第二十章 『開幕第二戦』
私は家の屋上、冬にはフィルムを張ってサンルームとして使われる東屋に置かれたソファに一層体をもたせ掛け、イメージイラストを再びねめつけた。
私たち姉妹は自分が最終的に作業をするということを半分忘れた状態で設定を考える悪癖があり、今回はもろにそのダメージを受けてしまったことになる。
そのうえ、友人から借りてきた機械がコンビニのプリンター並みにでかい上にあまりにも絶え間なく高熱を放出してしまうため、どうせ密閉空間での作業は冷房の有無とか関係なく無理だろうと、気持ちを切り替える為にも屋上に出てきたのである。
作業自体はそこそこいい感じに進んでいる物の、それでもこの高熱はいかんともしがたい。
魔法を使うのも一手だが、そうすると精神の疲労が肉体の清涼を上回る未来しか見えないので、本末転倒である。
そんなことを考えながら借りた上級者向けの指南書を参照しながら深夜のテンションで導入してしまった日本面を処理していると、サイドテーブルに置いていたスマホが着メロの『Life is showtime』を奏で始め、一秒遅れて鳴動を始めた。
「はい、図南ですが」
非通知設定だった。
『小野寺燈子だ。 今手は空いてるか』
作業自体には締め切りと言えるものは設定されていない訳で、∞時間後に完成が見えていればよい。
心にはかなり疲労もたまっているので、ちょっとばかり体を動かせるなら受ける価値もあるだろう。
「まぁ、空いていると言えば空いています。 何の用ですか?」
『出撃指令だ。 私が管轄している即席魔法少女のグループが何者かの襲撃を受け、壊滅した。 花鏡と合流し、生存者の救助と襲撃者の掃討をしてもらいたい』
こればかりは予想できなかったこちらが悪い。
「ツーマンセルで?」
分身できる奴が相方とは言え、一人二人ではない魔法少女のグループを壊滅せしめた相手である。
『済まないがこちらはこちらで相手どらなければならん異常存在がいてだな。 本当に頼まれてくれないか?』
「OK」
私は承諾した。
最初に訊いた時から断る気は格別なかった。
私は内線電話で二階のアトリエに籠っている母に『友達のカラオケの二次会に誘われたので、休憩がてら行ってくる』と告げて(自身がそれでMMD作った経験を挙げてねぎらいまでもらった。 親もクリエイターだとこういう所は便利である)、私は携帯の下に敷いていた拳銃を引っ張り出した。
手渡された時に知ったことなのだが、これらは明らかに異常の編集の素人の製作品であり、私ですらやらかしたことのない『宇宙猿人現象』(元ネタは2chの某コピペ)と通称される不具合すら起きかねない代物だったそうだ。
今は改造済みなので危険はないが、想像するだにゾッとする。
私のイラスト通りの玩具っぽいデザインになった拳銃を空に向け、XF5Uフライングパンケーキの劇画風イラストがプリントされたクリアパーツ付きのマガジンをそのグリップに挿し込んだ。
『テキシュウ・カクニン・ヒアウィーゴー‼︎』
「……装着、フライングパンケーキマガジン」
手を振り下ろし、格納庫に銃口を差し込む。
『Fiying! Puncake! Guard!』
ベルトが発光し、電子音が鳴る。
『天空の大楯 フライングパンケーキフォーム‼︎ テイクオフ‼︎』
私の全身が一瞬転んだと気無ような衝撃に満遍なく包まれ、それが去るころには変身は完了していた。 岬ユリ子は電柱の脇を通り過ぎるだけで変身できるので、これくらい簡単に変身できても罰は当たるまい。
途端私は何処からか漂ってくる異臭の存在に気付いた。
いや、それがどこから漂っているかはすぐわかった。
住宅地からほど近い海上に浮かぶ巨大カブトガニの上に築かれた自然公園(旧日本生類総研から買い取られた物だ)の一角、昼でも森閑とした区画が日暮れをつい三十分ほど前に経験したと言う事もあって、本来なら木が倒れても誰も気づかないような一帯。
丁度私が到着した時にはそこでは場違いな銃声砲声が鳴り響いていた。
私は空中から場を俯瞰した、一面を覆う林冠のあちこちが崩壊しており、あまつさえ火災まで起こっている。
それでもスクラントン低現実領域のヴェールで隔離された外界からは、ここで戦闘を強いられている彼女らを認識する事は出来ない。
主だった戦闘は、森の中央部にある巨大な湖の縁辺で行われているようだ。
恐らく彼女らがせめて視界は確保せんとしてここに陣を張ったのだろう。
『壊滅』は、おおよそ人員の三割(戦力の六割)を喪失したことを言う。
召喚したレーダー(ご都合主義仕様)で確認できた生き残りは六名。
その相対している連中の約50分の一の絶対数である。
