第十八章 『May you really cool! 中編』
「A Knock Out!」
雛は『CUPHEAD』のボス撃破ジングルを大声で絶叫してCtrl&Sを弾いた。
「終わった?」
「イェス、マム! かぁいい!」
創造職特有の異様に高い自己肯定感が正常に稼働しているからに、事実満足な出来なのであろう。
二時間ほど前には『蒸気機関のくすんだ鉄色が描けん!』とか絶叫していたと言う事実が信じられない程だ。
雛から転送された最後の画像をパワポに貼り付けて事前に打ち合わせていた文章を記入し、私の担当する作業も終了した。
あの会合がお開きになってからわずか6時間後、小野寺さんから『認可が下りた』とのメールを受信したことを契機として、私たち姉妹の魔法少女デザイン360時間耐久レースは始まった。 私を含めた魔法少女五人(BVP111、XF5U、超怪力線照射装置、大和、X-T333)の設定決めに2日、下書き作成に5日、清書に7日、そして今日。
私たちの畢竟の傑作が完成する頃には、すでに世間は夏休みに突入し、猛暑日と言う言葉も耳に入る様になってきた。
「勝利の方程式は決まった!」
絵は完成しているので、もう解は出ている気がする。
小野寺さんによれば異常性の編集(編集できるならなぜナンバーがついているのかと指摘したところ、これらのオブジェクトには編集不可能なコアが存在し、周りの編集可能な部分を編集すれば異常性の中核以外は変えられると言う返答が返ってきた。 取り敢えず異学の無茶苦茶な説明のしづらさは理解できたと思う)は彼女の方がやっておくと言う旨を、『私の手にかかればひとつ十分で終わる』と言うあまりにも頼もしすぎる言葉とともに押し頂いたため、本当に作業はこれで終わりである。
私はその事実を再確認し、大きく安堵の息を吐いた。
「じゃぁ、みんな呼ぼう! すぐにお披露目して! すぐに寝る!」
雛は現在連続起床時間約40時間。
俗に言う深夜テンションなので、多少の奇行には目を瞑っていただきたい。
美術科に通っている事によって標準搭載している融通の利くスケジュールを夏休み前から有効活用させられている(ごめんね)所為で、雛は疲労でハイになっている。
現在は午前十時。
夏休み中である事を考えれば常識的な時間である。
私はLINEグループ上で、更新していた進捗日記の最終章として皆に召集をかけた。
三十分後、一塊になってやって来た三人をシアタールームに招き入れ、動画編集で忙しいらしい花鏡さんとはスカイプを接続した。
「しかし、凄いな、この部屋」
小野寺さんは風邪を引いたARC-040-jpが描かれたTシャツに膝下5㎝程の水色のスカートを履いていて、その上でうちのシアタールームに素直に驚いていることを見ると、普通の女の子と言うものにしか見えない。
「ママの作品が某ハリウッド俳優に数千万ドルで売れた時に家を大改装したの。 この大画面ででアンチャとかやると臨場感が凄いのよね」
「……ああいう絵を居間とかに飾る訳?」
断月さんが呟いた。
気持ちは分かる。
ヤフコメもそんな感じだった。
「いや~、個人宅とは思えないねぇ~、凄い」
私がスカイプの繋がったノートパソコンを持ち上げてその場で一回転して提供した視界に花鏡さんから一通りのコメントが付き、キッチンの方から大皿に山盛りにした中華麺と具材の入ったタッパーを持ってきた(時間を食いそうだったのでお昼は御馳走する事にした)所で、完成デザインお披露目会がスタートした。 皆が思い思いに一回目に持ってきていた汁を魔法瓶から皿に移している中、私は壁に直付けされた160インチにPCの画面を同期させる作業を終わらせ、10時間ぶりの食事をもそもそかき込んでいる雛に目配せをした。
雛は残りの麺を全て掻っ込むと、モニターの横に置かれたラップトップに突撃し、位置に付いた。 防音扉を閉めさせた後、お披露目会は開始と相成った。
「さてぇ、皆さま本日は『第一回 魔法少女正式デザインお披露目会』にお集まりいただき、あっりがとうございます‼‼‼」
雛が深夜テンションである事は皆にすでに伝えている。
「本日は我々が半月かけて完成させたあなた方魔法少女のデザインを、イラストとプレゼンで紹介させて頂きたいと思います。 まずはデモンストレーション代わりに図南朋用装備『主力戦闘機XF5U フライングパンケーキ』の紹介をさせて頂きます!」
一枚目が表示される。
Wikipediaから引っ張ってきた機体の白黒写真とフライパンの簡単な説明が載っている。
「今回、変身アイテムが拳銃であることによって、発砲音が響いてしまうと言う致命的な弱点が存在してしまっています。 それを改善するために、今回はこのような改造を行います」
2枚目。
そこにはデザートイーグル……、スクランブルドライバーのイメージイラストが表示されている。
「なんか妙におちゃらけたデザインになってるんですケド……」
小野寺さんがボヤいた。
デザートイーグルMarkXIXをベースに、銃身の謎のスピーカー(半田付けは勿論却下)を銃身全体を包み込むカバーのような形状に変更し、ヒーローハンガー(後述)に接続する為の金具を取り付け、マガジンの入るグリップ部分の無駄に瀟酒な細工をDX感溢れるクリアパーツに換装し、残された各所に青を基調とした金属パーツと白のプラパーツを取り付けたその名はトウジョウマグナム。
そしてスクランブルドライバーのもう一つのパーツであるヒーローハンガー。
画面の下の方に配されたそのイラストを見れば一目でわかるだろうが、此方はベルトである。
