サルカニ戦争
小説を書き始めてから2作品目の短編になります。基本的なストーリー構成で作りました。(自分ではそう作ったつもりです)テーマは少年漫画の王道とも言える『主人公の成長』です。が、上手く表現できているかはまだまだ自信がありません。最後まで楽しく読んでいただけると幸いです。よろしくお願いします。
「そりゃめでたい!今夜は祝いの酒を飲もうぞ!」
カニ国の国王13代目 蟹王の蟹示がそう言うと、サル国の国王8代目 猿王の猿魔はこう答えた。
「医者によると恐らくつわりだろうっていう程度だから騒ぎにしないでくれないか。お前だからこそ打ち明けたのだから。」
相変わらず用心深いのぅとカイジは返した。どうせ何だかんだ理由を付けて酒を飲みたいのだろうと呆れるエンマ。いつもお前はそうやってカニの心を見透かすと睨みつけるカイジ。それよりも今回呼びつけた用件を話せとふてくされて続けた。
「実は末っ子の鍛猿なのだが、極度の蟹アレルギーでな。お主ら蟹の一族のことを毛嫌いしておるのだ。良からぬことを起こしかねんくてな、少しの間だけで良いからお主の国の随一の戦士 蟹鎌に護衛と言う名目で監視して欲しいのだ……」
気にしすぎじゃないかと受け流すカイジ。それにお主の国にも腕利きの戦士はゴロゴロいるではないかと追い討ちをかける。杞憂ならばいいがと表情は暗いままのエンマであった。なあに新しい命を授かったとあればタンエンも兄として成長するはずさと前向きに考えるカイジの心持ちにエンマも渋々納得し、もし自分の身に何かあれば後のことを頼むとカイジに約束させた。その夜、結局具体的な行動は何も起こさずうやむやなまま朝までカイジの酒に付き合わされたエンマであった。
それから幾月が経ったある日、伝書蟹がカイジのとこへやってきた。
「蟹王様大変です!至急こちらの文書に目を通してください。」
受け取った文書に目を通し驚愕するカイジ。
「一体これはどういうことだ⁉︎」
書類の内容は以下のようなものであった。
〈猿蟹和平条約更新通達文書 来月より毎月100匹の蟹を生きたままサル国へ提供せよ。上記の要求を受け入れない場合、サル国とカニ国は戦争状態にあるものとする〉
国王の名は9代目猿王タンエンと記してあった。カイジには訳がわからなかった。そもそも8代目から9代目への襲名の儀を行ったという情報もなければ招待もされていないからだ。猿王の襲名の儀はこれまで必ず蟹王も立ち会ってきた伝統の儀式である。つまりそれが行われずに代が変わるということは、謀反が行われたことを意味していた。事情はわからぬが8代目が殺害されていることは火を見るよりも明らかであった。しばらく混乱していたカイジは数ヶ月前の事をはっきりと思い出し自責の念に駆られた。その後、蟹100匹提供の日までサル国との外交と情報収集を行ったがサル国からはなんの返答もなかった。わかったことと言えば現猿王が前猿王と兄弟達にも毒を盛って殺害し蟹と友好を交わす罪猿として晒し首にしていたということ王妃は行方不明になっていること。そして、前猿王派の雄猿達は戦争での下級兵として扱われるというくらいのものだった。
通達から一月が経ち、遂にサル国とカニ国の戦争が始まってしまった。兵の数で圧倒的に不利なサル国は主に中距離から遠距離の攻撃を仕掛けカニ国を攻撃した。対するカニ国は数では圧倒的に有利ではあったが近距離の攻撃しかできない為、隊を組んでは突進していき玉砕覚悟の特攻でサル国を攻撃した。そして約1年が過ぎる頃、戦争の均衡は遂にサル国へと傾いた。カイジは戦争で親爪《左右のハサミの内、大きい方のハサミのこと。一般的に右側のハサミ》を切断されるもまだ生きながらえていた。しかし疲弊しきった民達と戦況を鑑みて白旗を揚げた。この1年でサル国は亡命を図ろうとしていた前猿王の王妃見つけ出し殺害した。そして戦争で前猿王派の雄猿達と現猿王派の雄猿達の三分の一を失った。一方カニ国は五分の一の戦力を失ってしまった。
