第十四章 『魔法使いの過誤・前編』
長崎港湾地区の上空100m。
そこに滞空している薪木さんは、目下交戦中の二人に気を取られて、私たち二人には気付いていないようだった。
そのことに気付いた私は、隣の小野寺さんにそっと耳打ちした。
「ちょっと高度を上げて、そこから彼女の方へいっきに降下してすれ違いざまにドン! 分かった?」
「あんた、それがいじめに抵抗しただけの級友にする仕打ち?」
小野寺さんが少し顔を顰める。
「手加減したら死ぬのはこっち。 私が先行って囮するから、後行して巡航ミサイルでもなんでも打ち込んじゃって」
「……分かったわ、大和がいれば多分大丈夫だと思うけどもね」
私たちは気持ちエンジンの出力を弱めて(勿論これだけでそう騒音の大きさが変わるとは思うべくもないが)30mほど上昇すると、私は一気呵成に薪木さんの懐へともぐりこんだ。
スタングレネードを一発置き土産にそのまま翻って二人の方へ突撃した。
背後に爆発を感じながら二人の元へ飛び込む。
「あんた中々容赦ないね」
断月さんが呆れたような顔で腕を組んだままこちらを見据えた。
隣では白鳥さんが若干怯えている。
戦艦大和と言う傑物を無理やり再現していると言う事もあって、彼女の艤装は物凄い。
彼女は戦艦大和の艦橋そのまんまのミニチュア(とは言っても高さは5mくらいあるが)を背負い、彼女の頭の真上には艦橋の真ん中から張り出した艦首部分が突きだしていて、それに乗っかった四連装八十五口径20インチ砲がピカピカと黒光りしている。
そして彼女の両脇には18インチ砲三連装が計6基、一基につき一つずつ縦横比が3:2ほどしかないやけに寸胴な船体のミニチュアに高角砲と機関砲沢山をてんこ盛りにした奴を侍らせている。
さらにそのパーツに一つずつ計八基のジェットエンジン(なんかタービンが回ってるのだけが見えるのでよくわからない。 分かりやすく知ってるゲームのボスで例えるとメタスラ5の二面ボスの火の玉攻撃時に発射口の上で回ってるあれに近い)の平べったいのが取り付けられていて、設定上は恐らくそれで浮いているのだと思われる。
女の子の左右に砲台が配されると聞いて艦娘的な何かや鋼の乙女的な何かを想像した方も多いだろうが、魔法少女においては其の数十倍兵器本体が自己主張していると言っていい。
それにもまして異彩を放つものが各種装飾である。
神社建築によくみられる装飾が幅を利かせているのである。
はっきり言ってこれをまともに説明するのはモスバーガーの食べ方を説明するよりも骨が折れるのだが頑張って説明してみる。
まず構造部分。
そこにはドイツ機こだわりの左右非対称と同レベルで不必要な木組み様の構造(安心してください、鉄製です)が大量に配置され、彼女の足元にもそれで超巨大な高下駄(と言うかスラスター付きの櫓をそのままはいているに等しい)が作られている。
材質特性と言う概念が理解できているとは思えない。
その上で、艦橋前部に金属製の鳥居、艦首の上(波動砲が突き出してるところの上)にぶっとい注連縄、艦橋の両脇から突き出した左右対称の拝殿(下手に金ぴかにしたせいで相輪感が出ているテスラコイルが突き出している……、だからそういうのはRAでやってくれ)、砲塔が乗っかっているミニ船体には大量の鈴。 流石に狛犬は載っていなかったが、戦艦(いやそうじゃない事は判ってるがあくまで建前は)にしてはあまりに神社神社し過ぎていて、the empire of rising sunが運用している兵器連中よりも猶勘違い日本が極まった感じである。
マジで忍殺世界でもギリ浮くレベルだぞ、これ。
独立して浮かぶパーツの中心(私のような飛行機型と違って、戦艦型はパーツ同士の間隙がデカい)で浮かんでいる白鳥さんは巫女コス。
その巫女服は禰宜用の奴で袴の下半分が迷彩柄になっているほかは特にメカメカしかったりするところはない。
この数少ない普通な所も、全体の異常性を中和するには足りない。
それと比べて断月さんの方はさっぱりしている。
彼女は本体の両脇に実寸サイズのプロペラエンジンを浮かべ、主翼(途中で何パーツかに分割されており、マジもんの翼のように動く)をその二つに挿し込んで羽織り、BVP-111の特徴である大きく左にずれた機体後部を左足の部分に取り付けている。
遠くから見ると左右の足の長さが80㎝とか違う人間に見える(源義朝か?)。
海賊の代名詞である義足を再現した物だろう。
もう一つの代名詞であるフックは、彼女の右腕の先にとって代わる形で付いている。
眼帯と三角帽もきちんとありその姿はまごうことなき海賊である(服の地に明らかにケブラーが使われている部位があるのは気にしない)。
元ネタが砲撃機扱いされることが多い(えっ、砲撃機じゃないの? と思った奴は今一度型番に目を通しておいた方が良いぞ)重武装攻撃機である事もあって、その代名詞である二十八連装噴進砲も周りにしっかり浮かんでいる。
……航空機型でもこのぐらいの重装備がデフォなのか。
成程。
「……人の心がないね、君」
「あ、いや、今頷いたのは貴方たちの装備を確認しての事。 それより……」
「危ない!」
どぅ゛ぅん!
