第77話:休幕、猪男と、へたれる者たち
「……よかった、二人とも気絶してるだけで息はしてる。―――シャッハ、着装&分離」
シャッハが彼女たちの身体を覆うように巻き付き、分離によって独立した衣服として存在を固定される。
本来は怪我人のための応急処置だったため、服とはとても言えるようなデザインではない。
私も出来れば目立つような服にはしたくなかったが、急にはシャッハ君に新しい命令は出せないのだ。
最近は私もコツを掴んだみたいだが、教えるのも3日間ぐらいでいけるものの、それでも3日だ。
中々に根気と時間を要する作業なのだ。
ただ、今後使う事もあるかもしれないし、今度改良してみようとは思う。
勿論、こんな状況で使う事になるのは今回限りで勘弁してほしい。
「さて……取り敢えず、そのナイフを下ろして欲しいんだけどな……お兄さん。」
顔にあざを作った青年が、奴らの誰かが持っていたナイフ片手にこちらを威嚇していた。
縄もさっきの最中に解いたのだろう、中々に抜け目がない。
てかさ。
「……少なくとも、あなたたちに対しては味方だという意思は示してると思うんだけどな?」
「魔族がっ!!……味方だと?俺たちを何に使うつもりだっ!!」
まぁ、百歩譲ってまだ味方として置くのは危険だという考えはわかる。
それにガチ魔族モードのプリニアに、私も中々の暴れたし、顔も怖いピエロお面のままだし。
……ただそれでもだ。
圧倒的な戦力を前に感謝の言葉もなければ、敵意剥き出しってのはダメでしょ。
そこで気を失ってるお姫の護衛だと言うのなら尚更、マイナス120点ものですわ。
まぁ大方、彼個人が「魔族」と言うものに対して何かしらの恨みでも持ってるとかなのだろう。
「あなた個人が私たちに対して何か思ってるのはわかったけど。
護衛の仕事として、その振る舞いはどうなの?」
「馬鹿がっ!俺が護衛だと言ったな!!俺は一言も護衛なんて言ってない!!
やはり何か企んでいるなっ!!」
君が馬鹿だよっ!?
ここまでの状況と君のこれまでの行動から見て、君は護衛以外の何物でもないからね!?
護衛……護衛ね。
こいつ……もしかして正式な護衛じゃないんじゃないか?
こうなってくると、さっきの女の子たちもこの男の部下じゃなくて、このお姫様のメイドとかかもな。
そもそもお姫様なのか、お嬢様なのかもよくわかってないけどさ。
護衛がポンコツ男一人にメイドが二人……でこんな洞窟に?
……うん、おかしい。
私が思ってるよりも状況が厄介かつ複雑そうだ……関わりたくねぇ……。
……でもなぁ。
「よし、わかった!……シャッハ、拘束&封口」
「なっ!?」
何の抵抗も出来ないまま、シャッハ君に見事にぐるぐる巻きにされるポンコツ君。
うっさいからちょっと口も塞いでちょっと黙っててもらおう。
取り敢えず、話の分かる子から聞いた方がいいみたいだ。
「……お姫様ぁ~ごめんねぇーーちょっと起きてもらえないかなー、えいえい。」
お姫様の頬を軽くぺちぺちしながら呼びかけることにした。
となりでポンコツ君がちり紙越しに騒いでいるが、実に馬鹿っぽい。
「ん~……中々起きてくれないな。」
こんなポンコツ護衛の元じゃ、これまでまともに休息も取れてなかったってことかな?
仕方ない……ちょっと寝かせてあげるか。
「シャッ……」
シャッハ君に簡易キャンプを作ってもらおうと思ったところで、思いとどまる。
何となく、自分の胸に巻き付いている包帯ブラが緩んでいるのだ。
……反省だ。
「ごめん、シャッハ君。そうだよね……―――疲れちゃったよね。」
シャッハ君を軽く摩ってあげると、へたっとした小人モードのシャッハ君が表へと出てくる。
これまでシャッハ君の「燃費」と言うものは考えたことがなかった。
それほどまでにシャッハ君が疲れたと言う所を見た事がなかったのだ。
ただ、今回の大技は相当に彼の体力を消耗させたらしい。
さっきまでの細かな命令も、もしかしたらしんどかったのかもしれない。
……もっと早く気づいてあげるべきだった。
「……よいっしょ。」
シャッハ君を優しく抱き上げる。
「本当に無理させちゃってごめんね、シャッハ君……でも頑張ってくれてありがとう。
プリニアも大丈夫?疲れてたら言ってね?」
「んっ、大丈夫。プリニアあんま動いてない。」
そういいながらも、漏れなくきっちり糞野郎どもを糸で捕縛し、一か所に纏め上げてくれている。
私はプリニアの魔族モードの燃費についてもよく分かっていない。
そもそも、これまでの道中だって、私の身を気遣って気を張ってくれていたかもしれない。
優しさで見栄を張ってる可能性もありえるだ。
プリニアとは……そういう優しい子なのだ。
「でも、シャッハ君がダウンしちゃったから、ここから彼女たちを運ぶのも難しいし。
この女の子が起きるまでちょっとここで休んでこ?ね?」
「……わかった。」
私の手が空いていないことを察して、先にお姫様を壁際へと運んでくれるプリニア。
運び終えると、私の座った隣で身を寄せてくる。
そして、少し経つと静かな寝息が聞こえてきた。
やっぱちょっと疲れてたんだなって。
こんな私の身一つで、癒えるものがあるというのならいくらでも貸しましょう。
シャッハ君もプリニアも、可哀想な女の子たちも。
今はただゆっくりと休んでほしい。
そうだ、ただゆっくりと……。
しかし……皆がぐったりモードの最中ただ一人、違う者がいた。
そう、ポンコツ君だけが力の限り喚き散らしていたのだった。
……いやほんとっ、うるさっ!?




