第十九章 『May you really cool! 後編』
私はラップトップの前に立つと、魔法少女たちの姿を見回した。
先程の気合入った解説の所為でか、一つしか解説していないとは到底思えないほどの草臥れた空気が流れている。
彼女たちのデザインも先程のスライドと同じくらいの熱量を込めて解説する予定だったが、作戦変更は挟んでおいたほうが良さげである。
「え~、姉ちゃんも寝た事ですし、今からは私の方から解説をさせて頂きたいと思います。 自分の奴を先に見せてほしい方はいたりしませんか」
士気の残ってる奴を犠牲に場に活気を与えようと思い、私は有志を乞うた。
「じゃぁ、私で♪」
一人だけ元気な花鏡さんが手を挙げた。
「では、行きますね」
私はパワポのホームから『怪力光線砲』と題されたファイルを呼び出した。
「え~、私は見た事ないのですが、花鏡さんの初期形態は、そのままの怪力光線砲を背中に背負うと言う空対空性能を捨て去ったデザインだったそうですが、それではあんまりすぎると言う事で、こちら」
私は全面にイメージイラストを張り付けたページを召喚した。
「……ロックバスター方式です」
ロックバスター方式である。
背中に背負っていた怪力光線砲は丁度円筒に半円を張り付けた形をしていて、腕にはめるのにちょうどいい。
直径は縮小しているが、それでも60㎝ほどある。
これで一撃を放てば、気分はロックファイナルである(性能で言えばサンダービームあたりか)。
元々地上施設である関係でモチーフが右腕(利き腕じゃない方。 常識的に考えて利き腕にはしないよね)の本体以外にはほぼない。
そこは悔やまれる。
「……それって、パンクファッション?」
小野寺さんが画像を指さして言った。
やはりそこが気になったか。
元々の属性は『ストリートファッション』だったが、この言葉は余りにカバー範囲が広すぎるので、曲解して『パンクファッション』とした。
反体制。
我々は異常存在だからちょうどいいだろう。
「なんか仲間殺しそう……」
断月さんが呟いた。
画像の花鏡さんは髪をショッキング・ピンクに染め、安全ピンをぶっ刺して一部をまとめている。
首には赤い首輪が嵌められていて、そこから繋がった三本のチェーンが各々一基づつの武装ユニット(20.3㎝砲×6、短射程パルスレーザー砲×12、二十八連装噴進砲×3)と、髑髏型荷電粒子砲一基三門(『SANSか!』by断月真易)がつながっている。
ボトムズはアクロバット飛行する零観が染め抜かれた白地のシャツに、『短機関銃で蜂の巣にされたような』即ち穴だらけの鋲止めジャケット。
それに空を飛ぶのには適していないデニムのミニにラバーブーツ。
耳から垂れた携帯用ストラップじみたちゃちなイヤリング。
バックに浮かんだごっつい武装パーツを除けば、私が捏造した舌チロウィンクも含め、いかにもなパンクである。
私は徽章(少佐)を鋲止めしたジャケットや二丁拳銃を仕舞うホルダー付きのジャンパースカートなどを細分したイラストのスライドを次々示しながら、場の空気をうかがってちょうど良い所で話を締めた。
「パンクは一度着てみたかったっす」
画面の向こうの花鏡さんが溜息を吐いた。
好感触。
「次、誰かリクエストはございませんか?」
「じゃぁ」
断月さんが手を挙げた。
「全身図はこんな感じです。 後、 BVP163に変えました」
「それお前の趣味じゃね? まぁ、改造に特に支障はないからどうだっていいケド」
本当にそうなら言わなきゃいいので、彼女も世界一意味が解らない見た目の航空機をモデルとするのは良い気分ではなのだろう。
「格好良くなってますので、お気になさらず」
モチーフは海賊であるから、基本はステレオタイプである。
三角帽にフックに義足と言うそのスタイルは改造前とほぼ変わらないが、私達は細部を凝ってみた。
レーダーを模した形状の三角帽と鉄製の眼帯(両方あくまで設定)にはタッツェンクロイツ、コートの上少し浮かんで天女の衣の様にそのまま包み込む形で曲げた翼にはバルケンクロイツが輝いている。
『それトリュ-プフーゲルじゃね?』とは小野寺さんの談。
左右に離れて浮かぶ二基のソケット入りBMW801とはぶっといチェーンがつながれており、その更に端には左右一対のでかい錨がつながっている。
義足部分はBVP163の後ろブロックがそのまま宛がわれている。
前半ブロックの方は背中にNieRの剣みたく木の板で覆われた状態で浮いており、そこに海賊旗がぶっ刺さっている。
