第81話:相談、酔いどれ男と、良い女
「おはようフィオナちゃ~ん、これ今日の納入分ね~」
てりやきキットを詰めた箱を荷台から降ろし、いつもの様に奥の台所へと運んでいく。
「あ、ミコトさん、おはようございます。」
フィオナちゃんもいつもの様に挨拶を返してくれる。
普段はラフな言葉遣いのフィオナちゃんだが、仕事相手には敬語を使う辺り出来た子である。
そう言や、鍛冶屋の息子のジェット君の想い人だったな。
ジェット君の頼みで愛のキューピット?として私がてりやきの納品の経緯までなったわけだが。
あんなんでどうにかなる様な事だったのだろうか?
そもそもフィオナちゃんって、プロポーション良いし、健康的なボーイッシュ美人なわけで。
絶対倍率高いよねって言う。
対してジェット君はイケメン細マッチョではあるんだけど、なんだか頼りないというか。
あのチャラそうな感じとか、フィオナちゃんが如何にも嫌悪しそうなのよねー。
と言うかさ……。
「あれ?姉御じゃないっすか!チーッス!」
カウンターに項垂れていた男がジョッキ片手に呑気に挨拶をしてくる。
うん、彼的には積極的なアピールか何かのつもりなのだろうが……逆効果ではないだろうか?
「てゆーか姉御っ!今日は一人っすか?珍しーっすね!!」
「ハハッ……プリニアは今ちょっと動けなくてね……」
そう、そうなのだ。
プリニアさんは今……うちでずっとマイノちゃんに抱きしめられているのである。
それもこれもだ……。
前回、私とプリニアさんは無事アークランドのお姫様を送り届け、早々に家に戻ったわけだが。
残念なことに……家に着いたことには外は既に真っ暗闇となっていた。
私としてはカンカンに怒り狂うエリックにビクビクしてたわけだが……。
実際に出迎えたのは……涙目をポロポロ流すマイノちゃんだった。
運良く……いや運悪く、エリックの方も帰りが遅かったのだ。
と言うか、エリックに至っては初めての朝帰りであり。
私たちが代わりにマイノちゃんの傍にいるとたかをくくっていたらしい。
文字通りそれが仇となり。
プリニアさんは現在、傷心中のマイノちゃんを慰めるための抱き枕と化している。
故に……この仕事が終わり次第、「マイノちゃんに懺悔するための会」の準備が待ってるわけです。
「ジェット君、たまにはいいこと言うね」
「姉御……たまにはって酷くないっすかぁ~」
酔っ払い男が涙を流しながら女々しく絡んでくる。
「フィオナちゃん、実はちょっと助けて欲しいんだよぉ~」
「無視っすか!?酷いっす姉御ッ!!」
酷くはない、こんな真昼間から想い人の前で酔っ払ってるお前の方が酷いわっ!
―――少女説明中
「なるほど……つまりはマイノちゃんへのプレゼントをお探しと」
「そうです」
「と言うかミコトさん、前々から思ってたんだすけどね」
「ん?」
「今回の事もそうですけど、そもそも普段からあんな小さな子に留守番させるのはどうなんですか?
私はそこから納得していないんですけど!!」
「いやーまぁ、それはさぁ……」
「……ミコトさん。
プレゼントうんぬんの前に、そういうとこがマイノちゃんを傷つけたんだと、私は思いますよ」
……ぐうの音も出ません。
いやまぁ、そもそもあのうち親御さんがおらんし。
私たちと出会う前のエリック達にとっては当たり前の事……。
だからマイノちゃんは留守番に慣れている……と、甘えてしまっていたのだ。
そしてよりにもよって、最悪の形で彼女の普段の不安を爆発させる事態を作ってしまったのだ。
ちょっとエリックに怒られるとか、そんなくださない気持ちでいたあの時の自分がとても恨めしい。
「だね……今回の件で反省したよ。
まだどうするかまでは考えてないけど、それについて話し合うつもり」
「あ、プリニアちゃんを一緒に置いておけばいいとかはなしですよ?
あの子は性格は大人びてますけど、あの子だってまだ小さい子なんだからっ!」
「……もちろん、です」
いや、実際プリニアさんは私より年上ともいえるんですがね!
とは言えその解決法は私も違うと思ってはいる。
そもそも、私たちがいつまで一緒にいられるかだってわからないのだから。
「ここから左に出て、3つ目の角を右に曲がった場所に雑貨屋があります」
「え?」
「きっとそこでなら、プレゼント用にいいのがあるはずです。
雑貨屋の店主さんに聞けば、どれが良いってのも詳しく教えてくれますから」
「ありがと、フィオナちゃん!恩に着るよっ!」
「ただし!プレゼントはあくまでもお詫びの気持ち程度っ!本当に必要なのはミコトさんたちの行動っ!」
「はい」
「わかれば、よし!」
ハハハ……この歳になってこんな若い子にガッツリ説教される時がくるなんてねぇ……。
こう言う事でも、異世界に来てよかったと思えるんもんなんだなって。
と言うか、久々に自分の実年齢をしみじみと感じたなって。
「……へへへ」
私とフィオナちゃんが会話してる横から、私たちに酔っ払いのにやけ笑いが向けられてくる。
と言うよりフィオナちゃんにだが。
「何、ジェット?青臭いとでも言いたいの?」
「いや……やっぱお前は良い女だなって」
「よし、今飲んでる酒600Gな」
「へ?なんだよ急に……てか、俺なんかしたか?
てか、600Gって倍額じゃねぇ―か!?ぼったくりすぎだろっ!!」
「うっさい、その上から目線がムカつくから当然の金額だ」
「何だその理由っ!?」
いつもこんな調子なのだろうか?
何と言うか……。
「フィオナちゃん、本当にありがと。それじゃ、私そろそろ行くね。また遅くなるわけにも行かないし」
「あ、はい。えっと、何かその……差し出がましい感じで言ってすいません」
「全然、そうだね……私もジェットと同じ答えかな」
もちろん、少しだけ意地悪ににやけてだ。
「……!?」
今回の事で一つ、訂正しなければならないことがある。
フィオナちゃんは礼儀を重んじるのはしっかりした娘さんだから……ではなかった。
むしろ、逆なのだ。
本当に親しい人だからこそ……敬語がなくなってしまう。
そんな可愛らしく……そして良い女なのだ。
だからジェット、フィオナちゃんのためにももうちょいしっかりしようなっ!!




