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 第十三章 『発射オーライ』

 私は薪木さんの叫び声の一切が耳に入らなくなったのを確認してから、バリケードをどけて教室の真ん中へと歩み寄った。

 周りの呟く声からして、どうやらクラスメイト達には薪木さんが攻撃を受けたようにではなく勝手にあちらさんが自爆したように見えているようだ。

 教室の中央に、直径約3m程の穴がぶち抜かれている。

 現状崩落している部分の周りにも見た目ヤバそうな部分があるので、ゆっくりすり足で穴の底が見える部分までたどり着く。

 下をのぞき込むが、どうも落下して下で爆発した奴が一発分ほどあったらしく、細かい粉塵が漂っていてあまりよく見えない。

 と、「図南さん!? あな、貴方なのね!? どうして!? 味方じゃなかったの!?」


 粉塵の中から薪木さんが飛び出し、私の目の前に跳び降りた。

 見た目には微塵の変化もない。

 勿論グレネードをぶち込まれたような形跡も、だ。

 はは、再生能力持ちでしたか。

 背筋が冷たくなる。

 私は自分が大きな誤算を犯していた事に気付いた。


 「なんで!? どうして……?」


 「落ち着いて。 私はあなたの敵じゃない」


 私は彼女の両手の鋼レールを取り上げて投げ捨てる(魔法少女のパワーなら造作もない)と、我ながらいきなりグレネードをぶち込むことを選んだ奴と同じ人間とは思えないような懐柔策を打ち出した。

 いったん再生した影響か狂気じみた雰囲気が若干薄れているのは好都合だ。


 「貴方が苦境に陥ってたことなんてほとんどなにも想像しなくても理解できることなんだけども、いきなり人死にが出そうな暴れ方することないじゃん」


 「そ、それは悪いと思う。 うん、でもやっぱり、ここまでとは言わないけど、どうにか意思表示と言うのは……」


 「してもいいんじゃないかと? まぁ判らんでもないけどなんぼでも言うタイミングあったよ? ……まぁ」


 私は教室の右斜め後ろを向くと、連中を召喚した。


 「未垣一味ぃ!! 1mmでも反省の意図が有んなら今すぐ出てこい!! 出てこなかったらどうなるかは敢えては言わんぞ!!」


教室の端の方から小さく悲鳴が聞こえ、そのすぐ後に机の山の後ろから、未垣優奈がはじき出された。 

 「来い! 逃げんな!」


 そのまま安置まで舞い戻ろうとした彼女を一喝する。

 首謀者以外出て来る気もなさげなのは、責められる事ではないだろう。

 今はマジで生きるか死ぬかの状況である。

 未垣は途中一度躓きながらも、私たちの面前まで歩いてきた。

三者面談の要領で向き合う。


 「OK。 未垣、自分が何をやって、それ故こんな事になったのか、お前の知る限り詳しく話せ」


 この状況で平常なテンションのまんま状況分析ができる奴はいないだろう。

 しかして、この女の発言は私には、そんな人間の性で言い訳できる範疇を超えた、最早醜いとすら言えるようなものであった。

 或はいじめの主犯格に人間性を求めた私が悪かったのやもしれぬ。

 まず彼女は自分のしでかしたことを全力で正当化しようとした、自己正当化と言うのは問い詰められた時のそれだけでも現状(言動次第で大量の火器を搭載した異常存在にリンチされる可能性もあるのだ)を鑑みるに正気とは思えない行動だがその後に彼女本人への責任転嫁と自己弁護まで熨斗を付けて突き出してきた。