どことない極アームズ感は気にしないで頂きたい。
右腕のフック{利き手ではない(二度目)}はバルケンクロイツ輝くプロペラのカバーっぽくしてみた。 忍び義手めいた機構を搭載する案もあったが、ママ(友達に送る3Dモデルだと偽った)の『ライダーマン?』の一言に阻まれて中止した。
武器は背中の85mmFlaK18/36/37四基にカロネード砲っぽく装飾したHK417(リアルサイズ)を左手での使用用に翼にホルダーを付けて固定した物、それと右肩辺りに浮かせたカール自走臼砲の砲塔である。
一連のスライドを見せ終え、一言感想を要求してみると、このような答えがあった。
「ものっそい重装備なのはなんで?」
「格好良くない?」
「……それは間違いない。 と言うか本体より武装が大きいキャラとかまんま趣味」
それは重畳である。
「では次。 ……小野寺さんでいい?」
「どうやら大和は自信作らしいね。 どうぞ」
彼女のモチーフは『デカさと搭乗員数に戦力が反比例する』連中が作ったでかいヘリコプターであるが、大戦時の戦歴は悪くなかった逸材である。
直径約4mのローターとそれがつながった駆動部をリュックが如く背負い、体の両脇には自由に回転できる小型エンジンを二基搭載。
そして化学モチーフと言う事で、両脇に直径1mほどの試験管(戦闘機……試験管……うっ、頭が!)を配置。
小野寺さんはそれに接続された謎の発射口に目を付けた。
「なんかすっごい残酷な攻撃とかしそうなんですけど」
します。
クロックタワー3に出て来そうな攻撃できます。
試験管に印字されているのは片やH₂SO₄、片やNaOHaq。
私の発案である、褒めて褒めて―。
服装としてはオーソドックスな白衣。
武装は先述の劇薬二種に加えて誘導ミサイルがしこたまと長射程パルスレーザー、拡散波動砲。
イタリア軍は存外にハイテクなのであった。
「最後が私、ですよね?」
先程の小野寺さんの発言に明確な否定の言葉を返さなかったことからもわかるように、大和型はまぁまぁ気合入れて作った。
好きだからとか言うわけではなく、先駆者が多すぎるからである。
「こんな感じです」
数多の先駆者に共通する事であるが、人は戦艦の擬人化形態を砲塔と艦橋だけで表現する傾向にある。 それをしてしまうというのもありだったがそれでは火力が確保できない(姉ちゃんはオリジナリティを重視していたがそんなものは二の次でいい)。
その為、艦そのものを刀の鞘として背負わせてみた。
自分自身よりデカい剣を持っているキャラクターなど数え切れないほどいるわけで、違和感はそこまでない。
「え、私、刃渡り5mの大太刀を振り回すような人間だと思われてたんですか?」
本物の鞘もくっつけており、大太刀『鶴群』(旅人の宿りせむ野に霜降らば我が子育め天の鶴群 愛国百人一首より)をぶん回してもらう。
彼女はそのイメージイラストを見て嘆息した訳だ。
大和の方に寄せてこうなったので、気にしなくていい。
背負っているのは幅約10mのミニチュアであり、45.6㎝砲二基6門、ちゃんと艦橋の根元に振動波動砲(艦橋だけはしっかり正面を向いているので、全体図としては艦橋と船体を同時に背負っている感じである)、20.3㎝砲3基6門を搭載しており、武装は充分である。
本体の服装はいつもの巫女服をサイボーグ化した物で、姉ちゃんの発案から迷彩柄になっている。
「もうちょっと可愛いのがよかったです」
「言いたかないんだけど、貴方火力要員なのよね」
だいたいお前のデザインも可愛くなかっただろ。
「ふぁぁ。 朋ぉ。 判ってると思うけどそんな盛り上がってないよぉ」
「盛り上げる必要なんてないの」
私は半目でヤジを飛ばしてきた姉ちゃんに反駁の一撃を喰らわせた。
寝起きのフィジカルではマジレスに対処するのは吝かなのか、姉ちゃんは一層アカチャッピーを抱きしめる力を強くして、ごろりと向こうを向いてしまった。
「まぁ、こちらがそこまで盛り上がっていない理由には、存外に君たちの腕が良かったと言う事もある。 ……つまりは素人に何が言えるのだというジレンマだな。 さて」
小野寺さんはデータの方を催促した。
私はパワーポイントを閉じ、パソコンに刺さっていたUSBを抜き取って今見るとダサい拳銃とともに彼女に渡した。
「……頼みましたぞ」
「御意……、でいいのか?」
日本の未来を託すような私の重苦しい口調に一瞬たじろいだものの小野寺さんはいつものむやみにきりっとした表情で頷いた。
その日の午後二時、会はお開きとなった。
完成が楽しみだ。