そいつらは私の知る如何なるオブジェクトにも近似を見いだせない代物だった。
そいつらは大まかに5タイプに大別出来たが、それらは全タイプ共通してアボカドのような緩い円錐形の胴体のとがった方の先の方にカタツムリのようなマリンバのバチ状の目が二つと鼻の孔があり、魔法少女にやられてひっくり返った死体の転がっていた奴を見るに、真ん中あたりの下部に切り込みを入れるような形で牙の生えた口が開き、足は胴体の一番太い所に恐竜のような三つ指が二本生えているようだ。
全ての種類で共通して、胴体の前半分は人間の皮膚のような肌色をしている。
後ろ半分はそれぞれ赤白、オレンジ焦げ茶、黒赤のまだら模様を知ている奴が三種おり、前者二つのちっこいバージョンを加味して、五種。
……なんか見覚えあるぞ。
私が二手に分かれた魔法少女を追って二手に分かれた一方の三百体ほどの連中が犇めく湖畔の上空にたどり着いた瞬間、足元でうごめいていた犬虫(以下連中をこう呼称)の数匹が向こうからこちら側へ高速で流れてきた烈光に横断されて消し炭になった。
目を凝らしてみると光の消えたかつての光源には見覚えのあるピンク色が。
どうやらあのパンクは既にここに到着していたようだ。
彼女は群れの中に一気呵成に突入していった。
私も犬虫の密集している区画の少し離れた所に着地すると、背中に納めていたGAU-8アヴェンジャーの砲身を構え、腰を落とした。
こいつは元々無改造の状態では限りある想像力の為に約4分の1のミニチュアになっていたが、意を決して全長6.4mにリアルサイズに、こうなると重さ以前に形状でもう持てないので、後ろの発射機構を分離してタンクマシンガンに改造した。
私はバレルの付け根に新設した持ち手を左手で握りしめ、右腕で抱え込んだ砲身の付け根のレバーを『4200bpm(beats per minute)』まで押し込んだ。
途端その4000発強をそのまま食らったかのようなすさまじい衝撃が腕を伝って全身を襲った。
魔法少女補正で何とかなってはいる物の、本来はAH-10神がちょっと遅くなる位えげつない物である。
私も自分がそう長く耐えられない直観を得たため、意を決して目を瞑り、息を止めて上体ごと砲身をゆっくり回して薙ぎ払った。
約1分252000発後、目を開けた。
世界が終わったかと思った。
カブトガニの一番盛り上がった部分の肥沃な土壌、そこに生える古代の下草、その上に整備された石畳の比較的広い道、湖岸に並ぶ鱗木、公園らしく配された沢山の東屋やベンチなどの各種アーティファクト、そこに群がる犬虫、その中にいたであろう彼女、それらがすべて消し飛んでいた。
残るは赤土がむき出しになった核戦争後のような荒涼のみ。
私は絶句した。
これは魔法が強いとかオブジェクトが強いとかではない。
GAU-8が強すぎる。
「やり過ぎじゃない?」
私の真横に花鏡さんが降り立った。
一瞬心臓が止まるかと思ったが、彼女の能力に思い至って何が起こったかは理解できた。
「元々こんなもん。 伝説が恐ろしい位あるからねこれが」
私は呆然自失から回復し、答えた。
「前方60度1500mが消し飛ぶとかもあるの? こっち側においてた分身がやられたから来てみたらこのざまよ?」 似たようなことはある。 私はここらあたりの奴は殲滅したことを伝え、相手の戦況を問うた。
「こっちも。 ……あれにやられてたの?」
私はリアル頭身GAU-8の所為で瞬殺できてしまったが、その様な鬼畜兵器を持たない彼女でも話は同じようだ。
そう言えば彼女は最強キャラだったっけ。
「後処理は燈子ちゃんが人員を呼んでくるそうだからもう帰っていいみたいけど」
「何故それに戦闘させなかったの?」
あんな奴ら-恐らくあのアナゴみたいな奴と同類即ちあの魔法少女の駒の一つだろう-にてこずる奴が入れるような組織ではないのでは? 私の疑問を即座に花鏡さんがはねつけた。
「それが予期できなかったからでしょJK。 『名案が完前に役に立たなかった件www』」
「成程ね」
それを出されちゃなんも言えない。
私たちが小野寺さんと繋がっている事は決して知られてはいけないので、そのままこそこそ帰宅と相成った。
犬虫駆除は予想外にいい運動にならなかったが、今日の作業時間を縮める口実にはなった。
そう考えると、気も楽になる。
私は新しくひねり出した2時間の使い道を考えながら帰路に就いた。
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SCP-1822-JP - 原始の島
by Monidrake
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