 流石に頭がおかしいとしか思えなかった。

 最低でも危機管理能力か状況分析能力のどちらかは死んでないとこんな言動はできない。

 そのことまでやっと理解して、彼女の話した内容の方を理解できないまでの間に、薪木さんが動いた。

 何処かから取り出された35.7口径のマグナム実包が床のプラスチックタイル上で弾け、未垣が悲鳴を上げる。

 私はとっさに思い付いてm84スタングレネード三発を召喚し、両目を固く閉じてから教室にばら撒いた。

 この世に存在するほぼすべての生物の許容限界を超越した閃光と轟音が教室を嘗め尽くす。

 目を開けた。

 二度目の変身で右腕を吹き飛ばされた時から大方気付いてはいたが、どうやら魔法少女への変身は痛覚に限らず五感の鈍化を副作用として持つらしい。

 かの有名な『ヘソリンガス』のエピソードを知らずともこれがやばい事である事は大方想像できるだろうが、ともかく今回はそれが役に立ったことになる。

 足元に未垣が倒れ込んでいる。

 教室を見回しても、動いている人間の気配はない。

 唯一目の前で呆然と立ち尽くしている薪木さんだけが意識を保っている様である。

 さっきまでの彼女なら失神している未垣を蜂の巣にしていてもおかしくはなかったが、今の彼女は先程の衝撃で素に帰ったのか、私の方を見つめて驚愕の表情をその顔に貼り付けている。


 「図南さん、それ……」


 「その通り」


 私は右手に掲げたAK-47アサルトライフルを彼女の胸に突きつけた。


 「魔法少女は別にあなただけじゃないのよ。 私以外にも、私の知る限りでも四人ほどいるわ」


 そう言いながら私は不必要に遠くにそのアサルトライフルを投げ捨てた。


 「つまり何が言いたいかと言うと、ここでお互い殺し合いを演じても、何の意味もないと言う事ね。 魔法少女は異常存在と―もしくは異常存在同士―惹かれ合うと言うのは、貴方も判るでしょ? 私を殺せても、他のが大挙して襲ってくるってわけね。 ここは一つ話し合いと行きましょう。 3・2・1で変身解除。 分かった?」


 薪木さんはこくりと無言で頷いた。

 私もそれに同調するように頷くと、右手で三を数える形を作って、それを掲げた。


 「3。 2。 iふぐぇ!!」


 私は薪木さんの渾身の一撃を喰らい、窓ガラスを貫いて校庭へと転落した。

 地面に叩き付けられた衝撃で肺から空気が押し出される。

 背中の痛みに耐えながら目を開けた。

 私のぶち開けた穴から飛び出した薪木さんが視界を縦に切り裂き、学校から遠ざかっていくのが見えた。

 「作戦失敗かぁ」


 そうつぶやくと私は右手をついて体を起こした。

 変身を解除するふりをして制圧するつもりだったのが、どぎついカウンターを喰らってしまった。 彼女、あんな立場に甘んじていた割にはなかなか強かである。

 幸い彼女の向かった方角は判っている。

 今からでも追跡は可能だろう。

 私は全身で変身ポーズを取ってフライングパンケーキ本体を召喚した。

 地面を蹴り、高く飛び上がる。

 瞬く間に学校のフェンスよりも高くまで上がり、『なくそう少年犯罪』の垂れ幕を見下げながら悠々とフェンスを飛び越える。

 両肩の外側に浮かんでいるレシプロエンジンが唸りをあげ、どんどんと加速していく。

 そもそもこんな間抜けな形になったのも、一重にこの航空性能を実現する為である。 恐らく平均的な軽航空機以上のスピードで長崎市街を飛びながら、私は目を閉じて彼女の言った方向を推察した。

 異常存在特有のなんともいえない匂い(感じ方は匂いに近いが、恐らく匂いではないこれが何なのかはわからない)ですぐに場所は掴めたが、目を閉じたのがいけなかった。


 「ぐおはぁ!」


 バードストライク! 

 私は大きくバランスを崩し、態勢が90度前転してしまった。

 空を切る翼が、今度は空気抵抗を誘発する帆になってしまう。

 

 「こはえぇ!」


 失速、高度がどんどん下降していく。

 堕ちる! とその時。


 「掴まって!」


 声の方向へ我武者羅に右手を伸ばすと、その手の先をがしりと掴まれる感覚が生じたのと同時に、私は下降を止めた。

 上を見る。


 「小野寺さん!」


 「助太刀に来たよぉ~」


 そう言うと彼女は腕を振って私の体を投げ飛ばした。

 再びエンジンをフル稼働させて正しい形で滞空する。


 「ど、どうも有難う」


 「いいって事よん」


 小野寺さんは人中を擦って自慢のジェスチャーをした。

 擬音を付けるなら、『えっへん』、と言った所だ。


 「でも、なんであなたが此処に?」


 あの時の自己紹介で彼女は自身のモチーフはX-T333で実質アーセナルバードと言っていたが、メインの大型プロペラユニットを背負って左右に大量のミサイル砲台と4インチ艦砲四基八門が搭載された機体部分(形状で言えば真ん中から真っ二つにした『怒首領蜂』の雷光を両脇に配しているような感じである)を侍らせ、大型のパルスレーザー砲を挟んでその外側にオスプレイ様の自由方向プロペラを排しているその姿は、何か云い知れない『ケツイ~絆地獄たち~』感がある。

