第十章 『お眼鏡にはかなったみたい』
「ふぅん。 これが新入りの子? 割と可愛いわね」
どうもです。
そうとだけ呟いて私は画面を見回した。
通信をしているのは私を含めて五人。
右上から時計回りにお嬢さん、花鏡某、白鳥眉美さんとやら、そして小野寺燈子さんと言うらしい人。
雛は隣で引っ張ってきた私の椅子に座っている。
「じゃぁ、私から行かせていただきますわ。
断月真易、17歳、長崎西歐女子所属、新聞部、趣味は読書、変身アイテムは『博士のわくわく大冒険毛布』、モチーフはBVP 111。 それに海賊コスだから属性的には『メカクレ』になるのかな。 他に質問はある? 」
「……BVP 111、て何だっけ? 」
白鳥さんが小さく手を挙げ、申し訳無げに聞いてきた。
彼女はお嬢さんにも増して箱入り娘然とした見た目で、こんなマニアックな爆撃機の名前を知っているとは確かに考えづらい。
「今のは図南さんに向けたんだけどね。 BVP 111ってのはドイツの爆撃機。 左右非対称の航空力学のフリーダムさを象徴するような見た目で有名ね。 本来は機動力をアドバンテージとしたドイツ名物急降下爆撃を得意とする機体ね。 実物は死ぬほど地味な一生を過ごしたんだけど、私のは鍛治本洋介の『黄色の13』に出てきた超兵器じみた機体の方が元ネタで、ナパームにロケランにクラスター弾に、アハトアハトまで積んでる。 歩く武器庫ことナパームマン(応募時点ではボマーマンだったそうな)の元ネタだと言うのも頷ける話だね」
かなりマニアックな話を始めたお嬢さんを一瞬だけ見たきり、白鳥さんは一心に下を見ていた。
『黄色の13』とエスコン0との(道理で聞いたことがあると思ったら、黄色小隊の元ネタだったか)の正誤表を提示し始めたとき、彼女はお嬢さんの発言を遮った。
「もう分かった、大丈夫」
そう言うと彼女はスマホの画面をウェブカメラに突き付けた。
逆光で見えづらいが、パズルピースでできた地球のオブジェとゴチック体で書かれた『BVP 111』の題字が見える。
確かに今の彼女の質問は『Wikipedia見とけ』でも答えられる。
どうも白鳥さんはその見た目と裏腹になかなか処世に優れているようだ。
「じゃぁ、次は私が自己紹介しましょう。 花鏡海月、17歳、事情あって通信制に通ってる、変身アイテムは『秘密の音色』の入ったiPod、モチーフは怪力光線砲。 お嬢さんのが『黄色の13』に出てるやつが元ネタになってるみたいに、私のは『Classical Fantasy Within』の奴だよ。 勿論スプリット・マシュラーム見たく分身できる例のシステムもしっかり搭載してるよん」
花鏡さんはショートカットに灰のジャージ(学校指定とかではなさそうだ)に太い黒縁眼鏡と、『ケ』という概念の擬人化の様な如何にも家用な服装である。
しかし雰囲気自体は肌が嫌に白いことを除けば、なんとなく活発な人間のそれで、顔はAWCYのセンターの彼女(名前は忘れた)によく似ている。
声もかなりいい。
なんとなく聞いた事がある気もする。
「いや、スパイク・ローズレッド」
小野寺さんから横槍が入った。
「こんな奴フレイム・ハイエナ―ドでいいでしょ」
続いてお嬢さんが嫌に悪意ある名前をあげる。
「インフィニティ・ミジニオン」
白鳥さんが静かに発した単語に、実際にその分身能力を見たことがあるらしい二人は、同時に声を上げた。
「それは違う」
……それは違うんだ。
「まぁ、彼女、強さの程は奴と同じくらいですからねぇ」
