表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/50

 第十六章 『角病室の宇宙』

 「いやね、私も万人に波動兵器なんつう変態兵器の知識を要求してる訳じゃないのよ。 でもね、貴方って戦艦大和がモチーフに当たる訳でしょ? その主兵装は振動波動砲。 そのことは貴方も知ってた。 そうね?」


 九州地方に二つしかないWhPO指定病院である九州帝国大学付属病院の異常病理科病棟の角部屋、種々のAnomalousな検査を受ける事となった薪木さんが宛がわれた日当たりのいい部屋は、その瞬間私の詰問の声で埋め尽くされていた。

 一昨日の戦闘が終わった後小野寺さんと断月さんとの『後処理は任せておけ』との旨に甘えて彼女たちに失神した薪木さんを託し、私は一人学校に舞い戻った。

 学校側ではスクラントン低現実領域照射装置の解除によって私のクラスの異変に気付いた教師がすでにARC機構に通報しており、クラスメイト達は一旦講堂に集められていた。

 その中にいない二人の片方が魔法少女でもう片方がその哀れな被害者だと言う事は既に恐慌状態の中で皆に伝わっており、帰ってきた私は一時幽霊扱いされてしまった。

 まぁ、それは無理なからぬことであろう。

 おかげで私の『恐ろしい距離を吹っ飛ばされ、しばらく気を失っていたので、気が付いて熱属性魔法で戻ってきたらここまで時間を食ってしまった』などと言う論理性の欠片もない言い訳(一応言っておくが私は弾性属性魔法は使えないので硬いままの地面にそのまま叩きつけられたことになる)に何のツッコミも帰ってこなかったので、寧ろ僥倖である。

 その日は休校となった。

 薪木さんが検査入院に回されたことはを知ったのは、翌日、新しく宛がわれた旧学習室壱でのHRの時である。

 命に別状はないと言う枕木先生の一言は、クラスの皆(恐慌時のクラスメイト達の告発により教師にこってり絞られた未垣一味を除く)を大変に湧き立たせた。

 その日の放課後、LINEの魔法少女グル経由で見舞いのお誘いがあった。

 そこでは雛も呼んで欲しいとの願いがあったが、彼女はサークルの方に顔を出さなければいけないので、見舞いが終わった後に合流する事になった。

 断月さん的にはそれでいいらしいのだが、薪木さんと顔を合わせる必要がないとなると、果たして何の用事だろうか、その時は不思議に思った。

 その日の放課後、学校帰りの私達は制服のまま九帝大の最寄り駅に集合し、この病室を訪れたのである。 最初は菓子折りを開いたりと取り敢えず見舞いの体裁は保っていた。

 そうして本日のノルマである魔法少女に変身した経緯のヒアリングが始まった。 しかし彼女の告白によれば彼女はそれをただ拾っただけ(丁度そういう話になった瞬間に『ダウト!』のテンションでなんでそんなものを拾ったのかと詰問してみたが、断月さんから『異常存在事案に『取得物横領は犯罪』などと言う常識は通用しない』と突っ込まれて終わった)で、あの時変身したのも、以上にひどい耳鳴りがして耐え切れなくなったからだと非常にあっさりした理由であった。

 然るにそれを聞いた二人の結論も、「ミーム汚染ね」「ミーム汚染だわ」と非常にあっさりとしたものとなった事も必定である。

 私としては彼女がいじめから一切のダメージを受けていないと告白したこと(教室での態度は、『目立つと面倒だし、逆に抵抗したりすると何が起こるかわからんので、出来る限り面白くならないように、無味乾燥なリアクションを心がけて居ただけ』だそうだ)が衝撃的だった。

 これにてノルマ達成と言う訳で、先の戦闘の反省会(実質は文句大会)と相成ったのである。

 論理がかみ合っていないって?

 女子高生の雑談なんて基本はそんなものだ。


 「さっきから言ってるけど、私が聞きたい事は一つ。 ……なんでチャージしたの?」


 本当に何故チャージしたのだろうか。

 そもそも、波動兵器の主流を占めていたのが威力が最高の収束式波動砲では無く低威力の拡散波動砲や低弾速の振動波動砲だった理由はそのものずばりチャージ時間である。

 逆に言えば後者二つは冗談抜きでチャージ不要である。

 テレビで旧海軍の記録映像を見た事があるので確かだ。

 砲身が艦首から出てきた(実際は艦橋の根元)時点ですでに不安だったが、どうも彼女、根本的に知識が足りていないらしい。

 昨日の晩雛に愚痴ったら『普通はそうだ、と言いたい所だがモチーフがモチーフだからな……』と、彼女もそれについては同意だった。

 一通り文句を言い終え、「次までにはよく勉強しておくように」と締めた頃には、白鳥さんは涙目になっていた。

 ……なんか基本泣いている気がするが、今回ばかりは猛省してもらう必要がある。


 「図南さん、そこまでにしておいてもいいんじゃない?」


 薪木さんが諫めた。

 自分の寝ているベッドの真横でぎゃんぎゃん騒がれたら、それはもう止めたくなるだろう。

 残り二人も同意する。 


 「死にかけたと言う事実は確かだが、そういう風に無表情で詰め寄ると言うのは、……はっきり言うが私でも多分泣く」

 

