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 第二十一章 『帰りに寄りて幽かに』

 「いやはや、ここまで身近な人間がARCオブジェクトを手に入れる事があるなんて。 事実は小説より奇なりってこういう事を云うんですかね」


 「私もこんな仕事してる訳だからその渦中の奴はウン百人は見て来たけど、まぁ日本国民全員を分母に据えたならそこまで多い訳でも無いし、その形容に過不足はないかな。 多分」


 状況が判らん。

 目の前で机についている二人が異常なのではない。

 車胤雪君と断月真易さんである。

 その二人がこの店の自慢らしいハンバーグステーキセットを前に何やら感慨深くべしゃりあっている。 

 それと私feat.微妙な疎外感。

 事の発端は先の戦闘からの帰り、魔法少女のまま(熱属性魔法と違ってその方が疲れない)空を飛んでいたら、バレた。 いや私も相応の警戒はしながら飛んでいたのだが、まさかちょうどいいタイミングでちょうどいい方角の丁度いい夜空をぼんやり見ていて、なお且つこちらに電気属性魔法(脳内パルスを操作してテレパシーを送るのが一般的な使い方だ)で直接語り掛けて来る数寄者がいるとは思わなかった。

 それが四方さんの誕生日プレゼントを買った帰りだったこの車胤君であった。

 魔法少女モノで身バレは相当な事件、あまつさえ私の好むようなブラックな奴になると(タナトス)(エロス)のどちらか(両方悪い向きだが)に傾くこと必定である物の、幸い彼との邂逅にはその様な心配はなかった。

 その安寧を齎したのが衝撃の事実、彼はアブオタだった。

 アブオタ。

 Abnormality Otakuの略である。

 直訳すると異常オタク。

 異常なオタクでは無く、異常のオタクである。

 つまり異常存在など異学の管轄内にある種々の存在のマニアである。

 私達軍オタと四方さんなどのミステリマニアと並び、三大『人死んでるんだよ?』に反論できない趣味であり、こちらから一目惚れしておいて未だに彼を高嶺の花と思っていた少女にとっては意外な事実である。 オタッキーな事に違いはなかったのだ。

 これだけならまだよかった。

 ガッツさえあれば急接近用の話題に出来る事を加味すれば寧ろ喜ばしい事実ともいえる。

 しかし、目の前の魔法少女唯一人の存在にすらテンションが爆上がりしていた車胤君には僥倖、私にとってはさらに事態を面倒くさくする存在が。

 小野寺さんの言葉だったか、異常存在と魔法少女は惹かれ合うのである。

 魔法少女は異常存在である。

 初歩的な三段論法、よって魔法少女は惹かれ合う。

 図南朋が魔法少女になった経歴を話す私と、それに聞き入る車胤君の友愛の輪に乱入してくるBV163. 断月真易の臨場である。

 私たちが二人で原始の島を掃討しなければいけなかった理由である異常専門の人たちの仕事は終わっていたらしく、魔法少女のまま呑気に空を飛んでいると、魔法少女の気配。

 すわ把握していない即席魔法少女(彼女らは例の謎の女を経由せずにそこら辺のオブジェクトを拾って魔法少女になった奴をこう呼んでいる。 ネーミングセンスェ……)かと飛び込んでみると変身状態で男と話し込んでいる私がいた。

 と言う訳である。

 新たな魔法少女それも事情通の登場に車胤君のテンションは最高潮に達した。

 ここで車胤君は一計を案じ、話せる時間を一秒でも増やすために、私たち二人を自分の行きつけのレストランに連れ込んだのである。

 料金は向うの奢り。

 二人とも腹は減っていたのでありがたくついて行った。

 高校生の行きつけと聞いててっきり大衆的な食堂かと思ったが、いざ来てみるとその店は中心街、球場の近くにある洒落乙なレストランだった。

 普通にデートで連れてこられても許せる。

 これは無理しているのではないかと思ったが、車胤君が店に入った途端、エントランスから見渡せる作りになっている厨房の方から店長(と言うか、“シェフ”)がにこやかに車胤君に話し掛けて来たり(詳しい内容は判らないが、『諸手に花』とかは聞こえた)もしたので、安心して席に着いた。

 客は結構いる。

 車胤君の家はウチ程お金持ちではないので、お値段も普通にリーズナブル。

 車胤君おすすめのハンバーグセット、税込み890円也。

 注文してから品が届くまで二人は喋り通しだった。

 届いてからも。


 「あの~、冷めちゃいますよ?」


 「あ、いただきます」


 「それ冷めても結構いけるんですよ」


 なぜ半年の付き合いの私が30分前に車胤君と顔を合わせただけの女に引けを取っているのだろうか……。 

 「やっぱりこういう現象系は結構大変なんですね」


 「本当に、勝手に仲間殺すバカはいるし、勝手に行動してグループ諸共自爆する奴いるし、あまつさえマホウショウジョ・ターミネーターまで……」


 「何それ?」


 魔法少女を対物ライフルで蜂の巣にするアーノルド・シュワルツェネッガーの映像を頭に浮かべた私は、その悍ましい映像を脳内から引きはがしながら問うた。


 「言ってなかったっけ……、扶桑ちゃん襲った奴、あれ」


 あの魔法少女にはそんな名前がついていたのか。 ……うん。


 「一切の情報を知らないそこの車胤君に伝わるくらい正確に話して頂戴」 

 

 「いや、僕は知ってるよ」 

 