戦争に敗れカニ国はサル国の植民地と成れ果てていた。カイジは残りの兵士と民達に匿ってもらい9代目 猿王タンエンの暗殺計画を企てていた。生き残った参謀達に策を練ってもらう間、カイジは切断された親爪を接合してもらう為に人間の元へ行くことにした。一刻も早く民達を救う為に、飲まず食わずで人間の元へ駆けつけた。情報源はサル国の兵士達の会話から得たものだったがカニ国の現状ではカイジの親爪を復活させる方法も手段も他にはアテがなかった。三日間飲まず食わずで走ったカイジはなんとか餓死する寸前のとこで人間に会うことができた。人間はお前の親爪を治してこちらになんの利益があるのかと問いかけた。しかし現状のカニ国とそれまでのいきさつを話してカイジはこう答えた。
「友人の頼みに耳を貸さず、友人とその妻と子供達を失いました。その報いとして今まさに己の国を失い民までも失いそうです。今の自分を動かすのは友人と交わした『もしものことがあったら後は頼んだ』と言われた約束のみです。もしこの暗殺計画が成功し国をある程度まで復旧できれば私の体を好きなように実験台としてお使いください。」
人間はカイジの話を聞き終えると、あいわかったしかし物的報酬は無しでいいと言った。かわりに君の暗殺計画の結末を教えてくれと言った。
「あまりにも多くを失ったカニからこれ以上奪うのは人の所業にあらず。仁義を欠いてまで利益を得るつもりはないよ」
それから猿王のタンエンは自分が尾に毒針の仕込み手術を施したから気をつけろとも教えられた。タンエンは見返りを払えないから、かわりに蟹を毎月100匹送るという契約を持ちかけてきた。恐らく奴の狙いは蟹国の滅亡、即ちカニの絶滅が目的だと人間は語った。親爪の接合手術は1日程度で終わったがある程度動かせるようになる為、カイジは一月程訓練を重ねた。
「もう一月か。あっという間だったな。朗報を待っているぞ。親爪の仕込みはもしもの時のみ使用するのだぞ!」
人間がそう言うと、カイジは感謝してもしきれません必ず朗報をお伝えに参りますと丁寧にお辞儀をして仲間の元へ向かった。親爪を取り戻し体調がほぼ万全に戻ったカイジはなんと1日で仲間の元へ駆けつけた。カイジが戻ると仲間達は涙を流して喜んだ。人間に食われたのではないかと皆心配していた。もう大丈夫だと皆に優しく声をかけ安心させるとカイジは参謀達に策は練れたかと尋ねる。
「はっ!タンエンの行動パターンを分析して奴がほぼ一人になる時間を特定しておりまする。勿論そこまでのルートと警備を掻い潜る手段もご用意してあります。いつ決行なさいますか?」
今すぐにだと言いたいがカイジは1日この目で様子を確かめたいと言った。失敗は許されないのと過去の自分の軽薄さを戒めた結果の答えだった。タンエンは毎晩違う雌猿のところへ夜這いしにいっているので王室付近で待ち伏せをしていれば必ず1人になった隙が生まれていた。恐らく戦争に勝利し慢心していると予想された。これならいけると確信したカイジは明日の夜に計画を実行することを決意した。
翌日。作戦決行の時がきた。タンエンはいつも通り夕食を済ませて風呂へ入りしばらくすると護衛を下げて一人で王室を出た。そして曲がり角を曲がった瞬間にカイジはタンエンの後ろに迫った。カニカマは戦争で親指《両方のハサミ》を失い自身の体調も良くはなかったが、この目で見届けると体調を押して離れたところで様子を見ていた。カイジの親爪は凄まじい切れ味になるほど研ぎ澄まされていた。カニ国一の研ぎ師に親爪を研いでもらっていたのだ。そしてそのハサミがタンエンの背後から首めがけて物凄い勢いで挟もうとした瞬間。
ガタン!
