第85話:乙女苦憚、狂った街と、狂った地獄
「!?」
「へへっ……男を惑わすモッチリ加減。いいねぇ~堪らないよぉ~新人ちゃ~ん♪」
給仕をしている後ろから、群れたゲスの一人が私の臀部を触ってくる。
だが、そんなクズに一蹴り入れる権利も、睨め付ける権利すらも私は持ち合わせてはいなかった。
憎くてたまらない男たちをのにやけ面を拝み、目を背け……抱き寄せられる。
「へへっ……彼氏のために声まで我慢しちゃって……たまんねぇな」
震える身体に汗まみれの汚物を密着させて来る。
愛する彼のために、私が取った選択は消して間違ってなどいない。
我慢すればいい、私が我慢すれば彼は傷つく事なんてない、ないから……。
「君、何を調子に乗っているのかな?それに手を出して良いなんて言った覚えはないはずだが?」
金の長髪を揺らした優男の一言で、慌てる様に男が私から手を離す。
「アハハッ……すいませんジェリドさん。余りに美味しそうだったんでつい手が出てしまって……」
「そうか、そう言う事なら分からなくもない。……だが、それは私のデザートだ。
余興の場で血は見なくないんだ、分かってくれるね?」
「は、はひぃっ!!」
さっきまで威勢は消え、男はただの羊に成り下がる。
……ジェリド=アーネスト。
銀色の風のリーダーで、「悪魔の右腕」と呼ばれるこの街を牛耳る三人衆が一人。
彼ともう一つの左腕がいるから、この街の人間は平穏に暮らせている。
だから……彼らに逆らう事はこの街を裏切る事で。
この男に逆らうのは、彼の下で奴隷の様に使われているニック……私の大事な人を。
今よりもっと傷つける事になるから……だから……。
「それよりもだレベッカ。まずは酒を持ってきて酌でもしたまえ」
「……はい」
キザったらしいセリフが心をイラつかせる。
さっきの男から私を守ったつもりでもいるのだろうか?
こんな下劣な催しを開催する男に憎しみ以外の何を抱けばいいと言うのだろうか?
どうしてこの街は……こんな男なんかに。
……やめよう。
この場で私の役目は新人のウェイトレス。
この酒場で行われる戯れのためだけに役付けされたタダのおもちゃ。
屈辱なんて二度目からはきっと慣れるものだ……そうに決まってる。
それに本当に辛いのは私じゃない。
一番酷い目に合うのは……ここに連れてこられる予定の女の子。
この催しはその子のために開かれていると聞いた。
ここで行われるのはその二次会であるとも。
そして、ジェリドの部下達の半分以上が今はいない。
私に最初の屈辱を、苦しみの限りを味合わせた二人もいない。
そんな大勢の狼の中で、一体どんな一次会が行われるのか……それに私だって……。
……やめよう。
酒を取りにマスターの元へ行く。
良く知った顔見知りが小声で私に一言だけ静かに言葉をつぶやく。
すまない……と。
たったそれだけの言葉をひねり出すのにどれだけ苦しい想いをしてきたのだろうか。
私はおじさんの事を昔から知っている。
小さい頃はとても可愛がってくれた記憶がある。
いけない事をした時は叱ってくれて、嬉しい事があったら一緒に喜んでくれて。
本当は優しくて、悪事になんて手を貸さない立派な人だった。
そして……そんな人を私はこんなになるまで、私たちは見て見ぬふりをし続けた。
―――だから、私は首を横に振る。
この街はいつからこんな風になってしまったのだろうか。
どうして……優しい人たちが傷つけらて、悪い奴らの笑い声が聞こえるんだ……。
目から出そうになった偽善を呑み込み、私はあの男の元へと酒と身体を持って行く。
覚悟を決めた私のひと踏みと同時に、酒場の軋んだ扉の音が響き渡る。
―――バタリ、と音がした。
それは、何かが床の上に落ちた音。
それは、誰かが放り投げられる音。
それは、これから行われる地獄の始まりを告げる音。
―――そして、目に映るその光景に私は唖然とする。
だって、倒れていたのは女の子ではなく……。
股から血を流して蹲る、ボロボロの男だったのだから。
―――そして次に現れたのは……ボロボロの少女などではなかった。
虚ろな赤い瞳……美しい少女の形をしてるだけの……何かだった。
その美しい顔が口角を不気味に歪ませると共に……本物の地獄が開演したのだ。
書き始めがうだうだしちゃう今日この頃。
頑張るとか言うと、頑張れない、反省。
でも内容はガンバッタ、なろう的なアレヲ書ケタ気がスル!




