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 第十一章 『安眠時間』

 「平均点は42.4だ」


 教壇に立った長瀞先生はそうだけ言うと、黒板に貼ってあった大問3の心象ベクトルの図解から、チョークを横向きにして書いた超常物理学第二方程式(大問2のこいつを使うブロックが死ぬほど出来が悪かったらしい)、それに教卓に置かれた他クラスの解答用紙といったテスト返しの残滓を全て消し去りにかかった。

 それに誘発されて、生徒たちの方にも、返却された解答用紙やら模範解答やらをしまい始める奴も出てきた。

 私もそれに乗じる必要を感じ、最後にもう一度机に広げられた異学の期末考査の残骸を眺めた。

 41点。

 もちろん百点満点である。

 私はもう一度ため息をついた。

 昔から成績はかなりいい方で売っていたし、それは高校に入ってからもそうだった。

 もちろん点数自体はかなり下がったが、異次元レベルの下がり幅がデフォな高校デビューの中では、私は健闘した方であった。

 しかし高校から新たに出現した教科はこの限りでない。

 とは言っても異学基礎でこの惨憺たる成績を叩き出したのは異学のその立ち位置が理由ではなく、或は遺伝によるものである可能性が高いように思われる。

 初めて38点のテストを持ち帰り、元来の温厚さを貫通してぶちぎれられると思っていた両親に『割と高いじゃん』と言われた衝撃はあまりに大きかった。

 遺伝と言う物が獲得形質を手土産にしてはくれないと言う事は遺伝学の基本中の基本なわけであるが、気の利いた遺伝子もこの広い世界には幾らかいるようだ。

 もちろんこれは皮肉である。

 私は意図的に大きく頭を振ってテストに関する思考の一切を吹き飛ばすと、そいつらが戻り切らない内に机に異学基礎の教科書一式を広げた。

 本日より異学基礎は第二の分野である『異常存在と人類』、ざっくり言うと超常組織の歴史、に突入する。

 第一章『超常物理学の基礎』から毛色ががらりと変わったこの第二の分野は、これから二年間の異学基礎の中では鬼門の一つとされている分野であるが、ジャンルが変わったと言う事はそれ即ち得点を回復できる可能性があると言う事と言えるだろうから、ここで努力するのは非常に合理的と言えよう。

 

 「教科書開いたか? 第一章で地獄見た奴も多いみたいだが、俺の経験としては第二章で挽回する事は十分に可能だから、よく授業聞いとけ。 はっきり言うがここは暗記すればどうにかなる」


 長瀞先生は肩を竦めて首を振り、犯人を取り逃がしたことを報告する洋画の刑事の様に生徒たちを励ました。

 先生は異学を専攻していた事(異学は哲学や数学並みに女子受けが悪い学問だと言われている)以外は女子受けする要素だけで構成されたような御人で、男女問わずものすごく人気がある。

 私は車胤君一筋なので特に彼に対して思う事は無く、寧ろその所為でもう一人の担当者である呉宮先生がいつも肩身の狭い思いをしている(特にクラス替え後の担当発表の時はひどかった)のがいつも見ていて哀れで気になってたりする。

 まぁ、これも彼が悪いと言う訳では無いのだが。


 「さて、第一部分『超常組織の歴史』。超常組織と言う言葉を聞いて思い浮かぶのは何だ? 一番有名なのはARC機構だろうな。

 高橋、どうだ? 成程『蒐集院』か、蒐集寮跡、この近くだもんな。

 霧島、『イワムラ商会』? 販売員ミヨコか、お前、まさか使ってないだろうな、え? まぁいいわ、正解。

 恋情、『幻島同盟』、か。 二週間前までなら正解にしてたんだが、今ではすでに国連に加盟してるから正式に国扱いでな、テストで書くなよ?

 さて、いろいろな例が出てきたが、これ以外にも、オカ連の定める所の超常組織は数多く存在する、製造系企業にゲーム制作会社、楽団に宗教団体、メジャー所で言えばご存じ任天堂なんかも第二種超常組織なんだよな。