 ……何故か本当に何も掴んでないぞ、その情報。 当事者なのに。

 「うん。 まずは名前だけど、私たちの収容しているオブジェクトに異様なガチョウ嫌いのロボットがいてね」


 「ARC-1675 『ガチョウ・ターミネーター』」


 車胤君が相槌を打った。


 「そう、それ。 まぁ詳しくはネットに挙がってる報告書の方読んでくれればいいんだけど。 そいつは偏執狂的にガチョウだけ(マジで学術的に正確な区分の元)を殺すのをライフワークにしている訳だけども、燈子ちゃんの管轄地区にも同じように魔法少女に憎しみでもあるとしか思えない奴が出没してね。 そいつがせっかく温存している魔法少女を殺しまくってるんだ。 別に現実に引き戻せば復活するし、クラスA記憶処理薬の予算もおりてるから別にいいんだけど、いちいち殺されるたびに相応の後処理がいるとなるとね」


 収容に支障をきたす。

 と言う事か。


 「ホントに動機判らないの?」


 「全く。 見た目は普通の魔法少女なんだけれども、なんか気持ち悪い肉の触手みたいなのを大量に伸ばしてくるから見るだけでSAN値直葬だし、異常に性能は良いから、本当に面倒なのよ。 

『神山スレ』って知ってる? あれで語られた事件の後から今まで何回も事件を起こされているのよ あれを確認してから、燈子ちゃん、ずっとカリカリしてて、前の戦闘であなたがタイマン張ってた時、あの子、躊躇いなく多弾頭ミサイルをぶち込もうとしてたのよ。 貴方を巻き込んで」


 「そこまで異常存在が憎いなら彼女も人の事言えないと思うけど……」


 頭の中で目が逝っちゃってる小野寺さんがミサイルを乱射する絵図を思い浮かべてみる。

 ……認めたくないが、似合って(しまって)いる。 


 「4年の付き合いになるとは言え、勿論私も彼女の全てを知っている訳では無いが、それはあり得ない。 あれは寧ろ異常存在の方が人間より好きかもわからん」


 「と言うと?」


 「彼女自身も言ってたと思うけど、彼女は生まれが相当ややこしい関係で小さい頃は基本的に機構の職員として監視下で暮らしてて、その過程で某要注意団体の担当エージェントの下に就いて京都の方に居たの。 その過程で色々な人型実体に出会って、今迄の人生の関係で人間よりかは寧ろ彼らと仲良くなってたりする訳ね。 機構のスタンスとしてはあんまり褒められたもんじゃないけど、しょうがないのよね。 今でも深き海の王とはメル友だし、立花さんにはよく漫アゲを薦めてもらってるし、樹君には数学を教えてもらってる。 詰まるとこ、彼女は今でも異常存在には好意的なのよね。 はっきり言って私も彼女が何故あいつにあそこまで執着するかはわからない」


 あれにもそんな悲しい?過去があったのか。

 まぁ普通の高校生は異常組織の一員として活動していることはまずないだろう。


 「断月さん。 それでも初期の陽キャラムーブをほぼ見せなくなったのはきついんですけども」


 断月さんは腕を組んだまま食べかけのハンバーグステーキを見つめて何か考え込んでいたのを中断して、ふと顔を上げた。


 「真易、でいい」


 「あ、はい。 それで、ぶっちゃけた話、小野寺さんて私たち姉妹の事って、どう思っているんでしょうか」


 断月さんは物思いにふけるような格好でぼんやり天井に目線を流した。


 「そもそも私と当時は人間の友達が文字通り一人もいなかったあいつとが出会ったのはあいつが長崎に帰ってきて中学で一緒になった時だからな。 例のきゃぴきゃぴした動きは私が一年かけて調教したものだからてっきりもう板についてると思ってたんだけど。 なんだかねぇ……」


 「でもなんとなく悪い人じゃない事は判りましたよ。 真易さんもそこそこ人を見る目があるように思えますし」 


 「それはどうも」


 真易さんはこちらに流し目を送ると、ふと思い立ったように手のひらをうった。


 「そうだ。 ちょっと今から写真送るね。 携帯ある? 」


 「あっはい」


 私が慌ててスマホを取り出したのと彼女が手のひらをすり合わせながら傍らの鞄に手を突っ込んだのが同時だった。

 彼女は鞄の中で何やらごそごそと操作し、私のスマホに彼女のラインアカウントから画像が送られてきたとの通告があった。

 写真を確認する。


 「……っ」


 そこに映っていたのは小野寺燈子とその恐らく家族だった。 

 面影がある。

 北海道だろうか、薄く雪が降る情景をバックに、自らも雪を少し被った家族がニコニコ笑って映っている。

 それは基本的に仏頂面を崩さなかった小野寺さんも同様で、歯をのぞかせてピースをしながらけらけら笑っている。

 それによりかかる彼女と瓜二つの姿。


 「彼女って、双子だったんですか!? 」


 「そう、今は事情有って離れて暮らしてるけど、……驚いた?」


 写真の右下の隅には、『家族四人水入らずで! 長野県五箇市』とクレヨンを思わせる太い字で書かれていた。

 間違いなく彼女の筆跡だ。


 「え、何、それで!? 」


 唯のジェラシー!? 


 「あの、熱くなってるところ悪いんだけども、その小野寺って、まさか二組の陰陽師の人ですか? 」


  横合いから私のスマホ上の写真をのぞき込んだ車胤君が訊いた。


 「そう。 ……ちょっと聞かなかったことにしてくれる? その事実」


 「分かりました。 唯、それ早く食べたほうが良いとおもいますよ?」


 車胤君は飽くまで第三者目線である。

 今回の心のクソ整理しづらい話題の渦中ではそれが心地よかった。

 私はだいぶ残ったまま冷気にじわじわ蚕食されていたハンバーグにナイフを入れた。

 製法のお蔭か、それは然程冷めていなかったのが幸いだった。

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