小野寺さんは組んでいた手を崩すと、呆れ半分といった風情で話し始めた。
「8インチ砲四基八門に荷電粒子砲二基に拡散波動砲にパルスレーザーが一杯。 私達が19シリーズやsonic wingsの世界観の中にいて、コイツだけRーTYPEに雷電にサンダーフォースにレイディアントシルバーガンだからねぇ、弱いわけが、ないない」
強い事はミジニオン並みに強いらしい。
「ちなみに私は小野寺橙子、16歳、県立西部高校所属、文芸部、変身アイテムはノーパソになった『速度無限のコンピュータ』、モチーフはX-T333。 鋼鉄の咆哮のヴリルオーディンの元ネタで、簡単にいうとローターが三つあるでかいヘリコプターね。 属性は『科学者』。 私は生物派なんだけどね。 何か質問ある? 」
「質問というか」
私が高校が同じである旨を告げると、彼女は銃撃でもされたようなイヤに大袈裟なリアクションを取った。
「いやぁ、魔法少女なんてもんが存在するって知ったときは世界は随分と広いなと思ったんだけども、こんな狭いカテゴリに同郷の人間がいるとは、やっぱり世界って存外に狭いみたいだね。 何組? へぇ、二組。 二組ってたら、式宮ちゃんにソミに林歌、えっ、林歌の知り合い? いやはや、やっぱりこの世界は……」
喋る、喋る、喋り倒す。
それが数分続いた。
「……いやはや、どうも自己を抑えるのは苦手でね。 本来は海月ちゃんのターンだったんだっけ、続き、どうぞ」
「あんたくらいのコミュ力が無いと対処できないような状況に他人を放り込む趣味はやめにした方がいいよ。 属性はストリートファッション。 私の発言はこれで終わり、いいね? 」
『花鏡海月さんが退出しました』
花鏡さんの画面が突如暗転し、システムメッセージが表示された。
「海月ちゃん、たまにこうやって退出しちゃうんだよね。 まぁ、続けて続けて、しばらくしたら多分帰って来るから」
小野寺さんはまたも大袈裟なリアクションで身を引き、肩を竦めながら白鳥さんが代わりに前に出た。
「白鳥眉見。 17歳。 長崎西歐女子所属。 男子バスケ部所属。 アイテムは『国体護持』。 モチーフは戦艦大和。 属性は巫女」
そう言いながら彼女はウェブカメラの前にキーホルダーのような物を突き付け、ゆらゆら揺らした。 青銅剣に鏡に勾玉……の模型である。
「まぁ、『国体護持』ってのは物自体は『三種の神器』そのものだからね。
スパコンがノーパソになる世界、こんなのはざらよ」
お嬢さんが付け足した。
そんなことこちらは全く気にしてないのだが。
私はすでにLINE上で自己紹介しているので、代わりに雛の紹介をした。
これで全員の自己紹介が終わった事になる。
私は画面の向こうの皆と談笑している雛に耳打ちした。
「……これ、聞いた感じ力不足だから集まってる訳じゃないよね? 」
「多分ね。 まぁ、仮にそうだった場合。 波動砲撃てる奴と18インチ砲撃てる奴とで勝てない奴にちょっと強い機関銃を撃てる程度の奴がどうしろって話なんだけどね、聞いてみてよ、朋」
そういうと雛はPCの視界から退いた。
どうやらこの気まずい質問は私に託されたようだ。
「えー、少し質問が」
雛の自己紹介の間に復帰していた花鏡さんを含めた四人が、気まずそうに話し始めた私の発言に対して身構えた。
「この四人って、何のために集まってるんですか? なんか、私が害を被りかねないような何かが有ったりしたりは……」
「ああ、そんな事」
お嬢さんが肩を竦めた。
……そんな事?
