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 第九章 『にしまいっ‼ 密談編』

 「成程。 それで知り合った魔法少女が四人と」


 急いで作ったモダン焼きをもそもそと頬張りながら、姉は私に話の続きを促した。

 

 「其の四人と言うのが全員このグループのメンバーで、第一印象としては、変な奴しかいないわね」 


 「私達と比べたら? 」


 「どっちが上かは判らないけど、同レベル以上なのは確かね。 例えばお嬢さん」


 私は姉ちゃんの方にスマホを向けた。

 グループラインの画面ではキラー砲台の連射速度並みのスピードで吹き出しがポンポン生まれていっている。

 発言者は全て『断月真易』である。


 「お嬢さん、中々飛ばしてるね……。 なんかあったの? 」


 「最初に自己紹介があった後、『魔法って何だと思う? 』って質問があってね。 私がボケ半分で『萌え属性』って言ったら、ガチの反論が来てね」


 神山スレの狂騒が過ぎ去ってから数週間の2ch。

 誰かがぶち上げた『魔法少女の完全な法則を発見したったwww』と言うスレによって、再び魔法少女ブームは再び過熱した。

 彼のスレで提唱された魔法少女の法則とは、ずばり『萌え属性』である。

 当時確認されていた四人は、最初の魔法少女から順に『エンジニア系』、『警官』、『陸上部』、『ゴスロリ』らしかった。

 スレを読んでみると解るのだが、このスレ主の文章力がやたら高く、かなり読んでいて面白い。

 元来のインパクトに加え、そのことも手伝ってか、このスレは爆発的に拡散された。 それを基に私はそんな珍説を繰り出してみたのである。

 さて、お嬢さんはどう反応したか。

 『詰る所統一奇跡論的帰納法による証明によってここに超常物理学第三方程式の反証は可能なわけであるしかしこれはあくまで仮想的な物であり実際の所この法則を盤石とするために考え出された認識概数と言う考えがこれを妨げるのである逆に言えば仮にこの認識概数が限りなく一に近くなればこの法則を否定することも吝かではない実数の法則が幾何的アプローチから無力化された今知の探究者を妨げるのはただ一つ認識的帰納の不完全さ唯一つこれを最も簡単に強化できる方法は即ちテンプレートの利用に他あるまいここで使われるテンプレートはやはり『一見しただけで理解できる』『解釈、定義が一つ以上存在しない』『言語的定義よりも人間の感覚に基づいている事』が望ましいのであるその点此処に挙げられたる『萌え属性』は理論上達成不可能とされている第二の条件を除いて二つを満たしておりここに据え付けるに相応しい認識概数0.97を得て我らは空に舞い上がるのである』

 だそうだ。

 姉ちゃんは首を傾げた。


 「……理系の中禅寺秋彦みたいな文章だけども、言ってることは『いいと思う』でいいんだよね? 」


 この『浮かぶとて消えるもの』の変種みたいな文章から読み取れることは、ずばりお嬢さんは魔法少女に萌え属性を組み込むことには賛成らしいと言う事である。


 「しかしなんでお嬢さんは息をするようにこんなぺパマリのやばい裏設定がある奴みたいな文章が書けるの?」


 「……彼女がやたら超常分野に詳しいと言うのは、まず彼女の出自の所為だろうね。 GOI-0851-jp『恋昏崎出版』。 日本の要注意団体の中ではかなりの古参格だね。 異学研究のメッカとも呼ばれていた組織のご令嬢なわけだから門前の小僧習わぬ異学を解すと言うのも頷けはするわね」


 言っている間にもお嬢さんは話を変え、異学が最大の苦手教科である私にはさっきと違うこと以外に違いが判らない謎の説話(以上の表現は私にはできない)を始めている。

 相手の意思を折る以外に止めようがなさそうだ。

 

 「……朋、論破とかできない? 」


 私は肩を竦めた。


 「そんな高校生が彼女以外に」


『ちょっと調べたんだけど、その反証法って『宍倉・メンデレコフの星』の心象ベクトル方程式に手を加えた奴だよね。 ただ、それってj・ヘイルマンの言う所の思考実験的認識屈折に対して何の手も打ってないよね。 そこんとこ拙いんじゃないの? 』


 「……いたわ」


 今迄沈黙していたエアーマンアイコンが突然独走していたお嬢さんに反論した。

 発言内容からもアイコンからもステメ(『『銀河に願いを』エンディングを歌ってみた』の歌詞。 意味が解らん)からも全く人間が見えてこない彼女、花鏡海月の発言内容はどうもお嬢さんにはよく効いたらしく、彼女は『計算間違えてましたすいません』とだけ言って沈黙した。

 ……計算間違いとかのレベルだったのか? 


 「どんな感じよ」


 「話は終わった」


 「貸してちょ」


 私はスマホを雛に渡し、代わりに6分の1だけ残ったモダン焼きを引き寄せた。


 「すみません・取り敢えず・自己紹介でも・しておきませんか、っと」


 姉ちゃんは傍から見ると痙攣している様にすら見えるやたら細かい指さばきでいくつかのメッセージを発信し、暫くの間画面をどうと言う風もなく見ていた。

 100秒程後、着信音が鳴った。

 それを見て姉ちゃんはスマホを私の方に向けて投げ置き(その癖やめた方がいいよ)、未だ10分の1ほど残っていたモダン焼きを奪い取った。

 

 「何すんのよ」


 「かなり面倒な展開になった」


 一皿単位の略奪と言うコミカルな行動とは裏腹に、姉ちゃんの顔は険しい。

 

 「げぇっ、『Skype使えますか? 』ぁ! ?  ……完全に一本取られたね」


 全ての双子に該当する事ではないと前置きしておくが、何かの組織に所属するときに自分の片割れをあえて隠しておくのが、私たち姉妹の趣味と言うか習慣なのである。

 今回の件においてはどう考えても自分の情報をさらけ出していいことなどないだろうから、徹底的に隠してやろう(自己紹介も偽るつもりだった)と意気込んでいた矢先に、これである。


 「隠して拒否も出来なくもないけど、逆に言えばこれって相手も一定以上は自分を隠せないって事じゃない? 」


 「朋、それ。 今私達に出来る事で一番コスパが良いのってそう考えて諦める事じゃない? 」 

 

 「間違いないね。 ほな、行きましょうか」


 私がそう言った時点で、すでに雛は水の張った流しに綺麗に食い尽くされたモダン焼きの皿を投げ込み、そのままの勢いで階段を登ろうとしていた。

 うちのskypeは私のPCのほうだけにインストールされているので、ちびまるこちゃん方式で姉妹のスペースが向かい合っている部屋の構造の関係上、なんか嫌な洞察をされるリスクが高いのは雛姉ちゃん方なのである。 『イケます』。

 そうとだけ連絡してスマホの画面をチラ見しながら私も同様に部屋に走った。

 そのリスクがあるのはこちらも同様である。

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