 この雑多な連中をひとくくりにするに足る定義はただ一つ。

『異常存在を認知し、活動の過程でそれらに干渉する場合のある事』。

 これだけだ。

 その上で以上存在を扱う仕事がメインなのが第一種超常組織、取り扱う事もある程度だったら、第二種だ。

 この基準が制定されたのが1947年のニューオリンズ会議だ。

 そもそも世界オカルト連合の誕生は1912年にニューアムステルダムで発生したARC-173の収容違反が直接起因しているといわれている。

 この事件以前にはさほど異常存在との接触がさほど多くなかったこともあり、米国史上初めての大規模収容違反だとも言えるこの事件は、世論を大きく動かした。

 1913年ジョシュア・ブライト上院議員の提言書、1915年メキシコ湾憲章、そして1917年世界オカルト連合創設。

 ここら辺の流れにはここからの内容を理解するために重要な要素が凝縮されているといっても過言ではない。

 それ以前は渾沌を極めていたといっても過言でない異常の世界が秩序を得る事、現代で異常にかかわる者たちの基本スタンス、奇しくもこの流れはそれをなぞっている。

 少なくとも俺はここの時代をよく理解しておくことは非常に重要であると考える。

 さて、事の発端となる12年の収容違反以前の世界の超常組織たちの様相を見ておこう。

 1910年代になって世界では今でいうグローバライゼーションにも近いものが興り始め、国々の繋がりというものが意識され始めていた。

 それは今までその立場上保守的かつアンダーグラウンドじみた立ち位置にいた超常組織たちにとっても同じだったんだな。

 そもそも超常組織の中では政府の援助込みで合法的に立ち上がった『蒐集院』や『全米確保収容イニシアチブ』あたりを除いた殆どがかなり倫理的、法的にグレーな形で立ち上がっていたわけで、いかに異常存在というものが人類共通の敵とでも言える要素を多く内包しているとは言え、世界規模の連合を結成しようなんて考える輩は数いれど、実際に構想段階までもっていくような剛の者はなかなかいなかったというわけだ。

 しかしヨーロッパで時の三大組織に名を連ねていた『超常現象の確保収容に関する王立財団』(イギリス)、『怪異なる事物についての聖帝評議会』(ドイツ)、それに『ツァーリの賢人団』(ロシア)らが1910年に合同でARC-1710-jpの収容作戦を行った事、そしてそれ以前にポーランドの超常組織『聖ショパン正教会』がショパンゴジラによって壊滅していたことによって単独組織では到底対処しようのない異常存在を人々が認知したことによって、欧州一円の組織の間で世界の超常組織たちを束ねる上位組織の建造が一つの大きな意見として語られるようになってき始めたんだ。

 しかし1910年時点ではその構想は実現可能とは言いづらかった。

 その当時でも勿論ヨーロッパ以外にも超常組織は存在していて、そいつらはショパンゴジラの脅威を実感することなど当然なかったわけだから、超常組織間の協調の重要性が世界レベルで見れば完全には理解されていないというわけなのさ。

 そいつらの代表格が、『全米確保収容イニシアチ(USAI)ブ』と『蒐集院』、それと『中国異学会』あたりで、後者二つは日英同盟やモスクワ条約を持ち出せばどうにかなったんだが、USAIに関してはそもそもの規模がヨーロッパの連中を上回っている訳で、これに関してはどうしようもなかった。

 世界最大の超常組織の賛同が得られず、この時点で世界オカルト連合の夢は途絶えた。

 時は過ぎて1912年。

 アメリカ合衆国ニューアムステルダム郊外、現在のサイト-12で、小規模の収容違反が起きた。

 ARC-173『彫刻 オリジナル』の担当職員が誤って同時に瞬きをし(当時全米確保収容イニシアチブはARC-2317の収容作戦で職員が散開していて、こいつみたいな収容状態が安定している古参オブジェクトには、あまり人員が割かれていなかった)、ARC-173は職員数名を瞬時に殺害して脱走、何を思ったかニューアムステルダム中心部に向かったんだ。

 実は当時のニューアムステルダム港には蒐集院の艦隊が寄港していて、ARC-173程度なら十分に制圧可能な兵力があった。

 しかし、両組織間には成文化された協定がなく、上層部同士のすり合わせに数時間を要したんだ。

 その間にARC-173はニューアムステルダム中心街に到達。

 最終的に蒐集院とUASIの共同部隊によって制圧された時には、130名近い死者が出ていた。

 これによってニューアムステルダム市民以下多くのアメリカ国民に超常組織間の協調の必要性が周知された。

 1913年、異学の専門家でもあった上院議員ジョシュア・ブライトが議会に国家間超常組織連盟の創設を書籍『異常なる世界』で提言。

 多くの専門家がそれに賛同し、その声はついに米国中枢をも動かした。

 そして1915年、時の米大統領ウッドロウ・ウィルソンの名の下にメキシコ湾憲章が創出された。

 その中では、ブライト議員の国家間超常組織連盟をさらに拡張した組織、『世界オカルト連合』が提言されていた。

 1917年、それは世界26の組織全ての承諾を得、世界オカルト連合は創設された。 さて、プリントを見てくれ…………

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