無限軌道を髣髴とさせるプラスチックパーツと滑走路をモチーフにしたベルトの組み合わせをベースとして、右の体側にくっ付く形で格納庫をイメージしたパーツ、先述の銃との接続部分が取り付けられている。
「変身ベルトだ。 カッコいいだろう」
雛は三枚目のスライドを表示し、その右上に配された通常時(格納庫部分だけになっている)のイラストをレーザーポインタの光点の軌跡を以て囲みながら言った。
「ついていけないです」
白鳥さんが嘆息した。
唯一花鏡さんだけがうんうん頷いている。
「こいつのモチーフであるフライパンの最大の弱点は、兵器積載性の低さだ。 私はフォームチェンジを導入する事で、この弱点を克服する事にした」
雛はレーザーポインタでスライドの右下を指した。
「これが変身ガジェットだ」
ライダーガシャット枠である。
名前はヒーローマガジン。
「今回は番組後半並みのヴァリエーションは必要ないので、取りあえず四つ制作した。 左から『フライングパンケーキマガジン』、『ストライカーコルセアマガジン』、『スコーチB-52マガジン』、『サンダーボルトデストロイヤーマガジン』。 変身方法はこんな感じだ」
雛は四枚目のスライドを表示した。
黒一色の画面に左九十度に黒い三角が表示される。
雛は再生ボタンをクリックした。
画面内に映し出されたのは私(鉛筆画下書き状態。 以後『私』と呼称)である。
そのまま線画が動き出す。
『私』はまず格納庫を右手で持ち、それを最終的にそれが固定される腰部分に宛がう。
加工音声、『テキシュウ・カクニン・ヒアウィーゴー!』。
するとそこからキャタピラーのベルトが伸びて腰を一周し、滑走路風のプラスチックパーツによる二周目が臍の下まで伸びる。
変身待機音声、『キタイ、チョイス!』。
『私』:「『フライングパンケーキマガジン』セット!」
『私』は格納庫から抜いたトウジョウマグナムにマガジンを現実では到底有り得ない大きな動きで挿し込んだ。
そして西部劇のカウボーイがやる様に銃を引き金に挿した指を軸にクルクルと回し、数回転させたところで銃身を握り込んで下向きに固定。
そのまま格納庫に挿す。
格納庫が発光し、その光が滑走路の両サイドのランプを伝って中央のモニターに到達する。
モニターにXF5Uのワイヤーフレームが表示される。
構図はSTGの機体選択画面のイメージ。
『Flying! Pancake! Guard!』
『私』は四肢を脱力させて、目をつむり、格納庫から離陸したされた身を任せた。 十秒後。
『天空の大楯 フライングパンケーキフォーム テイクオフ‼』
変身完了。
以上、監督:図南朋、演出:図南朋、原画:図南朋、CV:図南朋でお送りしました。
「お前、気合入り過ぎじゃないか?」
辛うじて疑問を呈した小野寺さん以外は皆感嘆している。
まさか線画とは言え15fpsのアニメーションを持ってくるとは思わなかっただろう。
むっちゃ疲れた、ほんとに。
「以上の形で変身する先は、以下の四フォームだ」
五枚目のスライド。
四つのフォームに変身した私がそれぞれ一つづつ描かれている。
さっき変身していた『フライングパンケーキフォーム』は特徴的な円形のフォルムを盾に見立て、普段は半円に分けた機体の半身を両脇に侍らせて(以降のフォームでも翼はこの様に体幹と平行に浮かんでいる)、盾を合わせて防御する事も可能(但しXF5Uそのものでガードしている様なシュールな絵面にはなる)。
継戦能力は高いが、見た目含め取り立てた特徴はない。
専用武器はなし。
ウィザードフレイムスタイル枠である。
『ストライカーコルセアフォーム』はAH-10神の先祖ともいえる元祖機関砲バカF4U-EX(こっちは二基十二門もある。 それだから本歌ともどもヘルキャットに負けるんだよ)がモデルで、モチーフは普通の騎士なフライパンに対して、双剣士である。
専用武器は双剣『ガルウィングブレーズ』
両腕両足には計8丁の機関銃を搭載し、フィニッシュアタックにもこれを使用する。
防具の方は色を銀色にして露出度を若干高くして軽そうに見せている上にプロペラがフライパンと違ってストライクウィッチーズ方式で付いている(二つあるのはご愛嬌)ので、実は機動力はそこそこある。
……と言う設定、見た目とは矛盾していない。
『スコッチB-52フォーム』は重剣士イメージであり、火属性の緑色、眼鏡である。
主兵装は彼の爆撃機の翼をそのまま転用したような柄と大きさを持ち、ミサイルランチャーとしても使用可能なガンブレード『ドーンバーン』。
プロペラもそのままついているため、足先を含めて計四つある。
スカート状に配された爆弾サイロから爆撃も出来る。
だからスコーチなのだ。
『サンダーボルトデストロイヤーフォーム』はタンクマシンガンを使用するフォームで、超火力超高速移動が最大の特徴。
メインのイラストの下に仮面ライダー555みたく残像付きの高速移動をする絵も添えられている。
モチーフは竜騎士であり、色は黒、プロペラはプライパンと同じ上向き一組である。
専用武器は『GAU-8 アヴェンジャー』
「以上ありがとうございました。 朋、後は頼んだ」
雛は私たちのフォームだけ紹介する(即ち自分の喋りたい事だけ喋る)と、強制的に私にバトン代わりのレーザーポインタを握らせ、自分はシアタールームの端のソファに飛び込んで、置かれているアカチャッピーのぬいぐるみを抱きしめてすぐにすうすう寝てしまった。
最初からこういう手筈になっているので、特に支障はない。
私はそのまま立ち上がってラップトップの方へ移動した。