 「無表情は生来の性質で、いまさら指摘されてどうにかなるもんじゃない」


 無表情を怖がられる事にはもう慣れた。

 この通りモノローグが比較的ハイテンションである事は理解してほしいが、今ではそれも気にならなくなった。


 「良かった。 今迄顔を合わせたシーンは悉く視界が悪かったか顔なんか見てる場合じゃなかったらね。 テレビ電話でもお前の姉の方が出張ってたし、てっきりマジ切れしてるのかと思ってた」


 雛は表情豊かである、それも又私たち双子が『そっくり』だとは言われない理由の一つである。


 「でも怖いものは怖いですよう」


 そう反駁した白鳥さんに関して今日気付いた事がある。

 彼女の、今迄の邂逅時には気付かなかったが、非常にでかい。


 「ちょっと3サイズ教えてくれない?」


 この無表情の利点として、こういう風な急な質問にならどんな内容でも答えてくれると言うことがある。


 「B105 W65 H88 ですが……、何か」


 ん?


 「……えぐい位でかいでしょ? それ」


 突然今迄私への恐れから不干渉を貫いてきた二人が下ネタには揚々とがっついてきた。

 恐ろしく友達甲斐の無い奴だ。


 「無茶苦茶大きいですよね。 ……K、ですか?」


 何故か薪木さんまでがっついてきた。


 「はい……」


 赤面して押し黙ってしまった白鳥さんを含め、場に仲間外れはいなくなった。

 やはり下ネタは調和を齎す。


 「てか、それ峰不二子よりでかいよね」


 「如月ハニーよりもでかいぞ」


 「恐ろしい事に桂言葉よりもでかい」


 並みいる巨乳キャラの誰よりもでかいそれに一時私達は夢中になった。


 「うわっ! 何、この、何」


 「今脳内が井之頭五郎みたくなってるの」


 「……(手を止めて凝視)」 


 「しゅごい……」


 未経験の手触りだった。

 これに依って一躍魔法少女たちはその仲を深めた。

 暫くピンク色の時間が続いた。


 「ところで」


 私達は白鳥さんの胸に飽き、真面目な反省会をしていた。

 所謂賢者タイムである。


 「あの変な魚の本体は魔法少女だった訳でしょう?」


 薪木さんが切り出した。

 やはり自分を半殺しにした相手に興味はあるのだろう。

 私は目撃した魔法少女の姿かたちを説明した。


 「なんか学園物の推理小説に出て来る探偵小説かぶれの変人ヒロインみたいな見た目ね、それを聞く限り」


 「あ~、なんかわかるかも」


 もし性格までそうだった場合私は即蜂の巣になっていただろうからそれよりかはもうちょっと大人しめな性格をしていた事は予想できるが、プロファイリングは得意ではないのでこれ以上は判らない。


 「そう考えると、モチーフは『金剛』あたりかな」


 「核ミサイルでワンパンされた奴?」


 「確か推理小説に出て来るのはミサイル巡洋艦の方だったと思うが……」


 二人は何やらマニアックな話をしている。


 しかし彼女たちは大事な事に気付いていない。


 「その理屈だと断月さんののモチーフが海賊だったり小野寺さんのモチーフが科学だったりすることが説明できなくなるけど」


 「まぁ、そうだね。 そうなると私のモチーフに該当できるのはテクニカルぐらいになっちゃうし」


 武装組織が使ってるトヨタ製の武装トラックがモチーフの魔法少女とか、嫌すぎる。


 その時私のケータイに着信が入った。 


 『ミッション成功。 今からそちらに向かう』 


 「『今から来る』雛からの伝言です。」


 「おk。 じゃぁ、今日の所はここでお暇させて頂きます」


 「うぃ、バイバーイ」


 私達はそう言って一斉に立ち上がった。

 リノリウムの床をけたたましく鳴らしながら魔法少女たちは角病室を出る。

 と、「あれ、図南さん」

 廊下の向こうから来るのは車胤君と林歌ちゃんだった。

なぜか二人して勝負服か何かしか見えない位にコーデを決めている。

 ドレープスカートとか鋲止めジャケットとか初めて直に見たぞい。


 「あれ、君も薪木さんの見舞い?」


 「う、うん」


 林歌ちゃんがけらけら笑いながら云った。


 「そう。 まさか知り合いだったとはね。 ……どういう関係?」


 彼女は私の後ろの三人を見てそう訊いた。

 最後のセンテンスが不穏だったので共通の趣味的な物、とだけ答えておいた。

 嘘は言っていない。

 私達は病室に入って行く彼等と別れ、そのまま病院を後にした。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