「まず逆に聞きたいんだけども、仮にそうやって貴方に危害が及ぶような事をした場合、私達はどんな形で得をすると思う? 」
「あの、ポイントの関連? 」
一兆集めると願いが叶うらしい彼のポイントであるが、あのルボットを倒して得たのは僅かに50億P弱なので、あれを200体倒さないといけないと考えると、なるほど搦手で行きたくもなるだろう。
「そうだね、実はそのポイントは魔法少女同士でもやりとりが為される事ができて、確かにあなたを嵌めての大量獲得もできなくは無い。 でもね」
お嬢さんはそう言うと頭をぐるりと一周回した。
PCの画面上においては、周りの皆を睨め回したような風にも見える。
「私達、ポイントとかそんなもん要らないのよね」
「はい? 」
魔法少女とは、願いを叶えるためになる物なのでは無いだろうか。
そのことを指摘すると、ほうらおいでなすったとでも言うように姿勢を正し、お嬢さんは再び話し始めた。
「確かに元々はそうなんかけれども、今となってはみんなそんなもんには興味も無くなってね」
お嬢さんは自身を指さした。
「私と橙子は元々願いがしょうもなくてね。 私が異常存在への興味で、橙子は」
「『刺激が欲しい』」
「そう、この時点ですでに叶ってるような物なのね。 眉見はコンプレックスになってる顔の火傷を治したい、ってのなんだけど、まずそれがあるのが分かるかい? 」
顔の火傷、そんなのあったっけと思って画面の白鳥さんの顔をまじまじと見てみるが、やっぱりそんな物ないように見える。
「それも変身した時点で治ったの? 」
「半分正解、こいつは変身するとその間は何故か火傷が消えるのね。 何故かはちょっと今のところ私にもわからないけれども、とにかく眉見はそれが嬉しゅうて、実家の神社のー言ってなかったと思うけどこいつの実家って割と大きめの神社なのよねー手伝いの時を艤装なしの変身状態でする等になったらしいのね。 さて、そんなコンプレックスを克服した彼女の前に、小学校からの旧友がやってきた。 眉見は上がったテンションのまま言う。 『私、どこか変わってない? 』 答えはこうだった。 『ん、髪型かな? 』 なんと親友は彼女の火傷の変化に気づかなかった。 眉見が火事にあったことも知ってる奴がね。 そう、周りの人間からしたら彼女の火傷なんてそんなもんだったのさ」
よって治療は不要になった。
と言うことらしい。
「そして海月が……」
「私が言う」
花鏡さんがお嬢さんの話を遮った。
「さっき私は事情あって通信制に通ってるって言ったけど、その事情っていうのは、ズバリ重度のコミュニケーション不全なの。 こう言うふうに画面越しや文章越しではいけるんだけども、本物の人間が相手となると、会話以外の全ての情報が苦痛で、全く喋れなくなるの。 これ自体はもう変えられることじゃ無いと思ってて、私の願いもこれを治すことじゃ無い」
花鏡さんは再度大きく息を吸った。
あまり長く喋る機会がないのか、息切れしているようにも見える。
「私は、さっき言ったみたいに人とうまく会話できないから、経験不足的な意味でコミュニケーションってのがかなり苦手になってしまってるのよね。 それで、やっぱりそういう練習がいるかなって思ってた時期があって、今ではかなりましになったけど、その時は画面越しとかでも相手がいる事を認識したらもうキツイって状態だったから、私が選んだのがyoutube。 適当にチャンネルを作って、適当な動画を投稿した。 内容はゲーム実況。 忘れもしないGPM(高機動幻想ガンパレード・マーチ)。 GPM自体そこまで実況動画が多くないゲームだったこともあってか、それが割と再生数を稼いで、チャンネルが軌道に載っちゃって、今では登録者数130.5万人。 私の願いはそれを親に理解してもらう事だった。 でもそれは魔法少女になってすぐになされたの。 コメントに返信してる途中に、父さんが部屋に這入ってきてね。 父さんは私からあらましを聞いて、泣き崩れちゃったのね。 絶望じゃなく、安堵によって、ね。 ちょっとあんまり作文は得意じゃないからこれ以上はあんまり上手く言えないけど、とにかく願いを叶える必要はない」
花鏡さんはまた息を吐いた。
「海月ちゃん、もう休んでなさい。 貴方の事だからこんな詳しく言うべきでなかったとか自分語りがイタイとかそんなこと考えてるかもしれないけど、取りあえず全部忘れておきなさい」
小野寺さんが静かに言った。
「ってな訳で、私たちは魔法を必要としないのよね。 私達が集まってるのは簡潔に言うと自衛の為で、魔法少女になって急上昇した異常存在にぶち殺されるリスクを回避するためなのよね。 まぁ、私は興味本位で魔法少女になった身なわけだから例外にしても、みんな平和主義者なわけなのよね。 貴方はあの巨人に肉薄したあの時アイテムのアラームを無視してたし、競合相手の存在に特にどうとも思ってないようにも見える。 貴方の私達の仲間にふさわしいように見えるんだけども、どう? 」
「なるほど? 確かにそれだとあなた達にかかわってた方が私の安全は保たれそうだけども」
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