第84話:再演、踊る音色と、鮮血の瞳
エリックと最後に話がしたい。
その時間さえ貰えるのならば、シャッハへの仕込み命令は簡単だった。
「ん゛っ!?」
大男が口を押さえ、その体が大波に揺れる海藻が如くウネウネと踊り出す。
周りの男たちは大男の突然の寄行を前にただ……脳の処理を止めていた。
「ぐがっ……」
それも自分たちの力の象徴が崩れる様を前に……時が動き出す。
ブリプスが泡を吹きながら仰向けで倒れ込む。
「……えっ?」
最初に脳の処理が開始したのはブリブスの後ろでヘラヘラと笑っていた下っ端の男。
「ぶっ!?ぶふぉっ!?」
この間抜けな音色はシャッハの蔦をもろに喉で詰まらせた音。
「な、何だよこれっ……あ゛、ん!?べふぁぁあぶ……」
これは口に入って解けた紙が口の内側と言う内側に張り付いて行く音。
「糞っ!!こんなの聞いてねぇぞ!!に、にげっ!?」
これは……能無しより鋭くも意味を成さなかった無様で哀れな男の音色。
男たちはまるでドミノ倒しの様に藻掻き、己の罪への懺悔の声を上げながら果ててゆく。
ある者は何が起こったかもわからぬまま。
ある者は恐怖をその身に受けたままに静かな悲鳴をあげながら。
ある者は逃げ出そうとするも蔦に絡み取られ、元の悪夢へと引きずり込まれながら。
男たちの音色はただ……白闇の中へと途絶えていく。
「後は……あなただけ」
私が見下ろす先には小便を無様にぶちまけながら震える愚かな小鹿。
「やめてくれ……僕たちが悪かった、頼む助けてくれ……」
さっきまで優雅そうに振る舞っていた男も、ずれた眼鏡にすら気を配れない程にただ怯えていた。
「助けてあげてもいいよ?でも、助けて欲しいなら何を言うべきかは分かるよね?」
男は目を泳がせ、処理の追い付いていない脳を必死に動かし考える。
「あ、あの……そのっ……!?」
男が考える間も私の可愛い子が身体を這いまわりながらゆっくりとその首に手をかけてゆく。
「ひっ……ぞ、ぞうでしひゃ、ジェリ゛ドはゲロルの酒場に゛……」
「はい、よくできました」
絡みついた蔦がシュルシュルと解かれてゆく。
私の許しを得た男は腕の力を失って、バランスを乱して崩れ落ちる。
「フフッ……じゃあ、よくできた子にはご褒美をあげないとね?」
「……へ?」
白い鞭の後には飴をあげないといけない。
教育とはそう言うものだと私は思う。
「私のせいでその大事なズボン汚させちゃったしね……拭いてあげないといけないよね」
「あ、あの……」
解かれていた蔦が男の腰へとゆっくりと絡みついていゆく。
教育はきっちりする事が大切だ。
掃除は完璧にする事が大切だ。
だから、汚れは全て消し去ってあげなくてはいけない。
「ゆっくりと、じっくりと、しっかりと……きつーくきつく、搾り上げないとね?
汚れってね……ちゃんと落ちないんだ」
「あ゛、えっ……やめて、そんなことしたrっ!?」
鮮血と共に男の魂の悲鳴がこだまする。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
男は己の尊厳を奪われた事実に追いつけず、追いついて、そして痛みに支配されてゆく。
私のために奏でられたその甘美な音色は私の心を満たしていった。
「ごめんね、ちょっときつくし過ぎちゃったね。
でもこれでもう悪いことは出来ない良い子になれたんだよ?良かったね、眼鏡くん」
私が彼に語り掛ける頃にはもう彼の悲鳴は止み、鼻水や汚物を垂れ流しながら虚ろな目で静かに呻いていた。
「ねぇ、眼鏡くん……何もう終わった気でいるわけ?」
私とは思えない力で、男の腹をサッカーボールの如く蹴り飛ばす。
腹を抱えて呻き声をあげる男の髪を掴んで、彼への最後の仕事を愚鈍な脳へと伝えてあげる。
「じゃあ……次は案内してくれるかな?……そこまでさ」
エリックを守るため。
エリックの恨みを晴らすために私は動いていたはずだった。
だが、私の目にはもう……倒れ伏すエリックすらも映ってはいなかったのだ。
そして作者は気づいたのだ……先週の投稿をしていた気になっていた事に。
……ずみまぜん。
月~水辺り、頑張れたら上げます。