 元ネタからして機動力重視でF(フライング)P(プラットフォーム)潰し専用機じみた運用がされていたとあってか、機動力はなかなかのものに見える。


 「貴方の教室から魔法少女っぽいのが飛び出してくのが見えたから、授業を中座して追ってきたのん。 而して、今回は何が相手なの? あんたの教室の方で酷い事があったのはなんとなく想像できるけども」


  私は教室で起こった一連の経緯を話した。


 「ESP Ra De?」


 「ぽいよね」


 今まさに彼女を追ってるとこも含めてかなりぽい。


 「なんかあんたを卑下するようで悪いんだけども。 増援って貴方だけ?」


 ガチ切れ状態の異常存在を相手するには、流石に2:1では若干厳しい気もする。


 「お嬢さんと眉見ちゃんが途中で合流するよん」


 じゃぁよかった。


 「さて、じゃぁ、早速行きましょうか」


 「うい」


 私は魔法少女に特有の便利機能によって、私たちは討伐対象である異常存在の位置へ学校に通うかのように自然にたどり着く事が出来る。

 お嬢さん曰く『半分寝てても大丈夫』だそうだ。

 便利。

 その直感は、私たちを長崎市街から遠ざけ、長崎市の海岸へと導いていた。

 港湾地区の上空に、私は巨大な飛行物体を発見した。

 その威容に押され、二人して空中で停止し、様子を見る。

 それは遠目にもはっきりわかるほど全体バランスを欠いていた。

 中心部分が高すぎる。

 全体のシルエットはまるで垂直の数学記号のような形状で、いかに航空力学が人間の直観を裏切ってくれる概念だとは言え、飛びそうと言う感覚が1mmも湧き上がってこない。

 その中央部の塔から、彼女のモチーフが何なのかは簡単に推察できた。


 「汎弩級掃海戦艦『扶桑』……」


 「あっ、やっぱりそれ?」


 洋上の違法建築とも呼ばれるその艦橋は、魔法少女サイズに小型化(それでも明らかに高さ八メートルはあるが)していても到底見間違えようがない。

 そのうえ異常存在が無理くり実在兵器を再現しているせいか、ただでさえ見て不安な気持ちになってくる扶桑の艦橋の、材質だけはまともだった鉄製の一部がレンガの壁や時計機構やサーチライトなどの様々な物品に置換されているせいで、余計に何とも言えない不安定さを醸し出している。

 元ネタが『風の谷のナウシカ』に出て来そうと言うならば、こっちは完全に暴走したOZのコアである。 

 艦橋の左右には甲板の張りだしたのが上下二層配置されており、下のと上のとで14インチ砲左右六基十二門が上から見て三角形に配置されたのを挟み込むような形になっている(あれっ、これ艦橋へこます意味あったのだろうか)。

 上から見ると烏賊の頭のひれにように中央の円形から左右に正三角形が二つ付いている形となるだろう。

 ここから見る限り大型物理兵器はそれだけで、それ以外の場所には大量のミサイルランチャーが配されている。

 件の二層甲板の上はVLSで覆われていて、それ以外には大量の噴進砲が配置されていて、おまけに艦橋には自衛隊の『ふそう』の名物であるSRBM発射筒がしっかりくっついている。

 『589-jp』の文字は艦橋のど真ん中に横書きでくっきり記されている。

 そしてそれらの兵器は皆めまぐるしく動き回ってひたすらに火力を放出し続けている。

 どうやら先に着いた二人と交戦しているらしい。


 「行きましょう」


 「OK」 


 私は小野寺さんに声をかけて、目くるめき戦火の中へ身を投じた。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

scp‐589—jp 新駅開業

by inemurik

http://scp-jp.wikidot.com/scp-589-jp


この小説の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。


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