と音がした。その刹那タンエンは猿本来の俊敏さを取り戻し素早く飛び上がり辺りを確認した。カイジにはそれどころではなかったが、音の元凶は暗殺計画の一部始終を見届ける為についてきたカニカマが発作を起こし倒れた音だった。
「誰だ⁉︎私を猿王と知っての……貴様はカニか?」
前猿王派の奇襲と勘違いしたタンエンは敵の姿がカニと気づくと鬼の形相となり反撃の態勢に入った。しかし先ほどの音を聞きつけた二人の護衛の内一人がタンエンとカイジの間に割って入る。護衛はカイジの親爪に挟まれ鎧と刀を装備していたが紙切れのように真っ二つになってしまう。その様子を見たタンエンはもしそのまま反撃していたら自分が真っ二つになっていたと恐怖した。もう一人の護衛にカニの始末をしろと命じ一目散に逃げ出したタンエン。冷静を装ってはいたがカイジの怒りは頂点に達している。援護しに来た護衛も一瞬で真っ二つにすると、親爪をかなり離れたタンエンの方向へ構えた。
「舐めるなよ自惚れ猿。貴様だけは何があっても逃さん!」
そう言うとカイジの上親爪がドンッという破裂音と共にタンエン目掛けて発射された。真っ直ぐ飛んだ上親爪は背を向けたタンエンの右肩をかすめたが、致命傷ではなかった。予想外の遠距離攻撃に驚くタンエン。しかし数秒で我に帰りカイジの状況を確認する。カイジは前のめりに倒れたままピクリとも動かない。
「爪を飛ばした衝撃で気を失ったか……馬鹿め!」
タンエンは二人目の護衛が落とした刀を拾ってカイジの元へ走り出した。カイジに接近すると恐るべし脚力で飛び上がり上空からトドメを刺しに来た。
「飛ばせるのが上親爪だけだとは言ってないぞ」
そう言うとカイジは残っていた下親爪を真上に構えて発射した。ギョッとしたタンエンは両腕を交差させて胴と顔を守った。そして飛んでくる下親爪を尻尾で勢いよく弾き直撃を避けたが体勢を崩しカイジにトドメは刺せず尾の先端はボロボロの血まみれになり着地した。
「カニの分際で小癪な真似をするんじゃねぇええええ」
そう吠えると距離をとって石を拾った。先程同様カイジは前のめりに倒れたままピクリとも動かない。同じ轍は踏まぬと石ころを思い切りカイジに向かって投げた。ガツンと石ころは当たったがカイジはピクリとも動かない。流石のカイジも二連続の発射の衝撃と痛みに耐えきれず意識を失ってしまった。タンエンは刀をギュッと握りしめて恐る恐る近づきながら両手を垂直に振り上げた。そして意識を失って成す術の無いカイジの脳天に振り下ろした。
「ぐふっ…………」
振り落とした刀はカイジに届く寸前の所で止まり地面にカランと落ちてしまった。タンエンは急に泡を吹きながら倒れこみ生き絶えた。数秒後カイジは意識を取り戻す。
「カイジ様!ご無事でしたか!」
「カニカマか……どうやらなんとか奴にトドメを刺せたようだな」
意識を取り戻し事の顛末を見届けたカニカマが答えた。不覚にも自分のせいでカイジ様を窮地に追いやってしまい申し訳ありませんふんどしを割って詫びますと告げた。
「過ぎたことはもう良い。それよりもお主は体調は大丈夫か?」
カニカマは感謝して、問題ないというとなぜタンエンは死んだのか疑問に思い問い返した。
「ありがとうございます……しかしなぜタンエンは死んだのでしょうか?先程の攻防を見ている限り致命傷となる要素が見当たらず不思議でしょうがありません。」
カイジはニヤリと笑いながら答えた。
「驚くことはない、簡単なことよ。奴は尻尾で2回目の親爪を弾いたであろう。アレぞまさしく致命傷となる行動だ」
クエスチョンマークがいくつも現れるカニカマ。
「どういうことでしょう……尾の先端は確かにボロボロとなり出血していましたがとてもあの程度の出血量で死ぬとは思えませぬ。」
「早とちりするな。着眼点はそこではない。尾の先端に人間に施してもらった毒針の仕込み手術だ。奴の尾の先端には毒針が内蔵してあったのだ。」
「ッ⁉︎…………ということは予めその毒針を破壊して傷口から毒を体内に混入させるように計算していたのですか?」
「そういうことだ。最初の一撃でトドメを刺せれば良かったのだが、失敗は許されぬからな。昨夜の下見である程度タンエンの行動パターンを予測し作戦を考えておったのだ」
目を丸くして驚くカニカマ。