耳をつんざく轟音。
白鳥さんの二十インチ砲が火を噴いた音だ。
後ろを向く。 私の足元をかすめて、短距離弾道ミサイルが火を噴きながら墜落して行った。 さっきの発砲はこれを打ち落とすための物だろう。
先程手痛い一撃を喰らわせたのにも関わらず、薪木さんの周りには、彼女、ひいては『扶桑』の主兵装であるロケットとミサイルが夕方の駅前上空のムクドリの様に飛び交っている。
艦橋の中腹の括れている部分が火を噴き、ゆっくりとその傾きを増していた。
「……固まってたら多弾頭ミサイル辺りをぶち込まれて一斉にお陀仏ね。 散開!」
断月さんの鶴の一声に乗じて私たちは全員全く別々の方向―—私が下へ、白鳥さんが後ろへ、断月さんが右へ、小野寺さんが私たちのいた所へ突撃したその勢いのまま上へ——へと展開し、思い思いに猛攻を開始する。
束になって攻め寄せる多弾頭ミサイル対艦ミサイル焼夷ミサイルと断月さんの噴進砲弾が空中でかち合い、それらの爆炎が融けあって巨大な火球が散発的に生まれ、その間を縫って二十インチ砲弾と空対空ナパーム弾、無振動パルスレーザーが薪木さんを撃ち抜く。
まともな兵器を持たない私と元ネタが超接近戦用に設計された重装ヘリである小野寺さんは薪木さんに大きく接近して撃ち合う。
私の焼夷機関砲は元々湾岸戦争で幾千の戦車を鉄屑にしてきた代物なわけで、その射線上にある物は装甲の如何機構の如何に関わらずひしゃげて崩壊する。
これ戦場の鉄則を超えて宇宙の真理アルネ。
勿論相手は再生能力持ちなので破壊した兵装も、ヒュドラの首が再生するがごとく艦橋からあふれ出したレンガの変性によって元の形に再生される。
艦橋がコア的な存在であるようにも見えなくもないが、先程白鳥さんの20インチ砲の一撃で真ん中から折れても平気で再生されたので特にそんな事は無いのだろう。
しかし、断月さんは長年(一月強)の研究で、この様な再生持ち(ARCオブジェクトにおいては、ジャガイモでも紙切れでも非破壊属性をしれっと持ってるのがテンプレである)を完膚なきまでに撃破する方法を発見していた。
あの日非破壊属性持ちのイエローデビル擬き(あの触手の正体はここではあえては言わん。 二度と思い出したくない)に遭遇した後の雑談会で、こんな会話があった。
私『あんな再生持ちに遭った事ってある?』
断月『0ではないわね。 はっきり言うとARCオブジェクトなんて大体当然の様に破壊不能な訳で、なんなら少ないわね』
白鳥『多かったらヤバイ』
断月『いや、簡単ではないけど、破壊不能なんて何のアドバンテージにもならないわよ』 花鏡『で、どうやって潰すの?』
断月『肉体にダメージが入らないなら、精神を破壊すればいいじゃない』
一同『……(悪鬼羅刹を見るような眼)』
倫理観の欠片もない発想である。
しかし、今回はそれは十分に効いて居る様に見える。
彼女は半ば防戦一方まで追い詰められていた。
はっきり言えば、扶桑級は日本初の超弩級戦艦としての役割は発揮できてこそいるものの、実際は非常に欠陥の多い船であるとの下馬評が多い。
戦後、海上自衛隊のミサイル護衛艦『ふそう』として生まれ変わってから(山城はロシア海軍に売られた)の扶桑はその様な評価はだいぶ収まった物の、やはり『扶桑』が非常に出来の良い船だとは考えづらい。
彼女の艤装には元ネタ同様、砲台の向き以下様々な点で明らかな欠点がある。
そのうえ大量に配備された主兵装のミサイルも、小野寺さんのチャフの前には無力(チャフグレネードにしては強すぎる気もしないではない。 WSG2辺りを参考にしたのだろうか。 あちらは強いと言うか必須だが)である。
よって彼女には永遠に場の状況を覆す事は出来ない。
そのうえ定期的に20インチ砲弾が着弾する事もあって、再生しても再生しても彼女の苦境は終わらないのである。
そんな無間地獄は永遠には続かなかった。
それを破ったのは私達の攻撃ではなかった。
とは言っても彼女の心の崩壊でもなかった。
それは……。
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