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1 グリューンにて

大分間が空いてしまいました。

見切り発車なのでどうかご容赦下さい。


「――何時まで待ったと思ってんだッ、この寝坊助がッ!」


 響き渡る。喧騒に負けず劣らず。

 そんな大音声を発したのは、幾つかの荷車を背に佇む一人の女性であった。薄く鳶色掛かった髪を肩口で切り揃えた彼女は、柳眉を逆立て、瞳を三白に吊り上げている。上背はかなりある方で、男と殆ど遜色ない。


「いや、マジですまん。申し訳ない!」


 怒れる彼女――シャルロッテに睨まれている男は、身を縮こませて必死に謝っていた。


(ったく、威厳も何もあったもんじゃアない)

 こいつ、立場上はアタシの雇い主の筈なんだがねェ、と内心苦笑しつつ、顔は般若を保ったまま。それから少しの間説教をぶちかまして漸く、男、二―ルソンを解放。

 それと時をほぼ同じくして、上空から一つの影が彼らに接近していた。


《嬢ちゃん。街の門の方は、もう暫し混む用じゃ》

「おお、わざわざありがとよ、梟のじいさん」


 そう、昼だというのに、それは一羽の梟である。彼はしかし、シャルロッテの側に控えていた一人の女子――飼い主であるアンナの肩に止まると不服そうにこう申し立てるのだ。


《毎回言うとるがの。儂はミミズクじゃ、フクロウではない》

「あーはいはい。わかったわかった」


 最早定番となったそのやり取りを、皆が苦笑気味に眺めている。因みに、彼の“種族”は梟だが、“名前”はミミズクなのだ。

(いちいち面倒なんだよなァ、このじいさん)

 まア、憎めない鳥なんだがねェ、と彼女は独りごちる。

 そこへ突如、である。


 声が、掛かった。


「その。――突然、申し訳ございません」


 そちらに顔を向ける。まずシャルロッテは、自身とそう変わらない位置に目線があることに驚く。男と比べてもそれなりに背の高い方だと自負する彼女にとって、真正面を見て話すことが出来る者は珍しかった。その上、全く違和感のない着こなしの男装。胸部の豊かな膨らみがなければ、相手を男と勘違いしていた。


「……(はっ)ゴ、ゴホン。な、何か、アタシらに用かい?」


(危なかった……。こんな娘、初めて見た)

 昔取った杵柄というやつで、シャルロッテは大抵のことでは動揺できない。幾ら相手が美少女とはいえ、人物を前に呆然としたのは、ここ数年来のことだった。


 そんなことを考えていると、少女がおずおずと口を開いて――


「お姉さまッッッ!!」


 そして言葉を邪魔された。

 唐突に現れた少女は、金髪をはためかせた勢いのままに“お姉さま”へ突撃。身長差故か、それともほかの何らかの要因か。彼女の頭部は、女性のみに内包された弾力の反発を受ける。

そして、それをさして意に介した様子もなく、小さな衝突の被害者が犯人に言った。


「少々落ち着きが足りないですよ、エミリア」

「だって急に居なくなるなんてぇ……」


 そう言ってエミリアは縋りつく。ぐりぐりと、“お姉さま”の胸に頭を埋める。「心配したんですからぁ……」と若干の涙声で。少し生暖かい視線がそこに集中する。(どうしたものか――このままじゃ話が聞けないんだが)シャルロッテが困惑する中。


「――はぁ。……離れてください、エミリア」


 グイッ、と。エミリアの肩に置かれた手が、少女二人の距離を零から正の方向へ増大させる。コホン、と一拍挟むと「では、」と仕切りなおす。


「……改めて。私はルナリエッタと申します」

「おう、丁寧にどうも。アタシはシャルロッテ。この隊商の護衛みたいなモンをやらして貰ってる。――それで? 何か用なのか? アタシらに」

「私にはお姉さまに甘えるという用事があるの。如何なる人でもこの用事を邪魔することは許さない」

「話がややこしくなるので貴女は黙っていてください。後で幾らでも甘えて良いですから」

「解りましたッ!」


 急に会話に割り込んでくるエミリアとかいう少女は、ルナリエッタの一言で漸く鎮静化した。何とも言えない空気のまま、言葉は続く。


「貴女方に、同行させていただきたいのです」

「じゃあ私も一緒に行きたいですお姉さまッ!」

「……………………………………………………………私と彼女で二人、同行よろしいでしょうか?」


(何だろうなァ……。この娘、アタシと似た雰囲気を感じるんだよねェ……)


 自分とタイプは違うが、ルナリエッタも苦労人だと今の一連の流れで察したシャルロッテには、妙な親近感も相俟って申し出を断る選択肢は無かった。


「アタシには、別に断る理由もないがねぇ。どうなんだい、リーダー?」


シャルロッテは先ほどからすっかり蚊帳の外の存在となっていた二ールソンに呼びかける。「……俺ぁ、商売の邪魔にならねぇなら特に否やはねぇが」ほかのメンバーの反応を横目で伺い、否定的なものが無いと判断した二―ルソンはGOサインを出した。「ウシ、じゃア決定でいいなァ? ――そういうことだ、ルナリエッタに、エミリア」


 エミリアは、この一瞬での決定に驚きを隠せない様子である。一方でルナリエッタは、あまり表情が動かないのでわからない。


「――有り難うございます。用心棒がわりに思っていただければ」


 シャルロッテを含むこのキャラバン――『ノマデ』に、こうして二人が加わった。

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