「まるでエンマ様のような口ぶりですねカイジ様。昔のカイジ様なら近接での戦闘において策を練るタイプではなかったので驚きを隠せません。」
「エンマ程の策ではないがな。尻尾を負傷させることが目的だからそこから逆算すれば難しいこともあるまい。まず護衛との戦闘で近接でのハサミの威力を見せつけて近距離の警戒をさせる。すると距離を置いて戦いたくなるであろう?そこに仕込みの遠距離攻撃で相手の虚を突く。ここでトドメを刺さるならそれでも良し。駄目だったから気絶したフリをして逆に相手にトドメを刺しにこさせる。すると武器を持たねばならぬから両手は使えまい。その状態で咄嗟に2回目の飛び道具がくれば……」
「反射的に尾を使い身を守ろうとしますね。なるほど、そういうことだったのですね。いやはや感服致しました。勝つべくして勝ったということですね。」
「まあ、親爪を飛ばした時の衝撃と痛みが予想以上で気を失ったのは想定外だったんだがな。エンマならもっと用心深く策を張り巡らせていたであろう。しかしタンエンも己の毒針で王位を手に入れ己の毒針で死ぬとは皮肉な因果よのう……」
そう言うとどっと疲れが湧き出て倒れこむカイジ。カニカマにこのことをいち早く皆の者とサル国中に知らせよと告げると泥のように眠りこけてしまった。
カイジが目を覚ますとそこはサル国の医療機関の寝床の上だった。あたりを見渡すカイジにカニカマが事情を説明する。タンエンをカイジが討ち取ったことによりカニ国の民が解放されたこと、サル国は現状猿王不在のまま後継者探し中であるがエンマの親族はタンエンに根絶やしにされた為、実質タンエンの子を身ごもっている雌猿達の産んだ雄猿を次期猿王として育てるしかない状況であった。するとそこへエンマの妻とそっくりな雌猿が子猿を抱えて現れた。
「私はエンマ様の妻の影武者です。一週間前のタンエンの訃報を知り意を決してここへやってきました……」
カイジは自分が一週間も眠っていたことを知った。そして何か事情があるのだろう全て話してはくれぬかと優しく問い返した。その答えは皆を驚かせた。なんと抱えていた子猿は8代目猿王 エンマの実子だと言う。エンマ殺害後に王妃は影武者と入れ替わり密かに出産していたのだと、しかし出産を終えるとすぐに影武者の身を案じ入れ替わり城に戻ったタイミングで処刑されてしまったらしい。
「王妃はこの子の名前をカイジ様に教えればきっとエンマ様の意思がわかると私に言い遺し城へ向かわれました……何度も引き止めたのですがタンエン様を正しい方向へ導くのは母の役目ですと自らの意思を変えることはありませんでした。」
泣きながらそう言うとカイジは辛かったであろうよくぞ今までこの子を守ってくれたと感謝した。そしてこの子の名前を教えてくれと頼んだ。
「この子の名は蟹猿と申します」
その名を聞いた途端カイジの目から涙が溢れはじめた。
「エンマよ……どこまで先を見据えていたのだ。お主という奴は……」
そう言うと、皆に10代目猿王が決まったと国中に伝えろと命じた。それから事の顛末を人間の元へ報告すると約束通り朗報伝えに来てくれて嬉しいと人間は答えた。その後カイジはカイエンが自立し猿王として無事襲名するまで懸命に育てることにした。亡き父と母のことそして自らの過ちを隠すことなく後世に語り継ぐようにカイエンに伝え育てながら5年後に家族に見守られながら安らかに息を引き取った。
「ようやくあの日の酒の続きが二人で飲めるなエンマよ……向こうであの日の約束を果たせたかどうかゆっくり聞かせてもらおうか」
まずは、最後まで読んでくださったことに感謝を伝えさせてください。ありがとうございます。
まだ2作品目ということもあり、予定より大幅にボリュームが増えてしまいました。改めて小説を完結させる難しさを痛感しております。と、愚痴はここまでにしておいて。内容はいかがだったでしょうか?
小説を執筆していると出来上がった作品を初めて読んだ時の感覚がわからないので是非感想を聞かせていただけると嬉しいです。基本的にはキチンと読者に伏線を提示して回収することに重きを置いていますが、わかりにくい点や表現が伝わりにくい点などを指摘していただけると次の作品の面白さに繋がると思いますのでどうかご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。