば、『花鏡水月』、『図南姉妹』の三名です。 彼らにここまでこちらの泣き所を曝しているのは、彼らが先述の『想像力』に平均をはるかに超越しているからです」


 彼らは私の価値観をはるかに逸脱する低年齢から創造職に従事していた。 前者はゲーム制作者並びにゲーム実況者(ただ初見の図南妹にバレる程演技はつたなかったりする辺り、射程範囲はあるらしいが。 後不登校設定は必要だったのだろうか、長崎高専(偏差値69)通いがそんなに嫌か)、後者は漫画家兼イラストレーター。

 それによってブーストされたのか、そもそも能力があるからそんな経歴を辿ったのか、兎に角想像力が桁違いだった。


 「添付画像ARCー014ーjpー1ー6,7番を参照してください」


 「確かにこれには違和感を覚えたな。 ……クオリティが高すぎる」


 その通り。

 クオリティが異常に高い。

 大体の魔法少女は初期状態ではコスプレをした人間が半身を金属化機械化させたような見た目をしているか、この二人は初期段階から独立した魔法少女のコスチューム、世界観を有し、尚且つ他と比べて超越的な戦闘能力を持っていた。

 つまりは、最初から完成していたのだ。


 「真に私が彼女たちを登用した理由は、その力を味方につけたいと言うよりかは、その力を敵に回したくないからと言った方が適切でしょう。 インシデント記録:ARC-014-jp-1が低脅威度の事案に収まったのは一重にあの魔法少女が彼女たちのような想像力を持たない一般的なタイプだったからにすぎません」


 私は話を終え、ゆっくり相手に聞こえないように息を吐いた。


 「いかがですか? 」


 上司にかける言葉にしては挑戦的になってしまったか。


 「成程筋は通っている。 有効取扱手順の中の『プロトコル・インキュベーダー』を説明しているブロックに添加し給え」

 「了解致しました」

 エージェント・大鴉は私の返答を聞き届けると、そのまま椅子から飛び降りた。

 鴉に押し開けられるほど長崎蒐集寮サイトの耐衝撃ドアは軽くない為、彼が通るには誰かがドアを開けてやる必要がある。

 私はドアに体重をかけて通る道を作ってやり、鴉が廊下の向こう側の辻を曲がるのを空いた隙間から見届けるとすぐに占めた。

 今度は周りなど気にせずに溜息を吐く。


 「いや~。 期待のルーキーも大変ですなぁ〜」


 どこからか声がした。

 私は一瞬固まり、やおら周囲を見渡した。

 真夏の日差しが照りつける午前11時の研究室。

 対爆ガラスは締め切られ、ドアの方部屋の隅々、どこにも人影はない。


 「こっちだよ」


 また声がした。

 窓を叩く音と一緒に。

 窓? 私は窓の方を向「ひっ!」


 窓の外には巨大な機械が屹立していた。


 夏の強い日差しで逆光になったその影はまるでネス湖に今も生き続けているというARC-3934……いや、  「赤村さん。 何か用ですか?」


 私は機械ー恐ろしくデカいマニュピレーターーの姿の映る窓の横の窓を開け、下を向いた。

 中庭に立っている中肉中背の人影はまさしく赤村香修理工の物であった。

 彼女はARC機構日本支部に所属する職員の一人で、担当は機械整備。

 機構の職員には誰しも多かれ少なかれ何かしらの異常性があるのだが、彼女のそれは背中に背負ったリュックサックから伸びた五本のマニュピレーターである。

 マニュピレーターと聞くと何やら繊細な機械のイメージが想起されるかもしれないが、彼女のそれは作業機械建設機械のアームがより合わさったような異形の物体であり、メタルマックス辺りに出てきても何の違和感もないであろうごっつい代物である。

 それを日本の平均身長とさほど変わらないサイズの彼女が腕として、足として、口(腕の中でも『公』と呼ばれている一本にはマイクロフォンとスピーカーフォンが搭載されている)として意のままに操っているのである。

 彼女はこのアーム五本に『Carr』、『紀伊』、『空』、『K』、『公』と名前を付けて、高校生の頃から可愛がっている。

 一応メカノフィリアとか言う訳では無いらしい。

 それ以外では夏目漱石とディクスン・カーと登山(勿論リュックと一緒に)が好きな一般人である。

 「うん。 これ」

 彼女がそう言うと、私の開けた窓の方へ、アームのうち一つ(確か、紀伊)がにゅっと突き出してきた。 それは私の手の上で止まった。

 私は手のひらで物を掬う形を取る。

 すると、アームの先端の鈎が開いて、白い物が落ちて来た。

 USBメモリ、機構では一般的に使われている工業用の奴だ。

 「これ、科研二部の方から。 ARC-014—jpの検査報告」

 私がUSBメモリを受け取ったのを確認し、彼女(私の視界にあるマニュピレーター)は向うの方に歩いて行った。

 私は適当な机に置いていたマイラップトップにそれを挿し、中身を読み込んだ。

 ファイルが二つ。

 上にあった『ARC-014-jp-2非破壊検査報告』の方をまず見てみる。


 「……嘘から出た真、か」


 表示されたプログラムの解析結果はある意味恐ろしい物だった。

 汚い。

 その一言に尽きる。

 無傷でサルベージされたデータは全体の六割強程度だったが、それでも気色悪い。

 まるでBrainfuckでも使ったかのような冗長極まりないそれははっきり言ってウチの超研でももうちょいましな出来のを作れるだろうと思うほどである。

 一番きれいに残っている部分の写しが添付されていた。

 どうやらそこは魔法少女の変身者の設定に関する部分で、『魔法少女まどか☆マギカ』、『魔法使いプリキュア』、『美少女戦士セーラームーン』などが例示用にリストアップされている。

 こういう風に創作物から本歌撮りするのは異常編集においては定番の手法である。

 しかし汚い。

 このままだとSAN値が持たないので、もう一つのファイルの方を開いた。

 前回の原始の島での戦いで回収されたマホウショウジョ・ターミネーターの使役する化け物の死体のDNA鑑定の結果である。

 実はマホウショウジョ・ターミネーターの正体についてはかなり有力な説が出ている。

 この結果によってはその説の正しさが即座に証明される。 私は職員番号を打ち込み、ファイルを開いた。


 「……っ!」


 その遺伝子は、エイティーン・ナインズでヒトゲノムと一致していた。

 ここで説の正しさは大方立証された。


 「現在DNA照会中、か」


 今のところこれが決め手となることはないだろう。

 そう落胆したその時突然底抜けに明るいSFC音源のグリーグリーンズが流れ始めた。


 「はい。 小野寺です」


 『小野寺さん! 緊急事態です!』


 図南朋の声だ。


 「何があった!」

 途端に彼女の声と同じくらいに私の声は焦りの色で染まってしまった。

 いつも無表情な彼女が此処まで感情をあらわにする状況とは、なんだ? 

CC BY-SA 3.0に基づく表示


赤村修理工の人事ファイル 

by repeya-

http://scp-jp.wikidot.com/author:ripeya


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この小説の内容は『クリエイティブコモンズ 表示-継承3.0ライセンス』に従います

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